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2010年05月30日 (日) | 編集 |
高知県の鄙びた漁村にある「パーマネント野ばら」を舞台に、日本一男運の悪い女たちの、喪失と再生を描く叙情的物語。
原作は最近著作が続々と映画化されている西原理恵子の中篇漫画で、「サマーウォーズ」など細田守監督のアニメ映画で知られる奥寺佐渡子が脚色し、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八が監督している。
おバカでお下品な台詞が飛び交うコミカルな日常の裏側に垣間見えるのは、ぽっかりと口を空けた悲しみの虚空だ。
※ネタバレ注意
離婚したなおこ(菅野美穂)は、幼い娘を連れて母のまさ子(夏木マリ)が経営する実家の「パーマネント野ばら」に出戻っている。
ここにはパワフルな村の女たちが集まり、思い出話や男談義に花を咲かせている吹き溜まりの様な店。
まさ子の再婚した夫カズオ(宇崎竜童)は、家出して隣村の農家のおばちゃんと同棲中。
なおこの幼馴染でフィリピンパブのママのみっちゃん(小池栄子)は、店の女に手を出した夫を車で轢き、もう一人の幼馴染のともちゃん(池脇千鶴)の夫は、ギャンブルに狂って失踪してしまう。
どうにも男運の悪い女たちに囲まれながら、なおこは高校教師のカシマ(江口洋介)との愛を密かに育んでいた・・・・
一見すると少々お下品な「かもめ食堂」的な物語に見えるが、実は心の大切な部分を喪失し、傷ついた女たちが、自分を受け入れてくれる密接なコミュニティの中で少しずつ癒されてゆく、「幻の光」的な物語である。
西原理恵子の原作は、一時間ほどもあれば読み終えてしまう中篇だが、奥寺佐渡子は高知の海と空にたゆたうような原作の独特の味わいを損ねない様に、慎重にエピソードとキャラクターを取捨選択し、一部を膨らませて再構成している。
映画ではなおこの喪失と再生がより物語の中核に設定され、原作とはやや異なるミステリアスな展開も盛り込んでおり、この辺りのロジックは、先頃公開された行定勲監督の「今度は愛妻家」に少し通じるものがある。
主人公のなおこを演じる菅野美穂がとても良い。
この人は十代の頃から芝居は抜群に上手かったが、年齢を重ねて素晴らしく繊細で深い表現力を獲得してる。
ついこの前女子高生の役をやっていたと思ったら、もう母親役が違和感の無い年齢なんだという事に時の流れの速さを実感させられるが、役者として理想的な歳のとり方をしているのではないだろうか。
奇人変人揃いの登場人物の中にあって、なおこはどちらかというと受身のキャラクターなのだが、彼女の内面に隠された複雑で切ない葛藤は、細やかな演技によって不思議な浮遊感と共に表現されている。
そして、カシマとのデートシーンで見せる、恋する乙女の様なはにかんだ笑顔は文句なしにカワイイ!
テレビの連ドラも良いけど、やはりこの人はスクリーンで非凡な輝きを放つ。
映画出演は8年ぶりだそうだが、是非もっと映画に出て欲しいものである。
野ばらに集まる女たちは、「チンコ、チンコ」とかしましい村のおばちゃんたちだが、なおこの幼馴染のみっちゃんとともちゃんだけが若い・・・と言っても三十代だけど。
フィリピンパブのママ、みっちゃんを演じる小池栄子は、エネルギーの塊の様なパワフルなキャラクターで、なおこと静と動の好対照を形作る。
映画版でややキャラクターを膨らませているともちゃんを演じる池脇千鶴と共に、この世代の演技派の揃ったキャストは見応え十分だ。
彼女たちの人生の師匠・・・もとい、反面教師の様な年寄りたちもまた、一人一人が魅力的で、宇崎竜童演じるカズオなんて妙な説得力がある。
まさ子との復縁を迫るなおこに、「男の人生は真夜中のスナック・・・云々」と説明するくだりは納得しすぎて笑ってしまった。
映画の前半は、なおこの生活描写に幾つものサブストーリーが絡み、全体的にコメディタッチ。
ゴミ屋敷で何故か数年ごとに代替わりする爺さんに囲まれた余生を過ごす、奇妙な婆さんのエピソードや、借金塗れになり、パチスロのメダルを残して山でのたれ死ぬともちゃんの夫のエピソード、度重なる浮気に切れたみっちゃんの殺人未遂のエピソードなど、恋に貪欲な女たちと、どうしようもないダメ男たちが織り成す物語は、リアルに捉えるとかなり辛らつながらも、西原作品らしいギャグや下ネタのオブラートにくるまれているおかげで、それほどの痛みを伴わずに観ていられる。
奥寺佐渡子は、これらの一見とりとめの無いエピソードを、最終的に物語が収束すべきところへ向かってゆくと、テーマ的な伏線として機能するように巧みに配置している。
物語の中盤、なおこの娘のももちゃんが別れた夫と旅行に行き、残されたなおこは空いた時間を持て余すようにカシマと温泉へと向かう。
