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ショートレビュー「タクシー運転手 約束は海を越えて・・・・・評価額1700円」
2018年04月27日 (金) | 編集 |
タクシーを止めるな!

1980年5月、3000人以上の死傷者(諸説あり)を出した光州事件は、韓国現代史の“最も暗い時間”
事件が起こる直前、朴正煕大統領暗殺後の権力闘争の中で、全斗煥少将らがクーデターを起こし実権を掌握、戒厳令を全国に拡大し、野党指導者の金大中や金永南を逮捕した。
これに抗議する学生デモが各地で起こり、治安部隊と衝突するのだが、特に金大中の出身地でもある全羅南道では弾圧がエスカレート。
見かねた市民たちが学生に合流し、最大都市の光州では町を封鎖した軍と数十万の市民が対峙する異常事態となる。

本作は、閉ざされた都市・光州で何が起こっているのかを探るべく、身分を偽って韓国に潜入したドイツ人記者・ユルゲン・ヒンツペーターを、光州へと連れて行った名もなきタクシー運転手、通称“キム・サボク”を描く、実話ベースの物語だ。
相変わらず、ソン・ガンホ兄貴が抜群にいい。
キム・サボクは偽名で、ヒンツペーターとは二度と会うことはなかったそう。
映画の中でも示唆されているが、おそらくは当時の軍事政権に身元がばれるのを恐れたからだろう。
素性不明だったのだから、劇中に描かれているバックグラウンドなどはフィクションなのだけど、「たぶん、こんな人だったのだろう」という説得力抜群。

サボクは渋滞を引き起こす学生デモに愚痴を言い、政治に全く興味なしのノンポリでヘタレの小市民。
報道統制で、当時の一般人は光州で何が起こっていたのかも知らず、彼も最初はただ金のために光州行きを引き受ける。
しかし、光州で事件の現場に身を置き、市民が無残に殺される惨状を目の当たりにし、初めて権力の正体と恐ろしさに戦慄するのである。
そして、はるばる外国から真実を知るためやって来た、ヒンツペーターの強烈な使命感、光州市民の心意気に動かされ、少しずつ変わってゆく。
主人公がどこにでもいる普通の男だからこそ、彼の感じる気付きと衝撃は、そのまま私たち観客にも共有体験としてダイレクトに伝わってくる。
真実を知った後も、溺愛する一人娘との平穏な生活を失うことへの恐怖心と、間違ったことに見て見ぬふりは出来ないという道義心との間の葛藤が、彼の中でずっと続いているのもリアルだった。

韓国映画は、政治との距離が近い。
二期続いた保守政権の間は、干すべき左派芸能人のブラックリストが作られていたし、出来不出来は別として、映画会社が政権に忖度した「国際市場で逢いましょう」や「オペレーション・クロマイト」など愛国路線の作品も目立った。
しばしば直接介入に晒されることもあり、ハリウッドとは違った意味で政治の風に敏感。
革新政権の今は、本作の様な反保守権力的な作品が好まれるのだろう。

しかし、戦争映画の傑作「高地戦」で知られるチャン・フン監督は、本作をイデオロギーを超越する、普遍的な勇気と良心の物語として見事に昇華した。
ここに描かれるのは、当たり前のモラルや日常が脅かされる時、ごく普通の人たちの中から、何人もの英雄が生まれる瞬間。
真実を世界に知らせたサボクとヒンツペーター、大切なものを守るために銃弾に倒れてゆく光州の人々、そしてタクシーのソウルナンバーを見逃す若い兵士も、誰もが極限の中ですべきこと、できることをする。
史実がベースとなる歴史ドラマだが、個人の視点で捉えられているので感情移入しやすく、人間ドラマとして見応え十分。
たぶん本作で一番エンターテイメントとして盛っている部分だと思うけど、軍隊にポンコツタクシーで挑むおっさんたちは、映画史上一番カッコいいタクシードライバーだったぞ。

ちなみに本作の本国公開後、モデルとなったタクシー運転手の息子、キム・スンピル氏が名乗り出たことにより、現実のキム・サボクは、1984年に病により亡くなっていたことが明らかになったそう。
映画みたいに長生きして民主化を見届けることは出来なかったけど、映画が作られたことで、こういう人にスポットライトが当たって良かった。

韓国は地域ごとに人気のソジュ(焼酎)の銘柄があり、光州はイプセジュが有名。
しかし残念ながら正規輸入されていないので、日本でもお馴染みの全国区「眞露 チャミスル」をチョイス。
クセのないスッキリした味わいで、色々な飲み方ができるが、私のお気に入りは、キンキンに冷やしたチャミスルをソーダで割り、スティック状に細く縦切りにしたキュウリを入れる。
キュウリをポリポリしながら飲むのだけど、心なしかキュウリが甘く感じられて美味しい。
酒とツマミが一体化した便利な一杯だ。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
あの光州のタクシー運転手たちの身を挺したカーチェイスには涙が出ましたよ。
その前に銃弾飛び交う中を負傷者を助けにいっただけでも凄いのに、真実を世界に知らしめるためにと自己犠牲になるあの素晴らしさ。
泣かせますわ~。
2018/04/28(土) 22:41:13 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんにちは
>にゃむばななさん
カーチェイスは明らかにフィクションだろうなと思うんですが、あのおっさん達の心意気に泣けました。
逃すために、一台一台犠牲になって行くのはちょっと「怒りのデスロード」思い出しました。
2018/04/29(日) 14:40:23 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
社会派&エンタティンメント
こんにちは。
この映画が凄いのは、韓国の暗い負の歴史の実話をベースにしながら①統制国家で厳戒態勢が敷かれ、境界線が封鎖された状況からいかにして脱出するかという脱出サスペンス、②国籍も言葉も異なる2人の人間が、困難を乗り越える中で次第に友情を深めて行くバディ・ムービー、③例え身の危険があろうとも、真実を伝えるべく行動したジャーナリストの勇気と気概
という、過去の名作がいくつも思い浮かぶ極上のエンタティンメントに仕上げるという離れ業をやってのけた点ですね。しかもクライマックスではド派手なカーチェイスまで登場するんですから(あそこは危機一髪の所で騎兵隊が現れるフォードの「駅馬車」の呼吸ですね(笑))。そのユニークな発想には敬服します。
韓国で1,200万人を動員する大ヒットになったのも納得です。
日本じゃ…とても作れないでしょうし発想も浮かばないでしょうね。うらやましい。
2018/05/06(日) 14:56:28 | URL | Kei #BxQFZbuQ[ 編集]
こんばんは
>Keiさん
本当にそうですね。
ある意味娯楽映画の王道要素てんこ盛り。
実話と言いながら、あそこまで盛ったカーチェイスをぶち込む勇気は日本映画だとなかなか持てないw
まあ日本は戦後に限ると、内戦寸前みたいなここまでの社会的な危機ってなかなか題材としても無いですよね。
過激派とかの点ではあるけれど、あえて言えばやはり3.11などの自然災害か。
2018/05/11(金) 21:45:24 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
> 「たぶん、こんな人だったのだろう」

ソン・ガンホを充てておけば間違いない。韓国人がイヤと思わないレベルで韓国人の悪い所も出せるキャラ。ミスター韓国人。

ミスター日本人って言ったら今は誰だろう。案外、大泉洋辺りかもしれない。
2018/09/06(木) 22:43:10 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
あー、なるほど大泉洋。
ルックスは全然違うけど、なんか納得。
毒を持ったいい人。
2018/09/09(日) 21:13:09 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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