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2006年08月24日 (木) | 編集 |
不思議の国のヒロヒト。
昭和が歴史の彼方に去って、早十七年が経とうとしている。
昭和天皇崩御の1989年には、天皇とは別の意味で昭和を象徴する手塚治虫と美空ひばりが相次いで亡くなり、海外に目を向ければ11月にベルリンの壁が崩壊。
その後相次いで東欧の共産党政権が倒れ、91年のソビエト連邦消滅に繋がって行く。
第二次世界大戦の結果生まれた東西冷戦の時代が、その最後の生き証人の死と共に終わり、新しい時代の幕開けとなる、歴史の節目の年だった。
ロシアの異才、アレクサンドル・ソクーロフ監督が、二十世紀の歴史に残る怪物たちを描く三部作の三作目に選んだのは、その昭和天皇裕仁。
海洋生物学を愛する小柄な老人、千五百年もの歴史を持つ世界最古の王朝の現人神、あるいは二十世紀の一時期、東アジアのほぼ全域を支配した巨大帝国に君臨した”the Emperor”。
日本人ですら理解する事の難しい、神秘的な存在である天皇。
外国人がどう描くかはとても興味深かったのだが、ソクーロフの描く天皇像は、極力政治性を排し、徹底的にパーソナルで、ある意味でとても理解し易い「人間ヒロヒト」だった。

この映画に描かれる天皇の世界は恐ろしく現実感が無い。
まるで紗がかかったように彩度が低く、薄暗い映像は深海を思わせる。
物語は終戦を決めた御前会議で始まり、人間宣言の直後と思しき時期で終わる。
天皇が、自らの存在をドラスティックに変えた数ヶ月の物語だ。

天皇にとっては戦争すら別世界のようだ。
戦争中は迷宮の様な地下壕と、焼け残った研究所だけが彼の世界。
隔絶された世界で、彼は一人苦悩する。
天皇は孤独だ。
何故なら彼は、人間の世界で一人神であり、超越した存在だからだ。
この世界での彼は、ファンタジーの世界の魔法使いの様だ。
人間の愚かしい行為に内心憤りながらも、奥ゆかしいミステリアスな言葉で人間を導く。
誰も彼の言葉に逆らう事は出来ず、しかしながら「神」としての役割も心得なければならない。
映画の前半は皇居の地下の秘密の宮殿で、静かにゆったりと展開する悪夢的なファンタジーだ。

彼を一人の人間と認識して、魔法使いのマントを脱がせたのはむしろ戦後のアメリカ人かもしれない。
マッカーサーとの会見のために皇居を出た天皇は、廃墟と化した東京で、初めてリアルな戦争と出会う。
そして、彼を神どころか一人の戦犯容疑者として見るアメリカ人、マッカーサーとの出会い。
緊張した画面の中で、しかし天皇は確かに解放されつつある。
アメリカ兵の写真に納まり、「チャップリンに似ている」と揶揄されながら、どこか嬉しそうな天皇。
暗い靄の立ち込める東京から、神ではなく一人の人間として新しい国の「太陽」となろうとする。
やがて、疎開していた皇后との再会と、彼自身の「人間宣言」によって、重い扉が開かれるかのように思われるのだが、広間で待つ子供たちのもとへ、皇后とともに嬉しそうに急ごうとする天皇は、ふと立ち止まり侍従長に聞く。
「あの若者はどうしたかね?私の、人間宣言を録音した若者は?」
飛び立とうとする彼に侍従長の言葉が突き刺さる。
「・・・自決いたしました。」
天皇を神の座に縛り付けるのは法律でも国家でもなく、「日本」という得体の知れない巨大な共同体。
それは天皇にとって、世界そのものだ。

イッセー尾形の演じる天皇は、肉体的にはかなりくたびれた中年男だが、記憶の中にある昭和天皇に確かに通じる。
私が物心ついたころ、天皇は既にかなりの老人だったし、子供心には変な喋り方をするお爺さんという印象しかなかった。
しかし、記憶の中の昭和天皇を数十年若返らせ、記録映像などの若き天皇と刷り合わせると、確かにイッセー尾形の天皇となる。
形態模写を超えて、この作品の彼の役作りは本当に見事だと思う。
この作品唯一の女性の登場人物であり、天皇を人間の世界へ導こうとする皇后役には桃井かおり
時間にして僅か五分足らずの出演だが、鮮烈な印象を残す。

考えてみれば、神であれ象徴であれ、国の精神性の頂点に立つというのは大変な事だ。
好むと好まざるとに関わらず、一億二千万の意識(太平洋戦争当時は7千万人ほど)が自分に圧し掛かるのに、「人間」は耐えられるだろうか。
しかも彼の神聖な名の元に、敵味方数百万、数千万の人間が死んだとしても。

エンドクレジットで、一羽の白い鳥が画面右隅にループ映像で繰り返し登場する。
靄の中から現れて、天空へ上昇しようと羽ばたく姿。
記紀神話を読んだ事のある人なら判ると思うが、白鳥はしばしば御霊の象徴として描かれる。
靄が立ち込める地上から、必死に飛び立とうとするあの鳥が、私には悲しき天皇の心に思えた。

この映画はソクーロフという映画作家の目を通してみた、日本という不思議な国の司祭であり王である天皇の物語だ。
所謂実録歴史物とは違うし、正確な人物評伝でもない。
だが、天皇を見つめるソクーロフの視線はとても優しく、真摯だ。
21世紀の現代から、歴史の一ページになろうとしている昭和と、その時代と同じ名を持つ一人の人物を考えたい人には、観て損の無い作品だと思う。

最後に、私自身の天皇制に対する考えを記しておく。
私は、ある種の精神文化としての天皇制は認めても良いのではないかと思っている。
勿論、天皇という超越した存在を制度として認める事が、あらゆる社会的差別の温床であるという考えも理解する。
しかし、それは何も天皇の存在だけに起因する物ではないし、天皇のいない社会でも同様に存在する問題だ。
近代的な意味の国家ではなく、古代から脈々と続くクニの精神的な拠り所として、天皇の果してきた役割は一定の評価をすべきだし、現在においてもそれはあまり変わらないのではないかと思っている。
しかしまあ、こんな事を言えるのも昭和天皇が人間宣言してくれたおかげなのかも知れない・・・・
現在、世界で君主の存在する国は28ヶ国。
しかし”Emperor”の称号を使うのは明仁天皇ただ一人。
文字通りのラスト・エンペラーである。

さて今回は、昭和天皇の御大典の儀でも使われた歴史のある、福井の地酒「梵」の純米大吟醸「日本の翼」(凄い名前・・・)を。
二年熟成の古酒で、マイルドでありながらキレのある飲み口。
この蔵には硬質献上品という触れ込みの「超吟」という酒もあるが、流石にお高いのでこちらは未体験。

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梵 日本の翼 720ml





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