fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係な物や当方が不適切と判断したTB・コメントも削除いたします。
■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!・・・・・評価額1650円
2023年09月29日 (金) | 編集 |
カメだって青春したい。

ニューヨークの下水道に暮らす、ミューテーションした等身大カメたちの活躍を描く「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ(TMNT)」のリブート作。
人目を避けて暮らしていたタートルズが、人間のエイプリルと友だちとなって、街を危機から救う、という基本設定は過去作と同じ。
彼らがミュータントになった経緯からやってくれるので、アニメーション版も実写版も知らなくて無問題だ。
コメディアンのセス・ローゲンがプロデュースと共同脚本を務め、監督はNetflixで話題を呼んだ「ミッチェル家とマシンの反乱」の脚本家として知られるジェフ・ロウ。
本作ではタートルズのVCに、実際のティーン俳優がキャスティングされているのが特徴で、ジャッキー・チェンやアイス・キューブといった大御所が、遊び心ある役で出演しているのも聴きどころだ。
冒頭のプロローグからテンポよく物語が展開し、映像的な未見性も高く、カメニンジャ映画史上最高傑作が爆誕した。

15年前、ニューヨークの地下に流れ出した謎の液体に触れた四匹のカメ、ミケランジェロ(ジャイモン・ブラウンJr)、ドナテロ(マイカ・アビー)、ラファエロ(ブレイディ・ヌーン)、レオナルド(ニコラス・カントゥ)は、ネズミのスプリンター師匠(ジャッキー・チェン)によって育てられティーンエイジャーになった。
ミュータントを怖がる人間の目を避け、下水道で暮らす毎を送っているが、同年代の人間の様に学校に行ったり、恋をしたり、もっと人生楽しみたいと思っている。
ある夜四人は、ひょんなことからジャーナリスト志望の高校生、エイプリル(アヨ・エビデリ)と友達になる。
彼女はニューヨークで相次いでいる、ハイテク機械を狙ったミュータントの窃盗団のことを調べていた。
もし、自分たちが窃盗団を捕まえれば、ヒーローとして人間社会に受け入れられるのではと思った四人は、エイプリルと協力してスーパーフライ(アイス・キューブ)率いる窃盗団とコンタクトすることに成功するのだが、彼らは恐ろしい計画を立てていた・・・・・


「TMNT」は、長い歴史のあるキャラクターだ。
ケヴィン・イーストマンとピーター・レアードによる、原作コミックが初出版されたのは1984年。
7、80年代のアメリカは、ブルース・リーから始まるカンフー、空手(往々にして両者は混同されていた)が若者たちのブームになっていて、同じ84年には空手少年を描いた「ベスト・キッド」も封切られている。
最初はイーストマンがウケを狙ってレアードに見せた、ヌンチャクを構えたカメのイラストだったと伝えられているが、本来はアメコミヒーローもののパロディとして考えられたキャラクターだ。
ニューヨークの地下に暮らす、ネズミの師匠によって鍛えられた四匹のカメのミュータントいう設定は、映画「アリゲーター」の元ともなった「捨てられたペットが密かに下水道で生き延びている」と言う都市伝説を取り入れたものだろう。
アメコミヒーロー、カラテ、ニンジャ、ティーンエイジのカメのミュータント、都市伝説が組み合わされ、「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」と言う、タイトルからして冗談のような作品が生まれた。

ところが、実際に世に出してみると、今までに無いごちゃ混ぜのキャラクターがウケてティーンに大ヒット。
87年からテレビアニメーションの放送がはじまり、1990年にはジム・ヘンソンがキャラクターを手がけた実写映画が公開され、三作が作られた。
以降、2007年のCGアニメーション版、2014年のマイケル・ベイのプロデュースによる実写リブート版など現在までに映画だけで七作が作られている人気シリーズだ。
今回の作品は2007年版に続くCGアニメーションで作られているが、フレームレートを落とした手描き調の画作りが特徴。
おそらく同様の手法で作られた「スパイダーマン:スパイダーバース」の影響が大きいのだろうが、こちらはアンダーグラウンドで燻っているティーンの物語ということで、ビビットな色彩と描き殴った様な荒々しいタッチは、ストリートのグラフィティ・アートを思わせるものだ。
「スパイダーバース」との差別化と、本作独自の世界観をうまく演出している。

