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2008年06月29日 (日) | 編集 |
原田眞人は日本映画史においては、かなり特異な映画作家であると思う。
若くして米国を拠点に評論活動を開始し、やがて「さらば映画の友よ インディアンサマー」で監督に転進、近年は俳優としても外国映画の悪の日本人役でおなじみだ。
そのしばし露骨なまでのハリウッド志向ゆえか、日本のいわゆるシネフィルと言われる人々の評価は、あまり高くない様に思える。
実際、79年以来、ほぼ年一本のペースで生み出してきた作品群は、正直なところかなり出来栄えにバラツキがあり、「おニャン子ザ・ムービー 危機イッパツ」「ガンヘッド」のような、意欲は買えるものの、どうにも理解に苦しむような作品も多いのだが、その一方で「KAMIKAZE TAXE」「バウンス ko GALS」「金融腐食列島 呪縛」の様な秀作も着実に物にしているのだから、ある意味で掴み所の無い作家である。
今回の「クライマーズ・ハイ」は、幸いな事に後者。
それも、彼のフィルモグラフィーの中でも、かなりハイランクに位置する作品となった。
1985年8月12日。
乗員乗客524人を乗せたJAL123便が消息を絶った。
情報が錯綜する中、機体は群馬県御巣鷹山に墜落した事が明らかになる。
群馬県前橋市にある北関東新聞社では、カリスマ社長白河(山崎努)の命令で、一匹狼の悠木和雅(堤真一)が全権デスクに任命された。
史上最大の航空機事故という大事件。
悠木は県警キャップの佐山(堺雅人)らを事故現場へ急行させた。
そんな時、悠木は販売局員で親友である安西(高嶋政宏)が、突然倒れた事を知らされる・・・・
23年前に起こった、あの大惨事は覚えている人も多いだろう。
単独の航空機事故としては空前絶後であり、事故原因などをめぐっていまだに様々な新説が飛びかうほどインパクトの大きな事件だった。
しかし、この作品は日航機墜落事故を扱ってはいるものの、直接それを描いた作品ではない。
これは、未曾有の大事件に直面した一地方新聞社の記者たちの、荒れ狂う怒涛の中での一週間を描いたドラマなのだ。
タイトルの「クライマーズ・ハイ」とは危険な山に挑む登山家が、やがて恐怖すら忘れる精神の高揚を迎える現象を言う。
彼らは「ハイ」の状態を抜けると、逆に恐怖が噴出して一歩も動けなくなるという。
映画の構造はちょっと複雑だ。
この映画には二つの山があり、そのうちの一つが一週間、もう一つが23年という時間軸を介して複雑に絡み合っている。
最初の山は言うまでも無く日航機墜落事故だ。
会社の誰もが扱ったことの無いほどの大事件に、戸惑いと異様な高揚を感じながら挑む、悠木ら記者たち。
編集局内での人間関係のせめぎ合い、締め切りと言う時間との戦い、編集局と販売局との対立といったドラマが、2時間25分の上映時間の間、雪崩のように押し寄せる。
原作者の横山秀夫は、事件当時実際に群馬県の地方新聞記者としてこの事件の取材にあたり、自らの経験に基づいて物語をつむいでいる。
それゆえか、北関東新聞社内での人間ドラマは圧倒的なリアリティを感じさせる。
近年の原田作品の特徴である、極端に細かいカットを繋いでゆくスタイルも、この作品では生きている。
この手法は物語に緊張感を与え、リズムをある程度自由に操れるなどの利点があるが、反面ドラマの断片化をもたらす。
前作の「魍魎の函」では、元々複雑な物語が演出によってさらに断片化されて、原作既読者でもよくわからない話になってしまっていたが、この作品の場合、そもそも事態を完全に把握している人物が、登場人物の中にも誰もいないという設定なので、彼らの混乱と緊張をさらに強調する効果的な演出となっているのである。
もう一つの山は、物語を縦に長く貫き、この複雑な物語を大きく包み込む役割を果たしている。
それは父性という山を巡る物語だ。
