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さがす・・・・・評価額1700円
2022年01月30日 (日) | 編集 |
誰にでも、明かせない秘密がある。

「指名手配中の連続殺人犯を見た」と語った父が失踪。
中学生の娘は、父が懸賞金目当てに犯人に接触して殺されたと考え、探しはじめる。
2019年に発表された「岬の兄妹」に続く、片山慎三監督の長編第二作。
あの作品もインパクトが強烈だったが、本作において片山監督は格段の進化を見せる。
凝りに凝ったストーリーテリングは遥かに洗練され、全く先を読ませないどころか、予想だにしない所に着地するのだ。
失踪する父を佐藤次郎が演じ、彼の行方を追う娘に「空白」の伊藤蒼。
殺人犯に「映画大好きポンポさん」で主人公の声優を努めた清水尋也、キーパーソンとなる自殺志願者のムクドリさんを森田望智が演じる。
人間の心に秘められた闇を、連続殺人犯との対峙という、究極のドラマチックシチュエーションで徹底的に追求する。
まさに、師匠のポン・ジュノの向こうを張った傑作だ。
※核心部分に触れています。

大阪に住む中学生、原田楓(伊藤蒼)は、父の智(佐藤二郎)と二人暮らし。
ある日、智は「指名手配中の連続殺人犯を見たんや」と言い残して、忽然と姿を消す。
警察に相談しても、大人の失踪者は事件性が明確でないと取り合ってもらえない。
日雇いの名簿に父の名前があると聞いて、現場まで行ってみると、そこにいたのは同姓同名の若い男だった。
智の身を案じた楓は、学校の先生や楓に恋心を抱いている同級生の花山豊(石井正太郎)に手伝ってもらいビラ配り。
そんな時、楓は日雇いの現場で会った男が、指名手配中の山内照巳(清水尋也)だったことに気付く。
山内にかけられた懸賞金は300万円。
楓は、金に困っていた智が、懸賞金欲しさに山内を捕まえようとして、逆に殺されたのではないかと考えるのだが・・・・


本作の企画の発端となったのは、大阪に住む片山監督の父が「指名手配犯を見た」と語った実体験だという。
そんなちょっとした一言から想像力を広げ、ここまで複雑な物語を構築したのがまず凄い。
父が消えたことからはじまる娘の必死の捜索は、その後失踪の3ヶ月前からはじまる殺人犯の山内視点の物語、更に1年3ヶ月前にさかのぼる智視点の物語という、二つの異なる時系列を経て、事件の驚くべき真相を明らかにする。
ある物事に隠された事実を知ろうとすると、しばしば本当は見たくないものまで探し当ててしまう。
この時間を逆行してゆく“変則羅生門ケース”な作劇が、最初に見えている智の失踪という一つの事件の背景にあるもの、さらにその裏側にあったもの、関わった人間の本当の心の闇を解き明かしてゆくのである。
これはスリリングなサスペンスドラマであるのと同時に、中学生にして世界の真実を知ってしまった蒼の哀しい成長物語でもある。

内山の起こした事件のモデルになっているのは、おそらくSNSで募った自殺志願者を「一緒に死のう」と誘い、次々に9人を殺害した座間市の連続殺人事件だろう。
独善的な思想と職業が病院職員というあたりは、相模原の障害者施設で起こった大量殺人事件の植松聖死刑囚も入っているかも知れない。
三番目の1年3ヶ月前の物語で、不治の病であるALSの妻を持つ智は、死にたいという彼女の願いを受けて、病院で声をかけて来た内山に自殺に見せかけた殺害を依頼。
その後、自らも内山の思想に感化されてしまい、戸惑いを抱いきながらも「死にたい人を殺してあげる」という彼の犯罪に手を貸す様になる。
おそらく智を動かしていたのは、妻を殺したと言う罪悪感を払拭するための、彼女を救ったという自己肯定感。
妻が内山に殺された瞬間、どう思っていたのかは智にも分からないから、彼女は救われたと考えなければ心が壊れてしまう。
だが、このような都合の良い解釈が、粗野だが善良だった彼自身を変えてしまうのだ。

