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告発のとき・・・・・評価額1550円
2008年07月05日 (土) | 編集 |
「告発のとき」の原題、「In the valley of elah」とは、旧約聖書でイスラエルの少年ダビデが、宿敵ペリシテ軍の巨人ゴリアテを倒した場所の事。
パレスチナの地である。
このタイトルが示唆する様に、ポール・ハギス待望の第二作は、イラク戦争の帰還兵が抱える心の闇をテーマとした社会派ドラマ。
前作「クラッシュ」では、社会の様々な階層の人間同士の衝突を、ある種のファンタジーとして見事に描き出したハギスだが、今回も重厚なテーマを寓話的に切り取っている。

2004年。
退役軍人のハンク(トミー・リー・ジョーンズ)に、軍から連絡が入る。
イラクから帰還したばかりの息子のマイクが、基地に戻らないというのだ。
真面目な息子が脱走するなどという事は信じられないハンクは、一人基地のある町へ向かう。
息子と同じ部隊の戦友たちに話を聞いても、誰一人として失踪の理由は思い当たらないという。
元軍のMPとして事件を追った経験のあるハンクは、マイクの携帯電話に残された映像に失踪の原因が隠されていると考え、独自にマイクの足取りを追う。
ところがそんな時、ハンクの元にマイクが切断された焼死体となって発見されたという連絡が入る。
ハンクは、軍内の何者かが事件に関与していると睨み、地元警察の女性刑事エミリー(シャーリーズ・セロン)の協力を得て、軍という分厚い壁に挑もうとするのだが・・・


ジャンルとしては反戦映画だと言って良いと思うが、それをストレートに表現はしない。
描かれているのは、あくまでも失踪した一兵士を探す父親の物語であり、ストーリーテラー、ハギスは物語に仕込まれた様々な仕掛けによって、徐々に核心のテーマに迫ってゆく。
「ノーカントリー」でそうであったように、ここでもトミー・リー・ジョーンズが演じるのは古き良きアメリカの男だ。
ハンクが愛し、また軍人として彼が守ったとして自負するアメリカは、今どこへ行こうとしているのか。
彼にとって、「理想の息子」だったマイクは、イラクで何を見たのか。
なぜ彼は失踪し、無残な死体となって発見されなければならなかったのか。
戦争は、人間の心に何をもたらすのか。
映画は犯人探しのミステリであると同時に、そのプロセスによってイラク戦争の帰還兵が抱えるトラウマの正体を暴き出す。
ハギスは、「クラッシュ」と同じように、様々なメタファーを用いて、物語の根底に巧みにテーマを仕込み、ラストでそれが浮かび上がってくる様なロジックを組んでいる。
それは主人公であるハンクの、人生を支えてきた価値観を、根底から覆す事実なのである。

タイトルにもなっている、「エラの谷」のエピソードは特に象徴的で、巨人ゴリアテに立ち向かった少年ダビデの勇気ある物語として知られるこの話を、物語全体と対比することでテーマが読み取りやすくなっている。
因みに字幕ではダビデの使った投石器(slingshot)を、「パチンコ」と訳していたけど・・・この翻訳者は旧約聖書の絵とか見た事が無いのだろうか。
確かに投石器もY字型のパチンコも英語では同じslingshotなんだけど・・・
他にも逆さまに掲揚された国旗の意味や、飼い犬を殺した兵士のエピソードなど、映画のテーマを比喩的に表現する描写が物語の中に多く盛り込まれており、観客は一兵士の失踪と死の真相を巡る物語に散りばめられたメタファーを通して、イラクの戦場で生まれた、癒しがたい闇を知るのである。

ただし、一級品ではあるが、残念ながら傑作とまでは言いがたい。
それは皮肉にも、ハギスが超一流の脚本家であるが故に、ロジックに懲りすぎてリアリティの欠落を招いてしまっているのが原因だ。
一言で言えば、多くのメタファーを初めとした物語の象徴性が出来すぎているのである。
この話は実話がベースとなっているが、元の話をきちんと読んだわけではないので、正直なところどこまで忠実に作られているのかはわからない。
失踪した兵士の父親が事件の真相を暴いたというのは事実らしいが、彼が元MPで地元警察よりもよほど有能な捜査官である時点で、かなり稀な「偶然」であるといえるだろう。
これだけならまだしも、この映画には他にもあまりにも都合よく相互リンクし、テーマとつながる「偶然」が多すぎる。
「クラッシュ」も、しばし御都合主義を感じるほどに、メタファーを多用した作劇だったが、あれはラストを「LAの雪」という小さなファンタジーに落とし込む事で、テーマを絶妙な形で昇華させていた。
しかし、今回は現在進行形の戦争という、前作以上にシリアスで、しかも希望が見出しにくいテーマを選んでおり、ハギスの得意とする寓話的な作劇スタイルとはあまり相性が良くは無かったようだ。
物語は良く出来ているし、テーマ性もしっかりと伝わってくる。
しかしながら、微妙な作り物感が漂ってしまっているのが、この作品の残念なところだ。

ところで、あるメディアで評論家がこの映画を評して、「一見イラク戦争批判だが、若い兵士の心的外傷などを持ち出して、自分たちを哀れんでいる。ちがうんじゃない?」と書いていて、私はこの様な受けとり方をする人がいるのかと驚いた。
この理屈からすれば日本人やドイツ人の作る反戦映画も、外国ではすべて「ちがうんじゃない?」と言われてしまうだろう。
いや、そもそも反戦映画を作る資格のある国民など、世界のどこにもいないのではないか。
実際国内ではきわめて評価の高い邦画の反戦映画の多くが、国際的には黙殺されてきたのは、この「ちがうんじゃない?」という感情のためである。
この意見を述べた人は、「アメリカの戦争」を客観視している様でいて、実は国家と個人を同一視し、加害者と被害者というステロタイプでしか観ていない。
映画評論家を名乗る人がしてはいけない観方である。
この映画が描いているのは戦争という物が個人の心に何をもたらしたのかであって、戦争そのものの意味付けを試みている訳ではないし、あえて言えば政治的な映画ですらない。
戦争そのものは、後の歴史しか評価する事は出来ないだろう。
しかし、その歴史が証明しているのは、戦争とはそれに関わった人々全てを、何らかの形で確実に傷つけるという事だけである。

今回は、イスラエルを代表するワイン、ヤルデンの「ハイツ ワイン」をチョイス。
収穫後の葡萄を、氷結させてから圧搾するというある種のアイスワインである。
芳醇で甘く、風味も強いこのワインが造られる土地も、その複雑な歴史に翻弄されてきた。
ヤルデンはゴラン高原を基盤とするワイナリーで、シリアとイスラエルの和平交渉次第によっては、シリアに返還される運命である。
先日、テレビでゴラン高原のワイナリーが紹介されていたが、彼らの多くはワイナリーを移転してでも和平を支持しているという。
世界最古のワイン生産地の一つに、果たしてワイン文化が残るのか、和平の行方と共に注目してゆきたい。

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