日航機事件をめぐる一週間は、私生児として生まれた悠木が、彼の擬似的な父親である、新聞社のカリスマ社長・白河という山に挑む一週間でもある。
そして、曖昧なまま終わったこの登頂に、悠木がある種の決着をつけるためのもう一つの山を巡る物語が現在を舞台に描かれる。
23年前の「山」が比喩的な物であったのに対して、こちらは谷川岳の衝立岩を舞台とした本物の登山であり、過去に自らが挑んだ山が何だったのかという、悠木の内面の葛藤への答えを求める旅であると同時に、彼の中にくすぶる父性へのわだかまりを解き放つための道程でもある。
これは時間を越えた二つの「山」に挑んだ悠木が、「クライマーズ・ハイ」の恐怖を乗り越えて山の頂に立つまでの物語なのである。
惜しむらくは、この現在の登山の象徴性が、過去のドラマと完全にシンクロするとは言いがたい点で、特に悠木と白河の葛藤は両者の関係性にモヤモヤした点が多くて、やや説明不足の感がある。
結果的に、悠木と彼自身の息子・淳との関係も曖昧さが残ってしまっている。
もっとも、元々親子関係など明快な物ではなく、あえてそれを残したという捕らえ方が出来なくもないのだが。
「クライマーズ・ハイ」は、濃密な人間ドラマであり、史上最大の航空機事故に直面した新聞社というパニック状態の中、数十名の社員が引切り無しに画面に登場しては消える。
驚くべき事に、これほど登場人物の多い映画にもかかわらず、彼らはみなしっかりと個性を持ち、明確にキャラ立ちしている。
これは原作のキャラクター造形に加えて脚本の見事さもあるが、俳優たちも素晴らしい。
主人公悠木を演じるの堤真一はこの複雑な物語の中で、しっかりと中心の軸となって好演しているが、彼以上にインパクトのあるのが県警キャップを演じた堺雅人だ。
この怪演は、間違いなく今年観たベストアクトの一つだろう。
今回は、舞台となる群馬の地酒から。
高井株式会社の「巌 大吟醸」をチョイス。
端麗やや辛口で、吟醸酒らしい香りを楽しめる。
山歩きの後などに、山の幸を肴に、こんなお酒を冷で飲むのは最高である。
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若くして米国を拠点に評論活動を開始し、やがて「さらば映画の友よ インディアンサマー」で監督に転進、近年は俳優としても外国映画の悪の日本人役でおなじみだ。
そのしばし露骨なまでのハリウッド志向ゆえか、日本のいわゆるシネフィルと言われる人々の評価は、あまり高くない様に思える。
実際、79年以来、ほぼ年一本のペースで生み出してきた作品群は、正直なところかなり出来栄えにバラツキがあり、「おニャン子ザ・ムービー 危機イッパツ」「ガンヘッド」のような、意欲は買えるものの、どうにも理解に苦しむような作品も多いのだが、その一方で「KAMIKAZE TAXE」「バウンス ko GALS」「金融腐食列島 呪縛」の様な秀作も着実に物にしているのだから、ある意味で掴み所の無い作家である。
今回の「クライマーズ・ハイ」は、幸いな事に後者。
それも、彼のフィルモグラフィーの中でも、かなりハイランクに位置する作品となった。
1985年8月12日。
乗員乗客524人を乗せたJAL123便が消息を絶った。
情報が錯綜する中、機体は群馬県御巣鷹山に墜落した事が明らかになる。
群馬県前橋市にある北関東新聞社では、カリスマ社長白河(山崎努)の命令で、一匹狼の悠木和雅(堤真一)が全権デスクに任命された。
史上最大の航空機事故という大事件。
悠木は県警キャップの佐山(堺雅人)らを事故現場へ急行させた。
そんな時、悠木は販売局員で親友である安西(高嶋政宏)が、突然倒れた事を知らされる・・・・
23年前に起こった、あの大惨事は覚えている人も多いだろう。
単独の航空機事故としては空前絶後であり、事故原因などをめぐっていまだに様々な新説が飛びかうほどインパクトの大きな事件だった。
しかし、この作品は日航機墜落事故を扱ってはいるものの、直接それを描いた作品ではない。
