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2010年06月06日 (日) | 編集 |
頑固爺さんと孫娘の旅を描くロードムービー。
終の棲家を探す淡々とした描写の中に、人間たちの絆と、社会全体の老いという日本社会にのしかかる問題が浮かび上がってくる。
問題作、「バッシング」を手がけた小林政広監督が、8年越しで実現させたと言う入魂の力作である。
北海道の増毛町に住む元漁師・忠男(仲代達矢)は、片足が不自由となり、孫娘の春(徳永えり)の世話になって暮らしている。
ところが春の勤める学校が廃校になり、失業した彼女は東京へと働きに出る決意をする。
忠男を一人で残していけないと考えた春は、祖父が安心して暮らせる場所を求めて、疎遠になっていた忠男の兄弟たちを訪ねる旅に出る・・・・
後ろで観ていたおばさんたちが、「増毛駅」という看板を見て「ぞうもうですって」「ぞうもうって、薄毛の人ばっかり住んでるのかしら」と漫才みたいな事を言っていたので、思わず吹いてしまったよ。
「ぞうもう」じゃなくて「ましけ」ですから・・・・。
それはさておき、冒頭流れる音楽が、何故かアニメーション映画「アメリカ物語」の主題歌「Somewhere out there」そっくり。
クレジットに記載が無かったような気がするので、著作権が気になるところだが、ストーリーを考えると何だか意味深だ。
主人公の忠男は、ニシン漁での一攫千金を夢見て宮城から北海道に移住した男で、ニシンの漁獲量が激減した今もその幻影から逃れられないでいる。
妻に先立たれ、娘は離婚した後に自殺し、不自由な足を抱えた忠男が心を許せる身内は、孫娘の春だけだ。
時代に取り残された様な世間ずれした老人が、良くも悪くも現代社会にどっぷり浸かって生きている親類縁者に拒絶される展開は、何となく小津安二郎の「東京物語」を連想させる。
小林監督は、会話シーンの切り返しであえてイマジナリーラインを超えて違和感を感じさせ、登場人物の心理的な距離感を演出しているが、これも小津作品にたまに見られる。
もっとも、以前小津組のスタッフだった方に聞いたところでは、小津監督は俳優の芝居以外に殆ど興味の無い人で、カメラがイマジナリーラインを超えるのも計算している訳ではなくて、俳優の芝居を効果的に捉えられる位置に置いていただけだという。
そういわれてしまうと、何だか身も蓋も無いけれど、結果的にそれがユニークな効果を生んでいたのは事実。
まあ小津演出は、カメラはフィックスだけどカット割りは結構細かい場合が多いが、本作は長回し主体なので、決して真似している訳ではない。
両者に共通するのは俳優の芝居をじっくりと見せてくれるという一点だろう。
忠男を演じる仲代達也は、もちろん日本を代表する名優の一人だが、今回は特に素晴らしい。
孫娘の徳永えりとのコンビは、しっかり者の孫娘とわがままな子供の様な偏屈爺さんというコントラストが絶妙で、二人の掛け合いはシリアスな中に適度なユーモアさえも感じさせ、ある種のバディムービーとして上々の仕上がりである。
彼の芝居は良くも悪くも少々大げさで、前日の「座頭市 THE LAST」の様に作品によっては浮いてしまう場合もあるが、今回は忠男のアクの強いキャラクターが全体を巻き込んで進んでゆくので、良い意味で彼の映画になっており、はまり役だ。
偏屈で強気一辺倒の中にも、ふと寂しさを感じさせるあたりはさすがに上手い。
もちろん、忠男に振り回される受けのキャラクターである春を演じる徳永えりも負けていない。
「フラガール」で蒼井優の親友役を演じて注目された人だが、春はエキセントリックな忠男に対しての観客サイドの目としても機能しており、彼女の抑制された緻密な演技は観客を物語に入りやすくしている。
手足をピンと伸ばしてバタバタと走り回る姿は、それだけで春の素朴な人柄が伝わってくる様だ。
そして、二人が訪ね歩く兄弟や縁者たちの顔ぶれが、これまた凄い。
兄夫婦は大滝秀治と菅井きん、姉は淡島千景、弟夫婦は柄本明に美保純、さらに刑務所に入っている不肖の弟の内縁の妻は田中裕子で、春の父と継母は香川照之と戸田菜穂。
まともに顔すら写らない、ちょっとした役を小林薫がやっていたりするのだから贅沢だ。
小林監督は、フィックスの長回しという日本映画の伝統的な手法で、彼らの演技をじっくりと見せる。
この手法は下手くそが使うと単に冗長なだけになってしまうが、前記した様な細かなテクニックを使って、ギリギリのタイミングで効果的にカットを割っているので、思いのほかテンポは良く、退屈を感じる事は無い。
安住の地を探す忠男と春の旅は、現実の壁に阻まれなかなか上手く行かない。
