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ミスト・・・・・評価額1800円
2008年05月14日 (水) | 編集 |
打率10割!
稀代のベストセラー作家、スティーブン・キングの小説は極めて映像的で人気があるにも関わらず、実際の映画化が非常に難しい事でも知られている。
今まで数多の映画作家たちがキングの原作にトライし、幾つかは名作となったが、それよりも遥かに多い数の作品が箸にも棒にもかからない駄作として消えていった。
ところがそんなキングの原作を、今のところ100%の確率で傑作に仕立て上げているのがフランク・ダラボン監督である。
映画史に残る名作となった「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」に続いて、ダラボンが選んだのは、1980年に発表された中篇「霧」を原作とする「ミスト」
前二作の感動路線とは異なり、極めてホラー色の強い作品だが、ダラボンはこの作品をとてつもなく恐ろしく、同時に深いテーマ性を持つ作品として見事に仕上げた。
今のところ全打席ホームラン
原作者と映画監督のコンビネーションとしては、もしかしたら史上最強かもしれない。

メイン州の田舎町を史上最大の嵐が襲った次の日。
映画のポスター画家のデイヴィッド(トーマス・ジェーン)は、息子ビリー(ネイサン・ギャンブル)と隣人の弁護士ノートン(アンドレ・ブラウアー)を連れて町のスーパーマーケットに買い物に出掛ける。
ところが停電のマーケットで買い物をしているうちに、町は正体不明の濃い霧に覆われてしまう。
町中に鳴り響く警報のサイレン。
すると、一人の男が血を流しながら、マーケットに駆け込んでくる。
霧の中に恐ろしい何かがいる!と叫びながら・・・・


キングとダラボンのコンビ作に共通するのは、極めて宗教的な世界観である。
「ショーシャンクの空に」も「グリーンマイル」も、原作よりも映画の方がキリスト教的な価値観が前面に出ていたし、特に「グリーンマイル」においては信仰そのものをどう捉えるかが重要なテーマの一つになっていた。
「ミスト」はモンスターホラーの範疇に入る作品だと思うが、ダラボンは物語に二本の背骨を通す事によって、観客を心底怖がらせつつ、同時にキリスト教社会の精神世界を本質的に描き出すという離れ業をやってのけている。

背骨の一つは、霧の中から襲ってくる正体不明の怪物たちと対決する、サバイバルホラーとしての物語。
もう一つは、密室状態となったスーパーマーケットに閉じ込められた人々の、心理サスペンスである。
極限状態の中で、全ては神の思し召しだという狂信的な女性、ミセス・カーモディによって徐々に束ねられてゆく恐怖に支配され自我を失った人々と、あくまでも理性に従おうとする人々の間で起こる葛藤の物語だ。
ミセス・カーモディを演じるオスカー女優、マーシャ・ゲイ・ハーデンが圧巻で、キングの映画に登場した数多の狂信系キャラクターの中でも特に怖い。
怪物が人間たちに恐怖をもたらし、恐怖に駆られた人間たちは信仰に逃げ、やがてそれは狂信となって、残った人間たちに更なる恐怖となって襲い掛かる。
怪物も怖いし、人の心は更に怖く、肉体的な恐怖と心理的な恐怖が折り重なって襲ってくるのだから、これは超絶に怖い

実は怪物と人間の心理ドラマという二つの要素が絡み合う映画というのは、B級ホラーに最も多く、最も失敗しやすい作劇でもある。
怪物の方に力が入りすぎては人間ドラマがとって付けた様な印象になってしまうし、逆に人間ドラマばっかりになって肝心の怪物の方が忘れられてしまっている様な映画も多い。
この映画は、二つの要素のバランスが絶妙で、サスペンスの盛り上げとテーマ性の追求という二つの点での相乗効果を生み出している。

しかし映像化されて始めて判ったが、「ミスト」の世界は楳図かずおの「漂流教室」に似ている。
霧の中から襲ってくる悪夢が実体化した様な怪物たちとの攻防戦は、未来世界に飛ばされた小学校での怪物たちとの戦いにそっくりだし、突然極限状態に置かれた人々の群像劇という点も共通している。
まあ実際にはラブクラフトあたりの影響が強そうではあるが、「漂流教室」もこんな具合に映画化してくれたらよかったのに、とか関係ない事を思ってしまった。
実はこの映画、原作とオチが異なり、本国公開時には賛否両論が渦巻いたという。
その事を聞いていたので、私も本棚の奥から昔買った原作を引っ張り出して、読み返してから映画を観たのだけど、途中でもしかしたら「漂流教室」的な世界観を最後に持って来るのかと思った。
原作では「あちら」が「こちら」に来ている訳だけど、映画では「こちら」が「あちら」に行っているというオチなのかと思った訳だ。
結果的にその読みははずれた訳だが、映画のオチはキングが「先に思いついていたら自分が小説で使った」というくらいだから、なるほどと思わされる見事なエンディング。
何よりもテーマ性がこれ以上無いくらいクッキリと浮かび上がったという点で、原作を遥かに超えていると言って良いだろう。

たぶん、本来スティーブン・キングもフランク・ダラボンも信心深い人なんだろうと思う。
この映画では狂信者にも不信心者にも、等しく罰が下される。
そして結局、最も根源的な感情(つまりは神の創りたもうた人間性)に従った者だけが救われているのだ。
主人公たちの拘る理性もまた、客観視できなければ狂信的な信仰と同じくらい自己中心的な思い込みである事を冷徹な現象として見せ付ける。
人が神を語るのも許されないが、同時に本来神がすべき裁きを行った人もまた許される存在ではないのである。
モンスターホラーを観に行って、キリスト教社会の精神世界について深く考えさせられるとは、タラボン恐るべし。
後味が良いか悪いかは別として、映画としてはまごうことなき傑作であり、必見と言って良いと思う。

今回は、「霧」の名を持つワイン、南仏のJFリュルトンから「フュメ・ブランシュ ソーヴィニョン・ブラン」をチョイス。
フルーティで辛口。
比較的さっぱりとして軽く飲める。
お値段もリーズナブルだが、その割には満足させてくれるだろう。

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