物語の展開がショッキングなのは前作と同等だが、異なるのはエンタメとしての間口の広さだ。
足に障害を持ち仕事を解雇された兄が、金に困って自閉症の妹に売春をさせるという、ある意味悪趣味な設定の「岬の兄妹」では、殆どの登場人物が肉体あるいは心の障害を抱えていて、微かに希望が見えた次の瞬間、絶望へと突き落とされる無限ループ。
エキセントリックな登場人物への、突き放したスタンスは感情移入を拒む。
スクリーンに目が釘付けになるくらい、力のある作品ではあったが、観客が拒絶反応を起こすギリギリを攻める危うさがあった。

対してこちらは、どんなに狂った醜いものを描いたとしても、序盤と終盤に登場して物語の「」(括弧)の役目を果たす楓が、完全な感情移入キャラクターなのが大きい。
映画の冒頭、夜の大阪の街を疾走する楓は、ある一軒のスーパーに駆け込む。
そこでは智が「20円お金が足りなくて」万引きをして捕まっているのである。
子が万引きをして親が謝りに来るシーンは数あれど、親の万引きに子が謝りにくる描写は初めて見た。
この秀逸なワンシーンだけで、お金の無いダメダメな父さんと、しっかり者で優しい娘というキャラクター性が伝わって来て、観客は楓のことを「信頼できる語り部」として認識する。
以降、最初から「信頼できない語り部」である殺人犯の山内の物語を挟み、続く智の物語は、何だかんだ言っても楓の父さんだから「信頼できそう」だった智のキャラクター像が、話が進むにつれてどんどんと「信頼できない語り部」に変化してゆく。
意味合いは違うが、やはり変則的な羅生門ケースの作劇を採用していた「最後の決闘裁判」で、唯一の感情移入キャラクターだった妻の視点の物語が、”本当の事実“とされていた様に、本作で事実導き出せるのは楓のみ。
しかし、それを明らかにすることは、唯一の肉親である智との別れを意味する。

知りたくない事実を知ってしまった時、彼女はどうするのか。
ここがこの映画を、限られた層に受け入れられるインディーズ映画から、優れた大衆性を持った娯楽映画となりえたポイントだ。
「岬の兄妹」のように、ダークに落とすこともできたと思うが、本作では実質的な主人公である楓が、自分の正しいと思うことをして、それは映画を観るほとんどの観客の価値観とも一致しており、強い満足感につながっている。
社会性とパワフルなエンタメの両立は、師匠のポン・ジュノにグッと近づいたのではないか。
しかし、見た目はとても可愛らしい伊藤蒼が、佐藤二郎とか古田新太とか、全く似てない“ザ・おっさん”の娘にキャスティングされるのは、ダメオヤジと健気な娘ってコントラストが分かりやすいからなんだろうな。
品行方正過ぎず、もらった子供のおやつを返さなかったり、ゴミをそこらへんに放置したり、適度にアバウトで大阪のおばちゃん感があるのもいい。

今回は、大阪の地酒、秋鹿酒造の「秋鹿 純米吟醸 大辛口 無濾過生原酒」をチョイス。
秋鹿酒造は1886年に大阪北部の能勢に生まれた老舗で、銘柄は創業者の奥鹿之助の名前と豊穣の秋を掛け合わせたもの。
酒米の土壌作りから拘り、無農薬栽培された米と麹と天然水を使った純米酒のみを醸造している。
もともと辛口の酒が多い蔵だが、こちらの大辛口は、純米吟醸の芳醇さと米の甘みの後に、キレキレの辛口が味わえる。
高いコストパフォーマンスは、正しく庶民の味方だ。

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コメント
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「さがす」、「さ」が「す」になってしまうと「佐藤二朗」が「す藤二朗」になって誰が誰なんだか。
2022/04/24(日) 00:48:01 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
ちょっと何言ってるのか分かんないわw
2022/04/24(日) 19:31:18 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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大阪の下町で暮らす中年男・原田智は、中学生の娘・楓に「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。 捕まえたら300万もらえるで。」 と語った翌朝、姿を消した。 警察に届けても相手にされず自ら捜索を始めた楓は、日雇い現場にいた父と同姓同名の青年が連続殺人犯“名無し”と似ていることに気づく…。 クライム・サスペンス。 PG-12
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