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父親たちの星条旗・・・・・評価額1700円
2006年10月26日 (木) | 編集 |
一枚の有名な写真がある。
太平洋戦争の激戦地、硫黄島の擂鉢山の山頂に、星条旗を突き立てる6人のアメリカ兵を写したものだ。
1945年2月23日にAP通信のジョー・ローゼンタールによって撮影され、ピューリッツァー賞を受賞したこの写真は、おそらく戦争報道の歴史上、もっとも有名な写真となった。
アメリカの勝利を予感させる、この写真に写っていた兵士のうち3名は、その後の戦闘で死亡。
政府は残る3名を帰国させ、英雄として祭り上げ、戦時国債販売キャンペーンに参加させる。
しかし、この写真はある種のやらせだった。
激戦を制し、硫黄島陥落の瞬間に撮影されたように見える写真は、とりあえず擂鉢山だけ落した後、戦闘が小康状態の時に山に登って立てられた物であり、しかも擂鉢山の星条旗は実は2本あった。
一本目は立てられた直後に回収され、彼ら3人は二本目の星条旗を立てたメンバーだった。
つまり、彼ら3人は硫黄島作戦に参加していただけのただの兵士で、特別な武功をたてた訳でもなく、単に写真撮影の為に国旗を立てただけだったのだ。
クリント・イーストウッド監督と脚本のポール・ハギスウィリアム・ブロイレスJrは、図らずも英雄として故国に迎えられた3人の平凡な兵士の葛藤と、硫黄島の戦場を交互に描き、英雄とは何か、個人にとって戦争とは何か という骨太なテーマを真っ向から描く。
なおこの作品は、硫黄島二部作として企画されており、硫黄島攻防戦をアメリカ側からの視点で描いた本作に続いて、日本側からの視点で描かれた「硫黄島からの手紙」がまもなく封切られる。

1945年2月。
小笠原諸島硫黄島に米軍が上陸。
日本軍にとっては本土防衛の拠点であり、アメリカ軍にとっては日本本土攻略の拠点。
両軍の一進一退の攻防が繰り広げられるが、数日後硫黄島からの一枚の写真が、全米を沸かせる。
島の最高峰である擂鉢山に、星条旗を掲げる米兵たちの写真が、新聞の一面を飾ったのだ。
長期化する戦争に財政が逼迫していたアメリカ政府は、写真に写っている兵士を本土に呼び戻し、戦時国債の販促キャンペーンに利用しようとする。
6名の兵士のうち、3人は既に戦死しており、海兵隊のレニー・ギャグノン(ジェシー・ブラッドフォード)とアイラ・ヘイズ(アダム・ビーチ)、海軍衛生兵のジョン・”ドク”・ブラッドリー(ライアン・フィリップス)の三人が呼び戻される。
死の恐怖に怯える戦場から一転、まるでハリウッドスターの様に扱われる3人だったが、あの写真には、世間が知らない秘密があった・・・


凄まじい戦闘シーンに目を奪われる。
砲弾の炸裂音がズシンと腹に響き、機関銃の弾丸は空気を切り裂くように迫ってくる。
「プライベート・ライアン」の有名なオマハビーチのシーンをさらにリアルにしたような、まるで自分が戦場の中に投げ込まれたような感覚を覚える。
間違いなく映画史上に残る、強烈な戦場描写だ。
一転してアメリカ本土。
花火にサーチライト、ド派手な演出の元、硫黄島の英雄達がスポットライトを浴びる。
絶望と死が支配する戦場と、あまりにも華やかで平和な銃後
しかしその平和は、実は戦場の兵士によって辛うじて守られている、言わば「仮の平和」である事を意識している者は、英雄として迎えられた3人の兵士以外にはいない。
そして戦場でこの世界の裏側を這いずり回り、深く傷つけられた彼らは、故国でまた偽の表舞台を歩かせられ、さらに深い心の傷を負うのだ。

映画の作りはちょっと複雑だ。
帰国後の彼らと、戦場の彼らが交互に描かれ、全体としてはドクの息子でこの作品の原作者でもあるジェームス・ブラッドリーの語りで構成される。
ただし、彼が語り部としての役割を与えられるのは、起承転結の「結」に入ってからであり、映画の大半で語り部の役目をするのは父であるドクである。
ドクから息子であるジェームスへ視点が移り、物語を俯瞰することで、60年前に起こった一つの物語に現在の視点、現在に描く意味を与えている。
たぶん多くの人が比較するであろう、また実際本作へも大きな影響を与えていると思われる「プライベート・ライアン」と比べても、本作の現在性は明らかだ。
三人の兵士の中でも、英雄扱いに有頂天になって行くレニーと、逆に罪悪感から自己崩壊を起こして行くアイラの間で、ドクは一番ニュートラルなポジションを与えられ、観客とあの時代との窓口になっている。

