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デザート・フラワー・・・・・評価額1550円
2010年11月12日 (金) | 編集 |
砂漠に生まれ、都会に咲いた一輪の花。
ソマリア出身のスーパーモデル、ワリス・ディリーの自伝「砂漠の女ディリー」を、本邦初登場となるシェリー・ホーマン監督が映像化したドイツ・オーストリア・フランス合作映画。
砂漠の遊牧民から世界のファッション界へ、そして幼少期に負った秘められた傷とは。
「デザート・フラワー」は、一人の女性が辿った壮絶な人生を、赤裸々に描いた力作である。

ロンドンでバレエダンサーになる夢を追うマリリン(サリー・ホーキンス)の元に、ある日奇妙な少女が転がり込んでくる。
彼女の名はワリス(リヤ・ケベデ)。
アフリカのソマリア出身らしいが、英語も満足に話せず、何故ロンドンにいるのかも不明。
マリリンは、仕方なくワリスを自分の下宿に泊まらせて、ハンバーガー屋のバイトを世話する。
店で黙々と床掃除を続けるワリスに、ある時客の男(ティモシー・スポール)が名刺を渡す。
男はカメラマンで、ワリスにモデルとして写真を撮らせて欲しいというのだが・・・・


アフリカの砂漠で生まれた少女が、世界的なスーパーモデルへと飛躍してゆくサクセス・ストーリー、観る前はそんな印象だった。
実際、映画の大半を占めるのは、英語も話せないソマリア人のホームレス少女が、生まれ持った才能と周りの人々との幸運な出会いによって、モデルとして開花して行く物語である。
映画はソマリアの砂漠に暮らす、少女時代のワリスからスタートする。
僅かな水と緑を求め、山羊の群れと旅を続ける、過酷だが愛する家族との生活
ところが、弟達に「ずっと一緒だよ」と言っていたのに、場面が変わると大人になったワリスがロンドンでホームレスをしている。
一体、彼女の人生に何が起こったのだろうと思わせる、秀逸なオープニングだ。
以降映画は、ワリスがモデルとしてのキャリアをスタートさせる時期から時系列に沿って進み、人生のそれぞれの節目に差し掛かると、アフリカ時代の過去を回想するという手法で展開してゆく。

実は、ワリスが13歳の時、祖父ほどに歳の離れた老人と結婚させられそうになり、彼女は母の実家であるモガディシオの祖母の元へと逃げる。
そこで運良く遠縁の駐英ソマリア大使のメイドとなり、ロンドンにやって来るものの、大使館から一歩も外に出られない奴隷の様な生活で、英語を学ぶ事もできない。
やがて、ソマリア内戦が激化し大使館も閉鎖されるが、帰国を拒否したワリスは、ホームレスとして一人ロンドンの街角に投げ出されるのだ。
ここから彼女のサクセス・ストーリーが始まってゆくのであるが、この様な過去と現在をシャッフルした作劇を採用したのには、ワケがある。
ワリスの人生を通して、本作が描くもう一つの大きなテーマは、今も続く女性器切除(FGM:female genital mutilation)という残酷な風習に対する、被害当事者からの告発なのである。

