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2010年12月30日 (木) | 編集 |
倦怠感が世間を包み、なんとなく自分的にも停滞期だった2010年もそろそろ終わる。
今年の映画を一言で言えば、“邦画とアニメの年”だろう。
多分に近年の韓国映画の影響がありそうだが、今年の邦画は人間のダークサイドや、破綻する社会の現実に向き合った力作が多かった。
一方で、ハリウッドからは3DCGの、日本からは伝統的な手描き手法の、優れたアニメーション映画が続出した。
また「ダークナイト」や「アバター」の様な、映画史を塗り替えるほどのスケールを持つ超大作が無かった反面、新人監督のフレッシュなデビュー作が目だった年でもあったように思う。
それでは、2010年の“忘れられない映画”を観賞順に。
「(500)日のサマー」は、草食系男子のリアルな恋愛模様を、センスの良い映像テクニックで描いたラブコメの佳作。
()で挟まれた500日のカレンダーを巧みに使い、シャッフルされた時系列から、観客の興味を引き出す作劇のロジックの上手さが光る。
タイトルロールのサマーを演じた、ズーイー・ディシャネルがとても魅力的だった。
マーク・ウェッブ監督は、本作の後「スパイダーマン」の新シリーズの監督に抜擢されており、これからが大いに楽しみである。
「今度は愛妻家」は、一人で観ても泣け、二人で観るともっと泣ける、ファンタスティックなラブストーリー。
コメディタッチで始まる物語が、途中から予想もしない方向へと舵を切り、観客は物語に隠された美しくも悲しい秘密に涙する。
中谷まゆみ作の舞台劇の構造をそのまま生かしつつ、非常に映画的な展開に落とし込んだ伊藤ちひろの脚本が素晴らしく、行定勲監督の演出も魅力的な登場人物を丁寧に生かしきった。
意味深なタイトルが秀逸で、後から考えればそこに色々な意味を感じ取る事が出来る。
「インビクタス-負けざる者たち-」は、クリント・イーストウッドからの人類への遺言。
アパルトヘイト撤廃直後の分裂した南アフリカを舞台に、未来への希望がラグビーのW杯に託される。
主人公であるネルソン・マンデラ大統領が見せる、過去の因縁を、許しと和解の力によって乗り越えようとするスタンスは、作者の願いであると共に、今の世界への重要な示唆に富んでいる。
ラグビーの試合のシーンも迫力満点で、スポーツ映画としても見応え十分だ。
「第9地区」は、南アフリカ出身の若きクリエイターによる斬新なSF映画。
これが長編デビュー作となるニール・ブロムカンプは、宇宙人が友人でも侵略者でもなく、やむを得ず地球にやって来た“難民”という風変わりな設定から、鋭い風刺性を持つ物語を作り上げた。
ひょんな事から人間と宇宙人のハイブリッドになってしまう主人公が目撃するのは、人間社会が抱える深い闇だ。
果たして三年後の約束は、果されるのだろうか?
これもまた南アフリカを舞台とした社会派作品であり、「インビクタス」と対比して観るとなお興味深い。
「ハート・ロッカー」は、イラク戦争に派兵された、爆弾処理のスペシャリストを描くハードな戦争映画。
まるで自分が戦場に叩き込まれて、兵士達と行動を共にしているかのような臨場感が最初から最後まで持続し、サスペンスフルなシチュエーションの連続は、観客の喉をカラカラに乾かせる。
元夫とのオスカー対決を征した、孤高のアクション派、キャスリン・ビグロー監督のベストワークと言って良いだろう。
「ジョニー・マッド・ドッグ」は、フランスの俊英、ジャン=ステファーヌ・ソヴェールによる、アフリカの少年兵を描いた問題作。
主人公の“狂犬”ジョニーと仲間達を演じるのは、現実の元少年兵たちで、彼らは十代にして既に「ハート・ロッカー」の主人公と同じ目をしている。
舞台を、アメリカの解放奴隷により建国された、リベリアを模した架空の国に設定し、アフリカとアメリカ双方の歴史の延長線上に、現在アフリカの問題を捉える文脈は興味深い。
原作は現代アフリカ文学の巨匠、エマニュエル・ドンガラ。
彼の「世界が生まれた朝に」は素晴らしい作品で、本作の原作も邦訳版が待たれる。
「マイレージ、マイライフ」は、ジェイソン・ライトマン監督が、アメリカの“今”の空気を上手く切り取った、ほろ苦い大人のコメディ。