しかし、この映画の感情の面での主人公と言えるのは、アイラであろう。
ネイティブアメリカンの出身であるアイラは、初めから葛藤を抱えている。
多くのネイティブアメリカンは、白人社会に自分達を認めさせるために従軍した。
「征服者のために戦う」という自己矛盾に蓋をして。
アイラ自身の背景は、それほど明確に描かれている訳ではないが、元々抱えている矛盾の上に、さらに偽の英雄と言う矛盾が重なり、徐々に内面から壊れてゆく。
イーストウッドは、このキャラクターにかなりの愛情を注ぎ、丁寧に描写する。
それはアイラこそが、現場の兵士と銃後の国家という、同じ目的を持っているように見えながら、実際には現場は国家の目的のための駒にしか過ぎないという現実を体現する存在だからだろう。
いつ死ぬか判らない戦場に送り返される時、アイラが見せるほっとした笑顔が、国家に裏切られた個人を象徴して切ない。
イーストウッドは国家によって作り出された様々な「伝説」を辛らつに批判する。
「米軍は決して兵士を見捨てない」という、映画や小説でもたびたび登場し、象徴的に語られるフレーズも、真実の一面であって全てではないという事実を表現する事を躊躇しない。
そして、見捨てないのは軍や政府ではなく、現場の兵士一人一人であるという、ある意味当たり前の真実を突きつけるのだ。

激しく感情が動かされるとか、涙が出るとかいう映画ではないが、観終わってから心に染み入る様に映画が自分の中に広がってゆき、感情が長く尾を引く。
ただこの作品への最終的な評価は、やはりもう一本の「硫黄島からの手紙」を待ちたいと思う。
勿論この作品だけでもしっかりと完結しているし、テーマも語られている。
しかし、対になる作品があると判って観ると、やはりそういう作りになっているのだ。
日本兵を、殆ど顔の無い単なる「敵」として描いたのも、リアリズムという理由の他に、もう一本が控えているからだろう。
と言う訳で、今回の評価は暫定である。
「硫黄島からの手紙」が待ち遠しい。

それにしても、今現在によくこの作品を作った物だ。
60年前の物語とはいえ、現在の視点をもったこの作品は、現実に今も戦争を遂行しているアメリカにとってあまりにもリアルだ。
案の定、この作品は共和党右派から激しい非難を浴びているらしい。
イラク戦争でも、アメリカ政府はジェシカ・リンチ上等兵の救出作戦をプロパガンダに利用しようとして、逆に批判されるという一幕があった。
結局のところ、本質は何も変わっていないのだ。

なお、過去のイーストウッド作品の例に漏れず、この作品も物語からデコレーションを極力削ぎ落とし、必要以上の説明を避けている。
イーストウッドは観客を甘やかさない。
別の言い方をすれば、観客を信用して映画を作っている。
太平洋戦争のある程度の流れ、硫黄島という場所の意味程度は、観客も当然理解しているという前提で作られた映画なので、自信の無い方は予習しておいた方が良いだろう。
ただ、この点に関しては、字幕の情報量の少なさも残念だ。
台詞の一つ一つに何気なく重要なインフォメーションが含まれているのだが、簡略な字幕でかなりの情報が抜け落ちている。
読みやすさは重要だが、ここはもう少し詰め込んでも良かったのではないだろうか。

イーストウッドの映画を観ると、わびさびの心のを感じて無性に日本酒が飲みたくなる。
それは、彼の映画がある意味でとてもハリウッド的ながら、根底に洋の東西を越えた精神性があるからだろう。
今回は頑なに純米酒だけを造りつづける、埼玉県の神亀から、古酒のブレンド酒である「ひこ孫 時のながれ」をチョイス。
長い歳月で熟成されるには、元の酒に相当のクオリティが必要。
この作品にはそれだけの酒とつりあう価値があると思う。
果たして、「硫黄島からの手紙」の後に、これ以上の酒を選ぶ事が出来るのか。
楽しみである。

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