fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。

■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
愛を読むひと・・・・・評価額1650円
2009年07月01日 (水) | 編集 |
「愛を読むひと」というタイトルからして、てっきり恋愛物だと思っていた。
実際始まってから3、40分の展開は、懐かしの「青い体験」みたいな物で、15歳の少年と20歳以上も年上の女性との恋物語は特に新鮮味は無い。
ところが、彼らのつかの間の逢瀬が終わってからの意外な展開は、ある意味ショッキングであり、なるほどこう来たかというインパクトがある。

1958年、西ドイツのノイシュタット。
15歳のマイケル(デヴィッド・クロス/レイフ・ファインズ)は、突然気分が悪くなり苦しんでいるところを、路面電車の車掌として働く21歳年上のハンナ(ケイト・ウィンスレット)に助けられる。
やがて二人は人知れず逢瀬を重ねる仲になる。
ハンナはいつもマイケルに本の朗読を求め、その後情事を重ねる毎日。
だが会社から昇進を告げられたある日、ハンナは忽然と姿を消す。
8年後の1966年、大学の法学部で学ぶマイケルは、ゼミで傍聴に訪れたナチス時代の戦争犯罪を裁く裁判の被告席に、懐かしいハンナの姿を見る。
裁判に通ううちに、マイケルはハンナがずっと隠してきたある「秘密」に気づくのだが・・・


「青い体験」状態の前半では、わざわざドイツを舞台にしている事の意図がよく判らなかったが、全体を通してみると納得。
これはハンナという一人の女性の半生と、戦後ドイツ史を絡ませた大河ドラマなのだ。
二人がただ情事に溺れている間には、それほどの意味があるとは思わなかったさりげない描写、意味深なタイトルといったピースが、物語が進みにつれてハンナの隠された過去にピタリと嵌ってゆき、そこには戦後ドイツ史の抱える複雑な葛藤が浮かび上がってくるという寸法だ。

同時にこれは、15歳の少年と36歳の中年女性の恋に比喩された、戦前・戦中の記憶を持つ古いドイツと、戦後の新しいドイツの邂逅の物語でもある。
国家というマクロ的な視点ではなく、ごく普通の市民の持つ戦争の歴史
物語の中でハンナはホロコーストに関与した戦争犯罪で裁かれるが、これは彼女の「罪」や戦争の残虐性を描く話ではない。
1958年からほぼ40年間に渡る物語の中で、ハンナとの関わりを通して考え続けるマイケルの視線を借りて、私たちに突きつけられる重い問いかけが本作の本質だ。
ただ与えられた仕事に対してあくまでも忠実だったハンナを、当時見て見ぬフリをしていた人間たちに裁く権利があるのかという疑問。
二人だけが知るハンナの「秘密」は、もしかしたら彼女を無罪に出来るかもしれない事だが、あくまでも誇り高い彼女はその事実に口を噤む事を選び、マイケルもまた彼女を愛した男として一つの選択をする。
映画は繰り返し、繰り返し、観る者に問う。
もしも私たち観客が、戦争中のハンナだったら、あるいは裁かれる彼女の過去を知ったマイケルだったら一体どうするのか?

「リトル・ダンサー」スティーブン・ダルドリー監督は、不思議な出会いをした男女の40年間に渡る時を誠実に描き、人間存在の本質に迫ろうとしている。
人は誰でも、過ちを犯したくは無いのだけど、人生の中ではその時々の葛藤があり、うまくいく時もあれば、いつの間にか決して望んでいない方向に転んでしまうこともある。
そんな人間を単に愚かと切り捨てる事もできるだろうが、でもそれを含めて人間であり、だからこそ切ないほどに互いが愛しいのだ、というのがダルドリーのスタンスである様に思う。

作品のテーマ性を体現する、ハンナを演じるケイト・ウィンスレットは、本作でオスカーを受賞。
人生に疲れた薄幸の中年女性を演じさせたら、間違いなく今世界一だろう。
もっとも本人はまだ34歳で老け込む歳でもないのだけど、今回は秘められた過去を持つ厭世的なキャラクターという事もあって、彼女の演技力が際立つ。
出演作の中では、やはり「タイタニック」の知名度が圧倒的なのだろうけど、元々この人は18歳で主演したピーター・ジャクソンの「乙女の祈り」以来、心のどこかがちょっと壊れちゃった役を得意とする。
前作の「レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで」で演じた主婦とは、あらゆる面で対照的なのだが、抱えている物はどこか共通する。
キャラクターの説得力はどちらも出色の出来栄えだったが、こちらがオスカーの対象となったのはやはり役柄のリスキーさ、演技者としてのチャレンジがより必要な作品だったからだろうか。
相手役のマイケルは、少年時代の50、60年代をデヴィッド・クロスが、それ以降をレイフ・ファインズが演じ、90年代のファインズは物語のストーリーテラーとしての役割りも持つ。
そう言えばファインズが大ブレイクしたのは、ナチスの絶滅収容所の所長を演じた「シンドラーのリスト」だった。

「愛を読むひと」は、骨太なテーマを内包した歴史ドラマであり、切ない愛を描いた人間ドラマでもある。
2度のオスカーに輝く名手、クリス・メンゲスとロジャー・ディーキンスによる、重厚な空気感のあるカメラも素晴らしく、緻密に再現された時代性を含めて映像的にも見ごたえはたっぷりだ。
観た人の心に長く余韻を残す力作である事は間違いない。
ただ、物語のキーとなるハンナがひた隠す「秘密」が、はたして一生の自由と引き換えにするほどに「恥ずかしい」物かと言うと疑問だ。
300人を虐殺した殺人者というレッテルよりも、こちらの方が彼女の誇りを傷つけるとは思えない。
まあこれが違う秘密だと物語の根本が崩れてしまうし、もしかしたら原作ではもう少しフォローがあるのかもしれないが、これはミステリアスな物語全体のパーツを繋ぎ止めるコアの部分。
映画を観る限り、この理由付けは少し弱く、映画全体の印象がやや曖昧になってしまった感があり、その点はちょっと残念なポイントだ。

さて、今回は映画の舞台となるドイツワイン、ミュラー・カトワールの「ハムバッハー・ レーマーブルンネン・ カビネット」の2003をチョイス。
辛口ながら、喉越しはやわらかくとてもフルーティな白で、これからの暑い季節にもぴったりだ。
この爽やかさは、どちらかというとケイト・ウィンスレットの様な熟女というよりは、若々しい村娘という感じだけど。
ドイツワインは比較的コストパフォーマンスが高いのも魅力だ。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

こちらもお願い





スポンサーサイト