ホテルの部屋で仲睦まじく過ごす二人だが、ふとなおこが目を覚ますとカシマの姿は無い。
突然取り残されたなおこは焦り、泣きながらカシマに電話し「あなたの事がわからない」と訴える。
実はここからが、原作とも少し異なる映画のハイライト。
原作では、なおこの相手が何者で、いつどの様に喪失したのかということに明確な描写は無い。
対して映画版では、多分なおこの抱えてる葛藤をもう少し具体的にしたかったのだと思うが、カシマはなおこが高校生の頃の恋人で、疾うの昔に死んでいたという設定になっているのだ。
このことが明らかになる少し前に、なおことともちゃんの会話の中で、「人間は二度死ぬ」という台詞が出てくる。
一度目は肉体的な死、そして二度目は、その人物を覚えている人が誰もいなくなった時。
なおこがカシマの事を忘れれば、カシマは本当に死んでしまう。
だからこそ、彼女は自らの中に狂気を宿してまで、彼の事を忘れる事が出来ないのである。
そして、パーマネント野ばらに集まる女たちは、全てをわかった上でなおこを見守っている。
やたらかしましいだけに見えたおばちゃんたちも、どちらかと言うと自分の抱える苦しみを、なおこに聞いてもらう役回りに見えていたみっちゃんやともちゃんも、実はなおこの苦しみを分かち合っているのである。
「私、狂ってる?」と聞くなおこに、みっちゃんは「そんなやったら、この街の女はみんな狂うとる」と答えるのだ。
どんなに苦しくても、切なくても、そして幾つになっても「恋」を諦める事の出来ない女たち。
男の私から観ると、なんとも不思議な女性論の様な物語でもあり、菅野美穂だけじゃなくパンチパーマのおばちゃんたちまで、それなりに愛しく感じさせられるキケンな魅力を持つ映画であった。
都会とは流れの違うゆったりとした時間を感じさせる、南国高知のロケーションも見所だ。
今回は高知を代表する地酒、「酔鯨 大吟醸」をチョイス。
酒をこよなく愛し、自ら「鯨海酔侯」と名乗った幕末の土佐藩主、山内豊信にちなんで命名されている。
ボディが強く、スッキリとした味わいは、正に太平洋を行く鯨のごとく力強さ。
この土地に生まれた女が、尋常でなくパワフルだとしても納得だ。
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原作は最近著作が続々と映画化されている西原理恵子の中篇漫画で、「サマーウォーズ」など細田守監督のアニメ映画で知られる奥寺佐渡子が脚色し、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八が監督している。
おバカでお下品な台詞が飛び交うコミカルな日常の裏側に垣間見えるのは、ぽっかりと口を空けた悲しみの虚空だ。
※ネタバレ注意
離婚したなおこ(菅野美穂)は、幼い娘を連れて母のまさ子(夏木マリ)が経営する実家の「パーマネント野ばら」に出戻っている。
ここにはパワフルな村の女たちが集まり、思い出話や男談義に花を咲かせている吹き溜まりの様な店。
まさ子の再婚した夫カズオ(宇崎竜童)は、家出して隣村の農家のおばちゃんと同棲中。
なおこの幼馴染でフィリピンパブのママのみっちゃん(小池栄子)は、店の女に手を出した夫を車で轢き、もう一人の幼馴染のともちゃん(池脇千鶴)の夫は、ギャンブルに狂って失踪してしまう。
どうにも男運の悪い女たちに囲まれながら、なおこは高校教師のカシマ(江口洋介)との愛を密かに育んでいた・・・・
一見すると少々お下品な「かもめ食堂」的な物語に見えるが、実は心の大切な部分を喪失し、傷ついた女たちが、自分を受け入れてくれる密接なコミュニティの中で少しずつ癒されてゆく、「幻の光」的な物語である。
西原理恵子の原作は、一時間ほどもあれば読み終えてしまう中篇だが、奥寺佐渡子は高知の海と空にたゆたうような原作の独特の味わいを損ねない様に、慎重にエピソードとキャラクターを取捨選択し、一部を膨らませて再構成している。
映画ではなおこの喪失と再生がより物語の中核に設定され、原作とはやや異なるミステリアスな展開も盛り込んでおり、この辺りのロジックは、先頃公開された行定勲監督の「今度は愛妻家」に少し通じるものがある。
主人公のなおこを演じる菅野美穂がとても良い。
この人は十代の頃から芝居は抜群に上手かったが、年齢を重ねて素晴らしく繊細で深い表現力を獲得してる。
ついこの前女子高生の役をやっていたと思ったら、もう母親役が違和感の無い年齢なんだという事に時の流れの速さを実感させられるが、役者として理想的な歳のとり方をしているのではないだろうか。
奇人変人揃いの登場人物の中にあって、なおこはどちらかというと受身のキャラクターなのだが、彼女の内面に隠された複雑で切ない葛藤は、細やかな演技によって不思議な浮遊感と共に表現されている。
そして、カシマとのデートシーンで見せる、恋する乙女の様なはにかんだ笑顔は文句なしにカワイイ!
