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ハイ・ライフ・・・・・評価額1650円
2019年04月25日 (木) | 編集 |
いのちの器が向かう先は。

フランスの異才クレール・ドゥニ監督による、暗喩的心理SF
舞台は太陽系を遥かに離れた深宇宙。
宇宙飛行士のモンテと、彼の生まれたばかりの娘ウィローを乗せた宇宙船「7」が、漆黒の空間を進んでいる。
母親や他のクルーの姿は、どこにも見えない。
一体彼らはどこから来たのか、何のために宇宙にいるのか。
ドゥニは、宇宙船と赤ん坊という一見結びつかない謎めいたシチュエーションからスタートし、精神宇宙の深淵へと観客を誘う。
主人公モンテをロバート・パティンソンが演じ、新境地を開いている。
物語のカギを握る船医のディブスにジュリエット・ビノシュ、女性クルーのボイジーを演じるのは怪作「サスペリア」が記憶に新しいミア・ゴス。
ハリウッド製SF映画とは一味違う、ヨーロッパらしいムーディーなスリラーだ。
※核心部分に触れています。
 
遥か宇宙の彼方、モンテ(ロバート・パティンソン)は赤ん坊の娘ウィローと、宇宙船「7」で暮らしている。
修道士のようなストイックで禁欲的な生活を自分に課すモンテは、ある策略によって図らずもウィローの父となったのだ。
地球からの出発時、「7」には9人のクルーがいた。
彼ら全員が、死刑や終身刑の犯罪者で、その任務はブラックホールから無限のエネルギーを取り出せるとする「ペンローズ過程」という理論を実証すること。
この極めて危険な任務と引き換えに、彼らは免罪符を手にしたのだった。
また「7」では、船医のディブス(ジュリエット・ビノシュ)によって、人間の生殖に関する実験が行われていた。
しかし、地球を離れて密室の宇宙船で3年、クルーの精神は少しずつ蝕まれていて、目的地のブラックホールへと到達したとき、ついに悲劇が起こる・・・・


なるほど、だいぶ低予算だが、これはクレール・ドゥニ版の「2001年宇宙の旅」+「インターステラー」
キーパーソンは、相変わらず怪しげなジュリエット・ビノシュ演じるディブスだ。
任務の一環なのか趣味なのかははっきりしないが、自分の子供を殺した犯罪者でもある彼女は、宇宙で人間を誕生させ、育てるという実験をしている。
薬の力でクルーたちを支配しているディブスは、男性クルーに精子を提供させ、女性クルーに産ませようとしているのだ。
簡単そうに思えるが、宇宙空間では強い放射線の影響で、受精したとしても胎児は容易には育たない。
地球を出てからずっと繰り返している実験は、結局上手くいっていないのだが、ディブスは諦めずに、何かに取り憑かれたかのように実験を繰り返している。
男性クルーの中で、唯一彼女の実験に協力していないのが、主人公のモンテだ。
犬のために友だちを殺した過去を持つ彼は、まるで中世の修道士のように、あらゆる欲望を抑える誓を自らに課していて、他のクルーと違って薬に溺れず、精子の提供もしない“聖者”なのだ。
モンテを特別な存在と見なしたディブスは、彼を眠らせて精子を採取し、ボイジーを妊娠させる。

「2001年宇宙の旅」のディスカバリー号のデザインが、精子をモチーフにしていることは有名だが、精液と愛液と母乳が溢れ出す本作の「7」は、いわばたった一つの精子しか生き残れない子宮だ。
死地へ向かう3年の歳月の中、クルーたちは少しずつ壊れて行き、閉塞した空間に満ちる不穏な空気は、目的地のブラックホールへ接近した時に遂に爆発する。
ある事件を切っ掛けとして、クルーたちは一人また一人と、あっけなく命を落としてゆき、それはやっと目的を果たしたディブス医師も例外ではない。
最終的に残されたのが、唯一正常を保っていた遺伝的な父親であるモンテと、奇跡の子であるウィローという訳。
本作をボウマン船長とは別人格として、スターチャイルドが船内で生まれたバージョンの「2001年宇宙の旅」と考えるとしっくりくる。

