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隠し砦の三悪人 / The Last Princess・・・・・評価額1600円
2008年05月16日 (金) | 編集 |
このところ映画にテレビドラマにとリメイクが続く黒澤映画だが、遂に娯楽時代劇の代表作とも言える「隠し砦の三悪人」がリメイクされた。
正直なところ全く期待していなかったのだが、これがなかなかどうして面白い。
昨年末に公開された森田芳光版「椿三十郎」は、極力何も変えない事で黒澤映画の面白さを再現しようとしていたが、今回「The Last Princess」という副題のついた「隠し砦の三悪人」は、全くアプローチが異なる。
メガホンをとった樋口慎嗣と脚本の中島かずきは、オリジナルの物語の骨子を残しながら、極めてスピーディーなスペクタクル活劇として再構築している。
黒澤映画の熱烈なファンには受け入れ難い作品かも知れないが、旧作へオマージュをささげた別物と考えれば、近年稀にみる大作らしい娯楽時代劇と言えるのではないか。

戦国の世。
富める国だった秋月が、隣国山名によって攻め滅ぼされた。
流浪の山の民であった武蔵(松本潤)と新八(宮川大輔)は、攻め落とされた秋月の城内で、隠された軍資金を探すために駆り出されていた。
爆発事故のどさくさで逃げ出した二人は、偶然川で秋月の隠し金の一部を発見する。
残りの金を探す二人だが、その金は既に真壁六郎太(阿部寛)によって秋月の隠し砦に集められていた。
隠し金と秋月家唯一の生き残りである雪姫(長澤まさみ)を、同盟国早川に脱出させようとする六郎太は、武蔵と新八に手伝わせて山名領内を突破しようとするのだが・・・


旧作の「隠し砦の三悪人」のプロットが、「スター・ウォーズ/エピソードⅣ」の下敷きになったのはあまりにも有名な話。
藤原釜足、千秋実が演じた凹凸コンビ又七と太平がR2-D2とC3-POのロボットコンビとなり、三船敏郎の真壁六郎太はオビ=ワンあるいはハン・ソロに、上原美佐の演じた雪姫はレイア姫となった。
本作の樋口監督、脚本の中島かずきは正に「スター・ウォーズ」世代
そのせいか、このリメイク版は黒澤のオリジナルに「スター・ウォーズ」の要素を取り込んで、更に再構成したような感がある。
旧作で藤田進が演じた、豪放磊落な田所兵衛は、ダース・ヴェーダーそっくりの鷹山刑部に変身し明確な悪役となり、旧作では狂言まわしの役回りだった又七と太平はそれぞれ武蔵と新八という新たな名を得、ルーク・スカイウォーカー的なヒーローとコミックリリーフに役割を変えた。

キャラクターの変更にあわせて、旧作で前半の大半を占めていた隠し砦でのシークエンスは大幅にカットされ、物語は非常にハイペースで山名領内での追いつ追われつの追撃戦に移ってゆく。
更には後半のかなりの時間を費やして、山名領内に作られたデススター・・じゃなくてもう一つの隠し砦からの脱出劇が付け加えられている。
結果的に、これらの変更はある程度成功していると思う。
樋口慎嗣は、「ローレライ」「日本沈没」と同じ人物とは思えないくらい、特撮とアクションたっぷりの活劇を活き活きと演出している。
今まで大そうなテーマを前面に出して、結局描ききれずに中途半端な作品になってしまっていただけに、徹底的に現象の面白さを追求した本作は、樋口監督にとって初めてその作家性を存分に発揮できる場となったのではないだろうか。
まあ勢いあまって、オイオイあり得ねーだろと突っ込みたくなる部分も多々あるし、現象だけを描くことに割り切っている分、喰い足りない部分も多い。
脚本も、黒澤版を上手く換骨奪胎しているとは思うが、やはり武蔵と雪姫のロマンスは物語の流れからすると唐突だし、新八の使い方も少々中途半端だ。
旧作では秋月再興を狙う六郎太と雪姫に対して、ひたすら金が欲しい又七と太平という決して交わらない二つの価値観の化かし合いの面白さがあったが、今回のリメイクではキャラクターはより個に立脚してそれぞれの思惑で行動し、ぶつかり合う。
武蔵と新八が山の民という設定は、所謂サンカ衆をイメージしているのだろうが、身分制度の外にいた彼らを主人公に設定したのも、登場人物の関係をより自由にしたかった意図があるのだろう。
もっとも、山名の領民と山の民の関係など未整理でよくわからない部分もあり、細かい部分の詰めの甘さは勿体無い。
また相変わらずキャラクターの感情は台詞と状況描写に頼り、人間の内面の描写はおざなりにされているとも言えるのだが、元々黒澤版からしてそれほど人間を深く描いている話とも思えないので、これに関しては特に欠点とは言えないだろう。

