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酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
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ショートレビュー「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY・・・・・評価額1600円」
2020年03月26日 (木) | 編集 |
アタシの価値はアタシが決める。

いやー楽しい!最高にウェ~イなパリピ映画だった。
DCコミックのヴィランズ大集合映画「スーサイド・スクワット」の中で、ダントツに目立っていたスーパーヴィラン、ハーレイ・クインことハーリーン・クインゼルを主人公とした作品。
コロナ騒動でハリウッドのエンタメ大作が軒並み公開延期となる中、本作の日本公開が予定通りだったのは本国公開を二月に終えていたからだろう。
そもそもキャラクターの知名度の低い日本では、それほど期待されていなかったのも大きいかも知れないが、結果オーライ。
世間の自粛ムードを跳ね飛ばす、パワフルな快作である。
「バンブルビー」のクリスティーナ・ホドソンが脚本を担当し、これが長編2作目となるキャシー・ヤンが監督に抜擢された。

「スーサイド・スクワット」からの直接の続きものだが、ストーリー的には独立しているので、マーゴット・ロービー演じるハーレイが、愛しのプリンちゃんことジョーカーと恋仲にあったことだけ押さえておけば問題ない。
彼女がジョーカーに振られた途端、ここぞとばかりに恨みを募らせた悪漢たちが彼女を殺そうと大挙して襲撃してくる。
ユアン・マクレガー演じるサイコなおぼっちゃまヴィラン、ブラックマスクもその一人。
待ってましたと襲ってくる男たちもセコイんだけど、自分は男たちから恐れられておらず、あくまでもジョーカーの彼女だから、一目置かれていたという現実を思い知らされたハーレイが、自らも悪のカリスマであることを証明するフェミニズム活劇だ。

執拗に現れる暗殺者から逃げ回っていたある日、カサンドラ・ケインと名乗るスリの少女と出会ったハーレイは、成り行きで彼女をブラックマスクから守ることになる。
カサンドラは、殺されたマフィア一家の隠し財産の場所が刻まれたダイヤを、偶然ブラックマスクの手下から奪ってしまったのだ。
物量で襲ってくる敵と戦うため、ハーレイはゴッサムシティの悪を追う刑事のレニー・モントーヤ、クロスボウの暗殺者ハントレス、そしてブラックマスクの経営するバーの歌姫、ブラックキャナリーことダナ・ランスらと手を組む。

凡作だった「スーサイド・スクワッド」と違うのは、悪人がちゃんと悪人していること。
ハーレイも、プリンちゃんとの思い出の化学工場大爆破から始まって、色々悪事をしながらも、ギリギリ許せる峰不二子的なラインに上手く設定されている。
しかも全体を通すと、ちゃんと彼女にとっての成長物語も描かれているという。
本作のタイトルにもなっている“Birds of Prey(猛禽類)”とは、のちにブラックキャナリーらによって作られる女性のヒーローチームのことだが、ハーレイも彼女と手を組む女たちも、本作のストーリーを通してそれぞれ男に支配されている立場から脱却する。
ハーレイは強烈すぎるプリンちゃんの陰から、モントーヤは手柄を奪う忌々しい上司から、ハントレスは家族を殺した男たちを葬り、ブラックキャナリーはブラックマスクへの従属を脱する。
彼女たちの変化のきっかけになるのが子供で、少年漫画的な友情というよりお互いの境遇への共感によって共闘するのがイイ。

物語はハーレイの今までを紹介するポップなアニメーションで始まり、序盤こそ「アタシ心理学の博士号持ってるし〜」とばかりに結構相手を出し抜いてたハーレイも、クライマックスの決戦ではヴィランらしいパワープレイ。
パーティークラッカーみたいにキラキラが飛び散るゴム弾とか、びっくりハウスのアクロバティックな集団戦とか、アクションもキレッキレでカラフル。
ハーレイがいわゆる第四の壁を超え観客に語りかけ、時間軸が変幻自在のテリングのテンポも気持ちがいい。
ブラックキャナリーの必殺技は、アレできるなら最初から出せよ!と突っ込みたくなるが、コロナ禍の陰鬱とした気分を、思いっきりアゲてくれるエンタメ快作だ。