本作のこだわりポイントは、キャラクターのリアリティと感情移入のしやすさで、タートルズを全員ティーンが演じてることもこの狙いに沿ったもの。
基本はまだ何者でもなく、人間のキラキラした青春に憧れているカメたち+エイプリルの成長物語だ。
スプリンターとカメたちは、昔人間に差別されたことがあり、それ以来人目のない地下道に暮らし、必要なものだけ商店に忍び込んでは「借りる」暮らしをしている。
だが、ミュータントでもティーンはティーン。
学校に行って友だちをたくさん作ったり、プロムで女の子と踊ったりという人間の生活が羨ましくてたまらない。
彼らに協力するエイプリルは、校内放送に出演した時、緊張のあまり生配信中にゲロしてしまったことがあり、それがトラウマになっている。
2014年の実写版ではミーガン・フォックスが演じていた役だが、本作ではエイプリルもタートルズもずっと普通で等身大のキャラクターなのだ。

一方で、ヴィランとなるスーパーフライのグループも、タートルズと同じルーツを持つミュータントで、同じように人間からの差別を受けている。
要は同じ境遇なのだが、一方は人間の世界に受け入れられることを望み、もう一方は人間を滅ぼすことを望んでいる。
スーパーフライ率いるグループは分かりやすいギャングスタイルで、アイス・キューブのキャラもやりすぎギリギリ。
彼だけではないが、本作のボイスキャストは、演じていてすごく楽しかったんだろうなと思う。
人間への憎悪を一身に集中させ、ゴジラ状態になったスーパーフライVSタートルズはじめとするミュータント軍団のクライマックスも大いに盛り上がる。
ぶっちゃけスケール感が違い過ぎるのと、タートルズがヒーロー活動をはじめたばかりで、かなり頼りなくて絶対勝てそうにないのも効いている。

本作は元々東洋文化に対する憧れがベースにある作品だが、今回は主人公たちが日本の漫画ファン設定なのが面白い。
ゴジラ化したスーパーフライを止めるための最終決戦も、あの「進撃の巨人」のある重要設定が元になっている。
これはここ10年ばかりの間に、アメリカで漫画・アニメが一部のマニアのものでなくなり、すっかり一般化したのをリアルに反映して興味深い。
Netflixでアニメが日本と同時に配信され、生き残っている大型書店に漫画コーナーがドーンとあるなどは、一昔前には考えられなかったことだ。
原作の誕生時点とは違った意味で、21世紀の文化のクロスオーバーを反映し、いい意味で本来のごちゃ混ぜ感を生かした快作となった。
どうやら続編もあるみたいだから、楽しみに待とう。

今回は、動物をミュータントにするクスリっぽい、緑のカクテル「グリーンハット」をチョイス。
氷を入れたタンブラーに、ドライ・ジン25ml、クレーム・ド・ミントグリーン25ml、ソーダ適量を注ぎ、軽くステアして完成。
最大の特徴は、ドライ・ジンとミントがもたらす清涼感。
残暑が異常に長い今年の秋を、多少は涼しくしてくれるだろう。
飲みやすいが、アルコール度数はそれなりに高いので、飲み過ぎには注意。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

リキュール クレームド ミントグリーン 700ml 1 本
価格:3,034円(税込、送料別) (2023/9/29時点)






スポンサーサイト



ショートレビュー「熊は、いない・・・・・評価額1650円」
2023年09月27日 (水) | 編集 |
これまた映画ではない。

イラン当局から出国禁止と20年間の映画制作禁止令を出されながら、自らを主人公とした「映画らしき物」を作り続けている巨匠ジャファル・パナヒ監督。
2010年に当時のアフマディーネジャード政権に逮捕され、禁錮6年を言い渡されるも、実際の長期収監は免れ、2011年の「これは映画ではない」を皮切りに、自らタクシー運転手に扮した「人生タクシー」や、ある少女の自殺動画から始まってイラン映画人の悲哀を描いた「ある女優の不在」など、イラン当局を煙に巻く虚実を曖昧にしたモキュメンタリー手法の作品を次々に発表。
当然イラン国内では上映禁止なものの、権力と闘う不屈の映画監督として国際的な名声はますます高まるという皮肉な状況に。
本作もベネチア国際映画祭で、審査員特別賞を獲得している。

