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酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
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ショートレビュー「タイトル、拒絶・・・・・評価額1700円」
2020年11月24日 (火) | 編集 |
ゴミ屑だって生きてる!

「タイトル、拒絶」という大胆なタイトルが目を引くが、これは強烈だ。
冒頭、上半身下着姿の伊藤沙莉がカメラに向かって「私の人生なんて、クソみたいなものだと思うんですよね」と語りかけてくる。
こりゃ普通じゃないぞという予感に、一気にスクリーンに引き込まれる。
まだまだ傑作快作が出てくるぞ、今年の日本映画。
都内のデリヘルに勤めている、女と男の群像劇で、舞台となるのはほとんどデリヘルの店内とその周辺のみ。
全く予備知識なしで観たのだが、非常に演劇的な作りだと思ったら、なるほど元は劇団「□字ック」が上演した戯曲で、作者の山田佳奈自ら映画化を手掛けた作品。
同じく社会の底辺に生きる人間たちを描いた傑作、「ミッドナイトスワン 」の内田英治監督が、プロデューサーとして参加している。

伊藤沙莉演じる主人公のカノウは、体験入店でビビってデリヘル嬢になり損ね、なぜか店のスタッフとして働くことに。
彼女は自分のことを、嫌われ者の「カチカチ山」のタヌキだと思ってる。
カチカチ山のタヌキは、おばあさんを騙して殺し、仇を打とうとする正義のウサギに背中を燃やされ、最後は泥舟に乗せられて溺れ死んでしまう。
つい最近まで普通の人生を歩んでいたはずなのに、就職に落ち続けデリヘル嬢にもなれなかった自分に対してコンプレックスを抱え、心の中には壊れた100円ライターのように、鬱屈としたモヤモヤが熱を帯びたまま溜まっている。
どうせ自分なんて悪役のタヌキだと思っているカノウから見たら、店の顔であるデリヘル嬢たちはウサギのはず。
特に、恒松祐里が好演するマヒルは、いつもニコニコしていて人気もナンバーワンで、輝いて見えるのだが、実は知ってみたら店の女も男も全員泥舟に乗ったタヌキで、ウサギはどこにもいなかったのだ。

店の男たちは自分たちは“ゴミ”を捨てる方で、女たちはゴミ箱だと思っているが、結局どちらも居場所は同じ。
お互いの存在無しでは存在できない。
全員が社会不適合者で、それでもセックスワーカーとそのサポートとして、社会の中でそれぞれの役割を果たしている。
地べたに這いつくばって生きる、クソみたいなタヌキの人生はくだらない。
くだらない人生には、タイトルなんて上等なものはいらない。
カノウはそう言うが、全ての人生に、たとえタイトルは無くてもしっかり物語はあるのだ。
タヌキを馬鹿にして、ウサギを自認している奴の人生だって、一寸先は誰も予測できないのがこの世の中。
もしかすると今の東京には、タヌキしかいないのかも知れない。

内田英治監督の「獣道」以来、三年ぶりの主演となる伊藤沙莉はもちろん上手いのだが、本作の白眉はマヒル役の恒松祐里だ。
映画の後半になると、どんどん彼女のアップショットが増えてゆくのだが、撮りたくなる気持ちは分かるわ。
顔で笑って心で泣いてるマヒルは、カノウの好対照であり裏と表のような関係。
彼女とモトーラ世理奈演じる妹の運命が交錯するクライマックスは、思わず息を飲んだ。
一見全てを割り切っていそうで、でも何かのきっかけがあれば、一気に壊れてしまいそうなマヒルが、何をするつもりなのか。
屋上の階段をゆっくり登ってゆく彼女を見ながら、祈るような気持ちになってしまったよ。
閉塞したニッポンにぶちかます、痛くて、切なくて、愛おしい、パワフルな青春映画だ。

今回は夜に生きる人々の映画なので、目覚めの一杯「テキーラ・サンライズ」をチョイス。
氷を入れたグラスに、テキーラ45ml、オレンジ・ジュース90mlを注ぎ、軽くステア。
グラスの底に沈むよう、グレナデン・シロップ2tspを静かに注ぎ入れる。
燃える朝日のようなオレンジのカラーが鮮烈。
テキーラの独特な風味が、オレンジの酸味と甘味、グレナデンの甘味と混じりあう。
ミック・ジャガーの愛飲酒としても有名な、ロックな一杯だ。