今回はクレイジーな人々の映画にふさわしい、ちょっと変わった味わいの「ブラッディ・シーザー」をチョイス。
ウォッカ40ml、クラマト160mlプラスアルファ。
基本はブラッディ・メアリーのレシピをベースに、トマトジュースをカナダ産のクラマトという蛤のエキス入りの物に変えたものなのだが、お好みで色々な素材を入れてもOK。
レモン・ジュースやタバスコ、クレイジーソルト、ウスターソース、ブラックペッパーなどが人気。
最後に葉つきセロリのスティックを飾って完成。
蛤の出汁の効いたカクテルはなんとなくトマトスープっぽく、このカクテルもブラッディ・メアリーとは全くの別物。
もともとカナダのイタリアンレストランのために作られたレシピだが、もちろんハーレイが大好きなエッグ・サンドウィッチにもよく合う。

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2010年代ベスト10
2020年03月22日 (日) | 編集 |
映画ブログ「自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ」の管理人で映画作家でもあるしんさんが、10年前の「ゼロ年代ベスト10」に続き、映画ブロガーによる「2010年代ベスト10」という企画を集計・発表された。
前回は37名が参加していたが、映画ブログ自体が減ってしまったこともあってか、今回は23名が参加したそう。
全体のベスト10は、非常に細かな分析表もついた大労作でとても興味深いので、ぜひリンク先を読んでいただきたい。
こちらには、私の投票した10年代ベスト10を置いておく。


【10年代 日本映画ベストテン】
1位『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
2位『かぐや姫の物語』
3位『おおかみこどもの雨と雪』
4位『この空の花 長岡花火物語』
5位『桐島、部活やめるってよ』
6位『シン・ゴジラ』
7位『告白』
8位『万引き家族』
9位『君の名は。』
10位『リップヴァンウィンクルの花嫁』『リズと青い鳥』

【コメント】
10年代は日本アニメーション界で大きな地殻変動が起き、新世代と共にアニメーション表現の可能性が新たな段階に入ったディケイドだったと思う。その頂点として、「この世界の片隅に」を内包する「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」がある。ベスト10はやはり映像表現として、鮮烈な印象を残した作品を選んだ。10位が二本になっちゃったのはどうしても選べなかったので。ごめんなさい。ディケイドベストということで、どうしても中堅以上の作家中心になってしまったが、山田尚子の若さは日本映画の希望。
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日本映画10年代ベスト監督
 『片渕須直』(3 点)
 『是枝裕和』(2 点)
 『大林宣彦』(1 点)

日本映画10年代ベスト女優
 『のん』(2 点)
 『安藤さくら』(2 点)
 『広瀬すず』(2点)

日本映画10年代ベスト男優
 『役所広司』(2 点)
 『福山雅治』(2 点)
 『神木隆之介』(2 点)

【コメント】
監督1位は文句なし。是枝監督はこの10年コンスタントにハイクオリティな作品を作り続け、大林監督は何歳になっても常に驚かせてくれる。
俳優部門では、共に是枝作品で評価を高めた福山雅治と広瀬すずは、役者としてのタイプがちょっと似ている。共に本人のキャラクターが強いのだが、受けの度量が大きくフレキシブル。器型と言っていいかもしれない。

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【10年代 外国映画ベストテン】
1位『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
2位『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
3位『アベンジャーズ/エンドゲーム』
4位『新感染 ファイナル・エスクプレス』
5位『きっと、うまくいく』
6位『レヴェナント:蘇えりし者』
7位『LOGAN ローガン』
8位『ゼロ・グラビティ』
9位『スパイダーマン:スパイダーバース』
10位『草原の実験』

【コメント】
洋画は多すぎるので、もうインパクト勝負。この10年で驚かされた順番。
そしてアメコミの10年だったのだなという印象。MCUは集大成の「エンドゲーム」に纏めて代表してもらった。個人的な方向性としては、映像的な暗喩劇が好きなのが分かる。

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外国映画10年代ベスト監督『アルフォンソ・キュアロン』(3 点)・『ヨン・サンホ』(2点)・『アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ』( 1点)
外国映画10年代ベスト女優『シャーリーズ・セロン』(2点)・『アン・ハサウェイ』(2点)・『エマ・ストーン』(2点)
外国映画10年代ベスト男優『ソン・ガンホ』(2点)・『ブラッド・ピッド』(2点)・『アーミル・カーン』(2点)

