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チェイサー・・・・・評価額1800円
2009年05月13日 (水) | 編集 |
いやはや凄い映画がやって来た。
「チェイサー」は、ソウルの裏通りを歩くのが恐ろしくなる、超ヘヴィーなクライムスリラー
2時間の間、息をもつかせぬ緊張感と疾走感が持続する圧倒的な演出力と、どす黒い心の闇と微かな希望が目まぐるしく交錯する大胆かつ緻密に構成された脚本が観客をグイグイ引っ張る。
人間の負の情念が渦巻く、巨大都市ソウルの得体の知れないダークサイドに放り出された観客は、もはや打ちのめされ、途方にくれるしかない。
本国で500万人以上を動員したのも納得の、文句なしの傑作である。

しがないデリヘルの経営者で、元刑事のジュンホ(キム・ユンソク)の元から相次いで女たちが失踪。
当初は手付金を持ち逃げされたと思っていたが、消えた女たちが同じ携帯電話から呼び出された事が判り、何者かによる人身売買を疑いはじめる。
ちょうど同じ番号から呼び出されていた配下の女ミジン(ソ・ヨンヒ)に、男の住所を確認したらメールを送るように命じる。
しかし、ミジンもそのまま失踪。
ジュンホは、残された携帯番号から、謎の男ソンミン(ハ・ジョンウ)にたどり着く。
ソンミンは「9人殺した。だが最後の一人だけはまだ生きている」と嘯くのだが・・・


韓国映画で題材が猟奇殺人というと、未解決の華城連続殺人事件を追ったポン・ジュノ監督の大傑作「殺人の追憶」がまず思い浮かぶが、この「チェイサー」は全く異なるスタイルながら、作品のインパクトでは負けていない。
「殺人の追憶」と同様に、この作品にもモデルとなった現実の事件が存在する。
2004年に韓国社会に衝撃を与えた「ユ・ヨンチョル事件」がそれで、わずか10ヶ月の間に出張風俗嬢を中心に21人を次々と殺害した事件の顛末は、日本でもずいぶん報道されたので覚えている人も多いだろう。
なんでも、この犯人を実際に逮捕したのは警察ではなく、女性たちの失踪を不審に思って行方を追っていた風俗店の店長だったという。
映画を観ていると、警察のあまりのバカさ加減に呆れるが、実際の事件でも警察は犯人を再三取り逃がしているというから驚きだ。
もっとも、日本でも失踪した女性の捜索に警察が動こうとせず、女性の両親が自分たちで捜査し証拠を集めて殺人犯を逮捕したという事件がほんの数年前にあったばかりだから、決して韓国の警察の官僚主義を笑う事は出来ないのだが。

ナ・ホンジン監督は、この事件の大枠をモチーフにしつつ、非常に魅力的な二人の主人公を造形し、彼らを中心に物語を組み立てている。
一人は元刑事のデリヘル店長であるジュンホ。
そしてもう一人は猟奇殺人犯のソンミン。
殺人鬼であるソンミンは当然だが、主人公であるジュンホもまたワケアリの人物である。
劇中で詳しく語られることは無いが、どうやら刑事時代から女衒の様な副業をやっていて、不祥事で退職した今は、それが本業になってしまっている。
女性を次々と殺害する殺人鬼と、女性を使って稼ぐ元刑事。
これは言わば、社会の裏側で人知れず生きている、一匹の狂犬と一匹の野良犬による壮絶なドッグファイト。
最初、失踪したミジンに対して、それほど思い入れを持っている様には見えないジュンホが、ソンミンという怪物と対決して行くうちに、強迫観念に駆られる様にミジン救出に奔走し始めるのは、ソンミンの存在によって自分自身に対する贖罪の意識を刺激されたからなのかもしれない。