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ショートレビュー「ばるぼら・・・・・評価額1600円」
2020年11月19日 (木) | 編集 |
愛の狂気の果てに。

漫画の神様手塚治虫が、さまざまな試行錯誤を繰り返していた1970年代に発表した異色のピカレスク漫画「ばるぼら」を、息子の手塚眞監督が映画化した作品。
異常性欲に悩まされている天才小説家の美倉洋介が、アル中でホームレスの謎めいたミューズ、バルボラと出会ったことで、狂気のダークサイドに堕ちてゆく。
いわば時を超えた親子コラボ作品だが、作品の時代設定は現在となり、プロットは原作に忠実にありつつも取捨選択され、美倉とバルボラ、二人の関係と行動に絞ったものとなっている。
漫画の映像化でまず関門となるキャスティングは、総じてハイスコアと言っていいだろう。
稲垣吾郎の美倉洋介はあまり異常性欲者には見えないが、漫画の美倉よりも若く、手塚オールスターズの中では間久部緑郎に近い、カリスマ性のある貴公子イメージ。
二階堂ふみはトリッキーな魔性の女、バルボラを完全に自分のものにしており、これ以上ないほどのハマり役だ。
ビジュアルが強烈過ぎて漫画を超えてるのが、渡辺えりのムネーモシュネーだが、これよくやってくれたな(笑

白黒で音の無い漫画の世界から、実写へ。
冒頭から原作のテイストを残しながらも、スクリーンという新たなコマ割りの中で、魅惑的な映像として再構成したクリストファー・ドイルのカメラが素晴らしい。
橋本一子のジャジーな音楽も圧が強く、光と影を強調した映像と一体化し、退廃的なムードを形作ってゆく。
キャストの好演を含めて、テリングの部分の完成度はかなり高く、漫画既読者でも納得の仕上がりだ。
手塚監督は、2004年から放送され、劇場用映画も作られた「ブラック・ジャック」のアニメーション版も手掛けている。
数ある父親の作品の中では、社会の裏側に生きる人間たちを描いた、耽美的でダークなタッチの作品が好みなのだろう。
以前に映画化した坂口安吾原作の「白痴」も、芸術家と奇妙なミューズという本作に通じる物語だったし、独特の世界観との相性はバッチリで、手塚漫画の実写化は失敗するという呪われたジンクスからは解放されている。

しかし、非常に端正な作品だが、ここまでキッチリ作り込むのならば、映画ならではのさらなる飛躍があってもよかったのではないかなあ。
天才芸術家が創造のエネルギーをくれるミューズに夢中になり、徐々に狂気の世界にはまり込んで別れられなくなるという本作の骨格は、手塚監督が心配するほど咀嚼し難い話ではない。
もともと“バルボラ”とは、いかようにも解釈可能なキャラクターであり現象だから、個人的にはグァダニーノ版「サスペリア」位に、ぐっちゃぐちゃにしちゃっても良かったのではと思う。
もちろんホラー描写的な意味ではなく、精神的な部分でのことだが。
本作には、そのくらいの飛躍には、十分に耐えうる世界観のバックボーンがあると感じる。
もっとも、そうするとただでさえマニアックな作品が、ますますお客さんを選ぶことになってしまうだろうけど。
まあ思うところはあれど、これは手塚眞流の手塚漫画の解釈として、なかなかに面白い試みだった。

今回は、主人公が白日夢のような幻想的な体験をするの話なので、「デイドリーム・マティーニ」をチョイス。
シトラスウォッカ90ml、オレンジジュース30ml、トリプルセック15ml、シロップ1dashを氷を入れたミキシンググラスでステアし、冷やしたグラスに注ぐ。
重層的な柑橘類のフレッシュな香りが、甘味と酸味のバランスを引き立て、ゆったりと白昼夢に誘われる。

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ショートレビュー「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒・・・・・評価額1700円」
2020年11月14日 (土) | 編集 |
ボクの居場所はどこにある?

