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イキガミ・・・・・評価額1500円
2008年10月09日 (木) | 編集 |
間瀬元朗原作の人気コミックの映画化。
もしもあなたが24時間後に確実に死ぬと言われたら、一体どのようにして過ごすだろうか。
全く理不尽な死に、どのようにして向き合うだろうか。
瀧本智行監督「イキガミ」は、死が国家によって強制される世界を描いた、日本映画では極めて珍しいディストピア物の佳作である。

「国家繁栄維持法」という、奇妙な法律がある国。
命の大切さを実感できるようにと、18歳~24歳までの若者の千人に一人が、毎年この法律によって殺される。
対象となる者には、死の24時間前に死亡通知書、通称イキガミ(逝紙)が届けられる。
藤本賢吾(松田翔太)の仕事は、イキガミの配達人。
今回、彼が配る相手は三人。
一人目は、初めてのテレビ出演を控えた歌手の田辺翼(金井勇太)。
二人目は、国家繁栄維持法の守護者であり、保守系政治家の母(吹雪ジュン)を持つ引きこもりの滝沢直樹(佐野和真)。
三人目は盲目の妹に角膜の移植手術を受けさせたいと願う、チンピラの飯塚さとし(山田孝之)。
イキガミを届けられた彼らは、三者三様の24時間を歩みだし、彼らを見守る賢吾の心にも微妙な変化が生まれてくる・・・


ディストピアとはユートピアの反対語であり、理不尽で不寛容な全体主義社会や管理社会の事で、近未来やパラレルワールドを舞台とする作品が多い。
欧米ではSFの一ジャンルとして確固たる地位を築いており、たぶん一番有名なのは何度も映像化されているジョージ・オーウェル原作の「1984」だろう。
ギリアムの「未来世紀ブラジル」やキューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」から、一昨年のアルフォンソ・キュアロンの力作「トゥモロー・ワールド」まで、多くの名作傑作が連なるジャンルでもある。
ところが日本人は根が楽天的なのか、邦画ではあまりメジャーなジャンルとは言えず、近年では中学生同士が殺し合いをさせられる問題作「バトル・ロワイヤル」が記憶に残る程度だ。

「イキガミ」の舞台となるのは国家繁栄の名の下に、若者の千人に一人が国家によって選別、殺害される国。
明らかに日本なのだが、日本という言葉は出てこない。
面白いのは、この映画の世界が現実の日本と異なるのは、国家繁栄維持法という法律の存在だけという点で、どうやら言論の自由もあり民主的な選挙も行われている様だ。
唯一、国家繁栄維持法だけが不可侵な法律であるらしく、この法律に反する者は思想犯として扱われる。
厳密に考えると果たしてそんなことがあり得るだろうかという気もするが、極めて日常的な世界に一つだけ異なる設定を投げ込むという手法は、作品世界を観客の身近に引き寄せ、リアルに感じさせるという点でそれなりに成功していると思う。

イキガミが届けられる三人は、ストリートミュージシャン、引きこもり、闇金回収業のチンピラと、境遇は異なるものの、現代日本のそれぞれのステージを象徴する若者像と言って良いだろう。
彼らは自らの死を告げられた瞬間から、戸惑い悲しみながらも、間近に迫った人生のまとめに向けて走り出す。
まるで、設定上の国家繁栄維持法の精神そのものに、死を真剣に見据えた時に初めて全身全霊をかけて生きるのである。
この物語のテーマは、素直に取れば生きる事の意味そのものだろうし、実際オムニバス的に語られる彼らの最後の24時間のドラマは、どれも短いながらも見応えがある。
原作者の間瀬元朗自らも参加した脚本の出来栄えはなかなかだ。