今回のパナヒは、トルコから偽造パスポートで国外逃亡しようとするバクティアルとザラのイラン人カップルを主人公にした、ドキュメンタリードラマ(もちろん全部仕込み)を撮影中。
彼自身はイラン内の国境の村に滞在しながら、現場を仕切る助監督のレザにリモートで演出指示を出しているのだが、電波状況が悪く撮影はなかなか進まない。
そんな時に、村の古めかしい掟が原因となった、若者たちの三角関係に巻き込まれ、ドキュドラマの内容と、村で起こっていることがシンクロしてくる仕掛け。
バクティアルは業者からザラのパスポートを手に入れるが、資金不足で自分のものは調達出来ず、ザラは先に出発することを拒否する。
村ではゴザルという娘を巡って、生まれた時に決められた許嫁のジェイコブと、テヘランで教育を受けたインテリのソルドゥスが対立。
ジェイコブは写真を撮りまくっていたパナヒのカメラに、ゴザルとソルドゥスの逢い引きの証拠が写っているはずだから、それをよこせと要求する。
パナヒはそんな写真を撮った覚えはないというが、村人は納得せず、それなら神に誓いを立てろと無茶振り。

トルコのカップルも村のカップルも、それぞれ別の理由で閉塞した状況に置かれ、抵抗している。
そしてまた、パナヒ自身も抵抗しているのだ。
助監督のレザはトルコに密入国して、現場で直接指揮を取れば簡単だと言う。
しかしパナヒにとって、イランから逃げることは、当局の圧力に負けることを意味する。
タイトルの「熊は、いない」とは、ある村人がパナヒに告げる言葉。
誓いの場所に向かう時に、村人がこの道にはクマが出るので一人は危ないと警告する。
続けて彼は、誓いは真実である必要はない、平和をもたらすなら嘘も許されると告げるのだ。
そして誓いを済ませたパナヒに、村人は「熊なんていない」と言うのだ。
イランでは熊は南東部に生息してるが、トルコ国境付近にはいない。
つまり「熊が出るぞ」とは、人々を怖がらせるための単なる脅しということ。

だが、物語の終盤に起こることを見ると、本当に恐ろしい熊は人間の心の中にいるのだと思わされる。
誰も幸せにしない掟は、何のためにあるのか。
田舎の村ではソルドゥスが駆け落ちを宣言し、パナヒの滞在を知った治安機関が暗躍し始め、ドキュメンタリードラマの現場ではザラが行方不明に。
そして、二組のカップルを絶望が襲う
描かれていることはシリアスだし悲劇なのだが、小太りで見るからに温和なおじさんというパナヒのキャラクターが、絶望的な物語の中での微かな癒し。
だが、本作の完成後の昨年7月11日に、「反体制的な宣伝」を行なったとして彼はまた逮捕されてしまった。
反発するイラン監督協会も釈放を求める声明を出しているが、このままだと2010年に宣告された6年間の禁固刑に服することになる。
現在進行形の迫害に、まさに「熊は、いる」ことが証明されてしまった。
そしてこの熊がいるのは、決してイランだけとは限らないのである。

今回は熊繋がりで、薩摩酒造の「SLEEPY BEAR スリーピーベア」をチョイス。
琥珀色のウィスキー然としたルックスだが、同社の本格芋焼酎を樫樽で22年間寝かせたもの。
熟成が進んだ味わいは、まろやかでコクがあり、ぶっちゃけよく知る芋焼酎よりウィスキーに近い。
鹿児島では、一日の終わりに焼酎を飲む事で疲れ(だれ)を取る(やめ)「だれやめ」と言う風習があるらしく、“眠たい熊"の名の通り、より深い眠りに誘うような、一日の終わりに飲む極上の一杯を目指したそう。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね




[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

人生タクシー 【DVD】
価格:3,846円(税込、送料別) (2023/9/24時点)



