2008年02月23日 (土) | 編集 |
「人のセックスを笑うな」って・・・・。(笑
何とも人を喰ったタイトルだが、ある意味で日本映画のスタンダードとも言える「芝居を楽しめる」一本だった。
淡々とした流れは好き嫌いが分かれるだろうが、私としてはかなり好みの一本だ。
地方の美大に通うみるめ君(松山ケンイチ)は、ある時新任のリトグラフ講師のゆり(永作博美)にモデルを頼まれ、彼女のアトリエを訪れる。
そこで言葉巧みに服を脱がされて、みるめ君は20歳年上のゆりにすっかり夢中になってしまう。
しかしある日ゆりに夫がいることをあっさり告げられ、茫然自失。
奔放な年上の女性に振り回されるみるめ君に、同級生のえんちゃん(蒼井優)は複雑な感情を覚えるのだが・・・
久しぶりに、日本映画らしい長まわし演出を観た気がする。
どのぐらいの長いかと言うと、途中でトイレに行って戻ってきても、まだ画面では同じカットが続いているくらい。
キャラクターのアップは数えるほどしかなく、説明的な描写は極端に少ない。
80年代ごろは、メジャー系でもこの手の邦画が多く制作されていて、長まわしこそがトレンディだった事もあったが、最近では単館系を除けばあまり見られなくなったスタイルだ。
長まわし演出は、私小説的な物語を映像に置き換えるのに向いているため、映画の描写する対象が個人の内面に傾倒していった時代にピタリとあったのだろうが、反面カット割という映画の最大の武器を半ば放棄してしまうので、演出力の無い作家がやると目も当てられない結果となる。
一時期の、邦画=ダラダラしていてつまらない、という固定観念は多分に長まわし演出の流行が作り出した側面があるのは否めない。
では、「人のセックスを笑うな」の場合はどうか。
物語的には、人妻講師ゆりちゃんの気まぐれな行動に翻弄されるみるめ君をフィーチャーした物語で、他の登場人物も基本的には彼に絡んでくる人ばかり。
演出的にはロングショットを多用した長まわしというのが一番の特徴だと言え、メタファーを用いる心理描写なども極力避けられている。
登場人物の心情は、あくまでも彼らの行動とリアクションを通して観客の脳内で結実するような構造となっている。
その結果、映画は遠くからみるめ君の奇妙な日常を覗き見するかの様な、不思議な倒錯感のあるユニークな作品となっている。
当たり前だが、長まわし演出の作品において、もっとも重要なのは芝居である。
どんなに美しい構図を決めた所で、それだけで二分、三分という尺は持たない。
切り取られたフレームの中で、登場人物がどれだけ魅力的で説得力のある芝居をするかが決定的な要素となる。
映画監督の現場での第一義的な仕事は俳優の演技指導だが、長まわしの作品ではこの原点が何にも増して重要であり、故に演出力の無い作家がやると酷い結果を招くのだ。
長まわしの演出家の元で役者が育つといわれるのは、高い演出力によって、高度な芝居を引き出されるためである。
その意味で、本作の井口奈己監督はなかなか見事な仕事をしていると思う。
ほとんどアップらしいアップも無いのに、俳優たちは実に魅力的で、彼らの心の機微が絶妙に伝わってくる。
なかでも、ゆりちゃん役の永作博美が抜群に良い。
今までもテレビドラマや映画で印象的な芝居を見せてくれた人だが、これは代表作の一つになるのではないだろうか。
奔放で掴み所が無く、みるめ君を誘惑する仕草なんて、実にエロい。
「ラスト、コーション」と違って、直接的な描写は全く無いのに、まるで他人の秘め事を覗いてしまった様な、妙にリアルな感覚がある。
ゆりちゃんは映画の設定では39歳だが、永作博美の実年齢は昭和45年生まれの37歳。
う~む、見えない。
がんばれ、昭和40年代生まれ。
