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椿三十郎・・・・・評価額1350円
2007年12月05日 (水) | 編集 |
観る前から、面白さの最低保障が付いている様な一本だ。
何しろオリジナルは黒澤明の代表作の一つで、既に娯楽時代劇の傑作としての評価が世界的に確立している。
しかも、リメイクにあたっての改変はせずに、菊島隆三、小国英雄、黒澤明による脚本をそのまま使うというのだから、つまらなく作るほうが難しいだろう。
「映画の出来の八割は脚本で決まる」と言ったのはその黒澤だったが、はたして平成の森田芳光版「椿三十郎」はオリジナルの八割からどこまで上に迫れたのだろうか。

藩の上役の汚職を訴えるために、井坂伊織(松山ケンイチ)ら九人の若侍たちが神社に集まっていた。
井坂の伯父の城代家老(藤田まこと)に訴えたものの、相手にしてもらえず、大目付の菊井(西岡徳馬)と話をしたところ、詳しく話を聞きたいから仲間を集めろ言われたという。
そこへ突然、襖の奥で話を盗み聞きしていた小汚い浪人・三十郎(織田裕二)が現れて、計画に異議を挟みこんだ。
彼によれば、伊織たちが頼っている大目付の菊井がむしろ怪しいという。
最初はおどろいて信じなかった若侍たちだが、そこへ菊井の刺客が大挙して押し寄せてきた。
浪人は若侍たちを床下に隠すと、一人大軍の前に躍り出るのだったが、刺客を率いていた室戸半兵衛(豊川悦司)は、一目でその男が只者でない事を見抜いていた・・・


オリジナルがあまりにも有名かつ隙の無い出来栄えなので、リメイク版を作るというのは、恐ろしくプレッシャーのかかる作業だったと思う。
同じ脚本を使う以上、どう作ろうがオリジナルと比較されるし、それを超えると言うことは殆ど不可能に近い。
結果的に森田芳光がどうしたかというと、可能な限り黒澤版の面白さをそのまま再現するという消極的な手法を選んだ。
印象的なカットは殆ど画柄を借りてきているし、音楽の使い方も大体同じ。
個人的には、こういうスタンスでのリメイクというのはあまり好きではない。
ただ、例えばガス・ヴァン・サント版の「サイコ」の様に、旧作のカーボンコピーを作ることに作り手が夢中になっているのとは少し違う。
「用心棒」と「椿三十郎」の三十郎シリーズで、黒澤と三船敏郎が作り出したキャラクターはあまりにも強烈過ぎて、どちらかというとアメコミヒーローのようなイメージのお約束が出来てしまっている。
森田芳光はオリジナルを綿密に分析し、結局この脚本を一番面白く見せる演出は黒澤版がベストであり、また観客も特に三十郎のキャラクターに関しては下手なオリジナリティを求めていないと判断して、あえてオリジナリティを捨てているように思える。
もっとも黒澤版はモノクロ、リメイク版はカラーであるように、画一つとっても全く同じには作りたくても作れない。
森田は黒澤版の印象を再現しつつ、実際は結構アレンジを効かせている。
このリメイク版の上映時間は119分もあり、オリジナルよりも20分以上伸びている。
同じように見えても、細部は結構違うのだ。

黒澤版を踏襲すると言うスタンスは演技陣に関しても同じで、三十郎を演じる織田裕二は見事なまでの三船三十郎のコスプレだ。
彼は脚本上の文章で書かれた椿三十郎というよりは、明らかに三船敏郎によって演じられた三十郎を忠実に再現する事を目指している様に思えるし、それは室戸半兵衛を演じた豊川悦司も同じだ。

同じ脚本を使って、演出も演技もオリジナルを手本にして同じ印象を目指す。
その方向性自体はこの作品の場合、これもアリだったと思う。
ただ、やはりコピーはコピーであり、同じではあり得ない。
特に役者は上手いコスプレではあるが、印象はやはり大きく違う。
織田裕二も豊川悦司も、三船敏郎や仲代達矢ではないのである。
劇中で城代の奥方が三十郎を評して「ギラギラした抜き身の刀の様」と言うシーンがあるが、織田裕二の三十郎は破天荒ではあるが、それほどギラギラしては見えない。
同様に豊川悦司にも仲代達矢の様な、触れば切れそうな鋭さは見出せない。
これは別に織田や豊川が悪いのではなくて、もはやああいう俳優は存在しないのだ。

時代が変われば人間も変わる。
演出は技術で同じ印象に出来ても、人間の違いだけはどうしようもない。
この映画が惜しいのはこのあたりの追求が中途半端な事だ。
優れたシェフは、食材の産地や質が変われば、同じ料理を作るのにも微妙に調理法を変えるだろう。
それと同じように、俳優の資質が違うなら、彼らをより生かす演出を追及して欲しかった。
それが不可能でないのは、この映画のラストで森田芳光自身が証明して見せている。

あまりにも有名なラストの三十郎と半兵衛の決闘シーンを、どう再現するのだろうというのが本作で一番の興味のあるポイントであったのだが、これはさすがに黒澤のコピーにはなっておらず、森田芳光が作家魂を見せた。
オリジナルは映画史上最初のスプラッター(笑)とも言われる衝撃的なシーンだったが、リメイク版は三十郎の「あいつは俺にそっくりだ!」という決闘後の台詞に意味を持たせた凝った立ち合いになっており、なかなかのアイディアだったと思う。
このシーンの演出は、おそらく三船、仲代よりも織田、豊川のコンビネーションの方がしっくり来る。
どうせなら、この部分の演出スタンスを全体に広げて、若い俳優の持つ現代性を生かす演出をもっと追及して欲しかったところだ。
松山ケンイチら若侍も、絶妙なコミックリリーフである捕虜の木村を演じた佐々木蔵之助も、俳優たちはとても魅力的だ。
また若い俳優たちの中にあって、城代夫婦を演じた中村玉緒と藤田まことが、出番は少ないながらも昭和の雰囲気を今の時代に感じさせ、強い印象を残す。

森田芳光版の「椿三十郎」は、どの道黒澤のコピーにすぎまいという意地悪な観方をしても、それなりに幸福な時間を過ごせてしまう。
それだけベースとなっている作品が凄いという事なのだが、オリジナルはモノクロ作品なので、現代ではテレビ放送される機会も少ない。
故に、この傑作脚本を二十一世紀に再現するのは意味のある事なのかもしれないし、旧作を知らない人たちは十分時代劇の醍醐味を楽しめると思う。
ただ、オリジナルを知っている者としては、イメージを壊しても良いから、森田芳光ならではという新しい三十郎を見せて欲しかったのが正直な所だ。
このところ、映画にドラマにアニメと黒澤作品はリメイク続きだが、黒澤にまで手を出さなければならないほど企画力が無いのかと思うと、素直には喜べない。
桑畑の方の三十郎もそのうちリメイクされるのだろうか。

今回は椿にちなんで、新潟は雪椿酒造の「越之雪椿純米酒」をチョイス。
切れ味スッキリな典型的な越後のお酒だが、純米種らしく芳醇な華やかさもしっかりとある。
映画がわりとまったりしたコミカルな作品なので、鑑賞後は半兵衛の剣のようにシャープなこのお酒があうだろう。

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