酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
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ショートレビュー「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?・・・・・評価額1600円」
2017年08月20日 (日) | 編集 |
青春は、何度でもループする。

なるほど、こう来たか。
オリジナルは、1993年にフジテレビのオムニバス形式のTVドラマ「if もしも」の一編として放送された作品だが、好評すぎて2年後の95年には劇場公開され、”映画監督”岩井俊二の出世作となった伝説的な名作だ。
「if もしも」は、人生の分岐点でもしも別の選択をしたら?という所から、枝分かれした2つの物語がそれぞれ描かれるのが番組のルール。
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の分岐点は、小学生の典道が親友の祐介に水泳の競走で負けた瞬間だ。
二人が共に想いを寄せる同級生のなずなは、家庭の事情で引っ越すことが決まっているが、親に反発して二人のうちの勝った方と”駆け落ち”しようと考えていたのだ。
ところがいきなり憧れの美少女から告白された祐介は、ビビってなずなとの約束を破り、彼女の計画は失敗し、家に連れ戻されてしまう。
そこから、典道が勝ったifの物語がスタートするのである。
ちなみに、ドラマ原作の作品が長編アニメーション映画化されるのは、日本映画史上初なのだとか。
※以下、核心部分に触れています。

今回のアニメーション版では、元々45分だった尺は倍の90分に、小学生だった主人公たちの設定年齢は中学生に変更されているが、前半はなずなの家庭描写と情景描写が増えている程度で、オリジナルにリスペクトを捧げ、極めて忠実に進行してゆく。
多くのシーンで、台詞や画のレイアウトまで踏襲しているほどだ。
ところが中盤、オリジナルとは異なる典道のある決断を切っ掛けに、映画はそれまでの岩井俊二の世界から、急速に脚本の大根仁、あるいは総監督の新房昭之的世界へと舵を切り、世界観は劇的に変貌する
オリジナルでは、もしもの分岐は一回だけ。
ifの世界で、なずなの”駆け落ち”の共犯者となった典道が、真夏の夜の一瞬の奇蹟を噛みしめる物語だった。
ところが、今回は岩井俊二がアイディアを出したという「もしも玉」というアイテムが登場し、この玉を投げることによって時間は何度でも巻き戻り、なずなへの恋心は典道の暴走するエンジンとなり、彼は奇蹟の夜が終わることを全力で拒否するのだ。

オリジナルでは、ドラマのルールという意外に、なぜ2つの世界が別れたのかの説明はなく、ホンモノとニセモノという区別もしていない。
どちらも思春期のある瞬間を切り取った、情緒溢れる物語だった。
しかし本作の場合は、もしも玉の存在によって最初の世界以外は、典道が明らかな意思を持って選択した世界になっている。
さらに、ドラマ版では水泳競争に参加しないなずなも、本作では泳者であり、最初にもしも玉を見つけるのも彼女。
基本、典道のifであったオリジナルと違って、本作のifは典道となずな二人の世界なのである。
オリジナルでは、典道との奇蹟の夜の終わりに、なずなは「今度会えるの二学期だね。楽しみだね」と言って去って行くが、この台詞は来ないことが分かっている典道の未来に視点が置かれているようで、ニュアンスはとてもノスタルジック。
対してリメイクでのなずなの最後の言葉は、「今度会えるのどんな世界かな。楽しみだね」に変わっている。
どの世界であっても、ifの奇蹟は掴み取るものであるという視点は、青春の”今”を強く意識させるもので、まるで別物という所への着地は、オリジナルのファンの賛否を呼びそうだ。

正直、私も本作はオリジナルを超えていないと思う。
岩井俊二と大根仁、新房昭之のコラボレーションは、美しいハーモニーと言うよりは、強い個性のぶつかり合いで、どこか歪さを感じさせる。
新房昭之作品としても、やはり「魔法少女まどか☆マギカ」のインパクトに及ばない。
ずいぶんセクシーになったなずなは、広瀬すずのアンニュイで小悪魔チックなボイスアクトと、キャラクターデザインの山村洋貴によるアニメーションならではの表情表現と相まって、なかなかに魅力的だが、ぶっちゃけオリジナルの奥菜恵の超絶美少女っぷりには、どんな二次元キャラクターも絶対に敵わない
それでも私は、典道となずなの揺れ動く感情にシンクロする様に、不器用に物語の予定調和をはみ出して、世界の歪みを深めて行く、この外連味たっぷりのファンタジーワールドが、とても好きだ。
まるでこの映画そのものが、どこから見るかによって変幻自在の、この映画の花火の様ではないか。