真壁六郎太を演じる阿部寛がいい。
ギラギラとした眼光も鋭く、長身のアクの強いキャラクターがスクリーンに映え、存在感はオリジナルの三船敏郎に負けていない。
「セカチュー」の後、代表作らしい代表作の無かった長澤まさみも、男勝りのお姫様が意外なほど良く似合い、堂々たるオーラを放つ。
本作は雪姫の主君としての成長が物語のバックボーンにもなっており、それは旧作のエピソードに新しいエピソードを重ねることで、きっちりと表現されていたと思う。
そう、リメイク版の主役は副題が示す様に雪姫なのだ。
割を喰ったのが、旧作の狂言まわしからヒーローに出世した松本潤の武蔵だが、それでも「スター・ウォーズ」のルークくらいには活躍しており、和製ヴェーダー卿の椎名桔平、お笑いキャラの宮川大輔を含め、総じて登場人物は上手くキャラ立ちしている。

「隠し砦の三悪人 / the Last Princess」は、一言でいって黒澤発、ルーカス経由の樋口着といった作品で、旧作とはかなり趣が異なるものの、これはこれで十分に楽しめる娯楽時代劇の良作である。
旧作の決め台詞であった「裏切り御免」の粋な再利用法、変形ワイプによる場面転換などをみてもわかる様に、元ネタの良さをきちんと理解した上で異なったアプローチにトライしているのも好感が持てる。
まあどっちが好きかと言われれば、個人的には軽妙で物語的にも捻りのある黒澤版が好きだが、これはたとえ旧作を知っていても楽しめる様には出来ていると思う。
樋口慎嗣はいわば和製マイケル・ベイ
深いテーマ性や人間意識の深層など、端から興味が無いのだろう。
その分、映像スペクタクルとアクション活劇を撮らせたらなかなかの物である事は十分わかったので、今後はこの路線を追求して欲しい。
もちろん、それにはある程度のレベルの脚本が用意されている事が必須条件なのは言うまでも無いのだけど。

本筋とは関係ないが、「The Last Princess」という副題はダサくないか?
まあ今回は前半の隠し砦のシーンが大幅に短縮されてしまっているし、そもそも「三悪人」が誰の事なのかもわかり難くなってしまっていて、新しいタイトルをつけたくなる気持ちもわからないでもないのだが、横文字の副題は何だか子供っぽく感じてしまう。
この副題だけでかなり観客の数を減らしている気がするのは、私だけだろうか。
それと、やっぱりこの手の映画はシネスコで観たかったなあ・・・

今回は、昔黒澤明がCMに出演していた「サントリーリザーブ」をチョイス。
言わずと知れたサントリーの代表的なウィスキーだが、サントリーは黒澤を長年CMに起用していた。
ある程度の年齢以上の方に懐かしいのは、ちょうど「影武者」を撮影中の黒澤をフランシス・コッポラが訪ね、二人で酒を酌み交わすというリザーブのCMだろう。
当時、「ゴッドファーザー」「地獄の黙示録」で飛ぶ鳥を落とす勢いだった若き巨匠と黒澤という、今にして思えば豪華なCMだった。

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