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おくりびと・・・・・評価額1750円
2008年09月19日 (金) | 編集 |
身近な人の葬儀に初めて出たのは、小学校五年生の春に祖母が亡くなった時だと思う。
それ以来、一体何件の「旅立ち」を見届けてきただろうか・・・
タイトルの「おくりびと」とは、納棺師の事。
浴衣姿の遺体を死装束に着替えさせ、化粧を施して納棺するのは、てっきり葬儀会社の人だと思っていたので、納棺師という独立した職業があること、そこにこれほどまでに洗練された一つの文化がある事は初めて知った。
世の中、まだまだ知らない事だらけだ。

小林大悟(本木雅弘)はオーケストラのチェロ奏者。
ところが突然楽団が解散し、1800万円ものチェロの借金を抱えて途方にくれ、結局音楽の道を諦めて、妻の美香(広末涼子)と共に故郷の山形へ帰る事にする。
就職先を探していた大悟は、新聞広告に出ていた「旅のお手伝い」という文句に引かれて、NKエージェントという会社の面接に訪れる。
即日採用となるものの、てっきり旅行関係だと思っていた会社の業務内容は、葬儀の際の納棺。
つまりNOU-KANエージェントだったのだ。
美香には仕事の詳しい内容を言えないまま、納棺師として徐々に経験をつんでゆく大悟。
しかしある日、美香に仕事の内容がばれてしまい、「汚らわしい仕事」を辞めて欲しいと懇願されるのだが・・・


山形の、四季を感じさせるロケーションが素晴らしい。
雄大な自然の描写だけではなく、大悟の実家やNKエージェントの社屋、重要な舞台となる銭湯の佇まいなど、良くぞ見つけてきたという味のある建物で、この作品の風格作りに大いに寄与している。
ありものだけではなく、実父が昔喫茶店をやっていたという設定の、大悟の実家の内部セットや、NKエージェント二階のジャングルのような社長室のセットもビジュアル的に面白い。
こういうちょっとしたハズシが、いかに画面を豊かにするのか、今更ながら再確認させてもらった。

また地方都市という舞台設定は、もし大都市が舞台であれば御都合主義を感じさせてしまうであろう、濃密な人間関係を自然に感じさせる効果も生んでいる。
ごくごく狭いコミュニティの中で、誰も彼もが顔見知りという状況で展開する物語は、無数の顔も知らない人同士が行き交う東京では、成立しなかっただろう。
まあそれでも、わずか半年の間の出来事としては、ドラマの展開があまりにも整然と揃いすぎているという出来過ぎ感は残るのだが、逆に言えばこの作品で欠点と言えるのはそれだけだ。

この映画は一人の男が、納棺師という職業の意義を自らの中に見出してゆく物語であるが、そこには日本人の死生観に纏わる深い文化的な考察も見て取れる。
大悟の仕事が、遺体を扱う納棺師である事を知った美香は、激しく動揺し彼に仕事を辞める様に懇願する。
そして彼女に触れようとする大悟に「触らないで、汚らわしい!」と叫ぶのだ。
「汚らわしい」は穢れ(ケガレ)に通じる。
この作品には日本人の持つ、死に対する複雑な禁忌感情である、穢れの文化も巧みに織り込まれている。

ちょっと気になって調べてみたが、遺体に対する穢れ感情というのは、元々日本土着のものであったらしい。
やがて仏教が伝来すると、遺体を魂の抜けた単なる物体とみる仏教の死生観から、遺体に触れることを恐れない仏教徒が、平安の頃に葬儀の執行を職業として確立させたという。
つまり日本風のお葬式というのは、仏教徒によって確立されて千年を超える歴史があるという事のようだ。
結婚式は神社で、葬式はお寺でという、外国人が首を傾げる不思議な住み分けには、このような背景があるのだ。
長い歴史のなかで、仏教も神道その他の日本の土着信仰と交じり合い、一般の仏教徒も死に対する穢れ感情を持つようになり、また葬儀の様式という物も洗練され、磨かれていったのだろう。

