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2013年12月28日 (土) | 編集 |
アーレント教授の白熱教室。
1960年、南米で逃亡生活を続けていた元ナチス幹部、アドルフ・アイヒマンがイスラエルの諜報機関モサドによって拘束され、密かにエルサレムに移送される。
ユダヤ系ドイツ人女性で、ナチスの抑留キャンプから逃れて米国へ亡命した哲学者、ハンナ・アーレントはアイヒマンの裁判を傍聴し、その記事をニューヨーカー誌に連載する事になる。
世界はこの旧世界の恐るべき“野獣”の断罪を欲し、イスラエルの裁判所は当然のように絞首刑の判決を下す。
ところがアーレントの記事は、アイヒマンを邪悪な人物ではなく、どこにでもいる凡人であり、反ユダヤ主義者ですらないと評し、それどころか当時のユダヤコミュニティの指導者たちもまた、ナチスの政策に加担したと指摘したのである。
この記事によって、アーレントは世間の激しいバッシングを受けるのだ。
アーレントの視点によって描かれるアイヒマン裁判の断片を見る限り、彼女の記事は至極公正に思える。
アイヒマンは巨大な組織の単なる中間管理職で、上から流れてきた命令を事務的にこなしていた一役人に過ぎず、積極的に他人の破滅を作り出す意図は見えない。
実際、彼自身が手を下して殺害した犠牲者は一人もいないのである。
ところがイスラエル検察は、彼の職務とは直接関係ない犠牲者の遺族に証言させ、アイヒマンが虐殺の核心に関わった極悪人であり、彼の行為が重大な結果へと結びついたという印象を世界に向けて発信するのだ。
これは裁判とは名ばかりの、結果ありきの茶番である。
ところが、その事を端的に指摘したアーレントは、ナチス野郎と罵られ、世間から吊るし上げられる。
ここで重要なのは、彼女はアイヒマンの責任は認めている事だ。
自らも逃げ遅れたなら殺されていたかもしれない当事者の一人として、アーレントは彼の事を許すとは言っておらず、絞首刑という判決そのものには反対していない。
なのに、なぜ彼女は世間から攻撃されねばならなかったのか?
基本的に、人は信じたい事を信じるのだと思う。
それは、自らが観察し、思考して感情と理性を葛藤させ、苦悩の末に結論を導き出すよりもずっと楽だからだ。
実は彼女を誹謗中傷した人々は、自らもアイヒマンと同じ罠に嵌っている事に気づかない。
ナチスは絶対悪であり、彼らには人間性など存在しない、故に“理解”など不可能だ。
同時に、ユダヤ人は一方的な被害者であり、振る舞いに反省すべき点などある訳が無い、という常識と価値観に縛られ、そこで思考停止してしまっているのである。
ナチスの悪は根源的な悪ではなく、思考すること、即ち人間であることを放棄した、平凡な存在による凡庸な悪であるというアーレントの指摘は、人々にとって直感的に自分たちの心にもある影の部分を鋭く指摘されたのと同義だったのだ。
あなたも、私も、ユダヤ人だってアイヒマンになり得るのだと。
悪とは何か、その悪を裁く正義とは何かというハンナの投げかけた問いによって生じた波紋が、民族感情によって複雑に増幅されてゆく様は、靖国問題とも共通する部分がある。
大切なのは、長いものに巻かれるのではなく、偏見や思い込みを捨てて、個としての思考を続けること。
思考は知識ではないが、思考こそが善と悪、美しいものと醜いものを見極める力を与えてくれるのだ。
どんな圧力をかけられても、攻撃されても、人間が人間たる事を諦めなかった半世紀前の哲学者のドラマは、2013年末の日本の現実に、確実に響くのである。
今回は、アーレント教授の信念に敬意を表し、カクテルの「アイアン・レディー」をチョイス。
ウイスキー36ml、ドライ・ベルモット12ml、ポートワイン12 ml、オレンジ・ビターズ1dashをステアしてグラスに注ぐ。
ウィスキーに深みにポートワインの柔らかな風味が広がり、オレンジ・ビターズが大人の味わいを演出する。
ルビー色の見た目も美しい。
記事が気に入ったらクリックしてね
1960年、南米で逃亡生活を続けていた元ナチス幹部、アドルフ・アイヒマンがイスラエルの諜報機関モサドによって拘束され、密かにエルサレムに移送される。
ユダヤ系ドイツ人女性で、ナチスの抑留キャンプから逃れて米国へ亡命した哲学者、ハンナ・アーレントはアイヒマンの裁判を傍聴し、その記事をニューヨーカー誌に連載する事になる。
世界はこの旧世界の恐るべき“野獣”の断罪を欲し、イスラエルの裁判所は当然のように絞首刑の判決を下す。
ところがアーレントの記事は、アイヒマンを邪悪な人物ではなく、どこにでもいる凡人であり、反ユダヤ主義者ですらないと評し、それどころか当時のユダヤコミュニティの指導者たちもまた、ナチスの政策に加担したと指摘したのである。
この記事によって、アーレントは世間の激しいバッシングを受けるのだ。
アーレントの視点によって描かれるアイヒマン裁判の断片を見る限り、彼女の記事は至極公正に思える。
アイヒマンは巨大な組織の単なる中間管理職で、上から流れてきた命令を事務的にこなしていた一役人に過ぎず、積極的に他人の破滅を作り出す意図は見えない。
実際、彼自身が手を下して殺害した犠牲者は一人もいないのである。
ところがイスラエル検察は、彼の職務とは直接関係ない犠牲者の遺族に証言させ、アイヒマンが虐殺の核心に関わった極悪人であり、彼の行為が重大な結果へと結びついたという印象を世界に向けて発信するのだ。
これは裁判とは名ばかりの、結果ありきの茶番である。
ところが、その事を端的に指摘したアーレントは、ナチス野郎と罵られ、世間から吊るし上げられる。
ここで重要なのは、彼女はアイヒマンの責任は認めている事だ。
自らも逃げ遅れたなら殺されていたかもしれない当事者の一人として、アーレントは彼の事を許すとは言っておらず、絞首刑という判決そのものには反対していない。
なのに、なぜ彼女は世間から攻撃されねばならなかったのか?
