酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。
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ニュー・ワールド・・・・・評価額1600円
2006年04月26日 (水) | 編集 |
デビュー以来三十数年間で、長編監督作品はこれを含めて僅か4本。
超寡作な天才監督テレンス・マリックの最新作は、意外にもアメリカでもっとも有名な「神話」を題材にした物だった。

1607年、アメリカ大陸東海岸のテナコマカ。
新世界を求めてやってきたイギリス人達は、ここにヴァージニア入植地ジェームスタウンを建設する。
それはまた、現地の先住民族ポウハタンと白人達の出会いでもあった。
未知の入植地での生活は過酷を極め、指揮官のニューポート(クリストファー・プラマー)は先住民の王ポウハタンとの交易の可能性を探るために、ジョン・スミス大尉(コリン・ファレル)に大河の上流の探検を命じる。
困難の末に、ポウハタンの元にたどり着いたスミスだったが、白人の干渉を嫌うポウハタンはスミスの処刑を命じる。
今にも殺され様とするスミスを助けたのは、ポウハタンの娘ポカホンタス(クオリアンカ・キルヒャー)だった。
娘の説得に、王も春までに白人達が国へ帰る事を条件に助命を許す。
聡明で美しいポカホンタスとスミスは直ぐに惹かれあった。
やがてスミスは入植地へ戻ったが、そこは食料も尽き、絶望が支配する荒廃した村になっていた。
厳しい冬が来て、見かねたポカホンタスは父の目を盗んで入植地に食料を届けるのだが、白人達が約束を破って帰国していない事を知ったポウハタンは怒り、白人達との間に戦争が起こってしまう。
白人達がポカホンタスを人質に取った事で、戦いはひとまず収まるのだが、責任を感じたジョン・スミスは、自分を死んだ事にして、ポカホンタスの前から姿を消す。
愛するスミスを失い、失意のポカホンタスの前に現れたのは、入植地でタバコ栽培を行っていたジョン・ロルフ(クリスチャン・ベール)だった。
スミスへの想いを引きずりながらも、ロルフの優しさに引かれたポカホンタスは、やがて彼と結婚する。
数年後、幸せに暮らすポカホンタスの耳に、死んだはずのスミスが生きているという噂が聞こえてくる・・・


正直言って、始まってから一時間ほどは、マリックの映像世界に魅了されつつも、半分失望していた。
それは物語があまりにも、「よく知られた事実」そのままだったから。
この物語を「神話」と書いたのは、ポカホンタスとジョン・スミス、ジョン・ロルフの物語は、アメリカ人の間で殆んど「神話的な事実」として確立しているからだ。
三人が実在し、ドラマチックなロマンスが存在したのは事実な様だが、物語のディティール部分には謎が多く、特にジョン・スミスとの個々のエピソードに関しては、懐疑的な研究の方が圧倒的に多い。
だが既に神話的な地位を確保した物語は、外野の学問的な論議に関係なく、一般に「事実」として信じられ、時としてその白人視点な神話性を強める傾向すらある。
ディズニーアニメの「ポカホンタス」などはその傾向のもっとも顕著なもので、あれを事実に基づく映画と宣伝するのは、歴史歪曲とも言える行為である。
そんな中で、テレンス・マリックほどの人物があえてこの物語を映像化するからには、従来とは違った解釈をしてくるに違いないと勝手に思い込んでいたのだ。
だが実際目にした物語は、マリックの比類なき映像テクニックに彩られているものの、物語自体はよく知られた神話的なポカホンタスの物語その物だった。

まあ最初の印象には私の勝手な思い込みもあったのだが、物語が進むにつれてだんだんと監督の意図と、この映画の凄さを実感してきた。
恐らくマリックは、ポカホンタスに関する最近の研究を知らなかった訳ではなく、あえて神話的な物語をそのまま使ったのだ。

映画の中心となる人物は三人。
突然訪れた異邦人に、憧れと淡い恋の炎を燃やすポウハタンの王女ポカホンタス
歴戦の軍人であり、ポカホンタスへの愛に葛藤するジョン・スミス
そしてポカホンタスのスミスへの想いを知りながら、彼女を優しく包み込む大人な男、ジョン・ロルフ
映画はこの三人のモノローグによって進んでいくのだが、この作品の文法は通常の映画とは大きく異なる。
登場人物の内面の心情を描けていない、あるいは内面の描写が不足している映画は沢山ある。
だがこの「ニュー・ワールド」は、映画を構成する全ての要素が登場人物の内面の心理描写となっているのだ。
全てのシーンは物語を紡ぐためというよりも、彼らの心を描くためにある。
撮影監督エマニュエル・ルベツキによるアメリカ大陸の絵の様に美しい自然も、荒れ果てた入植地も、整然としているがどこか寂しい英国の庭園も、そして大地を流れる風の音も、何もかもが、三人の心の軌跡を描写するために存在している。
映し出される物は、客観的にそこに存在しているのではなく、登場人物が見た心情風景として存在しているのだ。
この作品では、物語が心を描写するのではなく、心の描写が物語を紡いでいくと言っても良いかもしれない。
マリックがあえてポカホンタスの物語を選んだのは、「わかりきった物語」の方が心の内面にフォーカスを絞りやすいからだろう。

ジョン・スミスを演じたコリン・ファレル、ジョン・ロルフを演じたクリスチャン・ベールも、決して突出しないが、心情風景の語り部として作品世界に根を下ろしている。(まあ見方によっては優柔不断な男たちに見えなくも無いが)
ポカホンタスを演じたクオリアンカ・キルヒャーはさすがに新人だけあって、抑えた演技という訳ではないが、こちらはマリックの方が彼女の持ち味を生かして輝かせる事に成功している。
ナチュラルで映像世界に溶け込んだ彼女の存在感は、この作品の見所の一つだ。

タイトルの「ニュー・ワールド」は、白人・ネィティブアメリカン双方にとって、未知の世界との接触を表しているのは勿論だが、それ以上に愛を交わす事で三人の心が見た、(彼らにとっての)新たな精神世界の事でもあるのだろう。
歴史ドラマとしてこの映画を観ると、意外性のない物語だが、心の物語としてみると実に非凡な作品だと言える。
ただほかのマリック作品と同様に、観客を選ぶ作品だと思う。
物語のトーンは極めてゆったりしているし、ドラマチックな物語の抑揚とは無縁な映画なので、人によっては退屈な作品に映るかもしれない。
逆に昔からのマリックファン、または「シン・レッド・ライン」が大好きだという人には至福の時間となるだろう。
もっとも、歴史物好きとしては、もっとリアルなポカホンタスの物語を観たかったのも事実なのだが、それはまたスピルバーグあたりが作ってくれる事を期待しよう。

さて、この悠久の時の流れを感じさせる大作の後には、同じく悠久の自然を感じさせる酒を飲みたくなる。
今回は山形県の地酒「秀鳳」「特別純米無濾過 雄町」を。
純米酒の芳醇さと未踏の森林を思わせる深い味わいが印象的な酒。
出来を考えればコストパフォーマンスはすこぶる高い。

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