【コメント】
監督はやはりメキシコの黄金世代。そしていくつもの鬱アニメーションに続いて、ゾンビ映画の歴史を変えたヨン・サンホ。
役者もこれまた多すぎるので、コンスタントに秀作に出演している人たちになった。

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ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方・・・・・評価額1650円
2020年03月18日 (水) | 編集 |
そこは命の輪が回る場所。

きっかけは一頭の犬だった。
殺処分寸前で保護した愛犬トッドの鳴き声が止まず、ロサンゼルスのアパートを追い出されてしまったジョンとモリーのチェスター夫妻が一念発起し、昔からの夢だった農園経営の道に歩み出したのは2010年のこと。
これは二人の経営する「アプリコット・レーン・ファーム」の8年間の記録である。
野生動物を描く番組制作者でカメラマンでもあるジョンと、料理家のモリーが「本当に体に良いものを育てたい」と目指したのは、特定の作物や家畜だけを生産するのではなく、生態系を丸ごと作り上げ自然の恩恵を受け取るバイオダイナミック農法
人智学のルドルフ・シュタイナーが、伝統的な農法を再解釈し1924年に提唱した循環型の有機農法。
高度に産業化し単作の食物工場となった現代農業とは異なり、農薬や化学肥料は使わず農園そのものを一個の完成した生態系と捉えるのが特徴だ。

ど素人だった二人はバイオダイナミック農法の本を読み漁り、経営企画を立てて出資を募る。
ヘルシー志向の高まりで、オーガニック食材の需要が大きくなっていたこともあり、出資を受けた夫妻が手に入れたのはロサンゼルスの北方、ムーアパークに位置する200エーカー(約900メートル四方)の土地
柑橘類などが細々と植えられていたものの、溜池はすっかり干上がり、大きな石がゴロゴロ出てくる荒れた土地だった。
夫妻はネットで志を同じくする仲間を募って開墾を始めるのだが、ここで登場するのがバイオダイナミック農法のメンターとなるアラン・ヨークなる人物だ。
彼がまず行ったのは疲れ切った土地の再生だが、その方法が面白い。
当初モリーは果樹園で数種類の果物を栽培しようと考えていたのだが、アランが植えたのはなんと100種類以上の植物。
とにかく農園の植物、動物の多様性を高めてゆく。
そうすれば、やがてそこに独自の生態系が生まれて、車輪が回るように命の循環が始まるというのだ。
そして、そのようにして運営される農園は、産業化した農業よりもむしろ楽なのだという。

これは言わば原始採集生活に近い考え方だ。
完全な生態系が存在すれば、人間はそこで実る収穫だけで生きていける。
わざわざ農薬を撒いたり、害獣を駆除したりしないで済むのだ。
しかし言うは易く行うは難しで、生態系が完成し、勝手に回り始めるまでは人間が力を入れて守ってやらねばならない。
しかも農園のグランドデザイナーたるアランが、志半ばにして病死してしまう。
作りかけの生態系には、毎年のように多種多様な危機が降りかかる。
鶏の産む卵は農園の経済的な屋台骨でもあるのだが、飢えたコヨーテが執拗に襲ってくる。
ムクドリの群れは果樹を食い尽くし、大量発生したカタツムリが樹木を枯らす。
牛の糞からはハエの大群が生まれ、家畜たちに群がって健康を脅かす。
果樹園の地下に掘られたホリネズミの巣も、樹木にとっては大きな脅威だ。
気候変動も悩みの種で、1200年に一度の大干魃が終わったと思ったら、今度は集中豪雨に襲われる。
そしてカリフォルニア名物となってしまった、乾季の山火事。

ここでへこたれて安易に農薬を使ったり、害獣を人力で駆除しても結局はキリがない。
アランという絶対的なメンターを失った夫妻は、今度は自分たちの力で困難を克服しなければならないのだ。
賢者のような目で農園を見つめる犬のトッドに習い、夫妻は農園で起こってることを観察し、自然の声に耳を傾け、命の仕組みを学び、少しずつ解決策を見出してゆく。
カモたちを果樹園に放してみると無数のカタツムリは瞬く間に彼らの胃袋に入り、フンがそのまま肥料となる。
増え続ける牛の糞のウジ虫は鶏が食べてくれ、結果的にハエも減る。
牧羊犬を訓練し鶏を守るように同居させると、コヨーテは鶏をあきらめてホリネズミをエサとするようになり、夜にはやはりホリネズミを捕食するフクロウも現れる。
果樹園を荒らすムクドリが増えると、彼らを狙ってタカがやって来る。
最初の歯車が噛み合うと、次々と他の歯車が回り始め、やがて巨大な生態系が機能しはじめる。
実はアランは生前にある予言を残していた。
それは「7年目には自然から味方が現れる」というもの。
農園の生態系が充実すれば、その恩恵にあやかろうと、いわゆる害獣・害虫と呼ばれる生物たちが集まって来るが、その次には彼らを捕食するものも出現するということ。
7年目に本当に猛禽類が現れたのには、思わず鳥肌。
アラン凄すぎる。どんな仙人なんだ。