ジョン・ウィック:コンセクエンス・・・・・評価額1800円
2023年09月23日 (土) | 編集 |
最後にして最強。

これは途方もない映画だ。
伝説の殺し屋ジョン・ウィックの復讐を描く、シリーズ第四弾にして一応の完結編。
第二作の「チャプター2」で掟を破り、殺し屋の世界を仕切る主席連合から追われる身となったジョンが、自らの自由のために最後の戦いに赴く。
外連味たっぷり、全編に渡り徹底的に決め込まれた動くグラフィックノベルは、169分に渡って供されるアクションのフルコースの趣で、満腹感半端ない。
大団円ということで、キャストも思いっきり豪華。
主演はもちろんキアヌ・リーブスで、ローレンス・フィッシュバーンやイアン・マクシェーンのレギュラー陣は続投。
主席連合から送り込まれる新たな刺客にドニー・イェン、大阪コンチネンタルホテルの支配人に真田広之、アクション界の二大レジェンドがキャスティングされている。
監督は第一作から変わらず、スタント畑出身のチャッド・スタエルスキが務める。
※核心部分に触れています。

キング(ローレンス・フィッシュバーン)に匿われながら、首席連合に対する戦いを準備するジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)は、モロッコで主席の一人を殺し宣戦布告。
首席連合の全権を取り付けたヴィンセント・デ・グラモン侯爵(ビル・スカルスガルド)は、ニューヨークのコンチネンタルホテルを廃棄し、支配人のウィンストン(イアン・マクシェーン)を追放、コンセルジュのシャロン(ランス・レディック)を処刑。
ジョンを良く知る盲目の殺し屋ケイン(ドニー・イェン)を呼び寄せ、ジョン抹殺を命令する。
大阪コンチネンタルホテルの支配人でもある旧友のシマズ・コウジ(真田広之)の元に身を寄せたジョンを、首席連合の暗殺部隊がホテルを急襲し、ケインと犬使いの賞金稼ぎミスター・ノーバディ(シャミア・アンダーソン)も加わり、大バトルが繰り広げられる。
コウジはケインと戦って殺され、娘のアキラ(リナ・サワヤマ)は復讐を誓う。
ニューヨークに戻ったジョンは、ウィンストンの助言を受け、首席連合を代表するグラモン侯爵と決闘することを決意。
必要な資格を得るために、かつて自分を殺し屋へと育てた組織ルスカ・ロマへ向かう・・・・・


第一作の「ジョン・ウィック」を観た時、コミック原作だろうと思った。
単体の実写作品としては、世界観の作り込みが異様に凝っていたからだが、その後完全なオリジナルだと聞いて驚いた。
この映画の世界には、基本殺し屋とその周囲の人物しか登場せず、一般の人たちは画面に映っていても殺し屋たちの抗争とは無関係
象徴的なのは、ベルリンで首席連合の一人で金歯の巨漢キラ・ハーカンと戦うシークエンスだ。
巨大なナイトクラブで殺し屋たちが銃やナイフで殺し合っているのに、周りの人々は意に介さずという感じで踊り狂っているのである。
パリの凱旋門でのカーアクションも同様で、逆走し撃ちまくる殺し屋たちの周りで、一般の車は普通に走っている。
これは日本の漫画によくある、戦闘が始まると戦いの舞台が異界となり、普通の街には影響を及ぼさない描写に近い、このシリーズの世界だけの「お約束」である。
実録路線に変更する前の東映任侠映画にも通じるものがあるが、この約束があるからどんな無茶なことしても「巻き添えは?」とか「警察は?」とかの疑問のノイズが入らないユニークな仕掛け。

物語自体はジョンの復讐と自由を求める戦いと非常にシンプルで、様々なシチュエーションのアクションを組み込むことをファーストプライオリティにした構成の考え方は、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」に近い。
ただし、最終的な脚本の完成前に二部作の撮影に入った彼方と違い、本作は物語の終着点がはっきりしているのと、同じアクションでも目的が「殺す」ことに特化してるので、ストーリーを含めてベクトルが明快。
ここでアクションの華となるのが、共にジョンの旧友という設定のドニー・イェンと真田広之演じるケインとコウジだ。
ドニー・イェンは「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」でも、座頭市の影響を受けたと思しき盲目の戦士を演じていたが、ケインの武器は仕込み杖でモロ座頭市の現在版。
中盤の見せ場となる、ケインとコウジの殺陣の技術がぶつかり合う大迫力の刀対決には、アクション映画ファンなら思わず厨二な脳汁が迸ってしまうのでは。
本作で描かれる大阪は、サムライ&ニンジャのいわゆる「変な日本」なのだが、決して嫌な感じを受けないのは、二人のアジア人レジェンドへの作り手のリスペクトが滲み出ているからだろう。

