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書道ガールズ!! わたしたちの甲子園・・・・・評価額1600円
2010年05月21日 (金) | 編集 |
「書道ガールズ!! わたしたちの甲子園」に描かれるのは、一人心静かに紙と向かい合う、伝統的な書道ではない。
部屋ほどもある大きな和紙に、持つというよりも抱えると言った方がピッタリの巨大な筆で、ショーアップされた演出、ポップミュージックのリズムと共に、チームプレーで豪快な書を書き込んでゆく。
芸術とスポーツが合体したかの様な、紙の上で行われる団体競技だ。
愛媛県立三島高等学校書道部の書道パフォーマンスが一躍有名になったのは、日本テレビの朝のワイドショー「ズームインSUPER!! 」で紹介されたから。
私も放送は見ていて、「へえ、面白い事やってるなあ」と思ったのを覚えている。
実はこのパフォーマンスは、日本有数の「紙の街」である地元の町おこしのために、書道部の生徒たちが発案し、実践していったのだという。
本作は書道への情熱と故郷への想いを胸に、書道パフォーマンスに懸けた高校生たちを描いた青春映画の佳作である。

古くから紙の街として知られる、愛媛県四国中央市。
折からの不況で街は活気を失い、商店街はシャッター通りと化している。
街の四国中央高校の書道部部長の早川里子(成海璃子)は、書家の父の元で幼い頃から書道に打ち込んでいた。
だが、不況にあえぐ街とシンクロするかの様に、書道部も部員が一人、また一人と辞めてゆくじり貧状態。
そんな時、書道部の顧問に就任した臨時教師の池澤(金子ノブアキ)が、進入部員募集の書道パフォーマンスをやった事から、部員で文具店の娘の清美(高畑充希)が感化されてしまう。
書道パフォーマンスなんて邪道だと考えていた里子も、清美の店が閉店する事を聞いて、書道部で閉店セールのパフォーマンスをする事になるのだが・・・・


田舎町の女子高生グループが、一つの目標に突き進むのは「スイングガールズ」「シムソンズ」と同様で、彼女らの取り組みが町おこしにという切実な目標に結びついているのは「フラガール」を連想させる。
言わば、青春スポコン物の王道のプロットだが、本来孤独でストイックなイメージのある書道を、まるで逆の派手な集団パフォーマンスに結びつけたのが面白い。
スポーツの世界からは、伝統的な競技に創意工夫を加える事で、例えばフリースタイルスキーの様なフレッシュな新競技が生まれたりしているが、これはその書道版。
実際、紙と墨を使ったチアリーディングの様な書道パフォーマンスは、始めて観る人には新鮮な驚きを感じさせるだろう。
本物の三島高校書道部を始め実在の高校生チームが見せる、ダイナミックな競技大会のシーンは、映画的な躍動感に溢れ、見るからに楽しそうだ。
もしも私が高校生だったら、これはやってみたくなるだろうな。
アンジェラ・アキの名曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」にのせて演じられる、クライマックスの四国中央高校書道部のパフォーマンスは、故郷への愛に満ち、観客に十分なカタルシスを感じさせる。

5人の書道部の少女たちがとても魅力的だ。
猪股隆一監督は、元々日本テレビのドラマの演出家。
その彼が5年前にチーフディレクターとして手掛けた「瑠璃の島」で初主演したのが、本作の語り部であり主人公の里子を演じる成海璃子だった。
この人って子供の頃から全然顔が変わらない、というか小学生の時点で大人に見えていたので、ようやく最近年齢とルックスがマッチしてきた様な気がする。
里子は、書道に対する複雑な葛藤を抱えているキャラクターだ。
彼女は厳格な書家である父の元で、ストイックに書道を追及して来たが、どうしても自分の理想とする書が書けないでいる。
精神的に父に支配されている彼女は、紙に向き合っても素直な自分を解放する事が出来ないのだ。
そんな時出あった書道パフォーマンスに、最初は反発しつつも、自分を解放できる何かを見つけて、徐々に情熱を傾けてゆく。
成海璃子は、誰にでも経験があるであろう、青春時代の世界と自我との葛藤を丁寧に演じ、堂々たる主役の存在感だ。
努力型の里子にとっては心のライバルとなる天才肌の美央を、「魔法使いに大切なこと」の山下リオが演じ、好コントラストを見せる。
眼鏡っ娘で天然、書道部をパフォーマンスの道に引き込む清美役に高畑充希、内向的でいじめに苦しんだ過去を持つ小春役に小島藤子、部員たちのまとめ役である副部長の香奈役に桜庭ななみ
彼女らはルックスを含めて明確な個性を持ち、それぞれに長所も欠点も抱えたキャラクターになっている。
5人(+コミックリリーフ的な男子3人)が心を一つにして、初めて一つの調和が訪れ、作品が完成するのは感動的である。
ただ、物語の中で香奈の立ち位置が今ひとつ定まっていないのは気になる。
冒頭、香奈から映画がスタートするので、彼女が語り部なのかと思ったが、直ぐに物語の目線は里子に移ってしまう。
5人の中で唯一私生活の部分が描かれていない事もあり、一番ニュートラルなキャラクターであるはずの香奈を生かしきれずに、逆に少し浮いてしまっているのである。
丁寧に作られているだけに、この辺りはちょっと残念なポイントだ。

本作が描いているのは、書道パフォーマンスに勝った負けたというドラマだけではない。
田舎の高校生が接してる世界は、大人になった今にして思えば決して広い物ではないと思う。
だが、この作品はそんな彼女たちの生活環境に、様々な背景を持った大人たちを、さり気なく配している。
最高品質の紙を作りながら、デフレ社会から弾き出されてしまう紙職人の老人。
シャッター通りと化した商店街で、代々受け継いだ店を閉めなければならない個人商店主。
そして豊かな才能を持ちながら、心に密かな挫折感を抱えた池澤と、パフォーマンスという新しい書道の形を受け入れられない里子の父。
これらの細かなエピソードが、地方のおかれている現実を浮かび上がらせ、書道パフォーマンスへと少女たちを突き動かす情熱の背景に、郷土への真摯な愛情を感じさせのと同時に、映画に対して公共性と深みを与えているのである。
書道ガールズたちも、いつの日か三本煙突の街から外の世界へ旅立つ日が来るかもしれない。
実際に書道パフォーマンスがいくら人気になろうが、それだけで街の景気が回復する訳も無いが、それでも自分たちの育った街、すなわちそこにいる人間を愛し、懸命に行動した経験は、パフォーマンスの出来栄え以上に、彼女たちの心に大きな財産として残るはず。
老若男女誰にでもお勧めできる一本だ。

古来から製紙産業の興る土地には、日本酒の蔵も多い。
どちらも大量の良質の水を必要とするからである。
今回は、四国中央市からは少し離れているが、愛媛の地酒である酒六酒造の「悠 長谷川 大吟醸」をチョイス。
典型的な端麗辛口の吟醸酒で、非常にすっきりとして飲みやすく、これからの季節は冷でいただきたい。
良い意味でクセは無く、どんな料理にも合うだろう。
書道ガールズたちには、日本酒の似合う粋な女性に育っていって欲しいものである。
しかし、おっさんにとって少女たちのキラキラした青春は、もはや眩し過ぎるなあ(笑

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