世界最高峰のストップモーション・アニメーションのスタジオ、ライカの第5作。
英国のビクトリア朝時代を舞台に、ヒュー・ジャックマン演じる見栄っ張りの冒険家、サー・ライオネル・フロスト卿が、北米の森で言葉を話すビッグフットのミスター・リンクと出会い、彼の同族が暮らすという伝説の秘密郷、シャングリラを探す旅に出る。
第1作の「コララインとボタンの魔女」以来、子どもを主人公にして来たライカの作品として初めて、大人気ない大人が主人公となる。
残念ながら米国での興行は惨敗してしまったが、映画の出来自体は素晴らしく、ストップモーション技法の作品で初のゴールデン・グローブ賞アニメーション賞に輝いた。
「パラノーマン ブライス・ホローの謎」で脚本と共同監督、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」では脚本を担当した、名手クリス・バトラーが監督と脚本を務める。
※核心部分に触れています。

主人公のライオネルと、途中でなぜか“スーザン”に改名するミスター・リンク。
キャラクターの人形が、演じるヒュー・ジャックマンとザック・ガリフィアナキスそっくりなのが可笑しいが、この異種コンビの共通点は“孤独”だ。
リンクはだんだんと同族が減って、今は北米の森に一人ぼっち。
一方のライオネルは、傲慢で利己的な性格が理由でやっぱり一人。
二人の男の子の問題を顕在化する触媒の役割が、ゾーイ・サルダナ演じる主人公の元カノ、アデリーナで、彼女を加えて仲良く歪み合う冒険トリオが完成。

ライオネルとリンクは、共に自分に相応しい居場所を求めているのだが、認識がズレているあたりも共通だ。
どうしても同族と暮らしたいリンクは、ヒマラヤにあるとされる雪男の秘密郷、シャングリラに行きたくて、冒険家のライオネルに自分を連れて行ってもらうことを依頼。
それはライオネルにとっても、進化論を否定する保守的な冒険家クラブに、自分を認めさせるチャンスでもある。
だが、現実の世界を見れば一目瞭然なように、同じ人種が暮らしているからと言って、そこが自分の居場所になるとは限らないし、ライオネルが欲しているのは、権威に対する対する子どもっぽい承認欲求に過ぎない。
映画は三人の冒険の旅を通して、友情と信頼と目指すべき居場所に関する物語を、説得力とユーモアたっぷりに描いてゆく。
三人の前に立ちはだかるのが、新しい時代について行けない思考停止気味の冒険家協会のボスだったり、差別主義者のシャングリラの女王だったりするのだが、どちらも言ってみればライオネルとリンクの鏡像だ。
彼らが、真に打破すべきは、実は先入観に囚われた自分の心なのである。

本作は、いわばストップモーション版の「インディアナ・ジョーンズ」で、世界を股にかけるアクション活劇。
オープニングからワクワクするシークエンスが満載で、物語のあっちこっちで、いわゆる“クリフハンガー”の描写がある。
ぶっちゃけストップモーションが一番苦手な部分だと思うが、本作は制約をものともせず、驚くべき完成度のアクションを見せてくれる。
特に大波に翻弄される客船の中での追いかけっこは、非常に楽しく映像的未見性があった。
結構デジタルも使ってるんだろうけど、もはや映像的には多くのシーンがどうやってるのか分からないレベル。
毎回思うが、3Dプリンターの発明でストップモーションの技術がどんどん進化すると、CGと見分けがつかなくなってくるのは大いなる皮肉だ。
もちろんフリッカーが目立たなくなったといっても、動きの味わいは残ってるんだけど。
出来れば全シーンのメイキングが観たい!

今回は、世界を駆け巡る話なので「アラウンド・ザ・ワールド」をチョイス。
ドライ・ジン50ml、グリーン・ペパーミント・リキュール15ml、パイナップル・ジュース15mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
最後にグリーンチェリーを飾って完成。
エメラルド色の美しいカクテルだが、飲んでみると見えないイエロー、パイナップルの風味を強く感じ、意外性がある。
甘口で飲みやすいデザートカクテルだ。

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罪の声・・・・・評価額1750円
2020年11月08日 (日) | 編集 |
本当の罪人は誰なのか。

