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息もできない・・・・・評価額1750円
2010年04月12日 (月) | 編集 |
韓国映画界からまた驚くべき才能が現れた。
その名は、ヤン・イクチュン、34歳。
彼が製作・監督・脚本・編集・主演を兼ねた「息もできない」は、昨年度の東京フィルメックスで作品賞&観客賞の二冠に輝いた他、各国の映画祭でセンセーショナルな話題となった作品だ。
韓国社会の最下層に生きる男の物語は、タイトル通りに呼吸するのも苦しくなるほどの、切なく悲しい人間の姿を描いた鮮烈なる傑作である。

容赦ない借金の取立で恐れられるヤクザのサンフン(ヤン・イクチュン)は、ある日女子高生のヨニ(キム・コッピ)と知り合う。
いきなりの殴り合いという最悪の出会いをした二人だったが、不思議と馬があい、心を通じ合わせるようになる。
全く対照的な立場の二人だったが、共に家族との関係に深刻な問題を抱えていた。
嘗て実の父親に母と妹を殺され、刑務所を出所した父にやり場のない怒りをぶつけるサンフン。
ヨニは元軍人で精神を病んだ父親と、学校にも行かず荒れた生活を送る弟ヨンジェ(イ・ファン)と毎日の様に衝突している。
そんなある日、ヨンジェがサンフンの組で仕事をする事になるのだが、彼がヨニの弟だとしらないサンフンは、オドオドした態度をとるヨンジェを「腰抜け」と罵倒する・・
・・

邦題は「息もできない」で、英題は「Breathless」
これはもちろん破滅的な生き方をする主人公を描いた、ゴダールの「勝手にしやがれ」の英題からとったのだろうが、韓国語の原題はというと「トンパリ(똥파리)」、つまり「クソバエ」という凄いタイトルである。
社会のクソバエであるチンピラヤクザが主人公という事で、まあセリフは汚い言葉のオンパレード。
私は韓国語を少し勉強した事があるので、日常会話は僅かながら理解できるのだけど、この映画は韓国語教室では絶対に教えてくれないような四文字言葉で一杯だ。
20秒に一回くらいの割合で出てくる、「クソ野郎」と訳されている「シバラマ」という言葉など、観た人皆が覚えてしまうだろう。
ちなみに、知り合いの韓国人に聞いてみたところ、これは正確には「シバルロマ」に近い発音で、直訳すると「マ■コする奴」という意味だそうな。
サンフンは平然と言い放っていたけど、女性に使ったらその場でビンタされるから絶対に使うなと言われた(笑

全く無名の新人作家が書き、自ら主演し、主人公がヤクザというこの作品。
映画ファンならば、27年前に作られた一本の日本映画を連想する人も多いだろう。
当時33歳の金子正次が、残り少ない命の炎を燃やして作った「竜二」に、なるほど作品のバックグラウンドは良く似ている。
だが、「竜二」が暴力の世界から足を洗って何とか堅気の生活をしようと葛藤する男の物語で、基本的に暴力シーンを伴わないのに対して、こちらの主人公は暴力の世界にどっぷりだ。
二本の作品に共通するのは、緻密に積み重ねられた心理描写によって、圧倒的な説得力を持った不器用な男の生き様だろう。