企業のリストラ請負人として、全米を飛び回る主人公のライアンは、“バックパックに入らない荷物は、人生で背負わない”がモットー。
そんなクールなライアンが、旅先で出会った魅力的な女性アレックスと、デジタル世代の新入社員ナタリーという二人の女性との出会いを通して、人生で本当に大切なものに気付いて行く。
“バックパックに入らない物”を、初めて背負いたいと思った時、ライアンの見せるとても人間的な姿は、オヤジ達の感情を揺さぶる。
「息も出来ない」は、そのタイトル通り、呼吸する事すら苦しくなるほどの、切なく鮮烈な人間ドラマ。
これがデビュー作となる34歳のヤン・イクチュンが、製作・監督・脚本・編集・主演を兼ねた自主制作映画だが、そのスケール感はシェイクスピア悲劇を思わせるほど。
毎年とんでもない新人が生まれ続けている韓国から、またまた恐るべき才能が登場した。
「プレシャス」は、80年代のNY、ハーレムを舞台に、ある少女の魂の成長を描く物語。
「最愛の人」を意味するプレシャスという名を持ちながら、貧困と虐待が日常化した悲惨な境遇に暮らす少女は、ブルー・レイン先生という一人の教師との出会いによって、精神的な自立の道を歩き出す。
20年以上の過去を描きながら、十分な現代性を持つことも含め、考えさせられる力作だった。
貧困の問題をベースにした作品では、「フローズン・リバー」も印象に残った。
「パーマネント野ばら」は、四国のひなびた漁村を舞台に、喪失と再生を描いた物語。
かしましくお下品な女達が、心の奥底に隠す愛と悲しみと狂気。
西原理恵子の中篇漫画を、奥寺佐渡子が独特の空気感を損なわない様に寓話的物語として脚本化し、吉田大八監督が女達の繊細な内面を丁寧に映像化した。
主人公を演じる菅野美穂の、悲しい愛の波にたゆたうような儚げな存在感が出色だ。
「告白」は、鬼才中島哲也の才気が大爆発した最高傑作。
観る人によって強烈に好き嫌いが分かれるだろうが、人間の負の情念を、これほどストレートにエンターテイメントに昇華した例は他にあるまい。
観客は、それが負の連鎖の肯定である事を理解しながらも、壮絶な復讐劇に喝采を送らざるを得ず、作者から自己矛盾を突きつけられる。
演出、脚本、ビジュアル、そして演技、映画を構成する全ての要素が完璧に計算され、その完成度には一分の隙も無い。
「トイ・ストーリー3」は、ピクサーの礎となった記念碑的作品の第三弾にして三部作のベスト。
今回は、持ち主のアンディが大人になってしまったことで、おもちゃたちが自らのアイデンティティ・クライシスに直面する。
この物語には、前作から11年経った今になって、なぜ「トイ・ストーリー」なのか、という問いに対する答えがきちんと用意されている。
リー・アンクリッジ監督は、正にシリーズ物のお手本の様な、素晴らしい一編を纏め上げた。
これほど完成度の高い三部作は、「LOTR」以来ではないだろうか。
「インセプション」は、才人クリストファー・ノーランから観客への新たな挑戦状。
現実から夢へ、夢からさらに深層の夢へと、五つの階層の物語が迷宮の様に複雑に絡み合いながら展開し、それでいながら決してわかり難くはない。
おそらくノーランにしか書けない、究極にロジカルな脚本が圧巻で、凝りに凝ったビジュアルも見応え十分だ。
観客は、無意識のうちに脳ミソをフル回転させて、ノーランとの思考のキャッチボールに挑まされているのである。
「ヒックとドラゴン」は、夢と冒険に溢れた超正統派の娯楽アニメーション。
ドラゴンと人間が殺しあうドラゴン・スレイヤーの時代から、ドラゴンと共生するドラゴン・ライダーの時代へと、歴史の転換を描いた神話的物語でもある。
元ディズニーのディーン・デュボアとクリス・サンダースは、嘗てのライバルのドリーム・ワークスに移籍して素晴らしい仕事をやってのけた。
ダイナミックな飛翔シーンは、正に3DCGならではの迫力と浮遊感で、立体上映の追加料金を納得して払える数少ない映画でもあった。
もしも、“今年一番忘れられない映画”を選ぶとしたら本作かもしれない。
「瞳の奥の秘密」は、アルゼンチンからやって来た極上の人間ドラマ。
25年前に起こった一件の殺人事件を巡るサスペンスだが、激動の時代が人々の人生に介入し、冷酷に運命を変えてゆく歴史ドラマでもある。
