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渇き・・・・・評価額1500円
2010年03月06日 (土) | 編集 |
韓国映画界随一の映像テクニシャン、パク・チャヌク監督の最新作「渇き」は、ひょんな事からヴァンパイアになってしまったカソリック神父の物語。
とは言ってもこれはホラー映画ではない。
禁欲的で信仰に一途な主人公が、自らの内面の生と性の狭間で葛藤する、シュールでコミカルな異色のラブストーリーである。

カソリックの病院に勤める神父のサンヒョン(ソン・ガンホ)は、祈りが患者を救えない事に無力感を募らせている。
ある時彼は、聖職者ばかりが犠牲となるエマニュエル・ウィルスの治験に志願し、発病して一度は死亡を宣告されるものの、奇跡的に息を吹き返し生還する。
ところが彼の肉体は、人間の血を飲まないと病気が再発するというヴァンパイアに変貌していた。
ある時、入院していた幼馴染のガンウ(シン・ハギュン)と再会したサンヒョンは、彼の妻のテジュ(キム・オクビン)と惹かれあう。
やがて、愛欲の海に溺れた彼らは、ガンウを亡き者にしようと謀るのだが・・・・


ヴァンパイアといっても色々なタイプがいるが、本作の場合は見た目は普通の人間のまま。
牙も生えてないし、変身能力も無い。
スパイダーマン並みの身体能力を手に入れる代わりに、太陽光線には弱く、人を襲うときは、ナイフで傷つけてそこから血を吸う。
伝統的なドラキュラ系のヴァンパイアよりは、トニー・スコットの「ハンガー」やキャスリン・ビグローの「ニア・ダーク/月夜の出来事」に描かれたリアル系のヴァンパイアに近い。
これは、あくまでも主人公たちはモンスターになったのではなく、人間の内面がメタファーとして具現化した存在だと感じさせるための設定だろう。

毎度の事だが、主人公のサンヒョンを演じるソン・ガンホがとても良い。
サンヒョンは、肉欲を感じると自らを鞭打つほど信心深い男で、ウィルスの治験に志願したのも、神に祈りを届け、人の役に立ちたいという自己犠牲的な精神から。
まあ考えようによっては、彼は既にこの時点から信仰を通して欲望を感じているとも言える。
果たして神もそう考えたのか、あるいは彼の行為が神を試したと受け取られたのか、結果として信仰からは最も遠いヴァンパイアと化してしまう。
キリスト教ではキリストの血は神聖な物で、ワインをその比喩として扱う事は知られているが、夜の世界の住人となったサンヒョンが、本物の血を飲まないと生きていけなくなってしまうのはなんとも皮肉だ。

それでも人間を殺すこと無く、何とか血を手に入れていたサンヒョンに、最後の一線を越えさせるのは、幼馴染の虐げられた妻テジュ。
血を飲むという背徳的な行為によって、自らの信仰に自信をもてなくなっていたサンヒョンを、テジュは欲望の世界に引きずり込む事で生きながら地獄へ落す。
彼女は幸薄い人生を送り、元々人間不信を抱いている人物で、サンヒョンの様に信仰というストッパーを持たない。
ヴァンパイアという圧倒的な力を持った彼女は、自らを虐げた者たちの世界を破壊し始めるのだが、それは結果的に自らの世界を滅ぼす事にも繋がってゆくのである。
サンヒョンとテジュの関係は、一見すると愛欲の絆の様に思えるが、それだけではない。
二人が実は幼馴染であるという設定がキーだ。
信仰と家庭環境という違いはあれど、彼らは共に欲望を抑圧された人生を送ってきており、再会により心の深い部分でつながりを感じたのだと思う。
そしてヴァンパイア化というスイッチに触れる事で、お互いの内面に抑えられえていた物が共鳴し、増幅されコントロール不能の状況に陥ってしまったのだろう。

テジュを演じるのは若手のキム・オクビン
映画を観ると理由はわかるが、テジュ役はオファーを出した女優たちに尽く断られたそうで、キム・オクビンに決まったのは最後の最後だったらしい。
だが結果的にこのキャスティングはベストな組み合わせだったのではないだろうか。
内面の葛藤を繊細に演じるソン・ガンホの演技力に、キム・オクビンの厭世的な演技は決して負けていない。
クライマックスのあくまでも生へ執着する悪女的かつコミカルな演技は見事な物で、愚直なソン・ガンホと好コントラストを形作っており、最後を迎える二人の姿は、お互いの気持ちを理解しあう者同士の切ない情感に満ちていた。
脇では、脳出血で眼球以外を動かせなくなり、図らずもヴァンパイアカップルに囚われの身となる、ガンウの母を演じるキム・ヘスクの目の演技が強烈。
特にラストの微笑みは忘れられないインパクトを残すだろう。

パク・チャヌクは、サンヒョンの陥った奇怪な事態を、現実と心象風景的な幻想の入り混じったシュールな描写で紡いでゆく。
ヴァンパイアが昏睡状態の患者の横に寝そべって、点滴から血をチューチュー吸うなんていうシチュエーションは序の口で、サンヒョンとテジュが謀殺したガンウは、亡霊となって二人の愛し合うベッドに割り込み、運動機能を失ったガンウの母は、眼球の動きで来客に二人がヴァンパイアである事を告発しようとする。
これらの一連の描写はテンポ良く、シリアスとコミカルの狭間で絶妙な可笑しさを醸し出す。
リュ・ソンヒの遊び心のある美術も上手く演出に組み込まれ、映像で物語を紡ぐパク・チャヌクのテクニックには、今回も唸らされる。

ただし、本作は彼の映画としては、やや薄味かもしれない。
パク・チャヌクと言えばテーマを形作るメタファーを過剰なほど強調し、それを物語の中にパズルの様にはめ込んでゆくテクニックが魅力の映画作家だ。
日本で言えば中島哲也あたりが近いかもしれないが、良くも悪くも外連味タップリの映像演出は、観客をグイグイ作品に引き込む力がある。
その分しばしば自らの技に溺れる傾向があり、突っ走っている間に空中分解気味になってしまう作品も多いのだが、欠点を含めてパク・チャヌク的映画世界を形作っていると思う。
ところが本作の場合、信仰と欲望、生と性、愛と憎しみなど様々な相反するファクターを、ヴァンパイアと化した神父とその物語に比喩させているが、やや詰め込みすぎて全体の印象が拡散してしまった感がある。
代表作である復讐三部作などに比べると、テーマ的にも抽象的な内容なので、より全体に霧がかかったような曖昧な印象が強くなる。
もっとも、この曖昧さ自体が、サンヒョンの心の迷いを象徴しているとも言え、もしかしたら狙った物なのかもしれない。
圧倒的なパワーで、結論まで強引に連れて行ってくれる過去のパク・チャヌク作品とは一線を画する印象だが、ヴァンパイアという意外性のあるモチーフを使う事で、人間の心の本質に深く迫り、深い余韻を残す一本だ。

今回は、キリストの血を象徴する赤ワイン。
先日大地震に見舞われたチリから、サンタ・イネス・ワイナリーの 「カベルネソーヴィニヨン・レゼルヴァ 」をチョイス。
ふわりとした芳醇なアロマと、パワフルなボディが楽しめるコストパフォーマンスの優れた一本。
今回の地震ではチリのワイン産業も大きな被害を受けたと聞く。
安価で美味しい酒の供給源であり、世界中の貧乏な酒飲みの味方、チリの早期復興を祈りたい。

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