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母べえ・・・・・評価額1550円
2008年02月29日 (金) | 編集 |
山田洋次は、今の日本映画界で巨匠と言う称号の似合う、数少ない映画監督の一人だと思う。
その事を改めて実感させてくれた、藤沢周平原作による時代劇三部作に続いて、山田監督が挑んだのは、昭和初期のある家族を描いた「母べえ」だ。
これは黒澤明監督作品のスクリプターとして知られる、野上照代の自叙伝「父へのレクイエム」の映画化となる。

昭和15年。
両親と二人の娘、初子と照美の野上家は、それぞれに「父べえ」「母べえ」「初べえ」「照べえ」と呼び合う仲睦まじい家。
決して裕福ではなかったが、ささやかな幸せを感じて暮らしていた。
ところが文学者である父・滋が突然治安維持法違反で逮捕されてしまう。
その日から、母として、妻として、家族を守るための、母べえの長い長い奮闘が始まる・・・


一見すると時代劇三部作とは真逆のベクトルの作品に見えるが、テーマ性の部分では良く似ている。
あえて比較するなら、「たそがれ清兵衛」「武士の一文」を足して二で割って、時代を江戸から昭和へ、主人公を男性から女性へと移した様な作品だ。
ただ、時代劇三部作に無くて「母べえ」にあるもの、それは強烈なまでの時代への怒りだ。
「たそがれ清兵衛」でも、幕末の激動がささやかに生きる主人公たちを飲み込もうとしていたが、それはどちらかと言うと不可避な時代の流れとして描かれ、侍という消えゆく存在へのレクイエムとして詩的に描かれていた。
だが今回、山田洋次の怒りは、人間の負の部分が噴出し、市井の人々のほんの小さな幸せすら許さない、禍々しい力としての「時代」に明確に向けられている様に見える。

日中戦争が泥沼化し、太平洋戦争開戦が迫る時代。
稀代の悪法として名高い治安維持法で検挙される父・滋は、いわゆる「良心の囚人」だ。
彼は一人の物書きとして、戦争の時代に平和を願う文章を書いただけで獄に繋がれてしまう。
彼は過激派でもなく、家族を想い平穏な幸せを望む平凡な男だが、権力に転向を強要されても、最後の一線だけは譲らない。
父べえの頑なな姿勢は、一見するとエゴにも見えなくも無い。
自由になりたければ、家族の元に返りたければ、権力の提示する条件を飲めば良い。
しかしそれを飲む事は、自らが守るべき家族が暮らす日本という国を、滅亡へと追い込んでいる時代の流れを肯定することになる。
父べえにとっては、目先の幸せを享受することが、家族を守る事にはならなかったのだろう。
一文士が抵抗しても、時代の流れは変えられないかも知れないが、少なくとも彼の愛する家族には、得体の知れない巨大な力に流されない自分を見せることで、大切な何かを伝える事が出来たはずだ。
もしそうでなければ、この映画の原作は書かれていなかっただろう。

父べえを釈放させるために奔走する母べえは、政治的にはノンポリに見える。
夫の様に自分から何か意見を言ったりする訳ではないし、勤め始めた小学校の代用教員としても特に政治的な姿勢を見せる事はない。
彼女はただ獄中の夫を想い、子供たちの日常を想い、家族を支えてくれる暖かい人々を想い、ささやかな日常を時代と言う激流から必死につなぎ止めようとしているだけだ。
ただ、やり方こそ違えど、父べえと母べえの求めた物は、良心にもとづいて、幸せに、人間らしく生きたいという事であって、その点で二人は同志でもあるのだ。

母べえの、家族皆で幸せに暮らしたいという必死の願いはしかし、父べえの獄死という悲しい結末を迎えるのだが、時代は彼女から大切な者たちを更に奪ってゆく。
父不在の一家を支えた二人の若者、滋の教え子である「山ちゃん」は出征しする途中で船が沈められ、父の妹で野上家の子供たちにとっては優しい相談役だった久子叔母さんは原爆によって、共に若い命を奪われる。
家族が普通に暮らすことすら許されず、何の罪も無い者達が未来を奪われる時代に、家族を守って気丈に生きた母べえの姿は、不幸が塊となって襲ってくる終盤には、ある意味で理想化されているように見える。
だが、それゆえに・・・・・この物語の最後の最後に彼女が吐き出す本音は鮮烈で悲しい。

相変わらず俳優たちは見事に生かされているが、やはりタイトルロールの吉永小百合が良い。
彼女は多分世界一若く見える62歳だろう。
実年齢では父べえ役の坂東三津五郎よりも10歳年上だし、実際には親子ほど歳の離れた浅野忠信演じる山ちゃんに密かに想われてしまうという設定でも、見た目の違和感を感じさせない。
「武士の一文」で鮮烈なデビューを飾った壇れいが美しい久子叔母さん、自由人のおじさんを笑福亭鶴瓶が演じ、ともに強い印象を残す。
野上家の二人の娘、初べえと照べえを演じるのは、志田未来佐藤未来
子供たちのユーモアが、この悲しい映画にまろやかなふくらみを与えている。
オープンセットで作られた下町の街並みや民家の美術も精巧で、この時代の生活感が伝わってくる。
近年の日本映画では、現代劇と時代劇の狭間となる、この時代の市井の人々の生活をリアルに描いた作品は少ない。
その意味でも希少な一本である。

今回は東京の地酒、澤乃井の「大吟醸 梵」を。
山田錦を精米歩合35%まで磨き上げて造られた匠の酒。
辛口で吟醸酒らしい果実香も楽しめ、とても飲みやすい。
巨匠の力作の後には、やはりそれなりに相応しい酒を飲みたい。

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