脚本を書いたのは、これが映画初挑戦となる小山薫堂
著名な放送作家であり、幾つかのテレビドラマでも脚本を手がけているが、私はどっちかというと、ラジオのJ-WAVEで時事問題を扱う番組のパーソナリティーとしての印象しか持っていなかったので、正直あまりに完成度の高い脚本に驚いた。
納棺師という未知の世界へ足を踏み入れた大悟の心を繊細に描写する一方で、顔も覚えていない父親に対する複雑な葛藤を巧みにリンクさせ、全体として生と死と人間の想いが一つのトリニティを作り出す構成は見事。
前記した様に、若干きっちりと整い過ぎではあるものの、登場人物への深い洞察と人間への愛情、日本の葬儀文化へ誠実に向き合って物語を作り出している姿勢には大いに感銘を受けた。

この良く出来た脚本を受けて、ベテラン滝田洋二郎監督は、山形の四季を通して、時の流れの中で繰り返される生と死の営みを、戸惑いながら着実に前に進む大悟の感情にピッタリと寄り添わせる事で、一つのサイクルとして見事に描いた。
物語の中で、印象的に使われる小道具に石文がある。
これは石を手紙の代わりに伝えたい人に渡し、その石の大きさや形で送り手の想いを伝えようというロマンチックな風習だが、これが物語の結末に大きな意味を持ってくる。
石が象徴するのは、限りある命に対して、人の想いの永続性
幼い頃に父と生き別れた大悟は、最後に父からもらった石文を大切に持っているが、それは彼の父に対する解ける事の無いわだかまりでもある。
大悟が決してNKエージェントを辞めないのも、納棺師という仕事への拘り以上に、山崎努演じる社長に父親の面影を感じたからだと思うのは、私だけではないだろう。
そんな背景が念入りに描かれているからこそ、物語のラストで届く、もう一つの石文の意味が際立つ。
死と誕生がリンクし、死者からの優しいメッセージが大悟の心に残った最後の残雪を溶かすシーンは、物語の締めのお手本の様な素晴らしさだった。
滝田監督にとっても、これは代表作となる仕事だろう。

映画を構成する全ての要素が、美しいハーモニーを奏でる「おくりびと」の最後のピースはやはり主演の本木雅弘だ。
元々この作品は、彼が実在の納棺師の方が書かれた本を読んで、感銘を受けた事から企画がスタートした作品だという。
つまり、これは本木雅弘自身の企画であり、その分演技の完成度は圧倒的に高く、間違いなく彼のベストアクト
納棺師大悟の仕事、「納棺の儀」は正にこの作品の最大の見どころと言っていい。
荘厳で美しく、死者と遺族に対する最大限の配慮が様式化されたその技は、一つの芸術というに相応しい。
パートパートを徹底的に磨き上げる日本文化の特質をこんな所で見る事が出来るとは、正直なところ思いもよらなかった。
今までも納棺の儀は何度か見ている筈なのだが、一体自分は何を見ていたのかと後悔したくらいだ。
映画の中で、余貴美子演じるNKエージェントの事務員が、この仕事についた理由を問われて、社長が行った納棺の儀の美しさを見て、自分が死んだら、この人に送って欲しいと思ったからだと言うシーンがあるが、私も大悟の仕事に同じ事を思った。
「もし自分が死んだら、小林大悟に送って欲しい」
そう思わせたら、もう映画の勝利といっていいだろう。

今回は、舞台となる山形の地酒「東北泉 純米吟醸 出羽燦々」をチョイス。
東北の代表的な酒米である出羽燦々を大吟醸水準である50%まで精米し、鳥海山の伏流水で仕込んだ酒で、林檎を思わせるほのかな香りと適度な酸味が特徴。
全体の印象はまろやかで芳醇な甘さを感じ、とても飲みやすい。
映画の余韻をより深く、心に染み込ませてくれるだろう。

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