川村元気プロデュースの本作は、題材にしても公開時期にしても、明らかに「君の名は。」の路線を狙ったものだろう。
だが、あの作品が彗星の”火”がもたらした、途轍もないエモーションに満ちた、生と死の物語だとしたら、こちらは冒頭のビジュアルが示唆する様に、循環する”水”の中で、現実とifの虚構が溶け合う青春の幻想譚と、どこまでも対照的。
エモーションはあくまでも静的で、分かりやすく噴出したりはしないから、「君の名は。」の様に熱狂をもって受け入れられることはないだろう。
しかし、そもそも去年の今の時点で、新海誠と新房昭之の認知度は似た様なものだった訳で、強い作家性を持つアニメーション作家の個性を生かしつつ、ある程度の一般性を持たせて目標興収15億という企画コンセプトはブレてないのだろう、たぶん。

今回は、千葉県の地ビール、「九十九里オーシャンビール IPA」をチョイス。
IPAと言っても、ガンガンにポップが効いているというよりは、適度なホップ感でバランスの良い味わいなので飲みやすい。
キレもよく、日本の夏向きのビールだ。
オリジナルのロケ地は千葉県の飯岡町だったが、本作では自治体合併で現在は存在しない飯岡町の町名が踏襲され、花火大会は架空の茂下(もしも)神社のお祭りと言うことになっている。

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ショートレビュー「海底47m・・・・・評価額1650円」
2017年08月16日 (水) | 編集 |
限りなく遠い47メートル。

サメ映画、というか海洋スリラーの新たな快作だ。
仲のいいリサとケイトの姉妹は、メキシコでのバカンス中に知り合った地元の男たちに誘われて、巨大なサメを間近で観察できるケージダイブ挑戦する。
ところが、姉妹がケージに入って水中に降りた時に、ワイヤーを支えるクレーンが折れ、姉妹はケージごと47メートルの海底に落下してしまう。

シンプルだが、これはまことに秀逸なアイデアだ。
たった47メートルだが、パニックに陥って急浮上すれば減圧症を起こしてしまうために、ゆっくりと時間をかけて浮上しなければならない。
しかし海底と船との間には、撒き餌を狙って集まってきたサメの群れがいるのだ。
スキューバのボンベが持つ時間は、せいぜい30分から1時間程度。
水深が深いところで脱出のために活動すれば、エアーの消費はさらに加速する。
彼女たちには、単に人食いザメの襲撃だけでなく、刻々と減ってゆくエアー、潜水病の恐怖、さらには素性をよく知らない船上の男たちに、自分たちが見捨てられるのではないかという疑心暗鬼など、複合的な危機が一気に襲ってくるのだ。
まずはこの絶望的な状況から、いかにして脱出するかという興味で観客の心を掴み、その後ほぼリアルタイムで進行する物語は、時間的余裕が失われてゆく中、ますますマズイ状況に彼女たちを追い込んでゆく。
発端のアイディアこそ単純だが、これは非常によく考えられたプロットである。

全編危機また危機の連続だが、実は人間ドラマとしてもなかなかの仕上がりだ。
二人の姉妹の対照的なキャラクター造形がキモである。
好奇心旺盛でアクティブなケイトに対して、リサは臆病で地味なキャラクターで、バカンス直前に失恋した傷心の身。
本来ならば、ケージダイブなどやりそうもない人物なのだが、自分を「つまらない女」と言った元カレを見返したくて、スキューバの経験もないのに危険に足を踏み入れてしまうのだ。
だから映画の前半部分はリサに比重が置かれていて、極限状態の中で最初は何もできなかった彼女が、徐々に物語の主導権を握ってゆく展開はオーソドックス。