本作の魅力は、アクションだけではなく凝りにこった世界観もだが、面白いのが美術や歴史への目配せと引用だ。
グラモン侯爵なる前時代的な肩書を持つボスキャラが、ウィンストンから決闘の挑戦状を受け取るのはなぜかルーブル美術館で、フランスの自由への闘争の象徴とされる“マリアンヌ”を描いたドラクロワの代表作「民衆を導く自由の女神」の前。
つまりこの男は、目の前の絵の意味を見ていないのである。
ジョンを育てたロマの犯罪組織「ルスカ・ロマ」の本部にはドイツのボーデ美術館が、キラ・ハーカンのナイトクラブにはベルリンの旧国立美術館の外観が使われている。
また殺し屋ラジオ局は、どういうことかエッフェル塔にある様だ。
これら美術館や博物館といった歴史的建造物の持つ重厚長大なデザイン性が、何世紀も続いているかのような殺し屋ソサエティの強固なイメージを形作り、単なるガンアクションの見本市に止まらない、それぞれに過去の重荷を背負った殺し屋たちの、ドラマチックな背景要素となっているのである。

クライマックスの決闘の舞台が、グラモンの主張したモダーンだが軽薄なポンピドゥー・センターではなく、モンマルトルの丘に聳えるサクレ・クール寺院なのも同じ文脈だろう。
ここへ通じるフォワイヤティエ通りの200段超えの階段を使った最終関門では、ジョンのイタタな階段落ちが最大の見どころ。
おそらく映画史上最も長い階段落ちで、なぜか真田広之も友情出演していた「蒲田行進曲」が頭によぎる(笑
犬好きに悪人なしという、ミスター・ノーバディのトンチの効いた役割もいい。
ところで彼は殺しで5000万ドル貯めることを目標としていたようだが、一体そんなに何に使うつもりだったのだろう。
劇中に何かヒントあったっけ?
それまでの大ドンパチとは対照的な、グラモン(と代理人のケイン)との決闘の駆け引きも、単純なようでいて実は頭脳戦という展開に参った。

日本公開まで一年も待たされた一作目から、ずいぶんと長い旅だったが、物語の中での経過時間はたぶん全部で1ヶ月程度?
最初は面白いがやや一本調子で、二作目で軽々と前作を超えて、豪華なブリッジ作品だった三作目を経て、修羅の道に生きる殺し屋たちのドラマとして、完璧な完結編だろう。
おそらく生身の人間にこれ以上のアクションを求めてしまうと、確実にやり過ぎになってしまうだろうし。
また勝手にジョン・ウィックの下町版だと思っている「ベイビーわるきゅーれ」の伊澤彩織が、リナ・サワヤマのスタントダブルで参加してるのも、個人的に胸熱だった。
いつか、この二つのシリーズのクロスオーバーが観たい。
ところでエンドクレジット後に「いやー、やっぱそう来るか」という重要なエピローグがあるので、絶対席を立たない様に。
この熱気がみなぎる傑作を作り上げた人たちには、盛大な拍手を贈りたい。

ジョン・ウィックの物語は完結したが、徹底的に作り込まれた殺し屋ワールドは、如何様にも活用可能。
すでにウィンストンの若き日を描く前日譚ドラマの「コンチネンタル」がAmazonプライムで配信中。
さらに第三作の「ジョン・ウィック:パラベラム」にチラリと登場した「バレリーナ」を主人公としたスピンオフが、アナ・デ・アルマス主演で制作中で、来年6月に本国公開されるという。
殺し屋ワールドは、まだまだ広がり続けそうだ。

今回はフランスが舞台なので、血のようなボルドーの赤「シャトーラグランジュ 2017」をチョイス。
カベルネソーヴィニヨン78%、メルロ18%、プティヴェルド4%で作られるワインは、口当たり滑らかなフルボディの辛口。
つけ合わせるなら絶対お肉!
赤身のステーキとの相性は抜群だ。
このシャトーは40年前からサントリーが経営権を持っていて、長く安定的に質の高いワインを供給してくれている。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね







アリスとテレスのまぼろし工場・・・・・評価額1750円
2023年09月18日 (月) | 編集 |
僕らはみんな、生きている。

これは色々な意味で凄い映画だ。
アニメーションユニット「超平和バスターズ」の一員であり、「さよならの朝に約束の花をかざろう」で長編監督デビューを飾った岡田麿里の監督第二作。
製鉄の街・見伏に暮らす14歳の中学生たちの物語だが、ここは普通の街では無い。
ある冬の夜、製鉄所で起こった謎の爆発事故の結果、見伏は外界から切り離されただけでなく、時間も流れなくなってしまったのだ。
永遠の冬に閉ざされた街では、子どもたちの成長も止まる。
大人たちは、このままの状態を保っていれば、いつか元の世界に戻れる日が来ると信じ、住民に「変化」することを禁じる
人間は、変化しない人生を受け入れることが出来るのか?はたしてそれは「生きている」と言えるのか?
これは永遠の子どもであることを義務付けられた中学生たちによる、反乱の物語である。
※核心部分に触れています。

菊入正宗(榎木淳弥)は、見伏に住む14歳の中学生。
この街は、ある年の冬に起こった原因不明の製鉄所爆発事故によって、時間と空間が元の世界から切り離されてしまった。
人々の肉体の時間も止まり、老いることも死ぬこともない。
大人たちはいつか元の世界に戻れた時、自分たちが変わっていると色々不都合があると考え、子どもたちに変化することは罪だと教える。
元の自分を忘れないために、将来の夢や髪型、好きな人嫌いな人まで書き込む「自分確認票」の提出を義務付けているが、正宗はずっと拒んでいる。
ある日、正宗は同級生の佐上睦実(上田麗奈)に誘われて、廃墟となっている製鉄所の第五高炉を訪ね、そこで言葉も話せない野生のオオカミの様な少女・五実(久野美咲)と出会う。
五実は幼い頃に外の世界からやって来た娘で、時間の止まったこの街でただ一人成長する存在。
街を仕切る睦実の義父・衛は、五実の心が成長しなければ、この街は永遠に続くと信じている。
だが正宗と出会ったことによって、五実の心に化学反応が生じ、街の空を巨大な亀裂が覆い尽くす・・・・


異才・岡田麿里が、フルスロットルの作家性で大爆走。
濃縮された人間の感情全部入り、全力で心が叫びたがってる
出口なき時間の止まった街に閉じ込められ、永遠に14歳を生きることになった中学生たちの物語は、相変わらず凝った設定だが、ここから更に世界観を捻って来るのだ。
大人になることの出来ない子どもと言うモチーフは、萩尾望都の傑作短編「金曜の夜の集会」やティム・バートン監督の映画「ミス・ペレグリンと奇妙な子どもたち」などにも共通するが、本作の場合はこれらの作品の様に、時間ループに閉じ込められているわけではない。
見伏の街からは、時間の流れそのものが消えてしまっているのだ。

事故が起こった原因は、劇中でも明示されない。
一応、神職の末裔である佐上衛の説によると、山を削って鉄鋼を生産していた見伏の民に対する神罰みたいなことらしいが、何らかの超自然的な現象が起こって街は丸ごと異界となった。
この謎めいた世界の正体に対する知的好奇心と、「この世界の片隅に」のMAPPAが手掛ける超絶クオリティの映像が、先ずは作品の両輪となって観客の心を掴み取る。
やがて大人たちが隠していた五実という変数が投げ込まれ、この世界は現実ではなく、現実の一瞬を模した写しの様なもので、いわば「まぼろし」だということが明らかになる。
だから現実世界では元通りに時間が流れ、成長し大人になった正宗たちがいる。
異界の見伏が元の世界と再び合流するのは、最初から不可能なのである。
この事実を知ったことによって、正宗たちの中で何かが大きく動き出す。

「心が叫びたがってるんだ。」「空の青さを知る人よ」など、岡田麿里は現実とは少しズレたファンタジーの設定の中で、少年少女の生々しい心情を巧みに描き出す人だが、今回はその特質を自らさらに掘り下げいる。
映画を観ていると男子中学生たちの下ネタや、睦実の正宗に対する挑発的な行為、さらに最初は言葉を話せず、まるで無垢な幼女のように振舞う五実といった、キャラクターの「性」を感じさせる描写に戸惑いを感じる。
だがこれは敢えてであり、物語全体を通せば絶対に必要なものなのだ。