しかし、あの映画の木星への冒険が、新たな生命の進化のための受精の旅であり、世界観の構造としてはシンプルだったのに対して、本作は宇宙と宇宙に生きとし生けるものすべてを、フラクタルな大小の相似形としているフシがある。
モンテとウィローだけが生き残り、もはや行くあてのない旅を続ける「7」が、先行して出発したらしいもう一隻の宇宙船「6」と遭遇するシークエンスがある。
呼びかけにも返事はなく、モンテが乗り込んでみると、船に人はおらず何頭もの犬たちだけが駆け回っている。
これは旧約聖書の創世記 1章1-8節の天地創造の描写を反映したものだ。
はじめに天と地を作った神は、6日目に獣と家畜と自分に似せた人を作り、7日目には休んだとある。
ならば、本来創造を終えて安息日である「7」の役割とは何か。

本作には大小二つのブラックホールが出てくるのだけど、これはおそらくブラックホール情報パラドクスを意識してるのだろう。
もし人間がブラックホールの中心にある事象の地平線に落ちると、頭と足先にかかる重力の差によって体はゴムのように引き伸ばされ絶命してしまうとされる。
「7」の本来の目的地だった、最初のブラックホールで起こるのがこの現象だ。
しかし、ブラックホールの質量がとんでもなく巨大だと、人間の体の大きさ程度では重力の差はわずかなため、人間はその肉体と精神を保ったまま事象の地平線に入れるという説がある。
この場合でもブラックホールの外からは、事象の地平線に落ちた人間の肉体は燃え尽きたように見え、一方実際に落ちている人間からすると、ピンピンしているという摩訶不思議な現象が起こり、これをブラックホール情報パラドクスと言う。

ウラシマ効果によって遥か未来へと旅した守護聖人のモンテと、初潮を迎えるまでに成長したスターチャイルドのウィローは、巨大ブラックホールで生きながら死んでいるのである。
だから二度目の突入は、この宇宙全体を巨大な子宮とし、人間を精子、巨大ブラックホールを卵子に見立てた未知の宇宙への再受精であり、再創造の開始のイメージなのだと思う。
「7」の本当の役割は、新たな「1」への胎動なのである。
キューブリックの様な創造主的存在を前提にしている訳ではなく、ノーランの様なあくまで人間中心の宇宙観でもなく、この宇宙全体を自らを再創造する一つの生命装置と捉えた、極めてユニークな作品だ。
もちろん、極力説明を排した本作は、様々な解釈が可能であり、これは一つの見方に過ぎないのだけど。

内容的には全く異なるのだが、“生殖”をモチーフにした異色SFという点では、ジョナサン・グレイザー監督の「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」にちょっと似たムードがある。
こちらもハリウッド・メジャーでは絶対に作れないであろう、暗喩的心理SFだった。

今回は、ジュリエット・ビノシュのイメージで「ゴッドマザー」をチョイス。
アマレット15ml、ウォッカ45mlを氷を入れたグラスに注ぎ、軽くステアする。
スコッチ・ウィスキーベースの、ゴッドファーザーのウォッカ版。
度数の高さは変わらないが、クセのないウォッカベースに変わったおかげで、アマレットの甘みが強調されさらに飲みやすいカクテルとなった。

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ショートレビュー「リアム16歳、はじめての学校・・・・・評価額1600円」
2019年04月23日 (火) | 編集 |
恋の始まりは、巣立ちの時。

これは愛すべき小品。
大作、話題作が目白押しの今年のゴールデンウィーク映画戦線だが、もしあなたがほっこり幸せな気分になりたいなら、ぜひ本作をお勧めしたい。
あるいは、大切な人と初めて観に行くデートムービーとしても最適かもしれない。

舞台となるのは、カナダ西海岸のバンクーバー。
生まれてからずっと、心配性で超過保護なママのホームスクールで育ち、同世代の友達のいない孤独な少年リアムが主人公。
彼は高卒認定試験を受けるために地元の公立高校に行き、そこで義足の美少女アナスタシアに一目惚れ。
彼女をオトスために、16歳にして初めての高校通学を決意する。
しかし、何しろ学校はおろか、ママ以外の人たちと長時間過ごした経験もなく、コミュニケーション能力は皆無。
リアムにとって初めての学園生活は、ちょっとした非日常での冒険に等しいのだ。
「リアム16歳、はじめての学校」という邦題は真面目系の印象だが、中身は原題の「Adventure in public school」の方がシックリくる。

