2007年08月19日 (日) | 編集 |
意外と言っては失礼ながら、かなりの拾い物である。
曽利文彦監督の前作「ピンポン」は、世評は高かったが、私には原作の忠実なコスプレにしか見えず、あまり面白いとは思えなかった。
今回の「ベクシル 2077日本鎖国」も正直なところ期待していなかったのだが、それでも劇場に足を運んだのは、予告編で垣間見える世界観がなかなか面白そうで、なおかつ軍人のオッサンが叫んでいる「あれは、人ではないというのかぁ!?」という台詞の答えを聞きたかったからだ(笑
西暦2067年、ロボット技術の国際規制に反対した日本は、ハイテク鎖国を敢行する。
直接の入国は勿論、周辺に張り巡らされた電磁シールドによって、偵察機や衛星からも撮影が不可能となり、以来10年間日本の姿を見た者はいない。
2077年、日本のロボット企業大和重鋼の不穏な動きを察知した米軍特殊部隊SWORDは、日本潜入作戦を決意し、女性兵士ベクシルを送り込む事に成功する。
嘗て東京と呼ばれた街でベクシルが見たものは、城壁に囲まれた広大なスラムと、城壁の外に広がる無限の荒野。
そして、荒野を徘徊する巨大な金属の怪獣だった・・・・
なるほど、これはもう一つの「マトリックス」であり、「銀河鉄道999」であり、「日本沈没」である。
ロボット技術で世界の頂点を極めた日本が、その増長を恐れた国連から圧力をかけられて鎖国、その閉ざされた世界で一体何が起こったのかという謎。
観客は、外界からの訪問者であるベクシルの目を通して、驚愕の世界を目の当たりにする。
「世界観の謎」を売り物にした作品は、結局劇中でショボイ世界観しか披露出来ずに、尻すぼみに終わってしまう事が多いが、この作品は観客の期待を裏切らない。
予告編からある程度の予測はしていたものの、この作品はその予測を上回るビジュアルイメージを見せてくれるのだ。
物語そのものは荒唐無稽かつ壮大なホラ話だが、ディテールは細かく描写され、鎖国日本の設定など微妙に現在の北朝鮮を思わせて、ギリギリのリアリティを保っている。
これは曽利監督が元々アニメの人ではないからだろうが、画柄は日本の伝統的アニメーションを受け継ぐものの、演出的志向はどちらかというと実写に近い。
「デューン砂の惑星」のサンドワームを思わせる、巨大な機械生物とのスリリングな追撃戦を初め、アクションシーンは迫力満点。
クライマックスのラスト30分は、邦画アニメというよりはハリウッド映画的だが、あちら物と比べても決して遜色ない仕上がりになっている。
ただし、良く出来ていることは認めつつも、詰めの甘さも感じる。
本作のテーマの部分は、ご丁寧にラストでベクシルがナレーションで丁寧に説明してくれるのだが、正直なところそこで語られるテーマと物語は乖離している。
ぶっちゃけ、凄く面白そうな世界観を先に思いついて、それにストーリーをのせ、後からテーマを無理やりくっ付けましたという印象だ。
実は、キャラクターの感情はある程度自然に描けているし、物語からテーマは自然に匂ってきている。
あえてラストでとって付けた様なナレーションを入れる必要はなかったし、入れるならもう少しあいまいな表現にすべきだったと思う。
物語的には、敵のボスキャラが弱い、つうか狡い。
作品の構造としては、主人公たちが強大な敵に立ち向かい、犠牲を出しながらも希望をつなぐ事で、テーマが浮き彫りになる形なのだが、実際には敵のボスキャラが恐ろしく軽い小悪党なので、こいつを倒す事がそのままテーマに繋がらず、物語のカタルシスはやや薄い。
ボスキャラは、この映画の世界の中においても、あまりにも幼稚かつ漫画チックな悪役すぎて、正直言って浮いていた。
また映像的には面白い世界観を作り出していたが、正直言ってキャラクターデザインには違和感を覚えた。
この作品のキャラクターは、「シュレック3」の時にも述べたロボット工学の「不気味の谷」に見事にはまっている。
この作品そのものが、人間そっくりのアンドロイドにまつわる話なのは皮肉だが、登場人物が全員人工的なマネキンに見えてしまう。
