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アフタースクール・・・・・評価額1700円
2008年06月12日 (木) | 編集 |
キーワードは「同級生」?
「運命じゃない人」内田けんじ監督の第二作「アフタースクール」は、失踪した一人の男の行方を巡って、様々な人間の思惑が交錯する異色のドラマ。
ごく普通のミステリと思っていると、良い意味で大いに裏切られる。
鮮やかな物語のトリックにドラマ全体を落とし込むスタイルは、他の誰にも似ていない独自の世界だ。

母校の中学校で教師をしている神野(大泉洋)は、同級生で親友の木村(堺雅人)と今も仲がいい。
不在の木村の代わりに身重の妻の美紀(常磐貴子)を病院へ担ぎ込み、出産を見届けるが、肝心の木村はなかなか姿を見せない。
ところが、学校へ戻った神野の前に、自称同級生の探偵・島崎(佐々木蔵之介)が訪ねて来て、木村が浮気相手と失踪したと告げる。
探偵はその日の朝に偶然取られたという、木村と若い女(田畑智子)が一緒の写真を神野に見せる。
この女はヤクザとかかわりがあり、どうやら木村は会社の機密を握ったまま、女と駆け落ちしようとしているらしかった。
探偵は、木村を探すために神野に協力させようとするのだが・・・・


いやあ気持ちよく騙された。
失踪した木村の行方を探す前半は、すっかりミステリの類かと思っていたら、後半こう来るとは!
どこから見てもいい人の主人公に、怪しげな探偵、少々マヌケなヤクザと前作の「運命じゃない人」と構成要素は良く似ている。
時系列をシャッフルし、パズルのように組み合わせてゆくのも一緒だが、この作品では更なる仕掛けが施されている。
それは物語の根底からの視点のシフト
こればっかりはネタバレすると台無しなので詳しくは書かないが、黒澤明が「羅生門」で世界に衝撃を与えた作劇技法を換骨奪胎し、これほど鮮やかに使いこなした作品は初めて観た。

あえて言えば、ミステリアスなファンタジーを完全に前半後半に分け、後半で前半の種明かしをした「いま、会いにゆきます」の構成に似ていなくも無いが、少なくとも印象としては今現在映画を作っている誰の作品にも似ていない。
木村の握っている秘密とか、大金が絡むヤクザの取引とか、いかにもミステリっぽい要素は、所謂マクガフィンとして観客をミスリードし、観客が作品の本当の狙いに気づいた時には、思わず膝を打ってしまうあたり、恐ろしく緻密に構成された脚本の勝利だ。
映画の出来の8割は脚本で決まる、と言った黒澤明の言葉をこれほど明確に証明して見せた作品も無いだろう。

虚虚実実の駆け引きを演じる三人の「同級生」たちのキャラクターが良い。
人を疑うことを知らないような神野と、対照的に世の中を厭世的に見る探偵、この二人を煙に巻く何を考えているのかよくわからない不思議キャラの木村。
良く知っていると思っている幼馴染で親友で同級生、しかし木村探しが進みにつれて、神野の知らなかった木村の顔がどんどん出てくる。
このあたりの展開は、木村を中心に神野と探偵がヤジロベエの両方の手になって、木村の正体をめぐるミステリとして良く出来ているものの、事件としてはちっちゃいし、取り立てて新鮮味のある話でもない。
しかし実はその全ては、後半に用意される予想もしない展開の序章に過ぎないのだ。
実質的な二部構成となっている本作の場合、画面に映し出された全ての要素に、視点をシフトしたときに別の意味が存在し、全く新しいドラマの筋書きが隠されている。
一つのドラマに隠された、もう一つのドラマが浮かび上がってくる時のカタルシスは、他の映画では味わったことの無い類のものだ。

三人の「同級生」を演じる、大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人は絶妙なトライアングルを構成し、ある意味でステロタイプなキャラクターを現実感を損なわない巧みな演技で表現した。
特にキーとなる木村を演じる堺雅人は、もう直ぐ公開となる「クライマーズ・ハイ」にも通じる怪演。
この三人のドラマを、常磐貴子と田畑智子の女性二人が外側から綺麗に纏める。
物語も、キャラクターも、まるでパズルのピースのように、ピタリと収まってゆく。
内田けんじは二作目にして、自分の世界を完全に確立した様に見える。

「アフタースクール」は、物語のマジックを堪能できる稀有な作品である。
厳密に考えれば、話の辻褄がちょっとおかしな所はあるし、もっと洗練させられる部分もあると思う。
しかしながら、それは映画を観ている間は殆ど気にならないので、ジョン・フォードの「駅馬車」で、「何でインディアンは馬を撃たない?」と突っ込むのと同様の、重箱の隅をつつく様な行為なのかもしれない。
独特の世界観を持つ内田けんじの頭から、次にどんな作品が飛び出してくるのか、またまた大きな楽しみが増えた。
それにしても、ああネタバレでしゃべりたい。

今回は、おもわず「参った」と思わせる構成の妙から、カクテルの「ノックアウト」をチョイス。
ドライジン・ドライベルモット・ペルノアブサンを3:2:1の割合でステアし、ペパーミントホワイトを適量加える。
最後にマラスキーノチェリーを沈めて完成。
ペルノが加わるので独特の香りがあり、ある程度好き嫌いが分かれるだろうが、かなり強い酒なので、いつの間にかノックアウトされてしまうかも知れない。

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