ただこの作品が面白いのは、三人の若者たちの生と死のドラマが、全体として見ると藤本賢吾という語り部の目を通した、ある種の国家論になっている点であり、実はこの映画の真のテーマはこちらではないのかという気がする。
イキガミ(逝紙)とはつまりアカガミ(赤紙)の事であり、この世界が第二次大戦前の日本のメタファーなのは一目瞭然である。
国家によって殺される18歳から24歳という年齢も、多くの国での徴兵年齢である。
劇中で語られる国家繁栄維持法という法律の存在意義は、千人に一人は確実に死ぬという状況を作る事で、人々に命の大切さ生の素晴らしさを実感させ、その結果として出生率は上がり、GNPは上昇を続け、国家の繁栄がもたらされるという事の様だ。
つまり、この映画の国家は、嘗て大東亜共栄圏という国家の理想を掲げ、数百万の国民を死に追いやった日本という国家と同じように、繁栄の名の下に個人の人間性を犠牲にし、切り捨てる事で維持されているのである。

瀧本智行監督はメタファーを巧みに使い、泣ける物語に描かれる人間性とは対極にある国家という物の正体を少しずつ暴いてゆく。
劇中で、藤本を捉えた監視カメラの映像が印象的に使われるが、映像を見ているのが誰なのかは、一切描写されない。
それはつまり、自己繁栄という目的意識を持った国家という一つの生物の目線であり、だれか個人が見ている訳ではないのだ。
藤本が機械的なイキガミの配達を強いられる様に、カメラの向こうで監視している人間にしても、それは国家の一ピースとしての存在であり、そこに主体的な意識は存在しない。
同様に藤本が通勤に使うモノレールのいかにも頑強そうなレールもまた、人々から思考を奪い去り、定められた道だけを歩ませようとする国家の象徴だろう。
個人が不在で、国家の意思だけが存在する社会、それはどんな民主的な選挙が行われていようが、言論の自由があろうがなかろうが、成立してしまう可能性はある。
国家とはそれ自体が意識を持った生き物で、個人の価値観とは根本の部分でぶつかり合う運命であり、国家の幸せは、イコール個人の幸せとは限らないのである。
ディストピア物の多くは、壮大なSF設定や徹底的に世界観を構築した管理社会の描写を通して、この事実を描き出すが、たった一つの設定だけで同じ事をさりげなく、しかしきっちりと表現している「イキガミ」は、実はかなり効率的かつユニークな作品であると言えるのではないか。

ちなみに、この映画の公開にあわせる様に、「イキガミ」と星新一の短編小説「生活維持省」との類似が話題となっているが、個人的には実に馬鹿げた話に思える。
「生活維持省」は星新一らしいシニカルで良く出来た短編だが、共通点は政府によって選別された国民が殺害されるという発想点だけであり、殺害の対象も方法も目的も異なる。
この発想自体は別に「生活維持省」が始めてという訳ではないし、仮に「イキガミ」の原作者がこの作品からヒントを得たとしても、少なくとも実際の物語に共通点は皆無である。
私は「イキガミ」の原作を全部読んだわけではないが、これがパクリというのなら、タイムトラベル物は全て「タイムマシン」のパクリだし、人間の乗る巨大ロボットは全部「マジンガーZ」のパクリになってしまう。
元々創作というのは長い歳月の間、無数の人材が影響を与え合って生み育ててきた物であり、単なる発想に著作権を認めたら、創作など不可能になってしまう。
黒澤版「隠し砦の三悪人」から「スターウォーズ」を経て、樋口版「隠し砦の三悪人 / The Last Princess」にいたるプロセスは、創作の循環の好例だろう。
著作権の保護は大切な事だが、極端に考えすぎると創造性そのものを破壊してしまうのである。
あの世で星新一が聞いたら、この様な騒ぎは決して望まないだろうと思うのだが。

今回は、もし自分が余命24時間を宣告されたら、飲みたいお酒。
石川県の「天狗舞 古々酒吟醸」をチョイス。
琥珀色に仄かに色づいた液体は芳醇の一言。
口に含むと複雑で奥深いうまみを残して、柔らかな香りと共に滑らかに喉を潤してゆく。
正に古代から人々によって脈々と受け継がれてきた、日本酒の持つ創造性の結晶
出来れば墓場まで持って行きたい酒である。

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