どちらかと言うと攻めのゆりちゃんに対する受けのみるめ君を演じる松山ケンイチも、いかにも今時の美大にいそうでリアル。
作品全体のベースとなるキャラクターをぶれずに演じた。
彼ら二人の関係を、複雑な心境で見守るえんちゃん役の蒼井優は相変わらず完璧だ。
全体に、本作のキャラクター造形は個性的ながら、自分の身の回りにいても全く違和感が無いくらいに説得力がある。
ゆりちゃんとえんちゃんの、「みるめ君のこと、触りたくないの~?」「え~、触りたいけどぉ・・・」みたいなやり取りは、二人の役者の呼吸が絶妙で、これは演技も見事だけど、男性の監督ではなかなか演出できない部分だろう。
女性二人のキャラクターが強くて、みるめ君が受けの役割なのは、もしかしたら女性監督ならではの作りなのかもしれない。
「人のセックスを笑うな」は、なるほどタイトル通りに他人の恋路を覗き見て、クスクスと笑う様な作品だ。
見方によっては結構悪趣味な物語かもしれないが、そこはある種の格調を感じさせる丁寧な演出とハイレベルな演技で、上手くユーモアとして昇華している。
観終わって特に心に残る様な強いテーマ性も無いし、意地悪な観方をすれば、だから何?と言えなくも無いのだが、これはこれでキャラクターたちへの共感を込めた、愛すべき佳作であると思う。
楽しい造形感覚と生活感を上手く織り交ぜた木村威夫の美術や、本業は音響畑ながら空気感のある映像を写し撮った鈴木昭彦のカメラも印象的だ。
今回は、舞台となる桐生に近い群馬の地酒、「赤城山 大吟醸」をチョイス。
端麗辛口で、大吟醸らしいフルーティな香りも楽しめる、洗練された上毛美人の様な酒。
私はみるめ君よりは温水洋一の山田先生に近いけど、ゆりちゃんみたいなエロい人妻と、こんな酒を飲んでみたいものである(笑
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何とも人を喰ったタイトルだが、ある意味で日本映画のスタンダードとも言える「芝居を楽しめる」一本だった。
淡々とした流れは好き嫌いが分かれるだろうが、私としてはかなり好みの一本だ。
地方の美大に通うみるめ君(松山ケンイチ)は、ある時新任のリトグラフ講師のゆり(永作博美)にモデルを頼まれ、彼女のアトリエを訪れる。
そこで言葉巧みに服を脱がされて、みるめ君は20歳年上のゆりにすっかり夢中になってしまう。
しかしある日ゆりに夫がいることをあっさり告げられ、茫然自失。
奔放な年上の女性に振り回されるみるめ君に、同級生のえんちゃん(蒼井優)は複雑な感情を覚えるのだが・・・
久しぶりに、日本映画らしい長まわし演出を観た気がする。
どのぐらいの長いかと言うと、途中でトイレに行って戻ってきても、まだ画面では同じカットが続いているくらい。
キャラクターのアップは数えるほどしかなく、説明的な描写は極端に少ない。
80年代ごろは、メジャー系でもこの手の邦画が多く制作されていて、長まわしこそがトレンディだった事もあったが、最近では単館系を除けばあまり見られなくなったスタイルだ。
長まわし演出は、私小説的な物語を映像に置き換えるのに向いているため、映画の描写する対象が個人の内面に傾倒していった時代にピタリとあったのだろうが、反面カット割という映画の最大の武器を半ば放棄してしまうので、演出力の無い作家がやると目も当てられない結果となる。
一時期の、邦画=ダラダラしていてつまらない、という固定観念は多分に長まわし演出の流行が作り出した側面があるのは否めない。
では、「人のセックスを笑うな」の場合はどうか。
物語的には、人妻講師ゆりちゃんの気まぐれな行動に翻弄されるみるめ君をフィーチャーした物語で、他の登場人物も基本的には彼に絡んでくる人ばかり。
