2006年10月29日 (日) | 編集 |
スタジオジブリ的アニメ風実写映画。
人里はなれた山中に、誰も知らない理想郷があるという物語や伝説は多い。
古くは陶淵明の「桃花源記」の中の桃源郷、近代ではヒルトンの「失われた地平線」のシャングリラなどがその代表だろう。
この映画に登場するトンマッコル(韓国語で「子供の様に純粋な」という意味)も、そんな理想郷の一つ。
現在まで尾を引く現実の戦争と、限りなくファンタジーに近い理想郷伝説を掛け合わせた、極めてユニークな力作である。
朝鮮戦争が激しさを増す1950年。
江原道の山奥に、一機の米軍偵察機が墜落する。
パイロットのスミス(スティーブ・テシュラー)を助けたのは、トンマッコルという村に住む人々。
そこは前世紀にタイムスリップしたような不思議な村で、村人は外界と隔絶した自給自足の生活を営んでいるために、戦争のことなど知らない。
同じ頃、更に二つのグループが、引き寄せられる様にトンマッコルにやって来る。
一つは韓国軍のピョ少尉(シン・ハギュン)と衛生兵のムン・サンサン(ソ・ジェギョン)。
もう一つは、村の少女ヨイル(カン・ヘジョン)に導かれた、人民軍部隊の生き残りでリ中隊長(チョン・ジェヨン)、下士官のヨンヒ(イム・ハリョン)、若い兵士のテッキ(リュ・ドッグァン)の3人だ。
敵味方6人の軍人たちは、最初こそ反目するものの、穏やかな村人たちの中で暮らすうちに、徐々に心の武装を解き、人間に戻ってゆく。
しかし、トンマッコルを敵の対空陣地と勘違いした国連軍は、スミスを救出して一体を爆撃する計画を立てていた・・・
音楽が久石譲という事もあるが、彩度の高い絵具で描いた様な、人工的な画柄で描写されるトンマッコルは、まるでスタジオジブリのアニメーションに登場する異界の村の様に、漫画チックで現実感の無いファンタジーワールドだ。
勿論、これは狙いだろう。
トンマッコルは、現実であって現実には存在しない。
この映画で、とても印象的に描かれているのが、トンマッコルのいたるところで群れている蝶だ。
洋の東西を問わず、蝶はしばしば魂の象徴として描写される。
トンマッコルは、戦火の朝鮮半島で命を落とした数百万の犠牲者の魂が静かに休む、彼岸の地なのだ。
そんな村にやって来た、心に傷を負った6人の兵士たちは、やがて俗世の心を捨て、安らぎを取り戻す。
だが、激しさを増す戦争は、異界であるトンマッコルまで現実世界に引き戻す。
6人の兵士たちは、自らの浄化と引き換えに、図らずも清浄の地を汚してしまったことに、まだ気付かない。
そして外界からの悪意を持った侵入者である、空挺部隊が舞い降りる時、無数の蝶がトンマッコルから飛び去ってゆく。
戦場となるトンマッコルはもはや安息の地ではない。
それ故に、理想郷の巫女の役割を持つ少女ヨイルは死に、トンマッコルは戦争と言う現世の現象の前に、取るに足らない田舎の村として出現せざるをえなくなる。
だが、この村で人間である事を取り戻した6人が、再び軍服の兵士に戻る時、彼らが守るべき物として選んだのは他ならぬトンマッコルだった。
異なった背景を持つ6人の中でも、韓国軍のピョ少尉と人民軍のリ中隊長は、それぞれに自分の責任で沢山の命を奪ってきたと言うトラウマを抱えている。
そんな彼らにとって、死者の魂の休まる場であるトンマッコルを守るのは、ある意味で必然なのだ。
それは、彼らの命を賭したトンマッコルの再浄化に他ならない。
ラスト30分の彼らの戦いは、迫力満点で圧巻の仕上がり。
僅かな兵力で、空を行く爆撃部隊をトンマッコルから引き離し、自分たちに引き付けようとするクライマックスは、まるで地上vs空の「七人の侍」だ。(人数足りないけど)
これが長編デビュー作となる、パク・クァンヒョン監督は、アニメーション的実写とも言うべき、独特の映像センスを存分にみせつける。
韓国からは、また一人注目すべき映画作家が登場した。
力作である。
ただ、凝りに凝った映像が、しばしば映画のテンポを壊してしまっているのは残念。
見事なビジュアルイメージを沢山見せようとして、間延びしてしまっているカットが多々ある。
また敵味方同士の睨み合いなど、前半部分の演出はやや一本調子で、もう少し刈り込めばもっとテンポの良い観易い作品になったと思う。
この辺りは、新人監督の経験の少なさが出てしまったところかも知れない。
全てが終わった後の、意外なラストシーンは、様々に解釈できそうだ。
私は、あれは同じ時間の同じ場所にある、人々の魂が暮らすもう一つのトンマッコルだと思ったのだが、たぶん観た人それぞれの解釈が正解という事で良いのだろう。
この不思議な映画には、不思議なお酒を付け合せよう。
その名も「酔蝶花」という。
福井県の朝日酒造の純米吟醸酒で、なんと中に桜の花と金箔が入っており、花に舞う蝶を表現している。
キワモノと思いきや、お味の方もなかなかの物。
コストパフォーマンスは高いとは言えないが、これはあくまでもあそび心。
贈り物でこんな酒をもらったら、ちょっとビックリするかも知れない。
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酔蝶花
久石譲による渾身の力作
本作へ強い影響を与えていそうだ