基本的に、人は信じたい事を信じるのだと思う。
それは、自らが観察し、思考して感情と理性を葛藤させ、苦悩の末に結論を導き出すよりもずっと楽だからだ。
実は彼女を誹謗中傷した人々は、自らもアイヒマンと同じ罠に嵌っている事に気づかない。
ナチスは絶対悪であり、彼らには人間性など存在しない、故に“理解”など不可能だ。
同時に、ユダヤ人は一方的な被害者であり、振る舞いに反省すべき点などある訳が無い、という常識と価値観に縛られ、そこで思考停止してしまっているのである。
ナチスの悪は根源的な悪ではなく、思考すること、即ち人間であることを放棄した、平凡な存在による凡庸な悪であるというアーレントの指摘は、人々にとって直感的に自分たちの心にもある影の部分を鋭く指摘されたのと同義だったのだ。
あなたも、私も、ユダヤ人だってアイヒマンになり得るのだと。
悪とは何か、その悪を裁く正義とは何かというハンナの投げかけた問いによって生じた波紋が、民族感情によって複雑に増幅されてゆく様は、靖国問題とも共通する部分がある。
大切なのは、長いものに巻かれるのではなく、偏見や思い込みを捨てて、個としての思考を続けること。
思考は知識ではないが、思考こそが善と悪、美しいものと醜いものを見極める力を与えてくれるのだ。
どんな圧力をかけられても、攻撃されても、人間が人間たる事を諦めなかった半世紀前の哲学者のドラマは、2013年末の日本の現実に、確実に響くのである。
今回は、アーレント教授の信念に敬意を表し、カクテルの「アイアン・レディー」をチョイス。
ウイスキー36ml、ドライ・ベルモット12ml、ポートワイン12 ml、オレンジ・ビターズ1dashをステアしてグラスに注ぐ。
ウィスキーに深みにポートワインの柔らかな風味が広がり、オレンジ・ビターズが大人の味わいを演出する。
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この記事へのコメント
アイヒマンは波平に似てると思います。
そして全ての日本人が割とアイヒマンチックであるとも思います。
そして全ての日本人が割とアイヒマンチックであるとも思います。
>ふじき78さん
波兵ってだれ??
まあ日本人は確かにアイヒマン的な人多いですな。
波兵ってだれ??
まあ日本人は確かにアイヒマン的な人多いですな。
アイヒマン裁判の「悪の凡庸さ」については、後世の自分ですらその思考概念に衝撃を受けました。
この作品は当時のハンナ・アーレントを取り巻く周りの状況、彼女の非凡な理論が当時どう捉えられ、どんな反響を得たか
それでもなお周りが理解することが出来ず、思考の停止をしている様を
的確に描いた素晴らしい作品でした。
まさしく傑作です!
この作品は当時のハンナ・アーレントを取り巻く周りの状況、彼女の非凡な理論が当時どう捉えられ、どんな反響を得たか
それでもなお周りが理解することが出来ず、思考の停止をしている様を
的確に描いた素晴らしい作品でした。
まさしく傑作です!