監督と共同脚本を務めるのは、これが監督2作目となるカイル・ライドアウト。
元々は俳優として活動している人で、本作にもジョンおじさんの役でチラリと出演。
彼の母親もシングルマザーで、7つもの学校を転々として育ったと言う。
近年世界的に増えつつある、ホームスクールというモチーフを扱ってはいるけど、問題は指摘しつつも別にそれを否定する訳ではない。
そもそも、それぞれに個性のある子供の教育なんて、絶対の正解など誰も知らない。
昔色々あったリアムのママも、自分の経験に基づいてベストだと思うやり方を貫いてきたのだけど、子供の心と体の成長とともに、合わなくなってきたというだけの話。
意を決して高校に通い始めたリアムは、なんとかアナスタシアにお近づきになろうと努力し、初めての友だちを得て、初めての挫折も経験しながら、大人の階段を不器用に登ってゆく。
そして、そんな息子の姿にママはハラハラ。

リアムもママも相当変でイタタな人なのだが、描写はコミカルで陽性
パステルカラーを思わせる画面の色彩設計も含めて、映画全体に優しさが溢れているのだ。
大爆笑するわけじゃ無いのだけど、緩急のバランスに優れ、センスのいいエピソードの連続でクスクスが止まらない。
親友で最大の理解者でもあるママとべったりで人付き合いが苦手、頭はいいけど子供っぽいリアムと、子供は巣立つと頭では分かっちゃいるけど、なかなか現実を認められないママ。
一歩間違えると極度のマザコン&モンスターペアレントになっちゃいそうな、典型的なトモダチ親子がお互いに成長を遂げる、いまどきのグローイングアップストーリーだ。

主人公のリアムを演じるダニエル・ドヘリーも良いが、性教育も兼ねてライトな下ネタ連発、危ないくらいに息子を溺愛するママを演じるジュディ・グリアが素晴らしい。
ただ過保護なだけじゃなく、ユーモラスで知的なキャラクターなんだな。
個性的な学校の生徒たちや、惚れっぽい校長先生のキャラも最高(笑
これ、古くは「すてきな片思い」「ブレックファスト・クラブ」などのジョン・ヒューズ系の青春映画群、最近では「レディ・バード」「スウィート17モンスター」などの、ちょっとイタ恥ずかしい青春映画の好きな人には大好物だと思う。

今回は、アナスタシアにビビッときたリアムが人生の新しい一歩を踏み出す話なので、目を開かせるもの、「アイ・オープナー」をチョイス。
ラム30ml、オレンジ・キュラソー2dash、パスティス2dash、クレーム・ド・ノワヨー2dash、砂糖1tsp、卵黄1個を強めにシェイクして、グラスに注ぐ。
甘めで濃厚、香りも複雑で、どちらかと言えば、飲んでいるうちに目が閉じてきそう。
輝かしくも恥ずかしい、青春の思い出に乾杯!

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魂のゆくえ・・・・・評価額1700円
2019年04月18日 (木) | 編集 |
彷徨える魂の、究極の選択。

これはある意味で21世紀版の「タクシードライバー」であり、ポール・シュレイダーの現時点での集大成と言って良いと思う。
対テロ戦争で息子を亡くし、妻にも去られ、小さな教会に一人暮らす元従軍牧師が、深い絶望を抱えた青年と出会う。
ラジカルな環境活動家の彼は、妻が妊娠したことに戸惑い、自分の子にこんな未来のない世界に生まれて欲しくないと訴える。
牧師は青年を説得しようとするのだが、内心の孤独と絶望はどこかで彼に共感し、次第に現実と信仰の間で葛藤を募らせてゆくのだ。
混沌と狂気に堕ちてゆく、トラー牧師を演じるイーサン・ホークが素晴らしく、なぜアカデミー主演男優賞にノミネートされなかったのか不思議。
地味な題材だが、物語の異様な密度と迫力に目が離せない。
※ラストに触れています。

