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花よりもなほ・・・・・評価額1650円
2006年06月14日 (水) | 編集 |
是枝裕和監督のデビュー作、「幻の光」は衝撃だった。
能登の漁村を舞台に、心に傷を負った一人の女が、たゆたうような穏やかな時間の中で、徐々に癒されてゆく物語。
ドキュメンタリストらしい距離感のある視点と、その底にある人間愛。
不思議な緊張感のある演出は、決して演技が上手いとは言えない江角マキコすら輝かせた。
カンヌで史上最年少の主演男優賞を受賞した「誰もしらない」まで、一貫してそのスタンスは変わらない。
その是枝監督のはじめての時代劇は、9.11以降の世界を、江戸庶民の力強い生き様に投影した異色の時代劇。
なんとも力の抜けた力作だ。

太平の世が続く元禄15年、江戸。
赤穂浪士が吉良邸に討ち入る少し前の、五代綱吉将軍の治世。
父の仇を打つために、信州松本から江戸にやって来た青木宗左衛門(岡田准一)は、毎日隣の会話も筒抜けの貧乏長屋で目を覚ます。
当時の江戸は世界最大の巨大都市。
そうそう簡単に仇が見つかる訳も無く、長屋の住人貞四郎(古田新太)の怪しげな情報に金を払う毎日。
しかも実のところ、宗左の剣の腕はまるでダメ。
得意技は手習い算術と「逃げ足」という体たらくだった。
そんな宗左の密かな想い人は、向かいに住む子連れの未亡人のおさえさん(宮沢りえ)。
おさえさんは、仇討ちのために仇を探す宗左に、「お父上があなたに教えた物が、憎しみだけだったら悲しい」と話すのだった。
そんなある日、宗左は偶然にも憎き仇、金沢十兵衛を見つけてしまう・・・・


こう言うのを待っていたのである。
「たそがれ清兵衛」のヒット以来、リアルな生活描写に基づいた時代劇が増えたのは嬉しいのだが、何故か馬鹿の一つ覚えの様に藤沢周平ばかりが映像化されるので、やや食傷気味だった。
邦画には嘗て「長屋物」という伝統があった。
時代劇は、別に侍の話じゃなくても良いのだ。
様々な階層の人々が集まってきていた巨大都市・江戸なら、ぶっちゃけ市井の人々の暮しをじっくりと描いた方がよほど面白いのではないか・・・とずっと思っていた。
この作品の主人公は一応侍だが、貧乏長屋のバラエティに富んだ住人たちが織り成す、群像劇としての性格を備えている。
徹底的に生活のディテールに拘った「江戸暮し」の描写は、本編の見所の一つだ。
黒澤、溝口組をはじめ、日本映画黄金時代からの経験を持つベテラン、馬場正男が参加した美術は、生活している人の体臭まで臭ってきそうなリアルさだ。
また衣装の黒澤和子は、黒澤明の実の娘。
この映画には、日本映画が培ってきた伝統の技が確実に生きている。
もっとも作り物然としたテレビ時代劇を見慣れた目には、山崎裕の透明感のあるカメラも手伝って、生活感たっぷりのこの世界が、世相の共通性以上に妙に現代的に見えるのが可笑しい。
本当のところ江戸時代になると、現在に通じる都市機能はほとんど整備され、便利さの差はあれども、生活自体は現在と大して変わらないのが実際の所だったようだ。
ただ現代的とは言っても違いがあるのも事実なので、そのあたりに知っているようで知らない世界をのぞき見るような楽しさがある。
この映画の生活描写の面白さというのは、外国の生活を紹介するテレビのバラエティ番組に近いものがあるかもしれない。
そういえば是枝監督の古巣、テレビマンユニオンは「世界ウルルン」や「世界不思議発見!」など、その手の作品をずいぶん沢山手がけている。