ところがヨハネス・ロバーツ監督は、ここから実にトリッキーな罠を仕掛けてくるのである。
映画も佳境にに差し掛かった頃、ある緊急事態が起こり、物語の主役は突然リサからケイトに入れ替わるのだ。
だがそこまでの流れで、観客にはこの物語の主役はリサだという印象が刷り込まれている。
なぜなら姉妹のうち、より大きな葛藤に直面しているのはリサであり、ケイトは自分の人生に大きな問題は抱えておらず、映画はリサの成長物語であることを強く示唆していたからだ。
ここからの展開はネタバレになるので自粛するが、そこまでの海底版「ゼロ・グラビティ」的な展開を大きく裏切ってくる。
実際のところ「ゼロ・グラビティ」のあるシーンを思わせる描写もあり、おそらくはあの映画をうまくベンチマークしながら、筋立てを構築していったと思われる。
必要最小限のキャラクター設定を、こんな風に生かしきるとはお見事だ。

「海底47m」は完全に一本道のプロットながら、90分間手を替え品を替えたスリルで盛り上げ、伏線をキッチリと回収するオチのつけ方まで、最後まで意外性のある展開で飽きさせない。
この夏、納涼を求めるのならピカイチの作品ではないか。
ずいぶん地味に公開されているが、全く注目されていなかったにもかかわらず、全米5週連続トップ10入りは伊達じゃない。
コレは見逃すと損をする!

今回は、海つながりで涼しげなカクテル「ディープ・ブルー」をチョイス。
ウォッカ30ml、ブルー・キュラソー10ml、シャンパン又はスパークリングワイン20mlを氷を入れたグラスに注ぎ、軽くステア。
最後にマラスキーノチェリーを沈める。
南国の海を思わせる水色が美しい、夏向けのさっぱりとしたカクテルだ。

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スパイダーマン;ホームカミング・・・・・評価額1700円
2017年08月14日 (月) | 編集 |
青春だよ、スパイディ!

昨年の「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で先行デビューした、新生スパイダーマンの単独主演第一作。
大ヒットしたサム・ライミ版三部作と、その後を受けたマーク・ウェブの「アメイジング・スパイダーマン」とは違って、ディズニー主導のMCUとの連携を前提に作られているのが特徴で、全員が修羅場をくぐり、一癖も二癖もあるオトナの集団のアベンジャーズの面々に対して、ピュアなハートのヤングヒーローとして造形されている。
異色のスリラー「COP CAR コップ・カー」で注目された俊英ジョン・ワッツは、見事にライミともウェブとも違う、ポップでコミカルな新しいスパイディ像を作り上げた。
「スパイダーマン:ホームカミング」のタイトル通り、過去作に比べると学校生活の比重が高く、コンプレックスを抱えた学園のギークによる、ズッコケ青春ヒーロー映画の趣きだ。
※核心部分に触れています。

ベルリンでアベンジャーズの"シビル・ウォー"に参戦し、キャプテン・アメリカのシールドを奪ったスパイダーマンの素顔は、15歳の高校生ピーター・パーカー(トム・ホランド)。
ニューヨークに戻った彼は、トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)からもらった特製スーツを着て、放課後に地元クィーンズ地区でヒーロー活動に勤しみ、アベンジャーズの正式メンバーになる日を夢見ている。
そんなある日、ピーターは謎の犯罪集団によるハイテク武器の取引現場を目撃。
彼らの正体を暴いてスタークに認めてもらおうと、奪った武器の一部をギーク仲間でスパイダーマンの正体を知るネッド(ジェイコブ・バタロン)と共に分析しようとする。
ところが、敵の首領はスタークに深い恨みを持つ、ヴァルチャーことエイドリアン・トゥームス(マイケル・キートン)だった。
一人でヴァルチャーを捕らえようとして、市民を巻き込む大騒動を引き起こしてしまったピーターに、スタークはヒーロー失格を言い渡す。
失意のピーターだったが、高校生活の一大イベントであるホームカミングに、憧れのリズ(ローラ・ハリヤー)を誘ってOKをもらい、元気を回復。
ところが、ホームカミング当日、パーカーは思わぬ形でヴァルチャーの正体を知ってしまう・・・