ニューヨーク州スノーブリッジの歴史ある教会、ファースト・リフォームドの牧師を務めるエルンスト・トラー(イーサン・ホーク)は、嘗て従軍牧師として活動していたが、彼の勧めで軍に入った息子ジョセフが戦死し、妻にも去られた。
失意のトラーは牧師を辞める気でいたところを、多くの信者を持つメガチャーチ、アバンダント・ライフ教会のジェファーズ牧師(セドリック・カイルズ)に誘われて、傘下のファースト・リフォームドに着任したのだった。
ある日のミサの後、トラーは信徒のメアリー(アマンダ・セイフライド)に、彼女の出産に反対している夫を説得して欲しいと頼まれる。
環境活動家である夫のマイケル(フィリップ・エッティンガー)は、環境破壊が止まらない現状に絶望し、生まれてくる子に未来は無いと言う。
トラーは対話を継続しようとするが、メアリーがマイケルの持ち物の中から自爆用ベストを見つけ、トラーが真意を問おうとするとマイケルはショットガンで自ら命を断った。
おりしもファースト・リフォームドは、設立250周年の記念式典を控えていて、トラーは自分の教会にアバンダント・ライフを通じて、代表的な環境破壊企業とされるバルクのオーナーから多額の寄付金が入ってることを知ってしまう・・・・


脚本家としてのシュレイダーの代表作の一つ、マーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」が作られたのは、ベトナム戦争が終わった直後の1976年。
本作と「タクシードライバー」には、明らかな共通点が多々ある。
ロバート・デ・ニーロ演じる主人公のトラヴィスは、PTSDを抱えたベトナム帰還兵で、退廃したアメリカ社会に嫌悪感を募らせ、いつしか怒りの感情に駆られて自ら“浄化”しようとする。
彼のトリガーとなるのが、当時14歳のジョディ・フォスターが演じた少女売春婦のアイリスだ。
一方、本作のトラーは代々の元従軍牧師で、一族の伝統に従って愛国心から息子ジョセフに入隊を勧め、結果的に彼を死に追いやり、家族はバラバラに。
いつしか信仰にも疑問を感じるようになり、自分が何のために生きているのかすら分からなくなってしまい、やはり衝動的な行動へと駆り立てられる。
価値観の崩壊に加え、彼のトリガーとなるのは、メアリーから相談されていたマイケルの死だ。
40年以上の時を隔て、シュレイダーが生み出したトラヴィスとトラーは、共に大義なきアメリカの戦争の結果、深刻な心の傷を抱え、孤独に苛まれてながら、「何かをしなければならない」と言う強迫観念に突き動かされている。
違いは、とことん俗物で趣味はポルノ鑑賞だったトラヴィスとは対照的に、トラーは神に仕える聖職者であり、自らの考えをノートに綴ることで内面と向き合おうとするストイックな人物だと言うこと。

トラーが元来持っていた、二つの絶対的な価値観。
そのうちの「愛国心」の意味は、息子の死がもたらした痛みと、自らが彼の死に加担したと言う自責の念によって相殺されてしまっている。
傷ついた彼は、もう一つの「信仰心」によって、世界の“こちら側”にギリギリ止まっているのである。
しかしそんなトラーの前に、メアリーとマイケルが現れたことで信仰もまた揺らいでゆく。
マイケルは自分を説得しようとするトラーに言う。
「西暦2050年、僕たちの“娘”は33歳になる。その時、地球はどうなってると思う?」
彼の未来の娘に降りかかるであろう絶望は、トラーの息子を襲った過去の絶望と重なり、彼はマイケルの話に心の奥底で共感し始めている。
そしてマイケルの突然の自殺は、確実に痛々しい息子の戦死の記憶と共鳴し、彼が戦っていた相手であろう、テロリストの武器である自爆用ベストの発見が、トラーの内面の混乱を増幅する。

さらに清浄なる神の館である教会が、環境破壊企業から多額の寄付を受けていると言う事実も、トラーの心を追い詰めてゆく。
真摯に内面の葛藤と向き合おうする生真面目な男である故に、現実と信仰との間にある大きな矛盾を明確に突きつけられ、混沌に落ちてゆくのだ。
彼の教会「ファースト・リフォームド(最初の改革)」が、「アバンダント・ライフ(豊かな命)」の所有物なのも象徴的。
現状を正そうと言う精神性は、物質的な豊かさに比べてあまりにも無力だ。

牧師として、人間として、いかに生きるべきなのか?信仰の意味とは何なのか?

