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スラムドッグ$ミリオネア・・・・・評価額1750円
2009年04月20日 (月) | 編集 |
1900万人がひしめき合う、インドのムンバイを舞台に、スラム育ちの無学の青年が、巨額の賞金が懸かるクイズ番組に挑戦する、ダニー・ボイル監督の異色作。
「スラムドッグ$ミリオネア」というタイトルは、野良犬と揶揄されるスラムの貧困層と、クイズ番組のタイトルでもある億万長者「ミリオネア」を掛け合わせた物だ。
英語劇ではあるものの、全編インド人俳優がインドを舞台に演じる本作が、アカデミー賞で8冠を獲得して圧勝したのは不思議な感じがしたし、観る前はスラムの現実を告発する様な社会派作品なのかと思っていた。
しかしなるほど、観て納得。
ここにあるのは愛と冒険と涙と笑いが詰まった、正に王道を行く正統派の娯楽映画である。

インド、ムンバイ。
この街で育った青年ジャマール(デーヴ・パテル)は、大人気クイズ番組の「Who Wants to Be a Millionaire」に出演する。
どうみても、育ちが良いとは言えないジャマールだったが、大方の予想に反して、出される問題を次々とクリア、遂に億万長者へ最後の一問というところまで到達する。
最終問題は翌日に収録される事になるのだが、テレビ局を出た彼は突然逮捕されてしまう。
「スラムの犬」が、どんな不正をして答えを知ったのかと迫る刑事に対して、ジャマールは彼の辿ってきた驚くべき人生を語りはじめる・・・


かつては英語読みのボンベイという名で呼ばれたインドのムンバイは、世界有数の映画の街、ボリウッドの愛称でも知られている。
今から15年ほど前に、私の友人がこの街を訪れた事があり、彼から旅の土産に聞いた話しが今でも記憶に残っている。
何でも飛行機が空港に近づくと、地表に大きなピラミッドの様な物が幾つも見えるのだそうである。
そして飛行機を降りると、鼻を突く強烈な臭気と共に、何十人というスラムの子供たちが群がって来る。
やっとの事でタクシーを拾って街を抜けて行くと、さっき飛行機から見たピラミッドの様な物が、巨大なゴミの山である事がわかり、しかもその山には幾つもの出入り口が付けられ、まるで横穴式住居よろしく人々がトンネルを掘って暮らしてたそうだ。
彼は二度と行きたくないと話していたが、私はそんなSFみたいな情景を、一度はこの目で見て、体験してみたいと思ったものだ。
残念ながら、私自身は未だインド訪問の夢は果せていないが、恐らくこの映画に描かれる主人公の幼少時代はちょうど15年くらい前だろうから、友人が見た風景もこんな感じだったのかもしれない。

物語の構成が抜群に上手い。
冒頭、スラムを駆け抜ける少年たちを活き活きと描写すると、いきなり警察で取調べを受ける主人公ジャマールのシーンに飛ぶ。
人気のクイズ番組「クイズ$ミリオネア」(「ファイナルアンサー?」というフレーズで有名な、英国生まれの番組のインド版である)に出演した彼は、破竹の快進撃で最後の問題までたどり着くのだが、スラム出身の無学な青年がそんなに物知りなのはおかしいと疑われて逮捕されてしまうのだ。
果たして彼は、医師や弁護士ら多くのインテリエリートたちが挫折したクイズの答えを、なぜ知っていたのか?という興味でまずは観客の心をつかむ。
そしてクイズ番組の進行と、警察での取調べ、そしてかけられた疑いを晴らす、それまでの彼の人生の軌跡が三つの流れとして描かれ、最後の最後に全てが一つに収束して行くという寸法だ。

ジャマールの辿ってきた人生は凄まじい。
憧れの映画スターにやっとの事でサインを貰った幼少期は、まだ貧しいながらも幸せだったが、幼くして宗教紛争で親を殺され、敵の神を知る事になる。
映画スターの名は?ヒンズーの神が手にしている物は?といったクイズの答えは、彼にとっては学問としての知識ではなく、実体験なのである。
ジャマールは、兄のサリームとやはり孤児となった少女ラティカと三人で暮らし始めるが、デュマの「三銃士」に自分たち三人を重ねており、これは物語のクライマックスの重要な複線となっている。
だが、やがて彼らは子供を食物にするギャングに捕まってしまい、ジャマールとサリームは何とか逃げ出すものの、ラティカを置き去りにする事になってしまう。