テレビの連ドラも良いけど、やはりこの人はスクリーンで非凡な輝きを放つ。
映画出演は8年ぶりだそうだが、是非もっと映画に出て欲しいものである。
野ばらに集まる女たちは、「チンコ、チンコ」とかしましい村のおばちゃんたちだが、なおこの幼馴染のみっちゃんとともちゃんだけが若い・・・と言っても三十代だけど。
フィリピンパブのママ、みっちゃんを演じる小池栄子は、エネルギーの塊の様なパワフルなキャラクターで、なおこと静と動の好対照を形作る。
映画版でややキャラクターを膨らませているともちゃんを演じる池脇千鶴と共に、この世代の演技派の揃ったキャストは見応え十分だ。
彼女たちの人生の師匠・・・もとい、反面教師の様な年寄りたちもまた、一人一人が魅力的で、宇崎竜童演じるカズオなんて妙な説得力がある。
まさ子との復縁を迫るなおこに、「男の人生は真夜中のスナック・・・云々」と説明するくだりは納得しすぎて笑ってしまった。
映画の前半は、なおこの生活描写に幾つものサブストーリーが絡み、全体的にコメディタッチ。
ゴミ屋敷で何故か数年ごとに代替わりする爺さんに囲まれた余生を過ごす、奇妙な婆さんのエピソードや、借金塗れになり、パチスロのメダルを残して山でのたれ死ぬともちゃんの夫のエピソード、度重なる浮気に切れたみっちゃんの殺人未遂のエピソードなど、恋に貪欲な女たちと、どうしようもないダメ男たちが織り成す物語は、リアルに捉えるとかなり辛らつながらも、西原作品らしいギャグや下ネタのオブラートにくるまれているおかげで、それほどの痛みを伴わずに観ていられる。
奥寺佐渡子は、これらの一見とりとめの無いエピソードを、最終的に物語が収束すべきところへ向かってゆくと、テーマ的な伏線として機能するように巧みに配置している。
物語の中盤、なおこの娘のももちゃんが別れた夫と旅行に行き、残されたなおこは空いた時間を持て余すようにカシマと温泉へと向かう。
ホテルの部屋で仲睦まじく過ごす二人だが、ふとなおこが目を覚ますとカシマの姿は無い。
突然取り残されたなおこは焦り、泣きながらカシマに電話し「あなたの事がわからない」と訴える。
実はここからが、原作とも少し異なる映画のハイライト。
原作では、なおこの相手が何者で、いつどの様に喪失したのかということに明確な描写は無い。
対して映画版では、多分なおこの抱えてる葛藤をもう少し具体的にしたかったのだと思うが、カシマはなおこが高校生の頃の恋人で、疾うの昔に死んでいたという設定になっているのだ。
このことが明らかになる少し前に、なおことともちゃんの会話の中で、「人間は二度死ぬ」という台詞が出てくる。
一度目は肉体的な死、そして二度目は、その人物を覚えている人が誰もいなくなった時。
なおこがカシマの事を忘れれば、カシマは本当に死んでしまう。
だからこそ、彼女は自らの中に狂気を宿してまで、彼の事を忘れる事が出来ないのである。
そして、パーマネント野ばらに集まる女たちは、全てをわかった上でなおこを見守っている。
やたらかしましいだけに見えたおばちゃんたちも、どちらかと言うと自分の抱える苦しみを、なおこに聞いてもらう役回りに見えていたみっちゃんやともちゃんも、実はなおこの苦しみを分かち合っているのである。
「私、狂ってる?」と聞くなおこに、みっちゃんは「そんなやったら、この街の女はみんな狂うとる」と答えるのだ。
どんなに苦しくても、切なくても、そして幾つになっても「恋」を諦める事の出来ない女たち。
男の私から観ると、なんとも不思議な女性論の様な物語でもあり、菅野美穂だけじゃなくパンチパーマのおばちゃんたちまで、それなりに愛しく感じさせられるキケンな魅力を持つ映画であった。
都会とは流れの違うゆったりとした時間を感じさせる、南国高知のロケーションも見所だ。
今回は高知を代表する地酒、「酔鯨 大吟醸」をチョイス。
酒をこよなく愛し、自ら「鯨海酔侯」と名乗った幕末の土佐藩主、山内豊信にちなんで命名されている。
ボディが強く、スッキリとした味わいは、正に太平洋を行く鯨のごとく力強さ。
この土地に生まれた女が、尋常でなくパワフルだとしても納得だ。

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