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シッコ・・・・・評価額1800円
2007年08月31日 (金) | 編集 |
よくぞ言ってくれた。
アメリカの電波少年、マイケル・ムーアの最新作「シッコ」は、「アメリカの医療保険制度の問題」を取り上げた意欲作。
これには、政治的な立場を超えて、喝采を叫んだ観客も多いんじゃないだろうか。
私はアメリカにずいぶんと長く暮らしたけれど、アメリカの医療保険制度は本当にデタラメなのだ。
幸い私は医療保険に入れていたし、在米の間深刻な事故や病に見舞われることも無かったので、直接的な被害には合っていないけれど、私の知人には2万ドルを超える怪我の治療費を請求された人や、医療保険に入っていながら書類の不備を理由に支払いを拒否された人もいる。
この映画に描かれている様に、バカ高い割には受診できる病院が制限されていたりするし、歯科保険はカバーされず、医療保険とは別に加入しなければならなかったりする。
私は渡米して直ぐに虫歯を患って、ちょっと歯科医に行ったら700ドルを請求されたので、以来虫歯になっても我慢して、歯科医には日本に帰った時に掛かる様にしていたくらいだ。
世界一の超大国で、何でこんなに貧相なのかと常々不思議に思っていたのが、アメリカの医療保険制度だった。

例によっていつものごとく、マイケル・ムーアは「医療保険」をモチーフにして、集めに集めた映像を巧みにコラージュして、問題点を浮かび上がらせる。
ただし今回は、「ボーリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」とは作品の構造が大きく異なる。
前作までは基本的に「人民vs権力」というコンセプトが明確で、社会問題に晒される市井の人々の悲しみに、全米ライフル協会やブッシュ政権、あるいは石油企業と言った強者としての権力を対比する事で、それぞれのテーマを訴えていた。
しかし、今回はそのコンセプトを可能にしていた、ムーアの突撃取材が殆ど見られない。
おそらく彼のスタイルが知れ渡ったために、取材相手の保険会社や製薬会社CEOに防衛線を張られたのだと思うが、彼のアポなし取材にこの世界の権力者がどう答えるのかは見てみたかったシーンだ。
そこで今回ムーアがとった手法は、徹底的に医療を受ける患者の立場に拘った取材をし、歪んだアメリカの医療保険制度のカウンターとして、国民皆保険制度を持つ外国の医療保険制度と比較することだ。
ムーアの大好きなカナダの他にも、イギリス、イラク戦争でアメリカを怒らせたフランス、そしてアメリカの仮想敵国キューバと盛りだくさんだ。
医療が国民の権利として当然のように無償で受けられる国々と、営利企業に支配されて多くの人々が医者に掛かることすら出来ないアメリカが実にわかりやすく対比され、これを観たら誰だってアメリカの医療保険制度に疑問を持つように出来ている。
9・11の現場で長く救出活動にあたったため、体を壊した英雄たちがアメリカでまともな医療を受けられず、言わば敵国であるキューバで初めて本物の英雄としての扱いを受ける下りは、おそらく取材を受けたキューバ側に政治的な意図があったとしても、感慨を覚えざるを得ない。

もちろん、あらゆる要素がムーアの主張を肯定するために構成されたこの作品が、果たして「ドキュメンタリー」なのかという批判も出来るだろう。
例えばフランスの医療保険制度や国民の暮らしぶりを憧れの眼差しで賞賛して、殆ど理想郷の様に描く反面、理想と引替えにフランス社会が抱える様々な問題は全く描写しない。
キューバやイギリスにしても同じ事で、そういう意味ではこの作品に限らず、ムーアの作品は常に一方的で、必ずしも公正な目で作られた作品とは言えず、やはりプロパガンダという言い方が一番しっくりくる。
ただ、言うまでも無く、これはアメリカの医療保険制度の問題をテーマとした作品であって、集められた映像は全てそれを描くために存在する。
ドキュメンタリー映画とは単なる映像の記録ではなく、映画的手段を使って記録映像にテーマを持たせた物という、ヴェルトフ以来の近代ドキュメンタリーの定義に鑑みれば、ムーアのスタイルはドキュメンタリーの究極の進化形と言えなくも無いだろう。
ムーアという人は編集の天才で、膨大な素材をコラージュして形を整え、一本の作品に仕立て上げるセンスとテクニックは相変わらず見事なものがあり、医療保険制度の問題というテーマを、記録映像を使って明確に表現するという点において、この作品は完璧である。

それにしても、この映画に描かれていることは全く他人事ではない。
日本には一応国民皆保険があるが、患者負担の割合は年々増え続けているし、国民健康保険料として徴収される金額は、ぶっちゃけアメリカの民間医療保険より高い
まあ後から難癖をつけられて保険料の支払いを拒否されないだけでもマシではあるが、国民年金の問題あたりまで考えると、この国もかなりヤバイところまで来ていると思わされる。
正直、「医療費?タダよ」というフランス人やカナダ人の事を羨ましいと思ったのは、別にアメリカ人だけではないと思う。
一度利権と腐敗のスパイラルに陥ると、どんな高潔な制度でも、落ちるところまで落ちてしまう事はしっかりと認識しておきたい。
アメリカとフランスの違いを問われた出演者が、「政府が国民を恐れるのか、国民が政府を恐れるのかの違いだ」と語っていたのが印象的だった。
果たして、日本はどちらだろうか。

今回は、ムーア曰く「世界で最も医療制度が整った国」キューバから「ハバナクラブ ラム」の7年ものをチョイス。
サトウキビの糖蜜を原料とした伝統的なキューバラムで、適度に熟成されたテイストはマイルドでストレートでも美味しい。
こんな強い酒を日常的に飲んでても世界有数の長寿国なんだから、確かに医療制度は整っていそうだ。

ちなみに、私はここしばらくアメリカに来ていたのだが、もちろん成田でフルカバーの保険を掛けてきた(笑

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