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キック・アス・・・・・評価額1700円
2010年12月24日 (金) | 編集 |
史上最強のロリータに、見事ノックアウト。
マーク・ミラーとジョン・S・ロミタJr.の原作コミックを、「レイヤーケーキ」 「スターダスト」マシュー・ヴォーンが映像化した、その名も「キック・アス」は、前評判に違わぬ快作であった。
コミカルさとバイオレンスが絶妙にブレンドされ、オバカでありながら描いている内容は相当に深い。
マーベルやDCコミックのキャラクターをカリカチュアした、四人のなりきりコスチュームヒーローは、アメコミ世界のそれぞれの側面の比喩的存在であり、この比較的低予算なアクションコメディは、ある意味で現在までのアメコミ映画の集大成とも言える密度を持っている。

高校生のディヴ(アーロン・ジョンソン)は、コミックオタク。
現実世界ではなぜ誰もヒーローになろうとしないのかと疑問を持ち、通販で買った緑のコスチュームに身を包んで、スーパーヒーロー“キック・アス”を名乗り、街の平和を守る活動を始める。
だが何の特殊能力も持たないディヴは、自動車泥棒を止めようとして、ナイフで刺されて車に轢かれる羽目に。
ところが、その治療の結果、ディヴの骨は金属のビスやプレートで補強され、末梢神経の麻痺で痛みを感じにくい体になる。
さらに、街のチンピラと戦う様子がユーチューブに投稿されたことで、“キック・アス”は一躍時の人に祭り上げられる。
調子に乗ったディヴは、憧れの同級生に付きまとうドラッグディーラーの元へ乗り込むのだが、そこは街を支配する悪の帝王フランコのシマだった。
ホンモノの悪党を前に、絶体絶命のディヴを救ったのは、“ヒット・ガール”を名乗る11歳の女の子ヒーローだった・・・・


映画館のもぎりのお姉さんが、いきなりキックガールのコスプレだ(笑
アメコミ世界のカリカチュアというと、 「ウォッチメン」「Mr.インクレディブル」が思い浮かぶが、どちらも“もしもヒーローが○○だったら”という風に、スーパーヒーローの実在を前提としたもの。
対して、「キック・アス」に登場するのは、特殊能力もSFチックな装備も持たない、ごく普通の人間によるなんちゃってヒーローたちだ。
もっとも、それぞれ登場人物の、ヒーローに対するスタンス、本格度は大きく異なる。
主人公であり、ストーリーテラーでもある“キック・アス”ことディヴは、世の中には悪が溢れているのに、なぜ現実にヒーローが存在しないのだろうという、純真な憧れからヒーローになる。
一般的なアメコミファンにも一番わかりやすく、感情移入しやすいキャラクターだろう。
だが、単なるひ弱なオタク少年であるディヴが戦えるのは、せいぜい車泥棒やチンピラ。
彼自身も、彼が退治する悪も、ヒーローごっこ、悪党ごっこをしているに過ぎない。

そんな彼の前に現れるのが、60年代のバットマンのコスチュームに身を包んだ、“ビッグ・ダディ”ことデイモンと“ヒット・ガール”ことミンディの親子だ。
デイモンは元警官で、街の悪の総元締めであるフランコによって罠に嵌められ、無実の罪で服役させられた過去がある。
全てを失ったデイモンは、法が裁けないのなら法を超越するまでと、自らをコミックヒーローに擬えて、フランコ抹殺の計画を立てる。
そして彼の歪んだ復讐心は、娘のミンディを恐るべきモンスターに育て上げてしまうのである。
何しろこの二人、いきなりデイモンがミンディを拳銃で撃つという、強烈な登場をする。
これは、彼女に弾丸の衝撃を体で覚えさせるためなのだが、要するにミンディは、パープルヘアーのふざけた格好とは裏腹に、幼い頃からヒーローになるための特殊教育を受けた最強の殺人マシーンなのだ。
学校にも行かせてもらえず、デイモンに洗脳されて育ったミンディは、父の教える正義に一切の疑問を持たず、何の躊躇も無く“悪人”を殺してゆく。
特に、フランコを守る殺し屋達を、圧倒的な戦闘能力で殺戮してゆくクライマックスは圧巻で、彼女が銃や刃物で大人たちをミンチにしてゆく描写には、小が大を制する痛快さを感じる反面、まるで見てはいけない物を見ているような気分にもなる。

