2010年02月17日 (水) | 編集 |
「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」や「ジャイアント・ピーチ」で熱烈なファンを持つ人形アニメの鬼才、ヘンリー・セリック監督の最新作「コララインとボタンの魔女」が、米国リリースから一年遅れで、ようやく日本でも公開される事になった。
原作は「ベオウルフ 呪われし勇者」の脚本家としても知られる英国の作家、ニール・ゲイマンのベストセラー。
音楽はフランスのブリュノ・クーレに、コンセプトデザインには先日アニー賞を受賞したことでも話題になった日本のイラストレーター上杉忠弘と、国際色豊かなスタッフたちは、なかなかに味わい深いファンタジーアニメーションを作り上げた。
少女コラライン(ダコタ・ファニング)は、長年住み慣れた街を離れ、オレゴンの田舎にある築150年のピンクパレスアパートに越して来る。
忙しい両親はなかなか構ってくれず、友達もいない土地で暇をもてあます毎日。
そんなある日、コララインは家の中にクロスで隠された小さなドアを見つける。
ドアの向こうにあったのは、現実と似てるけどちょっと違う別の世界。
そこは優しくてコララインをとても可愛がってくれる別のママ(テリー・ハッチャー)と別のパパ(ジョン・ホッジマン)がいる、楽しくてワクワクする事が一杯の理想の世界だった。
唯一奇妙なのは、こっちでは人間の目にナゼかボタンが縫い付けられている事。
すっかり別の世界に心奪われたコララインは、元の世界と行き来する様になるのだが、ある時元の世界に戻ると、本当の両親の姿が消えていた・・・
色々な意味でセリックらしい作品である。
独特のダークな世界観と凝った造形感覚には、大人も子供も魅了されるだろう。
古い家の中に隠された小さなドアの先にある「別の世界」は、主人公であるコララインの理想が具現化したパラレルワールド。
ここは一見現実世界とそっくりながら、コララインが不満に思っていた全ての点が、180度ベターな方向に変わっている彼女の理想世界なのだ。
アパートの上の階に住む変人ポビンスキーと、地下に住む元女優だという不気味な二人の老婆たちは、別の世界では楽しいネズミサーカスに招待してくれたり、若返って素敵なステージを見せてくれたりする。
特に、二人揃ってワーカホリックで、自分に構ってくれない両親に不満を持っていたコララインは、優しく料理上手な別のママと、愉快でコララインを楽しませてくれる別のパパに夢中になる。
だが、世の中にそんなウマイ話は無いんだよぉとばかり、理想の世界は突然コララインに牙を剥く。
別のママは本当は魔女で、理想の世界もコララインをおびき寄せるために魔女が作り上げた虚構の世界だったのだ。
コララインが現実世界に逃げ帰ろうにも、いつの間にか本物の両親が魔女の手に落ちてしまっており、コララインは目にボタンを縫い付けて、魔女の世界に留まれと脅迫される。
甘い甘い夢の代償を見せ付ける、このあたりの展開はかなりホラーチックで、両親の姿をした者が、実は恐ろしい魔物であるという描写は、たぶん小さい子供には相当恐いはず。
これがディズニーのクラッシクアニメなら、ここでお姫様も囚われて、白馬の王子様の登場を待つところだろうが、コララインは宮崎アニメが大好きで「もののけ姫」の英語版脚本も担当したニール・ゲイマンの創造したキャラクターだ。
見るからに気の強そうなキャラクターデザインの通り、コララインは魔女の脅しに屈せずに、自分自身の運命を賭けて、魔女に一世一代の勝負を挑むのである。
ここからのクライマックスは、ラストまで怒涛の勢いで一気に突っ走る。
過去に魔女の犠牲となった三人の子供たちの目を奪い返し、閉じ込められた両親を救うプロセスは、伏線やアイテムを生かして目的をクリアしてゆくゲームライクな展開とも言えるが、こういう構造は元々異世界ファンタジーの王道だ。
愛する者と世界を救うために、異世界で戦う少女という構図は、年少者にも何とか見せられるもう一つの「パンズ・ラビリンス」と言ったところか。
魔女の思念が作っていた世界が崩壊するあたりは、ちょっと押井守の「うる星やつら2/ビューティフルドリーマー」を思わせる。
最近のアニメらしく、本作も立体上映を前提としているが、全体に奥行と広がりを強調したビジュアルデザインがなされており、上杉忠弘のイラストがそのまま具現化された様な、美しく色彩豊かな世界は劇場で観るべき物だ。