サム・ライミ版のトビー・マグワイア、マーク・ウェッブ版のアンドリュー・ガーフィールドは、共にピーター・パーカーを20代後半で演じた。
対して、「シビル・ウォー」の撮影中にようやく20歳を迎えたトム・ホランドのピーターは、前任の二人が演じたキャラクターよりもずっと幼く、15歳のギークな高校生というキャラクターにリアリティを与えている。
ピーターだけではなく、マリサ・トメイ演じるメイおばさんも、ライミ版のローズマリー・ハリスに比べれば二十歳以上若いのだ。
本作が過去のシリーズと大きく異なるのは、スパイダーマンが孤独なヒーローではなく、数多くのヒーローが活躍するMCUの世界観に組み込まれていること。
大企業の社長であるトニー・スタークや、第二次世界大戦中から活躍しているキャプテン・アメリカことスティーヴ・ロジャースなど、ベテランのセンパイたちが存在するのである。
ヒーローが当たり前に活躍してる世界だから、ピーターがスパイダーマンになった詳細な顛末とか、ベンおじさんが殺されるお馴染みのエピソードはスルー。
とりあえず彼は、頭は抜群に良いが容姿には自信がないどこにでもいる少年で、クモに噛まれてスーパーパワーを手に入れたことから、放課後にご近所で覆面ヒーロー活動をして、ギークの頂点であり、憧れのトニー・スタークに自分を認めてもらいたがっている。
本作を端的に表すならば、アベンジャーズにちょっと呼ばれたので、思いっきり浮き足立ってしまった若きスパイディが、ヒーロー活動の責任と高校生活の楽しみの間で葛藤しながら、ローカルヒーローとしての地に足をつけたポジションを固めるまでの青春ストーリーだ。

今年はなぜかジョン・ヒューズが来ているらしく、彼の代表作の一つ「ブレイクファスト・クラブ」にリスペクトを捧げた「パワー・レンジャー」に続いて、本作もヒューズの青春映画に大いに影響を受けていることを隠さない。
監督のワッツは、役作りのアプローチの助けとして、若いキャストにヒューズの作品を何本も鑑賞させたそうだ。
実際、本作のピーターとネッドのギークコンビは、過去のシリーズよりも、むしろ「ときめきサイエンス」っぽい。
ちなみにこの映画には、若き日のロバート・ダウニー・Jrも出ていたっけ。
面白いのはワッツや「パワー・レンジャー」のディーン・イズラライトといった、リアルタイムにはヒューズの作品を知らないはずの30代の監督が、熱心なフォロワーとなっていることだが、自分が幼かった時代の青春映画は、10代になってから観ると、微妙な世代の違いがツボにはまり、憧憬を抱かせるのかもしれない。
私はもろに青春時代=ヒューズ映画のリアルタイム世代だけど、同じ頃に観た「アメリカン・グラフィティ」や「ビッグ・ウェンズデー」と言った一世代前の青春映画には、過ぎ去った時代の神話性みたいなものを感じていた気がする。
ジョン・ヒューズの映画的記憶を受け継ぐ若いフィルムメーカーによって、21世紀のMCUの世界に蘇ったヒューズ的青春映画、それが本作なのだ。

だから物語の軸足は、ピーター少年の十代ならではの葛藤を描くハイスクールコメディにあり、ヒーロー映画としてのスケールは比較的小さい。
ヴァルチャーの正体が、実はピーターが恋するリズの父親だったという衝撃の展開は、そんな本作の構造を象徴する。
敵も味方もご近所にいる小さな世界こそが、ローカルヒーローとしてのスパイダーマン本来の魅力であり、いい意味での世界観の狭さは、ヴィランのキャラクター造形にも当てはまる。
マーベルのヴィランは、悪にも理由があるとばかりに、その動機を綿密に設定されているキャラクターが多いが、本作のヴァルチャーはその中でも最も分かりやすく、感情移入しやすい。
元々彼は、アベンジャーズの戦いで生じた瓦礫の撤去作業を請け負っていた、零細企業の社長
ところが、宇宙人の残した残骸の価値に気づいたスタークと政府は、突如として彼らを締め出して瓦礫を独占してしまう。
ヴァルチャーは、巨大な権力によって理不尽に排除され、生活の糧を奪われた哀れな庶民なのだ。
だから彼はコソコソと宇宙人の遺物を盗み出しては、それを武器に仕立て上げて犯罪者に売りつけることで、生計を立てるのと同時にスタークにささやかな復讐を続けているが、決してアベンジャーズとは戦おうとはしないし、他のアメコミヴィランのように、大それた野望を持っている訳でもない。
本作は全体に軽妙なタッチだが、ヴァルチャーはピーターから見ると、資本主義の力学によって生まれた裏スターク的なキャラクターだったり、機械の翼で再起を図るこの"バードマン"にマイケル・キートンをキャスティングするセンスは結構シニカルだ。
ちなみに本作のキートンは、トニー・スタークにチャンスを奪い取られるのだけど、同時公開中の「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」では、逆に無慈悲に奪い取る男を演じているので、この2作は同じ俳優が資本主義の両面を演じた映画としても面白い。