これは、未曾有の大事件に直面した一地方新聞社の記者たちの、荒れ狂う怒涛の中での一週間を描いたドラマなのだ。
タイトルの「クライマーズ・ハイ」とは危険な山に挑む登山家が、やがて恐怖すら忘れる精神の高揚を迎える現象を言う。
彼らは「ハイ」の状態を抜けると、逆に恐怖が噴出して一歩も動けなくなるという。
映画の構造はちょっと複雑だ。
この映画には二つの山があり、そのうちの一つが一週間、もう一つが23年という時間軸を介して複雑に絡み合っている。
最初の山は言うまでも無く日航機墜落事故だ。
会社の誰もが扱ったことの無いほどの大事件に、戸惑いと異様な高揚を感じながら挑む、悠木ら記者たち。
編集局内での人間関係のせめぎ合い、締め切りと言う時間との戦い、編集局と販売局との対立といったドラマが、2時間25分の上映時間の間、雪崩のように押し寄せる。
原作者の横山秀夫は、事件当時実際に群馬県の地方新聞記者としてこの事件の取材にあたり、自らの経験に基づいて物語をつむいでいる。
それゆえか、北関東新聞社内での人間ドラマは圧倒的なリアリティを感じさせる。
近年の原田作品の特徴である、極端に細かいカットを繋いでゆくスタイルも、この作品では生きている。
この手法は物語に緊張感を与え、リズムをある程度自由に操れるなどの利点があるが、反面ドラマの断片化をもたらす。
前作の「魍魎の函」では、元々複雑な物語が演出によってさらに断片化されて、原作既読者でもよくわからない話になってしまっていたが、この作品の場合、そもそも事態を完全に把握している人物が、登場人物の中にも誰もいないという設定なので、彼らの混乱と緊張をさらに強調する効果的な演出となっているのである。
もう一つの山は、物語を縦に長く貫き、この複雑な物語を大きく包み込む役割を果たしている。
それは父性という山を巡る物語だ。
日航機事件をめぐる一週間は、私生児として生まれた悠木が、彼の擬似的な父親である、新聞社のカリスマ社長・白河という山に挑む一週間でもある。
そして、曖昧なまま終わったこの登頂に、悠木がある種の決着をつけるためのもう一つの山を巡る物語が現在を舞台に描かれる。
23年前の「山」が比喩的な物であったのに対して、こちらは谷川岳の衝立岩を舞台とした本物の登山であり、過去に自らが挑んだ山が何だったのかという、悠木の内面の葛藤への答えを求める旅であると同時に、彼の中にくすぶる父性へのわだかまりを解き放つための道程でもある。
これは時間を越えた二つの「山」に挑んだ悠木が、「クライマーズ・ハイ」の恐怖を乗り越えて山の頂に立つまでの物語なのである。
惜しむらくは、この現在の登山の象徴性が、過去のドラマと完全にシンクロするとは言いがたい点で、特に悠木と白河の葛藤は両者の関係性にモヤモヤした点が多くて、やや説明不足の感がある。
結果的に、悠木と彼自身の息子・淳との関係も曖昧さが残ってしまっている。
もっとも、元々親子関係など明快な物ではなく、あえてそれを残したという捕らえ方が出来なくもないのだが。
「クライマーズ・ハイ」は、濃密な人間ドラマであり、史上最大の航空機事故に直面した新聞社というパニック状態の中、数十名の社員が引切り無しに画面に登場しては消える。
驚くべき事に、これほど登場人物の多い映画にもかかわらず、彼らはみなしっかりと個性を持ち、明確にキャラ立ちしている。
これは原作のキャラクター造形に加えて脚本の見事さもあるが、俳優たちも素晴らしい。
主人公悠木を演じるの堤真一はこの複雑な物語の中で、しっかりと中心の軸となって好演しているが、彼以上にインパクトのあるのが県警キャップを演じた堺雅人だ。
この怪演は、間違いなく今年観たベストアクトの一つだろう。
今回は、舞台となる群馬の地酒から。
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端麗やや辛口で、吟醸酒らしい香りを楽しめる。
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