なぜ神は、残酷な仕打ちで自分を苦しめるのか?自分の果たすべき役割は何か?

内容は全く違うが、現実と信仰の間で苦悩するトラーの姿には、イ・チャンドン監督の問題作「シークレット・サンシャイン」を連想した。


トラーは「人は選択する」と言う。

クライマックスは苦悩を募らせるトラーの前にも、いくつもの選択肢とその結果が現れるのだが、さすがシュレイダー、ここからは全く先を読ませない。
マイケルの死によって、トラーが封印していた自責の念を呼び起こされ、教会が環境破壊企業と癒着していることが現世のキリスト教への不信感を育て、さらに自らの体が癌に侵されている事実が、彼をマイケルとの自己同一化に走らせる。
トラーは、マイケルの残した自爆用ベストを使い、ファースト・リフォームドの250周年の記念式典で、退廃した教会を体現するジェファーズ牧師や、教会のスポンサーである環境破壊企業バルクのオーナーを巻き添えに自殺しようとする。
ところが、そこに来るはずの無かったメアリーの姿を見たことで、自爆を思いとどまったトラーは、今度は有刺鉄線を自らの体に巻きつけ痛めつけるのだ。
この時のトラーは、明らかにキリストの受難に例えられており、この後に起こることは、いわば聖書の「if」の展開

式典に姿を見せない牧師を探しに来たメアリーと出会った瞬間、トラーは彼女に歩み寄るときつく抱き合い、激しくキスをする。
これはシュレイダーとスコセッシのもう一つのコンビ作「最後の誘惑」を思わせ、クライマックスに先立つ精神的なトリップの描写で、トラーを虜にしているメアリーは、あの映画でキリストの妻となるマグダラのマリアだ。
つまり、大義なき世に重大な苦悩を抱え込んだトラーは、大義を掲げ死を覚悟したテロリストとなり、次いで全ての罪を背負ったキリストとなり、最後には再び人間に戻るのである。
彼の心は相変わらず孤独と絶望に満ちているが、メアリーの存在によって僅かながら喜びと希望を感じている。
それは現世の誘惑であり、現実の生だ。
この見事な幕切れに、私は深く共感してしまった。
現在の世界にキリストの様な便利な存在は現れず、人間は自ら罪に向き合って、ほんの僅かな喜びを糧に、もがき苦しみながら生きてゆくしかないのである。

今回は、キリスト教には欠かせない赤ワイン、「カ・マルカンダ ガヤ プロミス」の2016をチョイス。
イタリア・トスカーナ産のフルボディ、辛口の赤。
メルロー、シラー、サンジョヴェーゼを別々に発酵させた後にブレンド、熟成したもので、みずみずしく濃厚な果実味と、フレッシュなアロマが楽しめる。
映画のトラーはウィスキー派だったが、この映画はやはりワインで複雑な余韻を噛み締めたい。

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ショートレビュー「多十郎殉愛記」
2019年04月14日 (日) | 編集 |
ひねくれ男が戦うワケ。

風雲急を告げる幕末の京都を舞台に、長州浪人にして剣の達人、清川多十郎が愛する女のために京都見廻組と対決する。
84歳の中島貞夫監督による20年ぶりの劇場用映画は、まさに「ザ・時代劇」だ。
リアリズム重視の今風のものではなく、現実なら多勢に無勢でも戦えて、斬っても血が出ないいわゆる昭和テイストのチャンバラ活劇。
五万回斬られた男こと、福本清三の華麗なる斬殺シーンももちろんあり、中島監督の「チャンバラを次世代に!」という創作の熱が詰め込まれてた力作だ。
無頼漢だが惚れた女には弱い多十郎を、高良健吾が好演し、新境地を開いている。
薄幸のヒロインおとよを演じる多部未華子を、はじめて色っぽいと思った。