1984年から85年にかけて日本中を震撼させた劇場型犯罪、グリコ・森永事件をモチーフとした重量級の人間ドラマ。
現実の事件は全ての公訴時効が成立し、未解決のまま完全犯罪となったが、犯人グループの要求を伝える電話に子どもの声のテープが使われていたという事実から、フィクションの翼を広げ、驚くべき深度を持った作品に仕上げている。
ひょんなことから、テープに自分の声が使われていたことに気付いた平凡な男を星野源、社会部の記者をドロップアウトしたのに、過去の事件を追うことになる新聞記者を小栗旬が演じる。
運命に導かれるように二人が出会ったことにより、事件に翻弄された人々の本当のドラマが幕を開けるのである。
監督は、私的平成で一番泣ける映画「いま、会いにゆきます」の土井裕泰が務め、脚本は今や押しも押されもせぬヒットメーカーとなった野木亜紀子。
この二人のコンビで面白くない訳がないのだが、今年の邦画豊漁を象徴するような傑作だ。
※核心部分に触れています。

平成が終わろうとしている頃、京都で父親から受け継いだテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、押入れの奥に仕舞われていた荷物の中から一本のカセットテープを見つける。
聞いてみると、それは何かの文章を読んでいる幼い頃の自分の声だった。
気になって内容を検索すると、それは昭和最大の未解決事件とされる、30数年前に起こったギンガ・満堂事件で犯人グループが使った脅迫テープだと分かる。
自分の声が犯罪に使われていた。真面目一徹だと思っていた父が、犯人だったのか?
ショックを受けた俊也は、密かに当時の家族の交友関係を調べ始める。
同じ頃、大日新聞大阪本社で文化部に所属する記者の阿久津英二(小栗旬)は、突然イギリス行きを命じられる。
彼は英語力を買われて、ギンガ・満堂事件の企画記事を作るチームのメンバーとなったのだ。
この事件は、前年にオランダで起こったビール会社社長の誘拐事件と酷似しており、当時誘拐事件を執拗に調べていた中国人を探すのが任務だった。
しかし、該当する人物は見つからず、帰国した英二は仕手筋などをあたるも、取材は難航する。
そんな時、犯人グループが会合を開いたという料理屋を訪れた英二は、直前に同じ話を聞きにきた男がいたことを知るのだが・・・・


映画の両輪であるストーリーとテリング、このどちらもが非常に丁寧に作り込まれている。
膨大な情報量を持つ脚本は細部まで綿密に計算されているし、決め込まれた映像にもスケール感があり、星野源と小栗旬をはじめ、宇野祥平や梶芽衣子らのキャスティングは完璧と言っていい。
どこから眺めても、痒いところまで手が届くように作られているのである。
「ギンガ・満堂事件」と名前は変えてあるものの、劇中で35年前に起こったとされる事件全体の流れは、現実のグリコ・森永事件とほぼ同じだ。
私は当時10代だったのだが、本作を観ているとどんどん記憶が呼び起こされて、「あーそうそう、そうだった」と映画のディテールが現実と一致してくるのだ。
グリコ社長の誘拐から始まって、青酸ソーダ入りの菓子がばら撒かれ、スーパーからグリコ・森永が消えた。
そして謎のキツネ目の男の目撃、本作の重要なモチーフとなった子どもの声の脅迫テープに、大捜査の末の空振りの数々。
このしっかりと作り込まれた再現ドラマ的な過去描写が、本作のリアリティを深めているのは間違い無いだろう。

しかし、本作はグリコ・森永事件の真実を探す物語でない。
事件に子どもの声のテープが使われていたことは、当時から知られていた。
おそらくは犯人グループの関係者の子弟なのだろうが「その子たちは、今どこで何をしているのだろう?」と、意外なところが着眼点。
幼い年齢ならば自分が事件に関与したことを知らないかもしれないし、仮に知っていたとしたら、事件の記憶は子どもたちの人生にどんな影響を及ぼしたのか。
本作はこの疑問を起点に、あくまでもフィクションとして物語を展開してゆく。
犯人探しはメインではない。
何しろ主人公である曽根俊也が声の主なのだから、少なくとも犯人のうちの一人は、彼の親族か親しい友人以外ではあり得ない。
映画の前半は、自分の声が使われたことを知った俊也が、少しずつ両親の交友関係から事件の関係者を探り当ててゆくプロセスと、新聞記者の阿久津英二がロンドンから始めて別ルートから事件の真相を探るプロセスが並走する。

