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TOKYO!・・・・・評価額1500円
2008年08月29日 (金) | 編集 |
特定の都市をモチーフにしたオムニバス映画は、それほど珍しく無い。
「TOKYO!」というそのものズバリのタイトルを持つ本作の企画に、パリを舞台に十八人の監督が5分間の愛の物語を綴った「パリ、ジュテーム」が強い影響を与えているのは間違いないだろうし、昨年は欧州四都市を舞台に、サッカーのUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦が開催される一日を描いた「ワンディ・イン・ヨーロッパ」という変り種もあった。
ミッシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノという、強烈に個性的な三人の外国人監督に与えられた時間は一人頭30分強。
オムニバス映画の場合、なかなか映画を観たという満足感を得る事が難しいが、この長さは短すぎず、長過ぎない、調度良いバランスだ。
一流の観察眼を持つ彼ら三人が、巨大なエネルギーを秘めたこの都市と向かい合う事で、我々日本人にはなかなか見えてこない、東京の隠れた姿が浮かび上がってくるという志向で、本作のコンセプトは、「東京≠TOKYO」と言ってもいいだろう。

「インテリア・デザイン」
ミッシェル・ゴンドリーが描くのは、映画監督志望のアキラと共に地方から東京にやって来たヒロコの物語。
エド・ウッドみたいな変な映画を撮っている割に、バイトも見つかって、それなりに東京暮らしを楽しんでいる天然のアキラに対して、日々の生活に追われ、居候先に気兼ねするヒロコはどんどんと疎外感を募らせてゆく。
彼女自身は東京という街に、特に目的があって来た訳ではなく、流れに任せてはみたものの、人々の念が渦を巻く巨大都市の中で、心は居場所を失って彷徨いだしてしまう。
そしてある時、自分の居場所と存在価値を求めて、彼女の心と肉体がたどり着いた先は・・・江戸川乱歩のある作品を思わせて、なんともシュール。
かなりぶっ飛んだ展開なのだけど、不思議と納得できてしまうのは、彼女に共感する自分が確実にいるという事だ。
ただ、細かな部分に、実際の東京を知る者にはリアリティを感じない描写が幾つかあり、それが物語をややスポイルする。
いくらなんでも、あの廃墟の様なアパートの入居に40万円は無いだろう。
この話の中で、ファンタジー的な要素はあくまでもヒロコに起こった事だけにして、世界観はあくまでもリアルに徹した方が寓話性が際立ったと思うのだけど。

「メルド」
二番手は懐かしや、レオス・カラックスだ。
ずいぶんとお久しぶりと思ったら、「ポーラX」以来9年ぶりの劇場用映画だという。
彼が描くのは「メルド(糞)」という、地下道から現れ人々を襲う奇妙な怪人に翻弄される東京。
ある意味で、三本中最も難解な作品となっている。
この不気味な怪人は、明らかに「ゴジラ」をモチーフとしており、劇中のテーマ曲もゴジラのマーチがそのまま使われている。
日本人を忌み嫌い、旧日本軍の地下遺構に住み、世界でも数人しか理解できない謎の言葉を話し、好物はお札と菊の花。
ゴジラが核のメタファーだった様に、この男も何かのメタファーなのだろうが、つかみ所が無さ過ぎて、観る者をひたすら戸惑いに誘う。
日本軍の武器を使って無差別テロを起こすあたり、オウム事件を思わせるし、日本社会の負の側面をカリカチュア化した存在にも見える。
不死身のメルドが次に現れるのはニューヨークらしいから、この手の自己攻撃性は東京に限らず、過密な現代社会ならどこにでも現れるという事か。
フランス人らしい、シニカルな文明批判と受け取っても良いのかもしれない。

「シェイキング東京」
文字通り、揺れ動く東京。
韓国の鬼才ポン・ジュノの一作は、単体の映画としてみると、三本の中で最も完成度が高く、切なくも優しい寓話となっている。
彼が選んだモチーフは、「引きこもり」だ。
香川照之演じる「僕」は10年間家から出ずに引きこもり生活を続けている。
ひたすら読書し、家の中はゴミも含めて異常なほど整頓されており、外とのつながりは電話だけで、家にやってくる様々な配達人とは決してコミュニケーションをとらない。
そんな「僕」が、ある時ふと目を合わせてしまったピザの配達人に恋をする。
人間とのかかわりを拒絶してきた「僕」の心臓は、その時彼女と共鳴し、そして世界もまた同期しているかの様に揺れ動く。
気絶した蒼井優の「彼女」は、パソコンのボタンアイコンの様なタトゥーを持ち、電源ボタンを押さないと再起動しない。
つまり、彼女に触れなければならないという事だ。
1000万人もの人々が暮らしながら、そのつながりは年々希薄になっている現代の東京。
たった一人との触れ合いの、なんと切実な事か。
ポン・ジュノは、過去にもオムニバス映画を何度か手がけている事もあってか、短編の作り方をよく知っている。
日本の漫画をこよなく愛する人物らしく、シニカルでありながら、日常を優しく切り取る感覚はどこか良く出来た短編漫画を読むような安心感があり、わずか30分程度ながら、この作品のセンス・オブ・ワンダー溢れる味わいは、長編映画にも引けをとらないくらいに後を引く。
三本の大トリとして、納得の作品であった。

「TOKYO!」は、日本人が撮ったとしたら決して出てこないであろう、ユニークな発想力に満ちていて、どの作品もなかなかに観応えがある。
面白いのは、三人の映画作家が捉えた三者三様東京の姿は、どれもリアリズムに基づく物語ではなく、寓話的なファンタジーに落とし込まれている事だ。
一見すると、東京でなくても成立する話にも思えてくるのだが、東京は一つの街というにはあまりに複雑かつ巨大過ぎて、外側から観察してシンプルに描こうとすると、結局それは濃縮された「日本」の一面を描いてしまうという事だろう。

三皿のコース料理の後は、東京の名を持つデザートカクテルで幕を引こう。
「トーキョー・ジョー」は氷を入れたグラスに、ウォッカ150mlとメロンリキュール100mlを注いでステアするだけのシンプルなカクテル。
美しいグリーンは目を楽しませ、甘いメロンの香りは舌を楽しませる。
東京は、混沌として、豊かな味わいに満ちているのだ。

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