そんなモダーンな江戸長屋に、暴力の連鎖に悩む侍が一人。
岡田准一演じる宗左は、武士の生き方いう理念に縛られた旧時代の遺物である。
太平の世の中になっても、侍だけは相変わらず現実ではなく理念に生きている。
実際のところ、宗左はそんな武士の生き方にかなり疑問を感じているのだが、生まれた時から叩き込まれた生き方はそうそう簡単には変わらず、それが大いに悩みとなり宗左はずっと難しい顔をしている。
宗左の仇討ちと対となる背景として描かれるのが、赤穂浪士の仇討ちなのだが、この事件に対する庶民の受け止め方一つとっても、もはや武士の生き方がリアルな世界ではなく、武士道の理念というイリュージョンの中で自己完結しているのが見て取れる。
侍は何も作り出すことが出来ず、太平の世では無用の長物である事を、自分たちもよく知っている。
だからこそ、侍はますます理念に縋る。
長屋の住人が祭りで演じる仇討ち寸劇も、現実の赤穂浪士も、日々の生活に関係ないという点では結局のところ変わらないのだ。

人が生きていくことに必要なのは、食い物と寝床とちょっとした希望。
仇討ちなんて何の得にもならないが、見世物としては面白い。
ついでにチョイと便乗して稼いじまおう。
そんな強かで愉快な市井の人々の中で、宗左は徐々に呪縛から解放されて侍・青木宗左衛門から人間・青木宗左衛門へと変わってゆく。
実は自分と同じ哀しみを抱えていながら、それを心の奥に封印しているおさえさんの気持ちを知った時、宗左の心はイリュージョンからリアルへと抜けたのだろう。
振り上げた拳を、何かちょっとだけ違う方向に使ってみよう。
必要なのは、憎しみよりも少しだけ慈しみを大切にする気持ち。
全てが終った時、ずっとしかめっ面だった宗左が見せる笑顔が素晴らしい。

基本的に物語の基盤にはずっと宗左がいて、劇中で起こっていく事を受け止めるのだが、全くブレずにキャラクターを纏め上げた岡田准一は中々の好演だったと思う。
ちょっと不幸な影のあるヒロインおさえさんも、今やこの手のキャラクターは宮沢りえの十八番である。
田畑智子、木村祐一、香川照久、上島竜兵らにぎやかな長屋の住人たち、そして討ち入らなかった赤穂浪士・寺坂吉右衛門を演じた寺島進も、それぞれの持ち味を十分に生かされていて、出番は少なくても強い印象を残す。(※:実際の寺坂吉右衛門の行動に関しては諸説あり、討ち入り後に逃亡したという説もある)
ただ腕っ節の強い遊び人のそで吉(加瀬亮)と、同郷の幼馴染おりょう(夏川結衣)の切ない恋のエピソードは、この話の中で唯一主人公と直接絡んでこないせいか、全体の流れから少し浮いている気がする。

「花よりもなほ」は良い意味で肩の力が抜けた、軽量級時代劇の秀作だ。
ハリウッドがアクション時代劇への大オマージュを捧げた「ラスト・サムライ」や、山田洋次の渋い藤沢周平物も良いが、時代劇にはまだまだ色々な可能性がある。
「人情紙風船」「幕末太陽傳」、あるいは「鴛鴦歌合戦」みたいに現在の世相を反映させながらも、作り手のイマジネーションを爆発させたような傑作、まだまだ出て来るかも知れませぬぞ。
とりあえず、是枝監督には再度の時代劇挑戦を大いに期待したい。

こういう映画を観た後は、気持ちよく酒が飲める。
江戸ならぬ東京都の地酒、「澤乃井の大吟醸」を。
元々澤乃井はコストパフォーマンスの高い良い酒だが、この大吟醸は味わいも格別。
熟した梨の香りを思わせる、実に豊潤な味である。
やや甘い白ワインという感じなので、よく出来た映画のデザートワイン的に飲んでも良いだろう。

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