背景はこれでいいとしても、キャラクターに関してはもう少し伝統的なアニメキャラ的で良かったのではないか。
曽利文彦監督がプロデューサーとして手がけた「アップルシード」の方が、まだキャラクターデザインとしては違和感がなかったと思う。
まあCGアニメのリアル系キャラクターの試行錯誤は、壮大な失敗作だった「ファイナル・ファンタジー」の頃から続いている事だが、実写と漫画のせめぎ合いの中で微妙なスィートスポットを探す作業は今後も課題として残るだろう。
他にも、人間が実験台にされたのは良いとして、日本中が更地になっているのはなんで?とか、あんな小人数の実働部隊に佐官が二人もいる米軍ってどうよ?とか、大小様々な突っ込み所はあるが、「ベクシル 2077日本鎖国」は、作り手の明確なイメージを高い技術で映像化することに成功した力作だ。
特に最近の原作物偏重の風潮の中で、オリジナル脚本でこれだけの物を作り上げたのは、大変な困難だったと思う。
昨年の「日本沈没」が描けなかったテーマ性がこちらで表現されている事も含めて、この作品のチャレンジは高く評価したいし、日本アニメの一つの進化発展形として、この路線は注視しておきたい。
今回は、あんまり酒のイメージがわかない作品なのだが、「ロボット」というキーワードからチョイスしよう。
元々この言葉は、チェコの作家のカレル・チャペックが、戯曲「ロボット」で労働を意味するチェコ語のROBOTAから作った造語である。
ロボット工場で起こる機械人間たちの反乱を描いたこの戯曲は、機械文明の発展が人類に何をもたらすのかを問うたロボットSFの元祖であると同時に、本作「ベクシル 2077日本鎖国」の原型すら見ることが出来る。
というわけでロボットの発祥地、チェコから「ピルスナー ウルケル」を。
ちなみにこのビールが、世界のビール市場で圧倒的多数を占める所謂ピルスナービールの元祖。
チェコはロボットの母国であると同時にビールの母国でもあるのだ。
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曽利文彦監督の前作「ピンポン」は、世評は高かったが、私には原作の忠実なコスプレにしか見えず、あまり面白いとは思えなかった。
今回の「ベクシル 2077日本鎖国」も正直なところ期待していなかったのだが、それでも劇場に足を運んだのは、予告編で垣間見える世界観がなかなか面白そうで、なおかつ軍人のオッサンが叫んでいる「あれは、人ではないというのかぁ!?」という台詞の答えを聞きたかったからだ(笑
西暦2067年、ロボット技術の国際規制に反対した日本は、ハイテク鎖国を敢行する。
直接の入国は勿論、周辺に張り巡らされた電磁シールドによって、偵察機や衛星からも撮影が不可能となり、以来10年間日本の姿を見た者はいない。
2077年、日本のロボット企業大和重鋼の不穏な動きを察知した米軍特殊部隊SWORDは、日本潜入作戦を決意し、女性兵士ベクシルを送り込む事に成功する。
嘗て東京と呼ばれた街でベクシルが見たものは、城壁に囲まれた広大なスラムと、城壁の外に広がる無限の荒野。
そして、荒野を徘徊する巨大な金属の怪獣だった・・・・
なるほど、これはもう一つの「マトリックス」であり、「銀河鉄道999」であり、「日本沈没」である。
ロボット技術で世界の頂点を極めた日本が、その増長を恐れた国連から圧力をかけられて鎖国、その閉ざされた世界で一体何が起こったのかという謎。
観客は、外界からの訪問者であるベクシルの目を通して、驚愕の世界を目の当たりにする。
「世界観の謎」を売り物にした作品は、結局劇中でショボイ世界観しか披露出来ずに、尻すぼみに終わってしまう事が多いが、この作品は観客の期待を裏切らない。
予告編からある程度の予測はしていたものの、この作品はその予測を上回るビジュアルイメージを見せてくれるのだ。
物語そのものは荒唐無稽かつ壮大なホラ話だが、ディテールは細かく描写され、鎖国日本の設定など微妙に現在の北朝鮮を思わせて、ギリギリのリアリティを保っている。