この背徳感はもちろん作者の狙いだろう。
ビッグ・ダディとヒット・ガールは、スパイダーマンやバットマン初め、過去のスーパーヒーローの多くが抱いてきた孤独と悲哀、正義とは何か、ヒーローとは何者かというディープなテーマを、行為の代償として具現化したキャラクターなのである。
彼らと出会ってしまったことで、ヒーローごっこをしてるに過ぎなかったディヴも、好むと好まざるとに関わらず、真剣勝負の世界へと叩き込まれてしまい、暴力を止めるためにヒーローが行使する力とは、結局別の暴力にしか過ぎないという事実に愕然とするしかないのだ。
そして一度動き出してしまった暴力の連鎖は、容易には止められない。
なりきりヒーローたちとフランコの戦いが、フランコ一味の皆殺しによってしか完結出来ず、結果的にそれが新たなる火種を生み出すのは大いなる皮肉だ。
“正義”という便利な言葉の持つ矛盾との葛藤は、あらゆるコミックヒーローが多かれ少なかれ抱えるテーマだが、それにどの様に折り合いをつけるのかはキャラクターによって異なる。
キック・アスの場合、彼自身の戦いをヒット・ガールと共に一度完結させる事で、とりあえず保留した段階に見える。
だが、ヒーローという虚構の存在を通して、自らの内面と向き合ったディヴ自身は、確実に一人の男として、人間として成長しているのである。
既に決定したという続編で、彼がどの様に進化するのか、非常に楽しみだ。
マシュー・ヴォーン監督は、その前に「X-MEN:ファースト・クラス」も手がけているので、こちらも大いに期待したい。

タイトルロールのキック・アスことディヴを演じるのは、「幻影師アイゼンハイム」や「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」などで知られるアーロン・ジョンソン
いかにもオタクっぽいルックスで登場し、ヒーローとしての苦悩を経験して、ラストではなかなか男っぽい面構えになっているなど、物語を通じた主人公の成長を丁寧に演じている。
また、芸名を「パワーマン」のキャラからとっていたり、息子にスーパーマンの名前をつけるなど、映画界屈指のコミックオタクとして知られるニコラス・ケイジが、実に楽しそうに狂気のヒーロー、ビッグ・ダディを演じている。
しかし、本編の白眉はやはりヒット・ガールを演じたクロエ・グレース・モレッツだろう。
キュートなローティーン少女と、殺人用に作り上げられた戦闘フリークスという、真逆の二面性を持つ史上最強の子供ヒーローを、愛嬌たっぷりに演じて、最高に魅力的だ。
殺人能力は要らないが、こんな娘が欲しくなった(笑
そしてもう一人、クリストファー・ミンツ=プラッセ演じるフランコの息子である“レッド・ミスト"は、いわばあわせ鏡の中のキック・アスだ。
彼は父親へのコンプレックスから、自らアンチヒーローの役を買って出るが、途中ディヴ同様彼自身の内面との葛藤で揺れ動く。 
結果的にビッグ・ダディとは別種の復讐鬼となる事が示唆される彼は、劇中ではジョーカーを気取っているが、どちらかというとスパイダーマンの宿敵ニュー・ゴブリンに近い存在だろう。
悪の帝王フランコは、なんだかすっかり悪役づいているスキンヘッドのマーク・ストロング「ロビン・フッド」に続いて怪演。
このキャラクターも、アメコミ悪役の定番であるギャングやマフィアのカリカチュアだ。

本作は日本のレイティングで“R15”が付いている。
まあ子供がサクサクと大人を殺しまくる映画なので、ストレートに観れば倫理的に問題がある事は否定しない。
だが、映画も文学と同じで、行間を読む、或いは裏の意味を読むという事が必要な作品もある。
この映画は正にそれで、悪趣味なB級オバカ映画の上っ面だけしか読み解けない人には、決してホンモノの姿は見せてくれない。
ふと思ったが、例の都の改正育成条例をありがたがったり、賛成しちゃったりする人というのは、こういう作品の読解が出来ないのだろう。
芸術の表現というのは、人間の想像力に働きかけ、しばしば表面的な描写とは正反対のテーマを導き出す。
だからこそ、観る人の能力によっていかようにも解釈する事が可能で、あいまいな法規制にはそぐわないのである。
都知事や都議会の議員センセイ方には、是非本作を観賞していただいて、感想文を公開してもらいたい。
おそらく、彼らの芸術読解力というのが一目瞭然となるであろう(笑

今回は一見甘そうで、実はかなりビターな映画という事でその名も「ビター」をチョイス。
ドライジン70ml、カンパリ70ml、アンゴスチュラ・ビター 2dash、レモンジュース適量を軽くシェイクして氷を入れたグラスに注ぐ。
レシピは店によってかなり異なる様だが、間違いないのはかなり苦いお酒だということ。
苦味のあとにくる柑橘の爽やかさを味わう、捻くれた酒だ。

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