対するピーターも、一人前のヒーローと言うには若過ぎて色々未熟で、ホンモノのヒーローに対する憧れとリズに対する恋心という、二大承認欲求に突き動かされ頑張ってはみるものの、結局自分で起こした問題をなんとかしようと、どんどん深みにハマってゆく。
本作のキービジュアルの一つは、黄色いジャケットを羽織ったスパイダーマンが、ビルの屋上で寝そべっているものだが、イースト川を隔てた背景のマンハッタンにはアベンジャーズのマークを付けたスターク・タワーが聳え立っている。
世界を股にかけるヒーローのチームに入りたいという大志を抱いているものの、本作の舞台はあくまでも川のこちら側。
「アベンジャーズ」シリーズの様に、宇宙人やら神様やら人知を超えた力が激突する、グローバルなカタストロフィーを描くのではなく、超人たちの足元でうごめく、ちょっとだけ特別な力を手に入れた市井の人間たちの世界なのである。

「スパイダーマン:ホームカミング」は、少年スパイディの青春の悲喜交交とヒーローとしての成長を描き、素晴らしいリブートとなった。
冒頭の60年代のテレビアニメ版「スパイダーマンのテーマ」から始まって、「デッドプール」ネタや、次回作への布石であろう意外なキャラクターの登場など、マーベルファンをニヤリとさせるディテールも豊富。
「シビル・ウォー」でシールドを奪ったことから始まる、キャプテンとの"教育的因縁"も可笑しい。
ただし、本作には欠点が一つあって、それはヒーロー映画として、カタルシスのあるアクションの見せ場が相対的に少ないということ。
主な舞台が高層ビルの回廊のないクィーンズなので、ダイナミックなスパイダースウィングがほとんど見られないのは、逆手にとってギャグに転化しているのでまあいいとして、正直ジョン・ワッツのアクション演出はあまり上手くない。
特に輸送機の上で展開する、クライマックスの空中戦では問題が顕著に出た。
夜なので暗い上に、あの機体表面のチカチカ光る迷彩(?)が余計に見難さを助長させてしまっていて、ヴァルチャーとの間で何が起こっているのかよく分からない。
ハイスクールコメディとしての魅力がアクションの欠点を補って余りあるのだけど、できれば次回作までにもう一段上を目指して研究してほしいところだ。

今回は、まだ何色にも染まっていない若々しいスパイディのイメージで「ホワイト・スパイダー」をチョイス。
スティンガーのベースをブランデーからウォッカに変えたバージョンで、冷やしたウォッカ40mlとペパーミント・ホワイト20mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
涼しげな見た目と、ミントの香りがすっきりとした清涼感を演出する。
アルコール度数は相当に高いカクテルなので、高校生のスパイディには当然まだ早い。

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ショートレビュー「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ・・・・・評価額1650円」
2017年08月12日 (土) | 編集 |
なぜ彼は、1個15セントのハンバーガーで帝国を築くことが出来たのか?