伝統ある時代劇の京都らしい、非常に端正に作られた映画だ。
最近のTVではすっかりご無沙汰のチャンバラものだが、たまにスペシャルドラマなどでオンエアされると、今度はビジュアルの安っぽさにガッカリする。
しかしこの作品の画作り、世界観の作り込みは鉄板のクオリティ。
見廻組に追われた多十郎が、長屋の中をぶち抜きながら駆け抜ける描写はアニメーションチックでちょっと新しい。
チャンバラ活劇としての見せ場も豊富で、尺も1時間半程度と、気楽に観られるプログラム・ピクチャーをしっかり丁寧に作っているのも、今の時代には貴重。

中島監督は私の学生時代の先生でもあるのだが、いまだご健在で、こんな面白い映画を撮っちゃうのだからやっぱ凄いな。
当時はおバカな学生だったから、それほど意識はしなかったのだけど、今にして思うと演出・中島貞夫、脚本・依田義賢、撮影・宮川一夫と森田富士郎、制作・田口直也ってとんでもない豪華教授陣
後に留学した時に、学友に「君の前の学校はどんな先生がいたの?」って聞かれて、彼らの名をあげたら驚愕してたっけ。
学生の時に、もっとちゃんと出席しとけば良かった!

しかし、職人演出家としての中島監督は素晴らしいんだけど、脚本はツッコミどころも多いというのも昔から。
本作にも明らかに残念なところがある。
多十郎はひねくれキャラで、武士仲間との交流も断って、着物の柄の絵師として世捨て人のように暮らしているのだが、なぜ彼があんな性格になってしまった理由がはっきりしない。
一応親の代からの多額の借金があったことは描かれているのだが、それだけではちょっと弱いし、弟と義母の負債にはならないの?という疑問も。
もう一つは、おとよとの馴れ初めを描いて欲しかった。
薄幸の彼女がひねくれ多十郎に恋する瞬間が無いので、二人の間にある感情の強さに、もう一つ説得力を感じられない。
時代劇では珍しいキスシーンは良かったけど、この二点が描写されるだけで、だいぶ感情移入しやすくなるはず。

あと、無い物ねだりなのは分かっているが、敵味方入り乱れての乱戦も見たかったな。
中島監督にはもう少し頑張ってもらって、今度は集団時代劇スタイルのチャンバラを作って欲しい。
88歳のイーストウッドが現役なんだから、まだ何本か撮れますよね、先生!
先生の作品に生徒が点数付けるのはおこがましいので、今回はレビューのみ。

京都が舞台の本作には、洛中唯一の老舗酒蔵、佐々木酒造の「聚楽第 純米吟醸」をチョイス。
聚楽第とは信長の後に天下人となった豊臣秀吉が京都に築いた豪華絢爛な城郭邸宅で、桃山文化を代表する建築物。
吟醸香は軽やかで、やや辛口でフルーティな味わいを、スッキリした喉ごしで楽しめる芳醇な酒だ。

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ショートレビュー「ビリーブ 未来への大逆転・・・・・評価額1600円」
2019年04月12日 (金) | 編集 |
全ての人に平等を。

アメリカ合衆国最高裁判所の名物判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグを描く人間ドラマ。
先日公開された「レゴ ムービー2」には、レゴ人形となったルースがちらりと登場する。
字幕だとただの「最高裁判事」になっちゃてたけど、法曹界の大物がファミリームービーに実名で出てくるのは、日本ではちょっと考えられないだろう。
これだけで、米国社会での彼女の知名度と重みが分かるというもの。
昨年には、アカデミー賞にもノミネートされた「RBG 最強の85歳」というドキュメンタリー映画もヒットし、日本でもまもなく公開となる。