時の止まった見伏で、人々はどれほどの歳月を過ごしているのか。
亀裂から見える現実世界の正宗たちから推測するに、おそらくは20年以上。
つまり正宗たちは、見た目は14歳でも中身は30代の大人である。
14歳を20周もすれば心は自然に成熟してゆくが、それを表に出すことは許されない。
彼らは現状維持で良しとする大人たちによって、中学生を演じることを強要されているのだ。
物語の中の正宗たちは、以前社会問題となった失神ゲームとか、高いところから飛び降りるゲームとか、わざと痛みを感じる遊びをしている。
それは物凄く歪な世界で、歪に生きることが当たり前とされている状況で、自分が何のために存在しているのかも分からなくなって、少しでも生の実感が欲しいゆえの衝動的行動。

そんな彼らが、自分たちがまぼろしで、生きてもおらず死んでもおらず、明日弾けて消えてしまうかも知れない不安定な存在だと知った時、どうするのか。
物語の中で、いつか大人になったらラジオのDJになりたいと語っていた少年は、それが叶わない夢だと悟ると、自らに亀裂を生じさせて消滅してしまう。
でもたとえまぼろしであっても、そこに住む人々は体感としては生きている。
全てを諦めてしまえばそこで終わりだが、いつ終わるとも分からない世界で懸命にかりそめの生を追求したっていいのである。
その覚悟を決めた正宗に、もう中学生を演じる必要はなく、彼は睦実と激しくキスをする。
このキスシーンは、観てる方が背徳感をおぼえるほど生々しいものだが、この作品で性を感じさせる行為は、まさに生きていることの証であり、まぼろしゆえの精一杯の抵抗なのである。
さらに終盤になると、五実を巻き込んださらに歪な三角関係が形作られ、本来の現実世界へと五実を返すための冒険と、この世界を終わらせないための挑戦が、新たな物語の両輪となり怒涛の勢いで突っ走る。
逆「銀河鉄道の夜」的な列車を使ったスペクタクルな見せ場は、文字通りのノンストップ大活劇で、登場人物の溢れ出す感情を燃料に、息苦しいほどの熱気を感じさせる。

変化が罪とされる見伏は、先の展望を描けず、閉塞した現在日本をカリカチュアした街と言えるだろう。
同時に「君の名は。」の大ヒット以来、少年少女を主人公としたファンタジーの「求められる」テンプレートのメタファーなのかも知れない。
新海誠が「天気の子」を経由して「すずめの戸締り」で、自らセカイ系を否定してみせたように、岡田麿里もまた「独自の道を行く」とこの作品で宣言したように思える。
台詞の一字一句、画面の隅々まで作者独特のカラーが行き渡った、ある意味最強の作家映画。
未来へ進む人へエールを贈る、中島みゆきのエンディングテーマ「心音(しんおん」がダメ押しで心を打つ。
おそらく、心の奥底まで刺さる人がいる反面、ある程度の読解力が必要な作品で、中身大人とは言えディープな14歳のキスなど、危うい描写もてんこ盛りなので、そこだけで拒絶反応を示す人も多いと思う。
しかし、こういう尖りまくった作品が、それなりにメジャーなパッケージで出てくる層の厚さと、本当の意味での多様性こそが、日本のアニメーションの最大の強みなのだ。
岡田麿里と「アリスとテレスのまぼろし工場」は、2023年の映画史に忘れられない爪痕を残した。

ところで、素晴らしい作品なのは間違いないのだが、なぜこのタイトルなのだろう?
行けども行けどもアリスもテレスもまぼろし工場も出てこないので、途中まで間違えて別の映画来ちゃったんじゃないかと思ってしまった。
インタビューを読むと、10年前に作者が執筆しようとしていて、映画の雛形となった小説のタイトルが「狼少女のアリスとテレス」だったそうだけど、実際の映画には「アリス」と「テレス」出てこないじゃん(笑
劇中に出てくる「希望とは、めざめている者の見る夢」という格言もアリストテレスの言葉だというが、ちょっと弱い。
まあ、ぶっちゃけ観てるうちに忘れてたけどさ。
「君たちはどう生きるか」とはまた違った意味で、中身とタイトルが乖離している作品だった。