ノラネコさまへ
新年、あけましたね。今年もノラネコさまのブログを楽しみにしておりまする。
さて、この映画は、観終わった後、時間を経過するごとによい映画だったと感じております。
私は、監督の意図を充分に理解できていなかったのかもしれません。
>基本的に、人は信じたい事を信じるのだと思う
本当におっしゃるとおりですね!日々の自分の思考のめぐりでも思い当たること諸々あり。(情けない。)
考える力を鍛えねば・・・、この映画を観てそんなことも思い始めています。
私も「アイアン・レディ」が似合う女になりたい・・・。
新年、あけましたね。今年もノラネコさまのブログを楽しみにしておりまする。
さて、この映画は、観終わった後、時間を経過するごとによい映画だったと感じております。
私は、監督の意図を充分に理解できていなかったのかもしれません。
>基本的に、人は信じたい事を信じるのだと思う
本当におっしゃるとおりですね!日々の自分の思考のめぐりでも思い当たること諸々あり。(情けない。)
考える力を鍛えねば・・・、この映画を観てそんなことも思い始めています。
私も「アイアン・レディ」が似合う女になりたい・・・。
>とらねこさん
まあいつの時代、どこの国でも十分ありえる話で、特に今の日本には響くものがあるんじゃないかと思います。
だからこそ予想外の動員に繋がっているんじゃないでしょうか。
物事を冷静に観て、論理的に思考する能力は失いたくないものです。
>樹衣子さん
ありがとうございます。
程度の違いはあれ、この映画の状況って、普通に我々の周りに沢山ありますよね。
ネットの炎上騒ぎなんて、正に思考停止してとりあえず乗っかっちゃえって人が多いから盛り上がる訳で。
その意味でネットほど考える力が必要な場所はないかもしれません。
まあいつの時代、どこの国でも十分ありえる話で、特に今の日本には響くものがあるんじゃないかと思います。
だからこそ予想外の動員に繋がっているんじゃないでしょうか。
物事を冷静に観て、論理的に思考する能力は失いたくないものです。
>樹衣子さん
ありがとうございます。
程度の違いはあれ、この映画の状況って、普通に我々の周りに沢山ありますよね。
ネットの炎上騒ぎなんて、正に思考停止してとりあえず乗っかっちゃえって人が多いから盛り上がる訳で。
その意味でネットほど考える力が必要な場所はないかもしれません。
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巧いな。
『ハンナ・アーレント』を観て、そう感じた。
この映画から、ドイツ国民の思慮深さと立ち回りの巧さを改めて思い知らされた。
それはもちろん、一観客である私が勝手に感じたことであり、作り手の意図は違うところにあるのかもしれない。もしも私が感じたことと作り手の狙いが一致したとしても、作り手がそれを認めることはないだろう。
だから、ここに書くのは単なる妄言でしかない。まぁ、...
2013/12/31(火) 22:44:24 | 映画のブログ
五つ星評価で【★★★★これはこれで面白いけど不満は映画評論メディアにある】
実はアイヒマンが好きだ。
それは2000年2月にBOX東中野(現ポレポレ東中野)で公開された
ドキュメン ...
2014/01/02(木) 00:06:52 | ふじき78の死屍累々映画日記
原題: Hannah Arendt
監督: マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演: バルバラ・スコヴァ 、アクセル・ミルベルク 、ジャネット・マクティア 、ユリア・イェンチ 、ウルリッヒ・ノエテン 、ミヒャエル・デーゲン
第25回東京国際映画祭『ハンナ・アーレント(...
2014/01/02(木) 10:57:50 | Nice One!! @goo
なぜ、今アーレントなのか。
岩波ホールの階段で、次の上映を待つ長い行列に並びながら考えた。岩波映画なのに、いや岩波映画だからなのか、この大盛況ぶりはいったいなんなんだ。そもそも、いろいろな意味で難解なあのアーレントを主人公にして映画になるのか。しかも...
2014/01/13(月) 08:35:33 | 千の天使がバスケットボールする
今年の当ブログ映画ベスト10を検討するに、この1本は見逃せない、と駆けつけた。
(公開終了2日前。滑り込み、セーフ)
実は昨日も行ったのだが、チケットソールドアウト!
受付に19:00の回は17:00を待たずして完売と言われ、ビックリ。
なので、今日も大変だった......
2014/01/18(土) 06:40:27 | 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜
14-9.ハンナ・アーレント■原題:Hannah Arendt■製作年、国:2012年、ドイツ・ルクセンブルク・フランス■上映時間:114分■料金:1,800円■観賞日:1月25日、吉祥寺バウスシアター(吉祥寺)
□監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ□脚本:パメラ・カ...
2014/02/02(日) 23:14:03 | kintyre's Diary 新館
考えることの重要さを考えさせられた。
2014/02/09(日) 13:18:58 | 或る日の出来事
ハンナ・アーレント
12:ドイツ:フランス
◆原題:Hannah Arendt
◆監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ「三人姉妹」「ローザ・ルクセンブルク」
◆主演:バルバラ・スコヴァ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、ユリア・イェンチ、ウルリッヒ・ノエテン、ミヒ...
2014/02/27(木) 22:25:40 | C’est joli〜ここちいい毎日を♪〜
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