メインキャラクターはヤクザのサンフンと女子高生のヨニだが、彼らを囲むように多くのキャラクターが配され、密接な人間関係を形作る。
ヤクザと女子高生という一見全く接点の無さそうなサンフンとヨニだが、彼らは共に心の奥に深い悲しみを抱えた似たもの同士
サンフンは暴力的な父の元で育ち、幼い頃に母と妹を父に殺されると言う悲劇を経験している。
彼が借金の取り立ての現場で、とりわけ年上のオヤジたちに対して容赦がないのは、彼の抱えるトラウマの結果なのである。
父は最近刑務所を出所したのだが、彼に対して憎しみしか感じられないサンフンは、やり場のない怒りを暴力と言う形で老いた父にぶつけるしかない。
「韓国のオヤジは最低だ!」「殴る奴は、自分は殴られないと思っている」という言葉は、母と妹を守れなかった自責の念と共に、過去の父に向けられた物だろうし、父を否定しつつも、いつの間にか暴力の世界に生きている自分自身へ向けた言葉ともとれる。
サンフンには腹違いの姉がいるが、父の暴力を直接知らない姉が、父に優しくするのすら、サンフンは許せないのだ。
一方のヨニは、嘗てのベトナム出征兵で心を病んでしまった父の介護をし、ヤクザ予備軍の荒れた弟の暴力に耐える日々。
屋台を営んでいた母親は、数年前に立ち退かせようとするヤクザに殴られて殺された。
だからある意味でサンフンはヨニにとって憎しみの対象でもあるはずなのだが、ヨニがサンフンに惹かれてゆくのは、彼の中に自分と似た部分を見たのと、もしかしたら彼とその家族に彼女自身にはもう決して訪れない、家族の再生の可能性を見たからかもしれない。
二人が、ボロボロになったお互いの心を見つめあいながら、漢江の辺で慟哭するシーンは映画史に残る名シーン。
そうしてヨニとのふれあいを通して、サンフンが少しずつ頑なな心を変化させ、傷つきながも家族、そして自分自身を再生させるというプロセスは感動的だ。
だが、この映画は普通の「良い映画」では終らない。
悪意ある神のいたずらの様な、複雑に入り組んだ運命による暗転劇は、まるでシェイクスピアかギリシャ悲劇の様な壮大な人間ドラマとして観客の前で完結するのである。

そう極めて低予算な小品ではあるのだが、この映画は非常にドラマチックだ。
演劇を勉強した事のある人なら知っているだろうが、作劇の世界には「ポルティの36局面」と言われる概念がある。
これはフランスのジョルジュ・ポルティが提唱した物で、ドラマチックな要素というのは、全て36通りの劇的局面(「近親の復讐」「愛する者の喪失」など)に分類でき、物語はその組み合わせで構成されているというものだ。
個人的にはこの分類はいささか古典的過ぎて、現代ではもう少し多いのではないかと考えているが、試しにこの作品に当てはめてみると、やや拡大解釈した部分を含めれば、何と36局面のうちの25局面を含んでいる。
これほどドラマチックな要素ばかりを詰め込んだら、下手をするとわざとらしいメロドラマになってしまいそうだが、この作品は見事なまでに作為を感じさせない。
それはサンフンとヨニを始めとする全てのキャラクターに、生身の人間としての絶対的な説得力があり、彼らの抱える情念が、観客の心にストレートに突き刺さってくるからだ。
この語り口の上手さこそが、ヤン・イクチェンという才能の脅威なのである。

「息もできない」は、若き鬼才が生んだ、古典になり得るスケール感を持つ悲劇だ。
だが、この映画には救いもある。
憎しみと暴力に生きたサンフンは、少なくとも最後には憎しみと暴力の連鎖からは抜け出していた。
どれほど悲劇的な最期を遂げようと、彼の魂はおそらく救われたと感じる事が出来る。
もっとも、彼の抱えていた物は、そのままある登場人物に受け継がれたのもまた事実だろうが、人の世に絶対の救済は存在しないと考えると、これもまた人間という物なのだろう。
確かな事は、どんなに傷ついても、辛くても、生きている者には明日は必ずやって来て、人生は続いてゆくと言う事だけなのである。

それにしても、今年は緊張して喉が渇く映画が多い。
映画ではサンフンたちがOBビールの「CASS」を、うまそうに飲んでいたが、日本では手に入りにくいので今回は韓国で市場シェア1位の「HITE」をチョイス。
韓国のビールはどちらかと言うと、日本のビールよりはチョイアメリカンな感じで、水感覚でガブガブ飲めるのが良い。
色々な意味で熱い映画で、火照った頭を冷してくれる。

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