そして中盤で二人が出会うと、それまでの点と点が徐々につながり、事件の全貌が見えてくるのだ。
本作は昭和から平成の30数年間を追いかけ、一つの犯罪がなぜ起こり、どんな影響を与えてゆくのか、本当の罪とは何かを描き出してゆく。
フィーチャーされるのは、犯人グループが事件を起こした動機と、脅迫に使われたテープの声の主が辿った人生だ。
本作では、テープに声が使われたのは三人。
一人は当時5歳だった俊也で、声紋鑑定の結果あとの二人はもう少し歳上の少年と、10代の少女だったと分かってる。
幼かった俊也は、テープを見つけるまでは声をとられたこと自体を忘れていたが、事実を知って激しくショックを受けた。
ならば、俊也よりも歳上だったはずの二人にとっては、自分の声が犯罪に使われたことの影響はずっと大きかったはず。
ここからは完全なフィクションのはずなのだが、緻密なディテール描写のおかげで、まるでこれがグリコ・森永事件の真相なのではと錯覚するほどのリアリティ。

80年代に起こった事件そのものだけでなく、さらに時代を遡り60年代の学園闘争まで広がってゆく作劇には驚いた。
映画の終盤で、事件に決定的に関与した人物が二人とも、当時の心境を「奮い立つ」という表現で語るシーンがある。
二人は学生の頃、社会の理不尽に対して戦い、敗れた。
そして大人になった時に巡って来た、社会や権力に対する復讐のチャンス。
それこそが、十数年後に新たな事件を引き起こした動機だというのである。
しかし、大企業を苦しめ、警察権力を翻弄した二人は溜飲を下げたかもしれないが、知らぬ間に犯罪に利用され、加担してしまった声の主たちを深く傷つけ、人生をめちゃくちゃにしてしまったことには気付かない。
全てのピースがはまった時に浮かび上がってくるのは、巻き込まれた子どもたちの悲しき慟哭であり、大人たちが犯した未必の故意こそ、彼らに一生続く呪いを背負わせた真の罪。
さらに、罪を犯した世代の因縁はその上の世代から続いていたことも明らかになり、ある意味昭和史の暗部として捉えられている。
この視点は新左翼運動の欺瞞を糾弾し、今に続く日本社会の内向化、幼児化の原点として描いた「マイ・バック・ページ」を思い出したのだが、本作が下すあの世代に対する評価も非常に辛辣だ。

本作はまた、報道する側される側が、ある種の友情で結ばれる物語でもある。
報道される側の複雑な葛藤を秘めた星野源が素晴らしく、考え抜かれた台詞の数々がグサグサ刺さってくる。
一方、報道する側である小栗旬演じる英二は、優しすぎるために一度は新聞記者の本流をドロップアウトするが、物語を通して過去の隠された真実を見つけ出し、明らかにすることの意義に目覚め、記者としての矜持を取り戻す。
これは当時事件を報道したテレビ局製作の作品ゆえ、自らの報道姿勢に対する総括の意味もあるのだろう。
史実との距離感が絶妙で、実に映画的に“物語”の素晴らしさを堪能出来る作品だった。

今回は舞台となる京都の地酒、増田徳兵衛商店の「月の桂 純米酒」をチョイス。
純米酒らしい適度な香りと旨味、酸味のバランスがよく、澄んだ仕上がり。
喉越し爽やかで冷酒でも燗でもうまい。
クセの無いすっきりとした味わいはシチュエーションを選ばない。

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東京国際映画祭2020 まとめのショートショートレビュー
2020年11月07日 (土) | 編集 |
第33回東京国際映画祭の鑑賞作品つぶやきまとめ。
いくつかの作品は今後本記事を書く予定。
以下は鑑賞順。