こうして農園という一つの生態系が完成し、命の車輪が回り始める。
全てがバランスした、アプリコット・レーン・ファームのなんと美しいこと。
エデンの園のような理想郷が実在したとしたら、こんな光景が広がっていたのだろう。
しかし、この生態系の中で一番危ういのは人間の役割だろう。
もしも完全な命の循環の中で、人間が特定の何かだけをより多く求めたとしたら、バランスは崩れてしまう。
もっと果実を、もっと肉を、もっと卵を。
おそらくはそれを繰り返した結果、出来上がったのが自然の生態系から大きく外れた現代の文明なのだ。
世界のサスティナビリティが叫ばれる今、人類の進むべき道はどこにあるのか?
仮にこの農場をドームか何かで覆って外界と隔絶させたら、もしかしたら人類が滅びた後も一つの生態系として生き残るのではないだろうか。
自然を愛する二人のはじめた生態系の構築という小さな実験には、我々の文明が抱える大きな問いの答えが隠されているような気がしてならない。

夫のジョン・チェスターが監督を務めているのだけど、もともと動物のカメラマンというだけあって、野生を含め農園に暮らす動物たちの表情がとても素敵。
豚の母さんのエマが、子供を産めなくなってもベーコンにされることなく、農園のマスコットとして大切にされているのはホッとした。
まあ出荷された子豚たちは美味しくいただかれたのだろうけど、バイオダイナミック農法はヴィーガンのための農法とは違うので、これもまた命の循環。
ジョンによると、この8年で育ってきた生態系は目に見えるものだけではないという。
農園の土中には90億以上の微生物が存在し、土壌の免疫システムが作られ、守られている。
それゆえに、アプリコット・レーン・ファームは伝染病などにも強いのだ。
自然の複雑さに驚嘆するばかりだが、緑豊かな農園の風景に癒されるだけでなく、自分たちが食べている食材がいかにして生まれるのか、生態系がどのように回っているのかを学ぶ機会ともなる秀作だ。

今回はアプリコット・レーン・ファームからも程近い、ワインどころサンタバーバラの「ヒッチングポスト ピノ・ノワール ハイライナー」の2016をチョイス。
日本でもリメイクされた呑んべえ映画、「サイドウェイ」で世界的に有名になった。
サンタバーバラでも特級クラスの畑から集められたブレンド・キュヴェ。
程よい酸味とフルーティで複雑な香りが口の中に広がる、ピノ・ノワールの特徴を生かしたブルゴーニュスタイル。
南カリフォルニアの自然の恩恵を凝縮した、まろやかで優しい味わいは、飲む者の心を豊かなにしてくれる。

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娘は戦場で生まれた・・・・・評価額1800円
2020年03月14日 (土) | 編集 |
空から爆弾が降らなくなるその日まで。

激しい戦いが続くシリア最大の都市アレッポで、スマホを使って映像を撮り始めた女子学生、ワアド・アルカティーブが見た5年間の戦場の記録。
彼女はやがて結婚して母となり、死と隣り合わせの世界で、市民ジャーナリストとして命の証を残そうとカメラを回し続ける。
カンヌ国際映画祭の独立部門でルイユ・ドール(ドキュメンタリー映画賞)受賞、英国アカデミー賞(BAFTA)でもドキュメンタリー賞を受賞し、世界各国で高い評価を得た作品だ。
撮影者でもあるワアドと、エドワード・ワッツが共同監督を務める。

