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イースタン・プロミス・・・・・評価額1750円
2008年07月09日 (水) | 編集 |
果たされる事の無い、「東方の約束」
デビッド・クローネンバーグが前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」ヴィゴ・モーテンセンと再び組んだ「イースタン・プロミス」は、ロンドンのロシアンマフィアの暗部を描いたフィルムノワール。
ここにあるのは血と暴力と小さな希望。
巨匠、円熟の一作である。

ロンドンのある病院に、産気づいて意識不明の少女が運び込まれてくる。
赤ん坊の命は助かったものの、母親は死亡。
ロシア系英国人である助産師のアンナ(ナオミ・ワッツ)は、少女の身元を捜そうとするが、手がかりは彼女の残したロシア語で書かれた日記のみ。
日記に挟まれていた店のカードを頼りに、ロシア料理店のオーナーに話を聞くアンナだったが、オーナーは自分が日記を翻訳しようと申し出る。
同じ頃、日記を目にしたアンナの叔父は、その内容が裏社会の秘密に通じている事から、
日記を他人に見せるなと警告する。
実はロシア料理店のオーナーは、悪名高いマフィア「法の泥棒」のボスであった。
やがてアンナの周りに、ボスの不肖の息子キリル(ヴァンサン・カッセル)と共に仕事をしている自称「運転手」の謎めいた男、ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)が出没し始める・・・・


「ヒストリー・オブ・バイオレンス」では、一人の男の戦いを通して、アメリカの暴力の歴史をメタファーとして描いたクローネンバーグだが、同じくモーテンセンを主演に迎えたこの作品では、一冊の日記を巡る物語を通して、異国で生きるロシア移民の悲しみの暗部を暴き出す。
近年は石油大国として、金持ちイメージで語られる事の多いロシアだが、貧困層はまだまだ多く、特にロシア連邦を構成する諸共和国の少数民族は、成功を夢見て外国に脱出する者も多いと聞く。
経済的弱者の周りには、彼らを食い物にしようとする裏社会の者たちが群がる。
そうした組織の人間が、出国を希望する女性たちに語って聞かせるのが、移民先にはいい仕事があり、すぐに金持ちになって帰国できるという成功の約束、「イースタン・プロミス」である。
映画は、その約束にだまされて、売春婦として奴隷労働をさせられた挙句に死んだ少女の身元を捜し、赤ん坊を故郷に送り届けたいというアンナの行動が、思いもかけずマフィアの抗争とリンクしてしまい、そこに謎の男、ニコライの意外な正体が絡んで、全く目を放せない。
スティーヴ・ナイトによる、抜群の展開力を持つ、ほとんど突っ込みどころの無い緻密な脚本を、クローネンバーグが冷徹な視線で淡々と描く。
フィルムノワールとして第一級の仕上がりである。

本作は基本的には、勧善懲悪的な構造を持っているが、もちろんそれだけの浅い話をクローネンバーグほどの作家が描くはずも無く、本質的には決して一人では生きられない人間の悲しみと希望を描いたものである。
登場人物の心理は、お互いに対する感情が重層的に絡み合い、相反する情念のうねりが物語を満たす。
残された命を守り、少女の無念を弔おうとするアンナと、ある目的をもって暗躍するニコライが惹かれあう事で生まれてくるのが人間の陽の部分だとすれば、キリルとボスの親子の葛藤は陰の感情で溢れんばかりだ。
そしてラストに明かされるニコライの正体と目的も含めて、この映画はロンドンという異文化の中に存在する、ロシアンコミュニティーという小さな世界の悲哀を、奇妙な調和の中に描ききるのである。

基本的に物語はナオミ・ワッツ演じるアンナの視点で進み、彼女は所謂巻き込まれ型の主人公を好演しているが、やはりこの映画で光るのはヴィゴ・モーテンセンだろう。
サイボーグの様にピッチリと固めた特異な髪型といい、刺青だらけの体といい、ニコライの暴力の歴史と鋼の意思を感じさせる、肉体のビジュアルが秀逸だ。
公衆浴場での、暗殺者との全裸の格闘シーンは、まさに肉体を切り裂かれる痛みに満ちており、本作の、いや犯罪映画の歴史の中でも屈指の名シーンと言えるだろう。
ニコライが剛だとすれば、対照的な軟はボスのダメ息子キリルを演じるヴァンサン・カッセル
父親の影から抜け出せない、二代目の苦悩を人間味たっぷりに演じた。
物語のクライマックスでのキリルの選択は、このダークな物語の中で、一筋の希望を感じさせるものだった。
そう、たとえ世界が暴力と絶望に満ちていたとしても、小さな命は人間たちを明日へと導いて行くのだ。

物語の要所要所に挿入される、希望に満ちた明日を語る少女の日記の朗読が切ない。
貧困の中、「イースタン・プロミス」を信じてロンドンに渡った彼女は、すぐにその約束が決して果たされない事を知り、絶望の中で14歳の生涯を閉じるのである。
これは、程度の差はあれ、決してドラマの中の話だけではないという。
貧困に生きる者と、彼らが見る小さな夢は、犯罪者の視点から見ればお金を生む金の卵なのである。
儚い希望は、いとも簡単に闇の金に換金され、消費されてしまう。
私の住む街も、日本の中では移民が多く、街を歩いていると外国語が良く聞こえてくる。
もちろん、彼らのほとんどは普通に生活している人々であろうが、日本も「イースタン・プロミス」で語られる、約束の土地の一つである事は確かであろう。
日本は嘗て米国務省の人身売買に関する報告書で、海外から女性や子供が搾取のために売買されている要監視国に指定されており、現在でも対応が不十分な国のリストに載せられている。

このハードな映画には、甘ったるいカクテルなどは似合わない。
映画の余韻を引きずって、ロシアンウォッカをストレートかでちびちび飲もう。
スミノフの「ブラック」をチョイス。
焼ける様な熱が、酷寒の地に生きる人々の魂の炎を感じさせる。
モスクワ産のこの酒は、嘘偽りの無いウォッカの味わいを約束してくれるのだが・・・

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