新感染半島 ファイナル・ステージ・・・・・評価額1650円
なるほど、ひと言であらわすと「今度は戦争だ!」だな。
せっかく生き残ったのに、利益を求め死地に帰る辺りもアレに似てる。
一作目の「ソウルステーション」と二作目の「新感染」も世界観だけ同じでアプローチは違ったが、4年後を描く本作も全くの別物だ。
家族ものであることは変わらないが、ギュッと凝縮されていた前作に比べると人間ドラマは弱い。
かわりにポストアポカリプトものの色彩が強まり、世界が広がると共にゾンビ以外にも厄介な敵が続々。
アクション活劇としてのバリエーションとスケールは、大幅にパワーアップしている。
泣けるゾンビ映画ではなくなったが、マッドな世界でのヒャッハーな楽しさは増大したし、これはこれで十分面白い。
最後まで人間の醜さをこれでもかと強調する、ヨン・サンホ本来の作家性はむしろこっちだ。
ただファミリー映画の間口としては、今回はギリギリ許容範囲かな。
しかし列車縛りはなくなったんだから「新」は外せばよかったのに。
作品にそぐわないダジャレだけじゃなく、非常に語呂の悪い邦題になっちゃってるじゃないか。
「ファイナル・ステージ」も意味不明だし、前作以上のワースト邦題オブ・ザ・イヤーだな。

トゥルーノース・・・・・評価額1750円
北朝鮮の政治犯強制収容所の実態を、3DCGアニメーションで描く大労作。
主人公は北朝鮮へ戻った在日朝鮮人の家族に設定されているが、多くの脱北者からの聞き取り内容をもとに構成された、見応えたっぷりのドキュメンタリーアニメーションだ。
世界の不可視の場所、もしくはもう破壊されてしまった場所で起こったことを、カリカチュアされたアニメーションで描く試みは過去にも例があるが、時として生身の人間よりも雄弁なことがある。
これもアニメーションだからこそ、よりリアルに普遍的に受け取られるのではないか。
極限状態の中で変わってゆくもの、変わらないもの。
多くの登場人物がいる中で、体制側のキャラクターの描き方が面白い。
Q&Aで、看守たちは着任した時は皆ごく普通の人間だが、だんだんと悪辣になるものと、罪悪感に葛藤するものに分かれるという話が印象的だった。
今この瞬間も、収容所で苦しんでいる人たちがいる。
いつか北朝鮮が世界に開かれる時、かつてのナチスの様に、収容所を無かったことに出来ない様にするための、抑止力としての映画。
サラッと語っていたが、この発想は凄い。
来年の本公開時には、多くの人に観て欲しい秀作だ。

ポゼッサー・・・・・評価額1550円
息子クローネンバーグの第二作。
特殊な機械を使って他人の脳を乗っ取り、遠隔操作して標的を始末すると“宿主”を自殺させる殺し屋の話。
ある任務中、絶対に覚醒しないはずの宿主の人格が抵抗し、思わぬ事態を招く。
前作もそうだったけど、この人パパ大好きなんだな。
二世監督って親とテイストを大きく変えてくる人が殆どだけど、この人はモチーフの選び方を含めてまんま。
しかもパパよりも商売っ気がなくて、アート方向に純化させた様なスタイルなんだもの。
今回のも精神と肉体の関係を巡る話で、いわば息子版「スキャナーズ」なんだな。
模倣に近かった一作目の「アンチヴァイラル」よりもあらゆる点で洗練されているが、どんだけ血を流してもお下品にならないのは彼の個性。
しかしこの路線も面白いけど、7、80年代のパパみたいな俗っぽさがもうちょっと入ると、大化けする可能性もあるんじゃないかなあ。

悪は存在せず・・・・・評価額1700円
力作!
イランの死刑制度にまつわる物語を、表題作を含む四つのエピソードで構成したオムニバス。
本作がユニークなのは、死刑の話なのに死刑囚を描かないこと。
これは知らなかったのだが、イランの刑務所は軍が運営していて、看守は徴兵された若い兵士なんだな。
だから死刑の執行も、彼らにとっては任務であり義務。
戦争でもないのに人を殺すことを強制された時、兵士たちはどうするのか?が問われる。
特筆すべきは作劇で、四つのエピソードは先を読ませず、最初のうちはどう死刑が関わってくのかも不明なままミステリアスに展開する。
それぞれのエピソードは独立しているが、あるエピソードの選択の結果が、他のエピソードに反映されていたり、物語の深みと一体感を作り出す工夫も凝らされている。
サクッと観られるが、印象が軽くなりがちなオムニバス映画で、ここまで重厚に「映画を観た!」という感覚を抱かせるのだから素晴らしい。
しかし大胆なタイトルを含めて、物議を醸しそうな映画だなと思ったら、案の定監督はイラン当局と揉めているらしい。
まあ完全に表現が封じられた社会よりは、まだマシなんだろうけど。