人里はなれた山中に、誰も知らない理想郷があるという物語や伝説は多い。
古くは陶淵明の「桃花源記」の中の桃源郷、近代ではヒルトンの「失われた地平線」のシャングリラなどがその代表だろう。
この映画に登場するトンマッコル(韓国語で「子供の様に純粋な」という意味)も、そんな理想郷の一つ。
現在まで尾を引く現実の戦争と、限りなくファンタジーに近い理想郷伝説を掛け合わせた、極めてユニークな力作である。
朝鮮戦争が激しさを増す1950年。
江原道の山奥に、一機の米軍偵察機が墜落する。
パイロットのスミス(スティーブ・テシュラー)を助けたのは、トンマッコルという村に住む人々。
そこは前世紀にタイムスリップしたような不思議な村で、村人は外界と隔絶した自給自足の生活を営んでいるために、戦争のことなど知らない。
同じ頃、更に二つのグループが、引き寄せられる様にトンマッコルにやって来る。
一つは韓国軍のピョ少尉(シン・ハギュン)と衛生兵のムン・サンサン(ソ・ジェギョン)。
もう一つは、村の少女ヨイル(カン・ヘジョン)に導かれた、人民軍部隊の生き残りでリ中隊長(チョン・ジェヨン)、下士官のヨンヒ(イム・ハリョン)、若い兵士のテッキ(リュ・ドッグァン)の3人だ。
敵味方6人の軍人たちは、最初こそ反目するものの、穏やかな村人たちの中で暮らすうちに、徐々に心の武装を解き、人間に戻ってゆく。
しかし、トンマッコルを敵の対空陣地と勘違いした国連軍は、スミスを救出して一体を爆撃する計画を立てていた・・・
音楽が久石譲という事もあるが、彩度の高い絵具で描いた様な、人工的な画柄で描写されるトンマッコルは、まるでスタジオジブリのアニメーションに登場する異界の村の様に、漫画チックで現実感の無いファンタジーワールドだ。
勿論、これは狙いだろう。
トンマッコルは、現実であって現実には存在しない。
この映画で、とても印象的に描かれているのが、トンマッコルのいたるところで群れている蝶だ。
洋の東西を問わず、蝶はしばしば魂の象徴として描写される。
トンマッコルは、戦火の朝鮮半島で命を落とした数百万の犠牲者の魂が静かに休む、彼岸の地なのだ。
そんな村にやって来た、心に傷を負った6人の兵士たちは、やがて俗世の心を捨て、安らぎを取り戻す。
だが、激しさを増す戦争は、異界であるトンマッコルまで現実世界に引き戻す。
6人の兵士たちは、自らの浄化と引き換えに、図らずも清浄の地を汚してしまったことに、まだ気付かない。
そして外界からの悪意を持った侵入者である、空挺部隊が舞い降りる時、無数の蝶がトンマッコルから飛び去ってゆく。
戦場となるトンマッコルはもはや安息の地ではない。
それ故に、理想郷の巫女の役割を持つ少女ヨイルは死に、トンマッコルは戦争と言う現世の現象の前に、取るに足らない田舎の村として出現せざるをえなくなる。
だが、この村で人間である事を取り戻した6人が、再び軍服の兵士に戻る時、彼らが守るべき物として選んだのは他ならぬトンマッコルだった。
異なった背景を持つ6人の中でも、韓国軍のピョ少尉と人民軍のリ中隊長は、それぞれに自分の責任で沢山の命を奪ってきたと言うトラウマを抱えている。
そんな彼らにとって、死者の魂の休まる場であるトンマッコルを守るのは、ある意味で必然なのだ。
それは、彼らの命を賭したトンマッコルの再浄化に他ならない。
ラスト30分の彼らの戦いは、迫力満点で圧巻の仕上がり。
僅かな兵力で、空を行く爆撃部隊をトンマッコルから引き離し、自分たちに引き付けようとするクライマックスは、まるで地上vs空の「七人の侍」だ。(人数足りないけど)
これが長編デビュー作となる、パク・クァンヒョン監督は、アニメーション的実写とも言うべき、独特の映像センスを存分にみせつける。
韓国からは、また一人注目すべき映画作家が登場した。
力作である。
ただ、凝りに凝った映像が、しばしば映画のテンポを壊してしまっているのは残念。
見事なビジュアルイメージを沢山見せようとして、間延びしてしまっているカットが多々ある。
また敵味方同士の睨み合いなど、前半部分の演出はやや一本調子で、もう少し刈り込めばもっとテンポの良い観易い作品になったと思う。
この辺りは、新人監督の経験の少なさが出てしまったところかも知れない。
全てが終わった後の、意外なラストシーンは、様々に解釈できそうだ。
私は、あれは同じ時間の同じ場所にある、人々の魂が暮らすもう一つのトンマッコルだと思ったのだが、たぶん観た人それぞれの解釈が正解という事で良いのだろう。
この不思議な映画には、不思議なお酒を付け合せよう。
その名も「酔蝶花」という。
福井県の朝日酒造の純米吟醸酒で、なんと中に桜の花と金箔が入っており、花に舞う蝶を表現している。
キワモノと思いきや、お味の方もなかなかの物。
コストパフォーマンスは高いとは言えないが、これはあくまでもあそび心。
贈り物でこんな酒をもらったら、ちょっとビックリするかも知れない。

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酔蝶花
久石譲による渾身の力作
本作へ強い影響を与えていそうだ
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