兄夫婦は老人ホームへの入居を控え、弟の一人は刑務所暮らし、もう一人の羽振りの良かった弟も事業に失敗し受け入れる余裕は無い。
旅館を経営する姉は、忠男の心に春への依存と甘えがある事を看破し、愛情を持って拒絶する。
彼らが忠男を受け入れられないのは、単に薄情なのではなく様々な理由があり、そこから社会全体が活力を失い、ゆっくりと老いてゆく日本社会が浮かび上がってくるのである。
高間賢治の透明感のあるカメラが写し取る、閑散とした町にシャッターが締まった店舗ばかりが目立つ田舎町の風景は、そこで老いた弱者たちが生きてゆくことの困難をさり気なく、しかし如実に感じさせる。
ニシンへの夢に生きてきた男は、旅を通して初めて自分が生きている社会の現実と過去の人生に向き合う事を迫られ、孫娘もまた心に閉じ込めてきた離れて暮らす父への想いに向き合う決意をする。
そう、忠男が春に依存しているように、実は春もまた心の傷を抱えて忠男に依存している。
二人の旅は、忠男にとっては人生の総括であり、春にとっては再出発のための助走なのである。
劇中で「馬が合う、合わない」「気が合う、合わない」と言う言葉が繰り返し出てくる。
人は、人と繋がる時に、誰でも小さな葛藤を抱えている。
合っても合わなくても、そこに小さな愛があって、誰かと繋がっていられるという事自体が、たぶんとても大切な事なのかもしれない。
「春との旅」は普遍的なテーマを、錚々たる名優たちの素晴らしい芝居で見せ切った力作だ。
唯一気になるのが、物語の終盤がやや御都合主義を感じさせてしまう事か。
戸田菜穂の演じる伸子が、初対面の忠男に一緒に暮らそうと言うのは、彼女が忠男に父の面影を見たとしても、やや唐突に感じてしまった。
ラストもまあ想像は出来たし、物語上の必然ではあるものの、見せ方としてタイミング良すぎの感は否めない。
もっとも、それを差し引いても、本作は一級の人間ドラマであり、優れたロードムービーである。
観客には忠男世代の人が目立ったが、春世代が観ても、私の様に中間の世代が観ても、それぞれの立ち位置から考えさせられる作品である事は間違いないだろう。
今回は、劇中で忠男が一気飲みしていた「男山」をチョイス。
江戸時代に伊丹で創業した蔵で、現在は旭川に本拠を置く北海道の代表的な地酒。
全国にある「男山」銘柄の元祖である。
この御免酒は、アルコール度が若干抑えられた爽やかでソフトな味わいの酒で、冷で飲むのがお勧め。
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終の棲家を探す淡々とした描写の中に、人間たちの絆と、社会全体の老いという日本社会にのしかかる問題が浮かび上がってくる。
問題作、「バッシング」を手がけた小林政広監督が、8年越しで実現させたと言う入魂の力作である。
北海道の増毛町に住む元漁師・忠男(仲代達矢)は、片足が不自由となり、孫娘の春(徳永えり)の世話になって暮らしている。
ところが春の勤める学校が廃校になり、失業した彼女は東京へと働きに出る決意をする。
忠男を一人で残していけないと考えた春は、祖父が安心して暮らせる場所を求めて、疎遠になっていた忠男の兄弟たちを訪ねる旅に出る・・・・
後ろで観ていたおばさんたちが、「増毛駅」という看板を見て「ぞうもうですって」「ぞうもうって、薄毛の人ばっかり住んでるのかしら」と漫才みたいな事を言っていたので、思わず吹いてしまったよ。
「ぞうもう」じゃなくて「ましけ」ですから・・・・。
それはさておき、冒頭流れる音楽が、何故かアニメーション映画「アメリカ物語」の主題歌「Somewhere out there」そっくり。
クレジットに記載が無かったような気がするので、著作権が気になるところだが、ストーリーを考えると何だか意味深だ。
主人公の忠男は、ニシン漁での一攫千金を夢見て宮城から北海道に移住した男で、ニシンの漁獲量が激減した今もその幻影から逃れられないでいる。
妻に先立たれ、娘は離婚した後に自殺し、不自由な足を抱えた忠男が心を許せる身内は、孫娘の春だけだ。
時代に取り残された様な世間ずれした老人が、良くも悪くも現代社会にどっぷり浸かって生きている親類縁者に拒絶される展開は、何となく小津安二郎の「東京物語」を連想させる。
小林監督は、会話シーンの切り返しであえてイマジナリーラインを超えて違和感を感じさせ、登場人物の心理的な距離感を演出しているが、これも小津作品にたまに見られる。
もっとも、以前小津組のスタッフだった方に聞いたところでは、小津監督は俳優の芝居以外に殆ど興味の無い人で、カメラがイマジナリーラインを超えるのも計算している訳ではなくて、俳優の芝居を効果的に捉えられる位置に置いていただけだという。