9人が定員の合衆国最高裁の判事は、大統領によって任命され、議会の承認を経て着任するのだが、任期は無く、本人が亡くなるか引退するまで職にとどまり続ける。
アメリカは三権分立が厳格に機能していて、法律や政策も裁判で覆されることが多々あるゆえに、大統領は自分の任期中に一人でも多く、自分と考えの近い判事を任命しようとするのだ。
以前は中間派の判事もいたのだが、現在の9人の判事はブッシュ親子とトランプによって任命された保守派が5人で、クリントン、オバマに任命されたリベラル派が4人。
ルースはクリントン時代の93年に任命され、現在最高裁判事で最高齢の86歳。
もしも彼女が退任すると、トランプは後任の判事に当然保守派の人物を選ぶので、最高裁のバランスは完全に保守に傾いてしまう。
彼女は文字通りリベラル派最後の砦なのである。

もっとも、この映画は現在のルースではなく、まだ裁判所に立ったこともなかった若き日を描く物語だ。
彼女の不変の信念とパワフルな行動力は、いかにして形作られたのか。
ハーバード大学とコロンビア大学のロースクールで、極めて優秀な成績を収めたルースだが、女性差別の法律が無数にあり、働く女性への偏見も激しかった1960年代、弁護士事務所への就職はかなわない。
やむなくラトガース大学のロースクールで教鞭をとっていた彼女が、法廷弁護士の道を歩みだした最初の裁判、1970年の「チャールズ・モリッツ対内国歳入長官」がモチーフとなっている。
それは、独身男性が親の介護のために介護士を雇い、その費用の控除が認められなかったと政府を訴えた裁判。
法律で、控除を受けられるのは女性だけと定められているからだ。
国の勝訴は確実として、誰も弁護をやりたがらない地味なケースだが、ルースはここに性差別の壁の突破口を見出す。

単純に女性差別撤廃を打ち出せば、男性社会である法曹界に跳ね返される。
しかし「家族の介護は女性の仕事」ということを前提としている法律が、逆に男性差別になっていることを訴えれば勝機がある。
男女のどちらかを優遇するのではなく、平等を勝ち取ることが結果として差別をなくすことに繋がるという訳だ。
久しぶりに劇場用映画を手がけるミミ・レダー監督は、ダークな背広を纏った男たちの群れの中に、一人鮮やかなブルーの服のルースが登場する冒頭から、非常に丁寧に<彼女と家族の物語を紡いでゆく。
映画の前半は、男性優位の閉塞した時代に、弁護士、妻、母、そして一人の女性として懸命に生きるルースの人生をじっくりと描き、後半が国を相手にしたちょっと頼りないビギナー弁護士の裁判劇。
フェリシティ・ジョーンズが、温和な中に意志の強さを感じさせるルースを好演。
彼女の経験のなさを突いてくる、被告の国側の攻撃にしどろもどろになりながらも、ついに自分の言葉で語り出す彼女を、観客もいつしか傍聴人の一人として応援。
実話だから結果は分かっていても、スリリングだ。

ルース本人も凄い人なのだが、彼女の家族もまた只者ではない。
特にアーミー・ハマー演じる夫のマーティンは、自分も敏腕弁護士で、料理が苦手なルースに代わって家事をこなし、仕事では妻の背中を押し、子供の面倒もバッチリってどんなスーパーマン。
完璧過ぎて、結婚したくなったわ(笑
ちなみに、本作の脚本家のダニエル・スティープルマンは、ルースの甥。
「グリーンブック」を書いたのは、主人公の息子だったし、やはり近くで見ている家族だから描ける人物像というのはあるのだと思う。
しかし今、ルース・ベイダー・ギンズバーグに改めて注目が集まるのも、時計を過去に巻き戻す男、トランプの時代だからなのだろう。
頑張れ、負けるな、最強の86歳!

今回は「アイアン・レディ」をチョイス。
ウィスキー36ml、ドライ・ベルモット12ml、ポート・ワイン12ml、オレンジ・ビターズ1dashをステアして、グラスに注ぐ。
美しいローズカラーと仄かに香るオレンジ。
オシャレだが、アルコール度が高くてかなり強い。
本来は「鉄の女」と呼ばれた英首相マーガレット・サッチャーに由来するそうだが、この称号は思想は逆でも鉄のように強い信念を持つルースにも相応しい。

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