ファン・ホセ・カンパネラ監督は、登場人物の内面をじっくりと描きながら、凝ったビジュアルとドラマチックな物語の仕掛けで観客の度肝を抜く。
主人公の前に、初めて事件の全貌が明かされる瞬間は、観客もまた驚愕するしかない。
「カラフル」は、原恵一監督による異色のホームドラマだ。
死んだはずの“ぼく”に与えられた、人生再チャレンジの日々を通して、“ぼく”にとってモノトーンだったこの世界が沢山の“カラフル”に染まってゆく。
一見すると実写と見紛うばかりにリアルな美術と、細やかに内面を作りこまれたキャラクターによって繰り広げられる、ほんの僅かに日常からずれた映画的世界は、日本の手描きアニメが到達した、新たなる地平だ。
ここには、まるで小津安二郎や木下恵介の作品の様な人間の息吹がある。
「悪人」は、ある殺人事件の犯人と、彼と行動を共にする女性の逃避行を通して、人間とは何か、“悪”とは何かを描き出そうとした意欲作だ。
登場するのは、永遠に変わらない日常に閉じ込められ、絶望的に孤独で、他人との微かな繋がりを探し求める悲しき人間達。
李相日監督は「フラガール」に続いて、見応えのある作品を作り上げた。
「告白」とは別の意味で、人間の心のダークサイドに迫った力作である。
「彼女が消えた浜辺」は、カスピ海の古びた別荘で展開する心理劇。
よかれと思ってついた善意の小さな嘘が、一人の女性の失踪事件によって次第に大きな意味を持ってしまい、嘘が次なる嘘を呼び、人々が疑心暗鬼を募らせて行く。
人が人を知るとはどういう事なのか、我々はすぐ隣にいる誰かの事を、本当に知っているだろうか。
観客は、映画の中の登場人物と共に、失踪した女性を探すうちに、実は人間そのものを探しているのである。
「十三人の刺客」は、時代劇ファンが待ち望んだ、大チャンバラスペクタクル。
これほど迷いの無い本格的なアクション時代劇は、平成に入ってからは観た記憶が無い。
三池崇史監督は、工藤栄一の伝説的なタイトルに正面から挑み、勝るとも劣らない快作をものにした。
巨大なオープンセットを縦横無尽に駆け巡り、敵味方入り乱れるクライマックスは、正に血沸き肉踊る熱き武士たちの世界だ!
「キック・アス」は、2010年のアメコミ映画の決定版。
ひ弱なオタク少年を語り部に、ニコラス・ケイジ演じる“ビッグ・ダディ”とクロエ・グレース・モレッツ演じる“ヒット・ガール”の狂気のコスプレヒーロー父娘が弾けまくる。
ヒット・ガールのキュートで危ない魅力に、見事ノックアウトされた。
だが、マシュー・ヴォーン監督は、チープでオバカな装いのこの物語に、底知れぬ深いテーマを潜ませた。
実は観る者に行間を読む事が要求される知的な作品だ。
「最後の忠臣蔵」は、師走の締めに相応しい重厚な時代劇。
杉田成道監督と脚本の田中陽造は、これぞ日本映画という渋い秀作を作り上げた。
日本人の大好きな「忠臣蔵」と「曽根崎心中」という二本の古典をモチーフに、武士道における公と個の鬩ぎ合いを描くロジックは見事。
主人公のラストの選択は、滅私して生きる事の厳しさと、秘められた愛の深さを感じさせ、涙なしでは観られない。
これもまた行間を読む事で、グッと深くなる作品である。
全体に、ハッピーなエンタメ作品よりも、シリアスな問題作に印象的な作品が多かった様に思う。
そんな中で、ハリウッドの二大アニメーションスタジオであるピクサーとドリームワークスが、共に素晴らしく気持ちの良い作品を見せてくれたのは、とても貴重だった。
アニメーションは豊作で、ハリウッドからは他にも「ガフールの伝説」や「怪盗グルーの月泥棒」など3DCGのそれぞれの表現を追及した特徴ある作品が生み出され、日本からは「借りぐらしのアリエッティ」や「REDLINE」と言った究極の手描き技を味わえる作品が印象に残った。
日本映画にヘヴィーな力作が揃った理由は、おそらく今の時代とも関係しているのだろう。
「悪人」では、日本の地方が抱える閉塞感が、物語のバックグラウンドになっているが、「春との旅」や「書道ガールズ!! 私たちの甲子園」も地方の厳しい現実と向き合って、懸命に生きる人間達を描いて深い余韻を残す。
さて、来年はどんな映画と出会えるのだろう。
それでは皆さん、良いお年を。