これは曽利監督が元々アニメの人ではないからだろうが、画柄は日本の伝統的アニメーションを受け継ぐものの、演出的志向はどちらかというと実写に近い。
「デューン砂の惑星」のサンドワームを思わせる、巨大な機械生物とのスリリングな追撃戦を初め、アクションシーンは迫力満点。
クライマックスのラスト30分は、邦画アニメというよりはハリウッド映画的だが、あちら物と比べても決して遜色ない仕上がりになっている。
ただし、良く出来ていることは認めつつも、詰めの甘さも感じる。
本作のテーマの部分は、ご丁寧にラストでベクシルがナレーションで丁寧に説明してくれるのだが、正直なところそこで語られるテーマと物語は乖離している。
ぶっちゃけ、凄く面白そうな世界観を先に思いついて、それにストーリーをのせ、後からテーマを無理やりくっ付けましたという印象だ。
実は、キャラクターの感情はある程度自然に描けているし、物語からテーマは自然に匂ってきている。
あえてラストでとって付けた様なナレーションを入れる必要はなかったし、入れるならもう少しあいまいな表現にすべきだったと思う。
物語的には、敵のボスキャラが弱い、つうか狡い。
作品の構造としては、主人公たちが強大な敵に立ち向かい、犠牲を出しながらも希望をつなぐ事で、テーマが浮き彫りになる形なのだが、実際には敵のボスキャラが恐ろしく軽い小悪党なので、こいつを倒す事がそのままテーマに繋がらず、物語のカタルシスはやや薄い。
ボスキャラは、この映画の世界の中においても、あまりにも幼稚かつ漫画チックな悪役すぎて、正直言って浮いていた。
また映像的には面白い世界観を作り出していたが、正直言ってキャラクターデザインには違和感を覚えた。
この作品のキャラクターは、「シュレック3」の時にも述べたロボット工学の「不気味の谷」に見事にはまっている。
この作品そのものが、人間そっくりのアンドロイドにまつわる話なのは皮肉だが、登場人物が全員人工的なマネキンに見えてしまう。
背景はこれでいいとしても、キャラクターに関してはもう少し伝統的なアニメキャラ的で良かったのではないか。
曽利文彦監督がプロデューサーとして手がけた「アップルシード」の方が、まだキャラクターデザインとしては違和感がなかったと思う。
まあCGアニメのリアル系キャラクターの試行錯誤は、壮大な失敗作だった「ファイナル・ファンタジー」の頃から続いている事だが、実写と漫画のせめぎ合いの中で微妙なスィートスポットを探す作業は今後も課題として残るだろう。
他にも、人間が実験台にされたのは良いとして、日本中が更地になっているのはなんで?とか、あんな小人数の実働部隊に佐官が二人もいる米軍ってどうよ?とか、大小様々な突っ込み所はあるが、「ベクシル 2077日本鎖国」は、作り手の明確なイメージを高い技術で映像化することに成功した力作だ。
特に最近の原作物偏重の風潮の中で、オリジナル脚本でこれだけの物を作り上げたのは、大変な困難だったと思う。
昨年の「日本沈没」が描けなかったテーマ性がこちらで表現されている事も含めて、この作品のチャレンジは高く評価したいし、日本アニメの一つの進化発展形として、この路線は注視しておきたい。
今回は、あんまり酒のイメージがわかない作品なのだが、「ロボット」というキーワードからチョイスしよう。
元々この言葉は、チェコの作家のカレル・チャペックが、戯曲「ロボット」で労働を意味するチェコ語のROBOTAから作った造語である。
ロボット工場で起こる機械人間たちの反乱を描いたこの戯曲は、機械文明の発展が人類に何をもたらすのかを問うたロボットSFの元祖であると同時に、本作「ベクシル 2077日本鎖国」の原型すら見ることが出来る。
というわけでロボットの発祥地、チェコから「ピルスナー ウルケル」を。
ちなみにこのビールが、世界のビール市場で圧倒的多数を占める所謂ピルスナービールの元祖。
チェコはロボットの母国であると同時にビールの母国でもあるのだ。

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