異色のアメリカンドリームの展開に、目が離せない。
「マクドナルド」という店名が創業者兄弟の名前なのはよく知られているが、これは兄弟が作り上げた斬新なシステムを持つハンバーガー店を、年間15億食を売り上げる世界最大のファーストフードチェーンに育て上げた、もう一人の"創業者(ファウンダー)"レイ・クロックの物語。
名作ミュージカル「メリー・ポピンズ」の誕生秘話「ウォルト・ディズニーの約束」で、原作者のトラヴァース夫人とプロデューサーのディズニーの間の葛藤を、人はなぜ物語るのか、作者にとって作品とは何なのか、という普遍的物語論に昇華したジョン・リー・ハンコック監督は、ここでもマクドナルド兄弟とレイのコントラストから、見応えのあるドラマを構築している。

マックとディックのマクドナルド兄弟が、飲食業の前にハリウッドでの成功を志し、映画館の経営をしていたという話は初めて知った。
大恐慌の煽りを食って映画館を閉めた後に、庶民の食べ物だったホットドッグ屋に転身し、やがてハンバーガー専門店へ。
テニスコートに厨房の実物大青写真を描き、徹底的に効率的な動線を研究。
メニューを絞り込み、厨房機器も特注し、クオリティの高いハンバーガーを、注文からわずか30秒で提供する驚異のシステムを創造し、大人気店となる。
一方、若い頃から様々な職を転々としながら、何かを成し遂げることを追い続けているレイは、マクドナルドの存在を知ると、この画期的なハンバーガー店を全国展開することを思いつく。
マクドナルド兄弟と契約し、フランチャイザーの権利を得るが、最初のうちは出店希望者を見つけては、ノウハウとライセンスの販売のみ。
しかし飲食業は、実は不動産業でもあるという助言を聞き入れ、全米に土地を買い、出展希望者から家賃をとって支配する手法を取り入れることで、瞬く間に莫大な資金力を持つ巨大チェーンの立役者となる。

半世紀後の現在、世界中に展開するファーストフードチェーンのコンセプトは、マクドナルド兄弟とレイ、両方のアイディアが揃ってはじめて成立したものだ。
しかし両者は、売っている物は同じでも、見ている世界が最初から違うのである。
職人肌で規模の拡大を望まない兄弟と、目的のためなら手段を選ばない脂ギッシュな野心家のレイは、やがて衝突を繰り返す様になる。
羊の柵に狼を招き入れれば、結果は明らか。
誰も気づかなかったアイディアをヒットさせた企業が大きくなり、創業者が後から参画した者に追い出される話は、アップルのジョブズとスカリーなど、他にもありがちな話だが、レイが特異なのは自らが創業者を名乗り、企業の”オリジン"を奪い取ってしまったことだろう。
マクドナルド兄弟は、自社の持つ無尽蔵なポテンシャルに気づかず、また拡大の意志も無い。
だから、巨大企業としてのマクドナルドの創業者は自分だということなのだろうが、結果的に彼は自らの野望を実現させるために、他人が大切にしてるものを無慈悲に奪い取った。

アメリカ資本主義が生んだ、ある種のダーティーヒーローを演じる、マイケル・キートンが素晴らしい。
52歳からの逆転人生を成し遂げた、レイ独特の人生哲学と、マクドナルドという名の持つヒミツに気づいたセンス。
ただ単に強欲なだけでなく、自分の店と商品のクオリティに対しては、創業者兄弟と尺度が異なるとは言え、一定の拘りを持ち、やる気のある社員やフランチャイジーに対しては責任ある態度を貫く。
観客は、結果的に"ルーザー"となってしまったマクドナルド兄弟へ同情を感じつつ、沸々と煮えたぎる欲望に突き動かされ、欲しいものは全て手に入れるレイの、自分には出来ない行動力に憧れに近い感情を抱く。
良くも悪くも弱肉強食の資本主義の世界にうごめく、人間たちの生き様を活写した快作である。

ヨーロッパやアジアの一部の国では、アルコールを置いているマクドナルドもあるそうだが、日本では無し。
ならばマクドナルドと同じく、アメリカ資本主義のもう一つの象徴、コカ・コーラを使ったカクテル「キューバ・リブレ」をチョイス。
タンブラーにライム1/2を絞り、クラッシュドアイスを入れ、ラム45mlを注ぎ入れた後でコーラで満たし、ライムを一切れ飾って完成。
名前の由来は、19世紀末のキューバで、独立派支援のために駐留していた米軍将校がレシピを考案し、独立派の愛言葉だった「ビバ・キューバ・リブレ(キューバの自由万歳)」がそのままカクテル名として定着したという。
これがまた、食欲を増進させる酒なんだよなあ。

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ショートレビュー「東京喰種 トーキョーグール・・・・・評価額1600円」
2017年08月04日 (金) | 編集 |
こんな世界は、間違っているー!