本作の舞台となる見伏市は架空の街だが、製鉄所のモデルになったのは君津市にある日本製鐵の日本製鉄の製鉄所。
今回は君津の地酒、森酒造店の「上望陀 特別純米生原酒」をチョイス。
木更津の上望陀地区産の、千葉県産の酒造好適米「総の舞」100%で作られる、まさにザ・地酒。
やや辛口でスッキリした味わい、冷で美味しいがぬる燗でもいけそう。
房総の海の幸とあわせたい。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね


  



ショートレビュー「禁じられた遊び・・・・・評価額1600円」
2023年09月11日 (月) | 編集 |
あんた、呪っちゃうよ。

交通事故で死んだ妻に黄泉がえりの儀式をしたら、嫉妬のオバケになって帰ってくる。
が、それだけで終わりでは無いんだな。
予告編を観て、あ~「ペットセメタリー」の日本版パク・・・もといオマージュね、と思ってたら想像の斜め上をゆく大珍品だった。
橋本環奈演じる主人公はweb番組のディレクター、倉沢比呂子。
彼女はOL時代に重岡大毅演じる同僚の伊原直人に恋心を抱いていたのだが、その妻・美雪の生き霊に呪われるという恐怖経験をして退職し、ずっと距離を置いていた。
ところが、美雪の事故死のニュースを聞いた後、再び彼女を怪異が襲い始める。
死んだはずの美雪の霊が、なぜ今になって?という謎から、物語が広がってゆく。

Jホラーのジワジワしたムード演出とは無縁で、終始びっくらかす系の賑やかさ。
マジなんだかふざけてるのか、怖がらせたいのか笑わせたいのか分からない、やり過ぎギリギリの感覚は、日本映画というよりもハリウッド製のB級ホラーに近い。
シソンヌの長谷川忍の生臭坊主と猪塚健太のホスト系弟子のコンビなんて、笑かすために出て来たようなもんで、日本映画離れしたキャラクター。
主役の二人もちょうどツッコミとボケの関係で、橋本環奈も変顔全開だ(笑
ファーストサマーウィカが大怪演するモンスター美雪は、伽耶子や貞子と違って肉体を持っているので、人間との物理的ど突き合いまで見せてくれる。
かつてJホラーの未見性で世界に衝撃を与え、ハリウッド進出まで果たした中田秀夫監督が自らの手でJホラーの型をぶっ壊してゆくのは爽快。
思えばこの恐怖と笑いの境界というあたりは、前作の「それがいる森」とか、その前の「事故物件 恐い間取り」にも見え隠れしていたのだけど、過去作は全体のバランスが悪すぎる上に、ドラマ部分があまりにも陳腐で生かされていなかった。

ところが、本作ではいい意味でのB級テイストが徹底され、美雪の過去を探るミステリーすら、自らの代表作である「リング」へのパロディに近いセルフオマージュで、そこから更に展開を捻ってくる。
本作の「どっひゃ〜」感覚に印象の近い作品をあえて探せば、かなり好意的に観たら「マリグナント 凶暴な悪夢」だろう。
もっとも低予算なのは明らかで、終盤はかなり駆け足になってしまい、クライマックスの炎のビジュアルとか、何とかならなかったのかとは思う。
全ての怪異を起こしているボスキャラも、もうちょっと禍々しく感じさせることは出来たのではないか。
ともあれ、欠点は欠点でいっぱいあるものの、予想を裏切りまくる展開は、かなり楽しかった。

先日の「ミンナのウタ」と言い、清水崇と中田秀夫というJホラーの先駆者でありながら、近年はガッカリ作品の方が多かった二人が、揃って今までのスタイルとは違う快(怪)作を放ったのは注目すべきことだ。
あんまりお客さんが入ってないのは残念だけど、今の世にコテコテのB級テイストはあんまり一般ウケはしないのかも知れない。
個人的には大好物なので、またこのノリを見せて欲しい。

今回は、嫉妬のオバケの話なので「ジェラシー」をチョイス。
チェリー・ブランデー20ml、スイート・ベルモット10ml、パイナップル・ジュース10ml、レモン・ジュース10ml、グレナデン・シロップ10mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
同一の名前で複数のレシピが存在するカクテルで、こちらは目にも鮮やかなルビー色。
甘味と適度な酸味がまったりと味わえるので、嫉妬に狂った時はコレを飲んで気を落ち着けよう。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね




[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

リング <Blu-ray> [Blu-ray]
価格:3,896円(税込、送料別) (2023/9/11時点)