デリート・ヒストリー・・・・・評価額1600円
コメディ作品では珍しくベルリン銀熊賞に輝いた作品だが、なるほどかなり面白い。
フランスの郊外の低所得者むけ住宅地に住む、3人の男女の物語。
バーで出会った男にセックスビデオを撮られ、脅迫された女。
ネットショッピングのやりすぎで、借金漬けになった男。
フランス版ウーバーの運転手で、どんなにサービスしても星一つしか貰えない女。
彼らに共通するのは、ネット社会に翻弄されているところと、金に困っていること。
そして情弱で欲望に弱いダメ人間。
しかし三人は、必ずしも現状に甘んじている訳ではないのだ。
彼らは数年前からフランス全土で吹き荒れているイエロージャケットのデモに参加していて、そのことを誇りに思っている。
意識高い系なのに人生思い通りにならない理不尽さが、彼らを消したい過去に対する、むっちゃアナログな戦いに駆り立てる。
ネットに人生を左右されていても、人生に本当に大切なものは”GAFA “のクラウドには存在しない。
そのことに、ようやくの気付きを得るまでの物語。
ダメダメ三人に、いつの間にか自分を重ねてる愛すべき作品。

スカイライン-逆襲-・・・・・評価額1450円
10年続く楽しいB級SFシリーズ第三弾。
今回は前作から15年後の”ハーベスター”の星が舞台で、圧倒的な敵の力を見せつけた前二作とはだいぶ趣きが異なる。
キャラも少ないし、怪物のバリエーションもあんまり出てこないので、お金は一番かかって無いんじゃないかな。
しかしまあ新しい世界観に慣れてきて、前作のキャラ設定とか思い出してくると、「エイリアン2」から「ピッチブラック」まで、既視感全開でもこれはこれで面白い。
終盤、キャラ全員がそれぞれの因縁の敵と戦うあたりは、結構手に汗握った。
ぶっちゃけかなり雑な映画だけど、SFなのにエンドクレジットのジャッキー映画みたいなNG集とか、役者自身もオファーを受けて驚いたという「あいつ前作で死んだけど、生きてても別にいいよね?」とかのトンデモ展開まで、全編B級マインドMAXなので全て許せちゃう。
とりあえず、本公開ではシネコンのちっちゃなスクリーンが割り当てられそうな作品なので、六本木の9番で観られる機会は貴重だった。

息子の面影・・・・・評価額1600円
メキシコからアメリカへ行くと言い残し、消息を絶った息子を探す母と、アメリカから送還され、母の家へ向かう青年。
対照的な二人の旅が、いつしか交錯する。
はたして息子に何があったのか?生きているのか?
これ、最近公開されたある日本映画にテーマが似ている。
しかし、背景となる社会の違いは凄まじい。
とにかくメキシコ恐ろし過ぎるだろ。
完全に修羅の国じゃん。
自然描写は美しく、基本的には非常に静かに進んでゆく分、そこで起こっていることの凄惨さが際立って見える。
人間が人間として生きられない世界。
物語が帰結する先も、およそ考えうる最も残酷なもの。
もちろん地域差はあるんだろうけど、これじゃいくらトランプが壁を建てても脱出しようとするよ。
動物界並みの弱肉強食社会はイヤだ。
ドーンとヘビーに考えさせる映画だが、全く出口が見えないのも絶望を強く感じさせる。

メコン2030・・・・・評価額950円
10年後のメコン川をモチーフに、流域出身の5人の監督が描くオムニバス。
しかしどれも出来の悪い学生映画みたいなノリ。
一応川は出てくるものの、メコンであることも2030年の時代設定も意味を見出せない。
環境問題をとって付けた様な最初の3本は稚拙過ぎる。
4本目は全く意味不明の典型的マスターベーション。
最後の作品はやりたいことは分かるが、効果的に描けているとは思えず。
正直、どの作品も国際映画祭への出品作品のクオリティに達しておらす、今回のTIFFではダントツのガッカリ作だった


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