アフリカや中東の一部地域では、思春期までの女性の外性器を切り取ったり、縫い合わせて陰部を封鎖してしまうFGMが今も続いている。
殆どのケースで、麻酔も無い非衛生的な環境でお粗末な手術が行われ、感染症などで亡くなってしまう悲劇も後を絶たない。
本作でも描かれた様に、術後も排卵や排尿の障害となり、生涯激痛を伴う後遺症に悩まされる女性も多く、心の病を引き起こす事もある。
ワリスは、五歳の時にFGMを受け、後年ロンドンで封鎖された陰部の開放手術を受けることが出来たが、彼女の姉はFGMが原因で亡くなっている。
彼女はこの経験でコンプレックスを抱え、男性に心を開けず、長年恋をすることさえできなかったという。
FGMは女性の肉体だけでなく、心まで縫い付けてしまうのだ。
この風習は一部でイスラム教に起因するとの誤解もあるようだが、もちろんコーランにこんな教えは書かれておらず、キリスト教や土着宗教など宗派に関わらず行われているので、信仰とは無関係
FGMをなかなか根絶できないのには、やはり伝統文化という意識が強い事と、男尊女卑的な風土や社会制度も影響しているのだろう。
個人的には、伝統文化は可能な限り尊重すべきだが、人権を超越する物であってはならないと考えるし、女性の肉体や精神を傷つけ、男性の征服欲を満たす以外になんら意味の無い風習を存続させる意義は見出せないと思う。
何れにしても、これはきわめて重く、難しい問題である。

実際のワリスは1965年生まれで、本作で描かれている内容というのは、彼女が女性器切除を受ける70年から、モデルとしてのキャリアをスタートさせる83年を経て、当時のアナン国連事務総長によってFGM廃絶のための特別大使に任命される1997年まで。
だが、映画は必ずしもこの年代を忠実に再現しているという訳ではない。
劇中で、彼女が大使館を追われる原因であるソマリアのバーレ政権崩壊は91年の事だし、モデルエージェントは最新のノートパソコンでネットを使っている。
このあたりは、多分に予算の都合もありそうだが、あくまでもワリス自身の辿った足跡を忠実に、その他の背景はわりと適当だ。
彼女がFGMを告発してから23年が経った今も、この風習が根絶に至っていない実事がこの様な作りを可能にしている一因だろうし、同時に80年代を舞台にしようが、現代だろうが状況はあまり変わらないというアフリカの現実を想起させる効果もあるかも知れない。

ワリスを演じるのは、エチオピア出身のスーパーモデル、リヤ・ケベデ
確かに、ビジュアルに説得力の必要なこの役は、普通の女優には演じられないだろう。
現役の“世界一の美女”は、さすがの存在感だ。
マリリンにサリー・ホーキンス、カメラマンのドナルドソンにティモシー・スポールといった演技派をワリスの回りに配し、人間ドラマとしての広がりを出して行く。
彼らとワリスとの人間関係で物語が進む前半部分は、適度なユーモアもあり、テンポも快調だ。
ビザのために偽装結婚したワリスと、一つ屋根の下で暮らしながら、手出しできないニールのエピソードには、ちょっとだけ同情した(笑

惜しむらくは、後半が駆け足になってしまい、彼女の人生の軌跡と、FGMの経験を公に告白する件が乖離してしまっている事だろう。
特にモデルとして成功し、NYに拠点を移してからは、実際の彼女の人生では10年近い歳月が流れているはずなのだが、映画ではロンドン時代に知り合った男性を訪ねるという、ワンシークエンスに凝縮されてしまっているので、彼女の心の変化が伝わってこない。
ここは、成功した人生を楽しみつつも、心のどこかに欠落を感じるワリスが、自らの内面に向き合って、その原因を少女時代に受けたFGMの経験へと帰結させてゆくプロセスが必要だったはず。
その意味で、告白の二年前のソマリアへの帰郷の旅もきちんと描くべきだっただろう。
モデルとしてのワリスのサクセス・ストーリー、ショッキングなFGMの告発は、それぞれに観るべき物語たり得ているが、もう少し上映時間をかけても、二つの要素をうまく融合させれば、更に優れた作品になった様に思える。

今回は、「デザートフラワー」のデザートに、砂漠とは対象的な寒冷地産のアイスワインを。
本作の製作国の一つドイツから、ゼーブリッヒ醸造所の「ニアシタイナー エルベルグ リースリング」をチョイス。
濃厚な甘みとコクを保ちつつ、リースリングらしい爽やかさも併せ持つ。
結構重い映画の後味を、優しく潤してくれるだろう。

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