アラブの春と呼ばれる民主化要求デモが始まったのは、2010年のことだった。
最初は、チェニジアで長期政権を崩壊させたジャスミン革命。
運動は瞬く間にアラブ全域に広がり、いくつかの国では強権的な政権を倒すことに成功したが、いくつかの国では体制側と反体制勢力の戦争に発展していった。
アサド大統領が率いるバース党が独裁支配するシリアでは、2011年以来泥沼の戦いが続き、ロシアやイラン、アメリカ、トルコの介入による代理戦争化、権力の空白を突いたイスラム国(IS)の台頭などによって、統計には諸説あるものの40万人以上が命を落とし、800万人近くが難民化したという。

本作の語り部であるワアドも、最初は平凡な大学生として、友人たちと共により自由な人生を求めて、平和的なデモに参加していた。
しかしアサド政権に権力を手放す意図はなく、彼女の住むアレッポの街では反体制派と見なされた住民の虐殺が始まる。
そして、街がシリア政府軍と反体制派が激突する戦場となってゆくと、我々も彼女と共に目撃する。
当たり前に存在すると思っていた平和が、いかに尊く脆いものか。
国民のためでなく、特定の集団の利権を守るためだけに存在する権力が、いかに簡単に残酷な行為に及ぶのか。
2012年から4年半に及んだ戦闘で、街の東側を支配する政府軍は、徐々に反体制派が支配する地域を分断し、2016年に入ると無慈悲な包囲攻撃を開始するのである。

本作が特徴的なのは、外部から来たジャーナリストの目線ではなく、実際にアレッポに住む生活者の目線で描かれていること。
だから単純な戦闘の記録というよりも、戦時下での生活の記録になっている。
ワアドはデモ仲間でもあった医師を目指す若者ハムザと出会い、やがて結婚。
二人の間には、とても可愛らしい新しい命が誕生する。
娘には、爆弾を降らせる軍用機のいない平和な空を願って、「サマ(空)」と名付けるのだが、周囲には爆発音や銃声がしょっちゅう響く。
普通は大きな音に敏感な赤ちゃんも、慣れちゃって全く動じないのが悲しい。

無差別な攻撃によって、大人も子供もどんどん殺されゆく中で、病院を作り、学校を開き、必死に“日常”を守ろうとする人々の姿が印象的。
これは社会的動物としての、人間の本能なのかも知れない。
過酷な現実の中で、ワアドが経験するささやかな結婚式、憧れの新居への引っ越し、妊娠と出産の喜びは、そこが戦場であることを忘れさせる。
観ていて何度も「この世界の片隅に」が頭をよぎった。
アニメーションとドキュメンタリー、表現手法は180度違えど、これは確かにこの時代のアレッポに生きて死んでいった人々の記憶の器なのだ。
平凡な日常に寄り添っているからこそ、遠いシリアの戦場の人々が我々と地続きに感じられるのも同じ。
今も戦いが続いているかの地で起こっていることが、隣町のことの様に思えてくる。

しかし、アサド政権の狙いは、反体制派の日常を破壊し尽くしてこの街に住めなくすること。
だから国際人道法に反していることを知っていながら、攻撃目標として病院が狙われる。
もといた病院を爆撃された夫のハムザは、地図に載っていない建物を病院に仕立て上げて、アレッポの反体制派支配地域最後の医療拠点として治療を続け、ワアドはそんな夫たちの必死の努力を最後まで記録する。
なぜなら、政府軍が自由なアレッポを消し去ったとしても、撮った映像は人々が戦った命の証として永遠に残るからだ。
アレッポの陥落から3年が過ぎても、シリアで殺戮が止むことはなく、銃の代わりにカメラを手にした市民ジャーナリストの戦いは続いている。
戦場で生まれたサマちゃんがホント天使なんだが、彼女こそワアドたちが命がけで守り抜いた自由な未来の象徴だ。
世界中の為政者に、この映画を観せたい。
今、鑑賞すべき傑作だ。

今回はサマちゃんの名前の通り、平和な空のイメージで「スカイ・ダイビング」をチョイス。
ホワイト・ラム30ml、ブルー・キュラソー20ml、ライム・ジュース10mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
1967年に、渡辺義之氏が考案した全日本バーテンダー協会カクテル・コンペティション優勝作品。
文字通りの澄んだブルーが目に鮮やかで、ライムの酸味がいい感じに味を引き締める。

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ショートレビュー「レ・ミゼラブル・・・・・評価額1700円」
2020年03月10日 (火) | 編集 |
21世紀の“哀れな人々”の物語。