演出的にはロングショットを多用した長まわしというのが一番の特徴だと言え、メタファーを用いる心理描写なども極力避けられている。
登場人物の心情は、あくまでも彼らの行動とリアクションを通して観客の脳内で結実するような構造となっている。
その結果、映画は遠くからみるめ君の奇妙な日常を覗き見するかの様な、不思議な倒錯感のあるユニークな作品となっている。
当たり前だが、長まわし演出の作品において、もっとも重要なのは芝居である。
どんなに美しい構図を決めた所で、それだけで二分、三分という尺は持たない。
切り取られたフレームの中で、登場人物がどれだけ魅力的で説得力のある芝居をするかが決定的な要素となる。
映画監督の現場での第一義的な仕事は俳優の演技指導だが、長まわしの作品ではこの原点が何にも増して重要であり、故に演出力の無い作家がやると酷い結果を招くのだ。
長まわしの演出家の元で役者が育つといわれるのは、高い演出力によって、高度な芝居を引き出されるためである。
その意味で、本作の井口奈己監督はなかなか見事な仕事をしていると思う。
ほとんどアップらしいアップも無いのに、俳優たちは実に魅力的で、彼らの心の機微が絶妙に伝わってくる。
なかでも、ゆりちゃん役の永作博美が抜群に良い。
今までもテレビドラマや映画で印象的な芝居を見せてくれた人だが、これは代表作の一つになるのではないだろうか。
奔放で掴み所が無く、みるめ君を誘惑する仕草なんて、実にエロい。
「ラスト、コーション」と違って、直接的な描写は全く無いのに、まるで他人の秘め事を覗いてしまった様な、妙にリアルな感覚がある。
ゆりちゃんは映画の設定では39歳だが、永作博美の実年齢は昭和45年生まれの37歳。
う~む、見えない。
がんばれ、昭和40年代生まれ。
どちらかと言うと攻めのゆりちゃんに対する受けのみるめ君を演じる松山ケンイチも、いかにも今時の美大にいそうでリアル。
作品全体のベースとなるキャラクターをぶれずに演じた。
彼ら二人の関係を、複雑な心境で見守るえんちゃん役の蒼井優は相変わらず完璧だ。
全体に、本作のキャラクター造形は個性的ながら、自分の身の回りにいても全く違和感が無いくらいに説得力がある。
ゆりちゃんとえんちゃんの、「みるめ君のこと、触りたくないの~?」「え~、触りたいけどぉ・・・」みたいなやり取りは、二人の役者の呼吸が絶妙で、これは演技も見事だけど、男性の監督ではなかなか演出できない部分だろう。
女性二人のキャラクターが強くて、みるめ君が受けの役割なのは、もしかしたら女性監督ならではの作りなのかもしれない。
「人のセックスを笑うな」は、なるほどタイトル通りに他人の恋路を覗き見て、クスクスと笑う様な作品だ。
見方によっては結構悪趣味な物語かもしれないが、そこはある種の格調を感じさせる丁寧な演出とハイレベルな演技で、上手くユーモアとして昇華している。
観終わって特に心に残る様な強いテーマ性も無いし、意地悪な観方をすれば、だから何?と言えなくも無いのだが、これはこれでキャラクターたちへの共感を込めた、愛すべき佳作であると思う。
楽しい造形感覚と生活感を上手く織り交ぜた木村威夫の美術や、本業は音響畑ながら空気感のある映像を写し撮った鈴木昭彦のカメラも印象的だ。
今回は、舞台となる桐生に近い群馬の地酒、「赤城山 大吟醸」をチョイス。
端麗辛口で、大吟醸らしいフルーティな香りも楽しめる、洗練された上毛美人の様な酒。
私はみるめ君よりは温水洋一の山田先生に近いけど、ゆりちゃんみたいなエロい人妻と、こんな酒を飲んでみたいものである(笑

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