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今年の映画を一言で言えば、“邦画とアニメの年”だろう。
多分に近年の韓国映画の影響がありそうだが、今年の邦画は人間のダークサイドや、破綻する社会の現実に向き合った力作が多かった。
一方で、ハリウッドからは3DCGの、日本からは伝統的な手描き手法の、優れたアニメーション映画が続出した。
また「ダークナイト」や「アバター」の様な、映画史を塗り替えるほどのスケールを持つ超大作が無かった反面、新人監督のフレッシュなデビュー作が目だった年でもあったように思う。
それでは、2010年の“忘れられない映画”を観賞順に。
「(500)日のサマー」は、草食系男子のリアルな恋愛模様を、センスの良い映像テクニックで描いたラブコメの佳作。
()で挟まれた500日のカレンダーを巧みに使い、シャッフルされた時系列から、観客の興味を引き出す作劇のロジックの上手さが光る。
タイトルロールのサマーを演じた、ズーイー・ディシャネルがとても魅力的だった。
マーク・ウェッブ監督は、本作の後「スパイダーマン」の新シリーズの監督に抜擢されており、これからが大いに楽しみである。
「今度は愛妻家」は、一人で観ても泣け、二人で観るともっと泣ける、ファンタスティックなラブストーリー。
コメディタッチで始まる物語が、途中から予想もしない方向へと舵を切り、観客は物語に隠された美しくも悲しい秘密に涙する。
中谷まゆみ作の舞台劇の構造をそのまま生かしつつ、非常に映画的な展開に落とし込んだ伊藤ちひろの脚本が素晴らしく、行定勲監督の演出も魅力的な登場人物を丁寧に生かしきった。
意味深なタイトルが秀逸で、後から考えればそこに色々な意味を感じ取る事が出来る。
「インビクタス-負けざる者たち-」は、クリント・イーストウッドからの人類への遺言。
アパルトヘイト撤廃直後の分裂した南アフリカを舞台に、未来への希望がラグビーのW杯に託される。
主人公であるネルソン・マンデラ大統領が見せる、過去の因縁を、許しと和解の力によって乗り越えようとするスタンスは、作者の願いであると共に、今の世界への重要な示唆に富んでいる。
ラグビーの試合のシーンも迫力満点で、スポーツ映画としても見応え十分だ。
「第9地区」は、南アフリカ出身の若きクリエイターによる斬新なSF映画。
これが長編デビュー作となるニール・ブロムカンプは、宇宙人が友人でも侵略者でもなく、やむを得ず地球にやって来た“難民”という風変わりな設定から、鋭い風刺性を持つ物語を作り上げた。
ひょんな事から人間と宇宙人のハイブリッドになってしまう主人公が目撃するのは、人間社会が抱える深い闇だ。
果たして三年後の約束は、果されるのだろうか?
これもまた南アフリカを舞台とした社会派作品であり、「インビクタス」と対比して観るとなお興味深い。
「ハート・ロッカー」は、イラク戦争に派兵された、爆弾処理のスペシャリストを描くハードな戦争映画。
まるで自分が戦場に叩き込まれて、兵士達と行動を共にしているかのような臨場感が最初から最後まで持続し、サスペンスフルなシチュエーションの連続は、観客の喉をカラカラに乾かせる。
元夫とのオスカー対決を征した、孤高のアクション派、キャスリン・ビグロー監督のベストワークと言って良いだろう。
「ジョニー・マッド・ドッグ」は、フランスの俊英、ジャン=ステファーヌ・ソヴェールによる、アフリカの少年兵を描いた問題作。
主人公の“狂犬”ジョニーと仲間達を演じるのは、現実の元少年兵たちで、彼らは十代にして既に「ハート・ロッカー」の主人公と同じ目をしている。
舞台を、アメリカの解放奴隷により建国された、リベリアを模した架空の国に設定し、アフリカとアメリカ双方の歴史の延長線上に、現在アフリカの問題を捉える文脈は興味深い。
原作は現代アフリカ文学の巨匠、エマニュエル・ドンガラ。
彼の「世界が生まれた朝に」は素晴らしい作品で、本作の原作も邦訳版が待たれる。
「マイレージ、マイライフ」は、ジェイソン・ライトマン監督が、アメリカの“今”の空気を上手く切り取った、ほろ苦い大人のコメディ。
企業のリストラ請負人として、全米を飛び回る主人公のライアンは、“バックパックに入らない荷物は、人生で背負わない”がモットー。