また、「かいじゅうたちのいるところ」が着ぐるみのかいじゅうにCDで豊かな表情を与えていた様に、この作品では人形アニメーションとCGが融合し、上々の効果を挙げている。
人形アニメーションは細かな表情を作るのが難しく、過去には顔のパーツを差し替えるパペトゥーンの手法を使ったり、顔の表情だけメカニカルを組み込んだ大型のモデルを使用したりと様々な工夫が凝らされたが、今回は人形の表情をCGによって補完することで、3DCGアニメ並みの豊かな感情表現が可能となった。
手作りの暖かさの残る昔ながらのアナログな技術と、デジタル技術の融合は今後の映像表現における一つのトレンドとなるかもしれない。
「コララインとボタンの魔女」は、ニール・ゲイマンの創造した物語を、ヘンリー・セリックが見事な匠の技で具現化した秀作だ。
この作品の最も優れた点は、コララインの寂しさや退屈といった気持ちにつけ込む形で魔女がワナを仕掛ける事で、逆に現実世界の問題を際立たせ、彼女にとっての世界の現状を無条件で肯定していない事だろう。
コララインにとって両親は理想とは程遠いし、隣人も不気味で、幼馴染とは離れ離れだし、近所の同世代は妙チクリンなオタク。
それでも、不満のたくさんある自由な世界は、他人に支配されるハリボテの理想世界よりも、自らの運命を賭けても守る価値のある物であるという事を、コララインは行動で示して見せるのである。
本作は、子供が観たらコララインに感情移入して楽しめるだろうし、大人が観ても捻りのあるダークな世界観をたっぷり堪能出来るだろう。
もちろん、親子で観るのも良いと思う。
子供が煩わしいと思っている親や、親が構ってくれなくて退屈と思ってる子供の家には、いつの間にかどこかに小さなドアが出来ているのかも知れない。
今回は、一見甘そうで、実は結構ビターなダークファンタジーという事で、「インペリアル・チョコレート・スタウト」をチョイス。
バレンタインのプレゼントに人気だという所謂チョコレートビール。
赤ワインと黒ビールを合体させたような濃厚なボディが特徴で、夏ではなく、冬に飲みたい一本だ。
アルコール度数も8.5%と高く、長期間保存できるというので、私も一年ほど冷蔵庫で寝かせてみたが、全く問題なかった。
なかなかユニークな酒である。
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原作は「ベオウルフ 呪われし勇者」の脚本家としても知られる英国の作家、ニール・ゲイマンのベストセラー。
音楽はフランスのブリュノ・クーレに、コンセプトデザインには先日アニー賞を受賞したことでも話題になった日本のイラストレーター上杉忠弘と、国際色豊かなスタッフたちは、なかなかに味わい深いファンタジーアニメーションを作り上げた。
少女コラライン(ダコタ・ファニング)は、長年住み慣れた街を離れ、オレゴンの田舎にある築150年のピンクパレスアパートに越して来る。
忙しい両親はなかなか構ってくれず、友達もいない土地で暇をもてあます毎日。
そんなある日、コララインは家の中にクロスで隠された小さなドアを見つける。
ドアの向こうにあったのは、現実と似てるけどちょっと違う別の世界。
そこは優しくてコララインをとても可愛がってくれる別のママ(テリー・ハッチャー)と別のパパ(ジョン・ホッジマン)がいる、楽しくてワクワクする事が一杯の理想の世界だった。
唯一奇妙なのは、こっちでは人間の目にナゼかボタンが縫い付けられている事。
すっかり別の世界に心奪われたコララインは、元の世界と行き来する様になるのだが、ある時元の世界に戻ると、本当の両親の姿が消えていた・・・
色々な意味でセリックらしい作品である。
独特のダークな世界観と凝った造形感覚には、大人も子供も魅了されるだろう。
古い家の中に隠された小さなドアの先にある「別の世界」は、主人公であるコララインの理想が具現化したパラレルワールド。
ここは一見現実世界とそっくりながら、コララインが不満に思っていた全ての点が、180度ベターな方向に変わっている彼女の理想世界なのだ。
アパートの上の階に住む変人ポビンスキーと、地下に住む元女優だという不気味な二人の老婆たちは、別の世界では楽しいネズミサーカスに招待してくれたり、若返って素敵なステージを見せてくれたりする。