なんだか物凄い熱量の映画を観た。
舞台はパリにほど近いバンリュー(郊外)の街、モンフェルメイユ。
本作と同タイトル、ヴィクトル・ユゴーの名作「レ・ミゼラブル」の舞台となり、今ではアフリカ大陸からの移民・難民が集う低所得層の街に、ダミアン・ボナール演じる警察官ステファンが赴任してくる。
バンリューの移民社会を描いた物語は、今ではフランス映画の一ジャンルと言っても良いのではないだろうか。
例えば、移民の子供たちがホロコーストの学習を通して、多様性と寛容を学んでゆく「奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~」や、本作と同じような公営団地を舞台とし、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受けた「ディーパンの戦い」など、移民をモチーフに多種多様な映画が作られている。
本作は新参者であるステファンが経験する、最初の24時間を描くサスペンスフルな物語。
アフリカ、マリからの移民の子として実際にモンフェルメイユで育ったラジ・リ監督が、2016年に発表した同名の短編映画を元に、長編化した作品だ。

映画は2018年にロシアで開催されたサッカーのワールドカップで、クロアチアを破って二度目の優勝を遂げたフランス社会の熱狂で始まる。
この時のフランス代表は、アフリカからの移民や移民二世の活躍が目立ったことから、アメリカのコメディアン、トレバー・ノアが「優勝したのはアフリカ」と発言し、大西洋を挟んだ大論争になったことは記憶に新しい。
折しも、2015年のパリ同時多発テロ、2016年のニースのトラック暴走テロなど、移民が起こした大規模なテロ事件が社会に大きな傷を残して間もない時期。
ワールドカップの優勝から始まる物語は、栄光の裏側にある社会の分断を描き出し、改めてフランスのアイデンティティを問いかける。

この街を知らないステファンは、そのまま観客の目となる役割だ。
猥雑な露天市場を仕切る自称“市長”の男に、ドラッグディーラーを束ねるギャングのボス、前科者のケバブ屋にして宗教指導者の男、果てはサーカスの興行にやって来たロマまで、複雑に利害関係が入り乱れる。
そしてユゴーの時代と同じく、警察は恐怖と抑圧によって、カオスの街に群れる無法者たちを押さえ込もうとするのである。
外から来たステファンにとっては、警察すら法を守らないクレイジーな日常は衝撃だ。
しかも街を支配する大人たちは、貧困による閉塞を利用しお山の大将としてプチ権力を誇示すばかり。

そんな時、事件は起こる。
ジャン・ヴァルジャンは、貧困に耐えかね一本のパンを盗んだことで獄に繋がれるが、こちらではサーカス団のライオンの子を、街の悪ガキが悪戯心で誘拐。
最初は小さな事件、しかしその顛末は次第に大人たちの利害関係を揺さぶり、街は一触即発の状態となってゆき、警察までもがライオン探しに右往左往することになる。
そして、大人たちの無責任な事なかれ主義による閉塞の固定化が、この世界に絶望する子供たちの心に文字通り火をつけてしまい、彼らによる“革命”へと繋がってゆく。

主人公のステファンは、基本的に常識人で良い人なのだが、常識が通用しない世界で彼の持つ正義感や倫理観は無力だ。
ここには悪役も善玉もいない。未来も希望もない。
ユゴーが19世紀初頭を舞台に描いた格差と社会分断の悲劇は、形を変えて依然として繰り返されている。
全ての登場人物は、なす術なく出口のない袋小路へと追い込まれてゆくのである。
徹底的なリアリズムで描かれる、現在の“レ・ミゼラブル(哀れな人々)”の物語はインパクト絶大。
大胆なタイトルも、見事な本歌取りを観ると納得するしかない。
モンフェルメイユという象徴的な街を舞台に、この世界で今何が起こっているのかを実感することが出来る大変な力作である。

今回は圧倒的な熱量を秘めた映画だったので、燃え盛る「ボイラー・メイカー」をチョイス。
適量のビールを入れたグラスの中に、ショットグラスに注いだバーボンを落として完成。
米国のボイラー工場の労働者が、手っ取り早く酔っ払うために、ビールにバーボンを入れたのが発祥とされる。
ビール+蒸留酒という悪酔い必至なカクテルは世界中にあり、バーボンを韓国焼酎に変えると韓国の「爆弾酒」となる。
まあこの世の中、酔ってた方が幸せなことも多いけど。

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