作劇のロジックが見事だ。
ジャンル的にはクライムスリラー、あるいはミステリのカテゴリに入る作品だろうが、実のところこの映画に謎解きは全く無い。
劇中でジュンホが探し回るソンミンの隠れ家も、生死不明のミジンの状態も、二人の主人公のどちらかが知る情報は、全て観客に対しては開示されている。
我々は言わば全てを知っている第三者としてこのドラマに参加している訳だが、実は知っているからこそのもどかしさがある。
ジュンホがミジンを探して必至になれば必至になるほど、ソンミンが大胆不敵な行動で、警察やジュンホを煙に巻けば巻くほどに、観客は自からがスクリーンに飛び込んで、全てを教えたくなるのだが、現実にはそれが出来ない無力感に打ちひしがれ、絶望を感じるのである。
もちろん、このようなロジックは、描写が徹底的にリアルで、臨場感を感じさせる物になっていて初めて成立する。
その点で、ナ・ホンジン監督は完璧な仕事をしていると言って良い。
観客は、日常の裏側にあるもう一つのソウルをジュンホと共に駆け巡り、彼の焦燥感や息遣いまでも、まるで間近にいる人間の様に感じ取れるだろう。

韓国映画の例に漏れず、この作品も単なるクライムスリラーの枠を超えて、暴力性と物語の背景にある政治性・社会性の不思議な融合を垣間見せるが、例えばパク・チャヌク作品ほど暴力が自己主張する事はなく、ポン・ジュノ作品ほど社会性が前面に出ることもない。
これらの要素はあくまでも作品のスパイスに留まり、ここに描かれているのは、やはり激突する二人の主人公の魂の物語だ。
正に火花散る対決を見せるキム・ユンソクハ・ジョンウが鮮烈。
殺人鬼ソンミンを演じるハ・ジョンウは、異色の軍隊ドラマ「許されざる者」が印象的だったが、ここでは温厚そうな仮面の下に恐るべき嗜虐性を秘めた猟奇殺人鬼を怪演している。
変幻自在のキャラクターで、警察を手玉にとる殺人鬼役は、彼の代表作になるだろう。
対するジュンホを演じるキム・ユンソクは、ちょっと「殺人の追憶」のソン・ガンホとも被るキャラクター。
一見いかにも何処にでもいそうな韓国のおっちゃんで、物語の最初のほうではキャラクターも軽妙だが、事件が核心に突き進み、彼が品物の様に扱って来た女性たちにも、当たり前の人生がある事を知ってからは、ソンミンの仕掛けた見えない巨大な悪意に命がけで立ち向かって行く。
彼の内面を大きく突き動かす事になる、ミジンの幼い娘を演じたキム・ユジョンとのコンビは、ちょっと「グロリア」か「レオン」の様な雰囲気もあって、物語の重要なアクセントとなっている。

それにしても、これほど完成度の高い作品を、長編処女作となる新人監督が作ったというのが凄い。
演出だけならともかく、脚本もオリジナルで書いているのだから、これはホンモノだ。
スリルとサスペンス、恐怖と希望、そして絶望が怒涛の勢いで過ぎ去ってゆくドラマの果てに、映画は予想もしなかった意外な終幕を迎える。
全てが終わった後、煌びやかな高層ビルがそびえるソウルの中心街が、窓枠によってまるで別世界の様に切り取られた病室で、忘れられた者同士の絆をかすかに感じさせる、この映画の深く切ないラストは、映画の神に祝福された者にしか決して撮れまい。
スピルバーグの「激突!」やトリュフォーの「大人は判ってくれない」にも匹敵する、映画史上最も注目すべき長編デビュー作の一つである事は間違いなく、ナ・ホンジン監督の今後は要注目である。

「黄金週間」という言葉が、元々映画興行界から生まれたという、殆ど忘れられた事実を思い起こさせるほど、洋画も邦画も粒ぞろいの今年のGW映画にあっても、このとてつもなく怖くて切ない韓国映画は異彩を放つ。
上映館の少なさが残念だが、これもまた必見の作品と言っておこう。

今回は、唐辛子がたっぷり入ったチゲの様に、体温が一気に上がりそうな熱い映画。
観賞後は、「OBラガービール」でクールダウン。
この映画の熱気を冷ますには、キンキンに冷やして、3本くらい一気に飲みたいくらいだ。

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