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どろろ・・・・・評価額800円
2007年01月31日 (水) | 編集 |
アア、ヤッチマッタァ・・・・・

実の父の賭けた呪いのため、生れながらに体の四十八ヶ所を魔物に奪われた剣士・百鬼丸の冒険を描いた「どろろ」は、手塚治虫の代表作の一つだ。
原作発表後間もない1969年に、杉井ギザブロー、富野由悠季らによってテレビアニメ化されているが、その後も多くの映画人によって実写映画化が試みられた。
しかし、全身が武器であるサイボーグ剣士・百鬼丸の表現方法、様々な形の魔物たちの実体化など技術的な困難、また見方によっては身体障害者への差別的表現ともとられる内容のためことごとく頓挫、近年では殆んど幻の企画となっていた。
正直に言って、映画化されると聞いた時は驚き、「ああ、やられちまったか」と思った。
私はかなりの原作のファンであり、以前「どろろ」をモチーフにした物語を作り、実現はしなかったが、映像化の企画書を作った事もある。
それだけに今回の映画化はちょっと悔し気はしたが、かなり期待したのだ。
海外でも「LOTR」を始め、以前は幻といわれた原作の映画化が相次いでいるが、今回の実写映画化も、90年代以降の急激な技術的進歩と無関係ではないだろう。
あの手塚の狂気とも言うべきダークファンタジーが、現在のデジタル技術と結びついたら、どんな凄い物ができるだろうか。
期待するなという方が無理だ。
しかし、しかしである・・・・この映画の作り手たちは、ものの見事に「ヤッチマッタ」のだ・・・・

大地の東の果ての国。
天下を我が手に握らんとする武将・醍醐影光(中井貴一)は、四十八匹の魔物に生まれてくる我が子を生贄に捧げる。
魔物たちは、影光の願いと引き換えに、赤子から体の四十八ヶ所を奪い、その子は目も耳も無い虫の様な姿で生まれ、人知れず河に流された。
―――二十年後。
泥棒を生業として生きるどろろ(柴咲コウ)は、両の腕に刀を仕込んだ剣士・百鬼丸(妻夫木聡)と出会う。
魔物退治をして旅するその男は、魔物を切るたびに奪われた体の一部を取り返すのだという。
百鬼丸の左手の刀を値打ち物と見込んだどろろは、百鬼丸に付きまとい、共に旅を始めるのだが・・・


塩田明彦は、映画化にあたり、二つの点で大きく原作を改変している。
一つ目は、物語の舞台を日本ではなく、何処でもない何時でもない異世界とした事で、この舞台設定が本作の成否に大きな影響を与えたのは確実である。
原作では正確な時代と場所の記述は無いものの、その舞台が中世の日本なのは確実で、そもそもなぜ映画が異世界を舞台にしたのかがよく判らない。
映画版の舞台となるのは、まるで日本と中央アジアあたりがミックスされたような世界で、まあやりたい事は和製「LOTR」なのだろう。
しかし、この映画の作り手は、異世界を説得力を持って作り上げる難しさを理解していない。
この映画の世界は、何かの方向性をもってデザインされたというよりは、単に思いついた要素を無秩序にぶちこんだようだ。
侍たちの鎧や着物のデザインなどは普通の時代劇と大して変わらない。
なのに城は無意味に複雑に天空に捩れて聳え立っており、宿場の繁華街では中央アジア風のステージが繰り広げられている。
軍隊の使っている刀は湾曲した日本刀なのに、軍旗に描かれている紋章は、西洋風の直刀に蛇が絡み付いている物である。
無国籍なのは、無秩序とは違う。
本当の無国籍には、様々な文化が交じり合ってゆく過程を透視できるものであるが、この作品の世界にはその様なものは見えない。
「LOTR」の素晴しい世界は、原作者のトールキンが研究者としての数十年間の知識の蓄積を元に、緻密な世界観を活字で描きこみ、それを映画化にあたって、アラン・リーを始めとするコンセプトアーティストが、世界の歴史観から建造物の内部構造までもを考慮して徹底的にデザインすることで生まれた。
残念ながら彼らの仕事に比べると、「どろろ」にはデザインが存在しないと言っても良い。
城は一体何故あの形でなければならないのか、衣装は何故あの衣装なのか。
以前にも何度か書いたと思うが、異世界を舞台としたファンタジー映画は、観客に「その世界に行ってみたい」と思わせたら半分勝ちである。
逆に言えば、説得力があり、尚且つ魅力的な異世界を作るのはそれだけ難しいのだ。
どのような理由で実写版「どろろ」の舞台が異世界に決まったのかは知らないが、異世界を作る事をナメた時点で、この映画はもう半分負けは決まっていたと言っていいだろう。