いつか初恋の人ラティカを救い出すという熱い想いは、やがてジャマールの人生を支配し、強烈な疾走感と共に物語をを突き動かす。
鉄道で勝手に物売りをし、ニセ観光ガイドとして白人の金をちょろまかし、ホテルのレストランで皿洗いをして、必至に成長しながらも一時も彼女の事を忘れない。
ラティカもまた、幼い頃に別れた彼のことを、半ば諦めながらも密かに想い続けている。
そう、これは今時珍しい超ストレートな純愛物語なのである。
ラティカへの想いが、ジャマールにとってどんなに辛い状況でも懸命に生きるエネルギーとなり、クイズ番組への出場も、行方のわからない彼女を探すため。
たった一つの願いに向けて突き進むジャマールの人生は、全くぶれない。
この点において、彼は観客がよほどの捻くれ者であっても感情移入してしまう、正統派の熱血ヒーローである。
そして、直球で生きる弟とは対照的に、打算的な兄サリームはやがて裏社会で生きるようになり、折角再会を果したジャマールとラティカの中を引き裂くという、悪役的な役回りとなる。
ジャマール、サリーム、そしてラティカのキャラクターは、それぞれに物語の中で極めて寓話的な役割を与えられており、彼らの関係性がこの作品の持つテーマ性に深くかかわってくる。

ここしばらくの間、ゾンビ映画やSF映画の設定を使って、クールな心理劇を作って来たダニー・ボイルだが、この作品の持つ人間へのパワフルな描写力は、間違いなく彼の出世作である「トレインスポッティング」を連想させる。
ボイルは、典型的な娯楽映画の形をとりながら、綿密に作りこんだ物語を通して、この世界の一面を描写する事も忘れない。
無学のジャマールがクイズ番組で億万長者となり、ギャングに囚われた初恋の彼女を奪還するという筋書きは、映画として説得力はあるものの、現実的に考えれば御伽噺の類だろう。
実際彼がクイズの答えを知っていたのは、たまたま同じシチュエーションが彼の人生にあったという、神が味方でもしなければまずあり得ない偶然の産物であって、見方によっては御都合主義とも言える。
だがボイルは、ジャマールのサクセスを通して、この作品を通して夢を見るしかない圧倒的多数の人々の存在感を、逆説的に描いて見せたのではないか。
ボンベイからムンバイへと時代が移り変わり、少なくとも表面的には目覚しい発展を遂げているインド。
だが映画に出てくる本物の「ミリオネア」たちはギャングの親分であったり、傲慢なテレビの司会者であったり、ろくな人間としては描かれない。
ミリオネアは夢、でも幸せとはそれだけではない。
2000万ルピーを獲得したはずの主人公だが、実際に金を受け取る描写は無く、彼が求めるのはあくまでもラティカなのである。
真っ当に生きる人間がサクセスする物語が、実は一番現実的でないという事実を微妙に感じさせつつも、ジャマールの冒険に感情移入し、喝采を送る事で、観客は無意識に自らを肯定出来る。
未曾有の経済危機に陥ったアメリカで、この作品が予想外に受けた理由も、この作品の持つ観客と作品世界との独特の一体感にある様な気がする。
これがハリウッド映画だったら、むしろ嘘を強く感じてしまったのだろうが、実質的なインド映画であることから、素直に作品世界を受け入れられたのではないだろうか。

もっとも、そんな深読みをせずとも、これは娯楽映画のエッセンスが全て詰まった、老若男女全てに薦められる傑作であることは間違いない。
素直にジャマールの冒険に喝采を贈るも良し、様々な要素が複雑に組み合わせられたプロットに作家が託した意味を読み解くも良し。
スラムの子供たちの逞しさに魅了される冒頭から、ラストの粋なサプライズ!まで全くムダな所のない至福の2時間である。

残念ながらインドの酒は飲んだ事がない。
実際かの国では宗教的な理由からなのか、あまりアルコールがポピュラーではないらしいのだが、地酒の類はあるようなので、いつか行って飲んでみたいものである。
今回は、スクリーンからも熱風が吹き付けてきそうな暑い映画だったので、熱帯のタイのビールにしよう。
タイ料理店でもお馴染みの「シンハー」をチョイス。
ビールというものはその生産地で飲むのが一番美味しいものだが、日本でこれを飲むならやはり夏だろう。
今はちょっと早いが、色々な意味で熱い映画の後で、気持ちをクールダウンするにはちょうど良いかもしれない。

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