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ノウイング・・・・・評価額1350円
2009年07月11日 (土) | 編集 |
ニコラス・ケイジ主演のSF映画というだけで、なんとなくラジー賞の香りを嗅ぎ取ってしまうのは、良くない先入観と言うべきか。
もっとも、予告編の印象から大味なディザスターSFかと思っていると、色々な意味で裏切られる。
「ダークシティ」「アイ、ロボット」の、アレックス・プロヤス監督が作り上げた「ノウィング」は、どちらかというとM・ナイト・シャマラン風のミステリSFで、意外と言っては失礼ながら、細やかに計算され、しっかりと作られている。
ただ、この作品の持つ独特の世界観は、人によって好き嫌いがはっきりと別れそうだ。

MITで宇宙物理学の教鞭をとるジョン(ニコラス・ケイジ)は、小学生の息子ケイレブ(チャンドラー・カンタベリー)と二人暮らし。
ある日、ジョンはケイレブの鞄の中に、奇妙な数列が羅列された紙を見つける。
それはケイレブの通う小学校の創立50周年記念のイベントで、半世紀前に埋められたタイムカプセルから取り出された物だった。
数列にある規則性を見出したジョンは、そこに記載されているのが1959年以降に起こった事故や大災害の発生日時と犠牲者数である事を発見する。
しかもそこには、未だ起こっていない3件の悲劇が「予言」されていた・・・


冒頭、1959年に少女ルシンダが「啓示」を受け取るシークエンスから、謎が謎を呼ぶ形で展開する。
50年間封印されていた暗号、子供にだけ聞こえるささやき声、ケイレブに迫る謎の男たち、そして街を襲う異様な熱波。
SFやミステリ好きならは、思わず身を乗り出してしまう上手い展開だ。
実際映画が始まってから1時間あたりまでの謎解きは一つの謎を解明しかかると、次の謎が浮かび上がるように構成され、飽きさせない。
この作品は、バジェットが1億ドルを超えるような超大作ではないので、ビジュアル的な見せ場はやや控えめながらも、飛行機の墜落や地下鉄事故などのVFXも迫力があり、次々と的中する「予言」に直面する主人公の戸惑いと恐怖を伝えると言う役割は、十二分に果していると言って良いだろう。

常にワンパターンの演技しか出来ないニコラス・ケイジも、監督が彼のキャラクターを心得ている事もあり、上手く生かされている。
大学教授のくせに状況説明が下手すぎるのはハリウッド映画のお約束だが、自分の手に負える範疇を遥かに超える事態に直面し、葛藤する等身大の悩める父親象は、いつものヒーローキャラ以上に説得力があった。

もっとも、映画を観終わって感じる物は、正直なところ何も無かった。
それは、この映画の断定的な結論と、おそらくは神学的な世界観に原因がある。
世界の全ては既に決定されているのか、それとも偶然の連続によって瞬間瞬間に生み出されて行くのか。
映画が始まって間もなく示される、この決定論と非決定論という、世界の認識に対する根源的な問いこそ、この作品の実質的な核である。
映画は、最初この決定論をロジックに使った謎解きミステリと思わせながら、やがて予想外の方向に進んで行くのだ。
いや、正確にいえば物語の展開そのものにそれほど意外性は無い。
数列に隠された予言の謎が解ければ、次はその予言は何処から来たのかという謎に繋がるのは必然であり、ケイレブに付きまとう謎の男たちの正体も、この手のSFを観慣れた人には容易に想像がつくだろう。
予想外なのは、物語の結末がそのまま宗教的な世界に落とし込まれてゆく事である。

終末の時、選ばれし者たちが、神に使わされた天使に導かれ、生命の樹が風になびく新たなるエデンの園へ到着するラストは、まるっきり宗教画の世界だ。
まあ厳密には天使とは言ってないのだけど、クライマックスの昇天シーンなどでは明らかにビジュアルで天使をイメージさせており、意図は明快だろう。
要するにこれは「星を継ぐもの」の物語であり、ある意味でプロヤス版の「2001年宇宙の旅」であり、「新世紀エヴァンゲリオン」なのだろうが、そこにいたるまでのプロセスが、極めて宗教的な決定論に基づいているのである。
何しろ、ニコラス・ケイジが何を悩もうと、何を探し出そうと、この映画の結末は全てはじめから神の御心のままに決まっていた訳で、ぶっちゃけ登場人物の行動は全部ムダというのがこの映画の結論なのだ。
同時に、これはSF的な解釈による旧約聖書の映像化でもある。
本作で引用されているエゼキエル書の、堕落したイスラエル人を嘆く神の「乗り物」の描写は昔からUFOだという説があり、この映画もそのあたりにインスパイアされていると思われる。
エゼキエル書では、預言者を拒否し神を軽視するイスラエルは滅び、ユダヤの王国はゼロからリセットされる事になるのだ。

「ノウイング」は入り口はミステリSFだが、出口は宗教映画であった。
たぶん、この映画は終末論者、特に救いの時には神が人間を選別するという予定説などを信じている人たちには、ある程度の説得力を持つ物語なのだと思う。
だが、決定論者でも運命論者でもない私としては、事実上の神を持ち出して、人間は結局その掌の上という結論は、人間存在を自己否定するようなニュアンスを受けてしまった。
もちろん例外もあろうが、基本的にドラマツルギーと言うのは人間の自由意志を前提に、行動し、葛藤し、運命を切り開いて行く事で成り立っていると思う。
その意味で、この映画の結論はドラマツルギーの否定でもある。
まあこの作品の場合、最後に訪れた家族の和解という事だけは、ジョンの自由意志による変化と言えなくもないが、全体で観ればこれも決定論の結果として導き出された行動なので、印象としては弱い。
実際のところ、この世界が既に決定されているのか、そうでないのかは、私にはわからない。
ただ、超越的な存在に全てが決定されていて、人間はそれを受け入れるだけの物語に、私は積極的に意味を見出すことは出来なかった。
キリスト教国であるアメリカでもコケたのは、やはりこの世界観に違和感を持った人が多かったのではないかなあと思うのだが。
もっとも、ミステリSFとしては良く出来ているし、日本ではまず出てこない類の映画であることは間違いない。
この映画を観て、果たして自分はどう感じるのか、試してみる価値はあるかもしれない。

今回は、もしも明日世界が滅ぶとしたら飲みたい酒。
日本酒の最高峰「十四代龍月 純米大吟醸斗瓶取り 」をチョイス。
これは値段が高すぎて、未だ飲んだことが無い酒だけど、明日死ぬと判れば後先考えずに買っちゃうかもしれない。

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