人間と人間を捕食する"喰種(グール)"という二つの種族が住む、もう一つの東京を描くSFホラー。
石田スイの原作漫画は、途中までしか読んでいなかったのだけど、映画は丁度既読箇所までで終わっていた。
人と人外、世界を共有しながらも敵対する「寄生獣」、もっと遡れば「デビルマン」バリエーションの一作だが、本作の特徴は主にあちら側の視点で描いていることだ。
窪田正孝演じる主人公のカネキは、内気で平凡な大学生だったが、ある時偶然にもグールの臓器を移植されたことから、肉体が変化し、グールと化してしまう。
「寄生獣」や「デビルマン」でも、主人公は二つの種族の中間の存在だが、基本的には人間の側にいて、愛する者たちを守ろうとしていた。
しかし、本作のカネキはそれが出来ないのである。

グールの肉体は、人間の肉(とコーヒー)以外の食べ物を受け付けない。
否応無しに自分がもう人間でないことを思い知らされたカネキは、"仲間"としてグールたちに助けを求めざるを得ないのだ。
楠野一郎の脚色は、突然平穏な日常が終わりを告げ、未知の世界へ足を踏み入れるカネキを軸に、丁寧にプロットを構成している。
似た設定の「亜人」では、なぜ人間が亜人を駆り立てるのか理解できなかったが、こっちは「寄生獣」同様に人間が被食者なのだから分かりやすい。
グールは人間を捕食する一方で、野に放たれた猛獣として、狩られる者たちでもある。
主人公をグールの社会にどっぷりと浸からせたことにより、この種の物語としては例外的に、人間と敵対する種族の方が人間的に描かれ、観客もカネキと同様にグールの仲間たちに感情移入しつつ、喰われる人間としてのジレンマを感じるという、クロスした視点を持つのが本作の最大のポイントだ。
根源的に対立する二つの種族の狭間で、最初はオドオドして何もできなかったカネキが、やがてお互いにとって「間違った世界を正す」決意を固めるまでの成長物語として良く出来てる。

グールごとに個体差がある、赫子と呼ばれる武器のビジュアルも素晴らしい。
体術と組み合わせてのバトルシーンは、なかなかに迫力があり、画的な作り込みも相当なハイレベルだ。
ある意味、漫画から想像できるイメージを超えた部分もあると思う。
ただ、一応完結してはいるが、おそらくは続編ありきの作品ゆえに、全体のテーマが確定して終わりという作りになっていて、単体の作品としては、やや物語としての盛り上がりに欠く。
この点は、親殺しというドラマチックなクライマックスを用意した、「寄生獣」 前編がいかに見事だったか良く分かる。
もっとも、アレは完全に完結した話の、二部作が決まっていたから可能だった力技。
その点こちらは、一応一本でも完結の形を取らなきゃならなかったので、諸々の制約という不利がある。
それでも十分アベレージ以上なので、続編が作られることに期待したい。
少なくとも、一見一本で完結しそうに宣伝しておいて、実は続編ありきで途中でブチっと終わってる詐欺的商法の作品より、遥かに誠実な良作なのは間違いない。

主演の窪田正孝以下、俳優陣は皆好演しているが、中でも一番良かったのは、ヒロインのトーカを演じる清水富美加だ。
本人的にはお気に召さなかった様だが、ぶっちゃけこれがキャリアベストだと思う。
続編が作られても、出てもらえなさそうなのは勿体無い。
あと全ての発端となるグール、大食らいのリゼを蒼井優が演じているのだけど、彼女の演技が凄すぎてムッチャこわい。
あんなのに夜中出会ったら、確実におしっこ漏らすぞ。

今回は、東京のダークな夜の物語なので、よなよなエールのクラフトビール「東京ブラック」をチョイス。
英国流の伝統製法で作られた、本格的なポータースタイルの黒ビール。
適度なホップの苦味、強烈なモルト風味、そしてフルーティさがバランスした非常にコクのあるフルボディ。
飲み応えがありすぎて、ジメジメした夏の夜にはちょっと暑苦しいが、涼しくなってきたらオススメだ。

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