特に、二人揃ってワーカホリックで、自分に構ってくれない両親に不満を持っていたコララインは、優しく料理上手な別のママと、愉快でコララインを楽しませてくれる別のパパに夢中になる。
だが、世の中にそんなウマイ話は無いんだよぉとばかり、理想の世界は突然コララインに牙を剥く。
別のママは本当は魔女で、理想の世界もコララインをおびき寄せるために魔女が作り上げた虚構の世界だったのだ。
コララインが現実世界に逃げ帰ろうにも、いつの間にか本物の両親が魔女の手に落ちてしまっており、コララインは目にボタンを縫い付けて、魔女の世界に留まれと脅迫される。
甘い甘い夢の代償を見せ付ける、このあたりの展開はかなりホラーチックで、両親の姿をした者が、実は恐ろしい魔物であるという描写は、たぶん小さい子供には相当恐いはず。
これがディズニーのクラッシクアニメなら、ここでお姫様も囚われて、白馬の王子様の登場を待つところだろうが、コララインは宮崎アニメが大好きで「もののけ姫」の英語版脚本も担当したニール・ゲイマンの創造したキャラクターだ。
見るからに気の強そうなキャラクターデザインの通り、コララインは魔女の脅しに屈せずに、自分自身の運命を賭けて、魔女に一世一代の勝負を挑むのである。
ここからのクライマックスは、ラストまで怒涛の勢いで一気に突っ走る。
過去に魔女の犠牲となった三人の子供たちの目を奪い返し、閉じ込められた両親を救うプロセスは、伏線やアイテムを生かして目的をクリアしてゆくゲームライクな展開とも言えるが、こういう構造は元々異世界ファンタジーの王道だ。
愛する者と世界を救うために、異世界で戦う少女という構図は、年少者にも何とか見せられるもう一つの「パンズ・ラビリンス」と言ったところか。
魔女の思念が作っていた世界が崩壊するあたりは、ちょっと押井守の「うる星やつら2/ビューティフルドリーマー」を思わせる。
最近のアニメらしく、本作も立体上映を前提としているが、全体に奥行と広がりを強調したビジュアルデザインがなされており、上杉忠弘のイラストがそのまま具現化された様な、美しく色彩豊かな世界は劇場で観るべき物だ。
また、「かいじゅうたちのいるところ」が着ぐるみのかいじゅうにCDで豊かな表情を与えていた様に、この作品では人形アニメーションとCGが融合し、上々の効果を挙げている。
人形アニメーションは細かな表情を作るのが難しく、過去には顔のパーツを差し替えるパペトゥーンの手法を使ったり、顔の表情だけメカニカルを組み込んだ大型のモデルを使用したりと様々な工夫が凝らされたが、今回は人形の表情をCGによって補完することで、3DCGアニメ並みの豊かな感情表現が可能となった。
手作りの暖かさの残る昔ながらのアナログな技術と、デジタル技術の融合は今後の映像表現における一つのトレンドとなるかもしれない。
「コララインとボタンの魔女」は、ニール・ゲイマンの創造した物語を、ヘンリー・セリックが見事な匠の技で具現化した秀作だ。
この作品の最も優れた点は、コララインの寂しさや退屈といった気持ちにつけ込む形で魔女がワナを仕掛ける事で、逆に現実世界の問題を際立たせ、彼女にとっての世界の現状を無条件で肯定していない事だろう。
コララインにとって両親は理想とは程遠いし、隣人も不気味で、幼馴染とは離れ離れだし、近所の同世代は妙チクリンなオタク。
それでも、不満のたくさんある自由な世界は、他人に支配されるハリボテの理想世界よりも、自らの運命を賭けても守る価値のある物であるという事を、コララインは行動で示して見せるのである。
本作は、子供が観たらコララインに感情移入して楽しめるだろうし、大人が観ても捻りのあるダークな世界観をたっぷり堪能出来るだろう。
もちろん、親子で観るのも良いと思う。
子供が煩わしいと思っている親や、親が構ってくれなくて退屈と思ってる子供の家には、いつの間にかどこかに小さなドアが出来ているのかも知れない。
今回は、一見甘そうで、実は結構ビターなダークファンタジーという事で、「インペリアル・チョコレート・スタウト」をチョイス。
バレンタインのプレゼントに人気だという所謂チョコレートビール。
赤ワインと黒ビールを合体させたような濃厚なボディが特徴で、夏ではなく、冬に飲みたい一本だ。
アルコール度数も8.5%と高く、長期間保存できるというので、私も一年ほど冷蔵庫で寝かせてみたが、全く問題なかった。
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