そういわれてしまうと、何だか身も蓋も無いけれど、結果的にそれがユニークな効果を生んでいたのは事実。
まあ小津演出は、カメラはフィックスだけどカット割りは結構細かい場合が多いが、本作は長回し主体なので、決して真似している訳ではない。
両者に共通するのは俳優の芝居をじっくりと見せてくれるという一点だろう。
忠男を演じる仲代達也は、もちろん日本を代表する名優の一人だが、今回は特に素晴らしい。
孫娘の徳永えりとのコンビは、しっかり者の孫娘とわがままな子供の様な偏屈爺さんというコントラストが絶妙で、二人の掛け合いはシリアスな中に適度なユーモアさえも感じさせ、ある種のバディムービーとして上々の仕上がりである。
彼の芝居は良くも悪くも少々大げさで、前日の「座頭市 THE LAST」の様に作品によっては浮いてしまう場合もあるが、今回は忠男のアクの強いキャラクターが全体を巻き込んで進んでゆくので、良い意味で彼の映画になっており、はまり役だ。
偏屈で強気一辺倒の中にも、ふと寂しさを感じさせるあたりはさすがに上手い。
もちろん、忠男に振り回される受けのキャラクターである春を演じる徳永えりも負けていない。
「フラガール」で蒼井優の親友役を演じて注目された人だが、春はエキセントリックな忠男に対しての観客サイドの目としても機能しており、彼女の抑制された緻密な演技は観客を物語に入りやすくしている。
手足をピンと伸ばしてバタバタと走り回る姿は、それだけで春の素朴な人柄が伝わってくる様だ。
そして、二人が訪ね歩く兄弟や縁者たちの顔ぶれが、これまた凄い。
兄夫婦は大滝秀治と菅井きん、姉は淡島千景、弟夫婦は柄本明に美保純、さらに刑務所に入っている不肖の弟の内縁の妻は田中裕子で、春の父と継母は香川照之と戸田菜穂。
まともに顔すら写らない、ちょっとした役を小林薫がやっていたりするのだから贅沢だ。
小林監督は、フィックスの長回しという日本映画の伝統的な手法で、彼らの演技をじっくりと見せる。
この手法は下手くそが使うと単に冗長なだけになってしまうが、前記した様な細かなテクニックを使って、ギリギリのタイミングで効果的にカットを割っているので、思いのほかテンポは良く、退屈を感じる事は無い。
安住の地を探す忠男と春の旅は、現実の壁に阻まれなかなか上手く行かない。
兄夫婦は老人ホームへの入居を控え、弟の一人は刑務所暮らし、もう一人の羽振りの良かった弟も事業に失敗し受け入れる余裕は無い。
旅館を経営する姉は、忠男の心に春への依存と甘えがある事を看破し、愛情を持って拒絶する。
彼らが忠男を受け入れられないのは、単に薄情なのではなく様々な理由があり、そこから社会全体が活力を失い、ゆっくりと老いてゆく日本社会が浮かび上がってくるのである。
高間賢治の透明感のあるカメラが写し取る、閑散とした町にシャッターが締まった店舗ばかりが目立つ田舎町の風景は、そこで老いた弱者たちが生きてゆくことの困難をさり気なく、しかし如実に感じさせる。
ニシンへの夢に生きてきた男は、旅を通して初めて自分が生きている社会の現実と過去の人生に向き合う事を迫られ、孫娘もまた心に閉じ込めてきた離れて暮らす父への想いに向き合う決意をする。
そう、忠男が春に依存しているように、実は春もまた心の傷を抱えて忠男に依存している。
二人の旅は、忠男にとっては人生の総括であり、春にとっては再出発のための助走なのである。
劇中で「馬が合う、合わない」「気が合う、合わない」と言う言葉が繰り返し出てくる。
人は、人と繋がる時に、誰でも小さな葛藤を抱えている。
合っても合わなくても、そこに小さな愛があって、誰かと繋がっていられるという事自体が、たぶんとても大切な事なのかもしれない。
「春との旅」は普遍的なテーマを、錚々たる名優たちの素晴らしい芝居で見せ切った力作だ。
唯一気になるのが、物語の終盤がやや御都合主義を感じさせてしまう事か。
戸田菜穂の演じる伸子が、初対面の忠男に一緒に暮らそうと言うのは、彼女が忠男に父の面影を見たとしても、やや唐突に感じてしまった。
ラストもまあ想像は出来たし、物語上の必然ではあるものの、見せ方としてタイミング良すぎの感は否めない。
もっとも、それを差し引いても、本作は一級の人間ドラマであり、優れたロードムービーである。
観客には忠男世代の人が目立ったが、春世代が観ても、私の様に中間の世代が観ても、それぞれの立ち位置から考えさせられる作品である事は間違いないだろう。
今回は、劇中で忠男が一気飲みしていた「男山」をチョイス。
江戸時代に伊丹で創業した蔵で、現在は旭川に本拠を置く北海道の代表的な地酒。
全国にある「男山」銘柄の元祖である。
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