そしてデザイン不在は、一方の主役とも言うべき魔物たちにも当てはまる。
とにかく魔物たちのデザインがダサい。
キャラクター権の都合で原作のデザインをそのまま使いたくなかったのは理解するが、それに変わるデザインがこれで良いのか。
どう考えても、これは改悪である。
しかも、その描写がまた酷い。
両手を刀にした百鬼丸など、一部によく出来た物もあるが、とてもじゃないけどこの映画のVFXは現在の観客に許容されるレベルではない。
着ぐるみとCGをミックスしているが、質感はまるで異なり、コンポジットも甘い、甘すぎる。
この作品の一番の見せ場であるはずのVFXは、テレビの「仮面ライダー」に負けている。
これ、OK出した最終責任者は一体誰なんだろう。

VFXだけではない。
アクション監督に、香港の大御所チン・シウトンを連れてきたりしているが、殆んど生かされていない。
ワイヤーアクションは確かに香港風だが、カット割りがこれで良い訳がない。
編集を含めたアクションのレベルは80年代の香港B級アクション並。
これがもし、チン・シウトンの意向に沿ったものだったとしたら、はっきり言って手を抜かれてる。

もう一点、原作と映画で大きく異なるのが、タイトルロールのどろろの設定である。
原作のどろろは十歳くらいの男の子の格好をした少女だが、映画のどろろはどうみても小汚い格好をした大人の女である。
映画を観た限りでは、この点も特に必然性のある改変ではない様に見える。
恐らくマーケッティング的な理由なのだろうが、意外な事にこのどろろはマイナスにはなっていない。
年齢の違いはあれど、どろろの性格付け自体は原作を踏襲している事、柴咲コウが自分なりにキャラクターを作ってぶれずに演じきっているので、この映画版どろろは決して悪くない。
同じことは百鬼丸の妻夫木聡中井貴一にも言える。
妻夫木聡は、確かに百鬼丸に見える瞬間が何度もあった。
俳優たちは、キャラクターを掴み、しっかりと演じているのだ。

異世界、魔物、アクションと様々な要素を持つこの作品を、塩田明彦は纏め切れていない。
正直いって、この映画からは原作への愛も感じられないし、どのような作品にしようというビジョンも見えない。
何しろ体の四十八ヶ所を奪われる意味すら表現されておらず、物語がテーマ性を失ってしまっているのだ。
ただ、比較的コンパクトに纏まった原作のプロットと主人公のキャラクターを、下手にいじろうとしなかったのだけは消極的ながら評価出来る。
優れた物語の骨格と、キャラクターは維持されているだけに、何とか物語の流れにのって最後まで観ることは辛うじて出来る。
塩田明彦の作品は、初期の「月光の囁き」「害虫」はなかなか面白かったが、「黄泉がえり」のヒット以来、どうも畑違いの作品ばかり手がけている様に思えてならない。
人間描写がそれなりにしっかりしている事は、本作でも判るのだが。

日本漫画の金字塔「どろろ」の初の実写映画化は、残念ながらかなりトホホな仕上がりだった。
原作のポテンシャルはこんな物ではないだけに、今はただお客さんが早く忘れてくれることを祈るのみである。
将来の再映画化に禍根を残さないように。

今回はその名も「魔界への誘い」という凄い名前の黒麹芋焼酎をチョイス。
お味の方は名前とは全く逆で、意外とマイルドで上品。
とは言ってもクセになる芋臭さはしっかりと持っているのだが。
映画の物足りなさをフォローするには、十分なクオリティを持った酒だ。
それにしても、芋焼酎って魔王だの魔界だの、おどろおどろしい名前の物が多いのは何でなのだろう。

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