そんなクールなライアンが、旅先で出会った魅力的な女性アレックスと、デジタル世代の新入社員ナタリーという二人の女性との出会いを通して、人生で本当に大切なものに気付いて行く。
“バックパックに入らない物”を、初めて背負いたいと思った時、ライアンの見せるとても人間的な姿は、オヤジ達の感情を揺さぶる。
「息も出来ない」は、そのタイトル通り、呼吸する事すら苦しくなるほどの、切なく鮮烈な人間ドラマ。
これがデビュー作となる34歳のヤン・イクチュンが、製作・監督・脚本・編集・主演を兼ねた自主制作映画だが、そのスケール感はシェイクスピア悲劇を思わせるほど。
毎年とんでもない新人が生まれ続けている韓国から、またまた恐るべき才能が登場した。
「プレシャス」は、80年代のNY、ハーレムを舞台に、ある少女の魂の成長を描く物語。
「最愛の人」を意味するプレシャスという名を持ちながら、貧困と虐待が日常化した悲惨な境遇に暮らす少女は、ブルー・レイン先生という一人の教師との出会いによって、精神的な自立の道を歩き出す。
20年以上の過去を描きながら、十分な現代性を持つことも含め、考えさせられる力作だった。
貧困の問題をベースにした作品では、「フローズン・リバー」も印象に残った。
「パーマネント野ばら」は、四国のひなびた漁村を舞台に、喪失と再生を描いた物語。
かしましくお下品な女達が、心の奥底に隠す愛と悲しみと狂気。
西原理恵子の中篇漫画を、奥寺佐渡子が独特の空気感を損なわない様に寓話的物語として脚本化し、吉田大八監督が女達の繊細な内面を丁寧に映像化した。
主人公を演じる菅野美穂の、悲しい愛の波にたゆたうような儚げな存在感が出色だ。
「告白」は、鬼才中島哲也の才気が大爆発した最高傑作。
観る人によって強烈に好き嫌いが分かれるだろうが、人間の負の情念を、これほどストレートにエンターテイメントに昇華した例は他にあるまい。
観客は、それが負の連鎖の肯定である事を理解しながらも、壮絶な復讐劇に喝采を送らざるを得ず、作者から自己矛盾を突きつけられる。
演出、脚本、ビジュアル、そして演技、映画を構成する全ての要素が完璧に計算され、その完成度には一分の隙も無い。
「トイ・ストーリー3」は、ピクサーの礎となった記念碑的作品の第三弾にして三部作のベスト。
今回は、持ち主のアンディが大人になってしまったことで、おもちゃたちが自らのアイデンティティ・クライシスに直面する。
この物語には、前作から11年経った今になって、なぜ「トイ・ストーリー」なのか、という問いに対する答えがきちんと用意されている。
リー・アンクリッジ監督は、正にシリーズ物のお手本の様な、素晴らしい一編を纏め上げた。
これほど完成度の高い三部作は、「LOTR」以来ではないだろうか。
「インセプション」は、才人クリストファー・ノーランから観客への新たな挑戦状。
現実から夢へ、夢からさらに深層の夢へと、五つの階層の物語が迷宮の様に複雑に絡み合いながら展開し、それでいながら決してわかり難くはない。
おそらくノーランにしか書けない、究極にロジカルな脚本が圧巻で、凝りに凝ったビジュアルも見応え十分だ。
観客は、無意識のうちに脳ミソをフル回転させて、ノーランとの思考のキャッチボールに挑まされているのである。
「ヒックとドラゴン」は、夢と冒険に溢れた超正統派の娯楽アニメーション。
ドラゴンと人間が殺しあうドラゴン・スレイヤーの時代から、ドラゴンと共生するドラゴン・ライダーの時代へと、歴史の転換を描いた神話的物語でもある。
元ディズニーのディーン・デュボアとクリス・サンダースは、嘗てのライバルのドリーム・ワークスに移籍して素晴らしい仕事をやってのけた。
ダイナミックな飛翔シーンは、正に3DCGならではの迫力と浮遊感で、立体上映の追加料金を納得して払える数少ない映画でもあった。
もしも、“今年一番忘れられない映画”を選ぶとしたら本作かもしれない。
「瞳の奥の秘密」は、アルゼンチンからやって来た極上の人間ドラマ。
25年前に起こった一件の殺人事件を巡るサスペンスだが、激動の時代が人々の人生に介入し、冷酷に運命を変えてゆく歴史ドラマでもある。
ファン・ホセ・カンパネラ監督は、登場人物の内面をじっくりと描きながら、凝ったビジュアルとドラマチックな物語の仕掛けで観客の度肝を抜く。
主人公の前に、初めて事件の全貌が明かされる瞬間は、観客もまた驚愕するしかない。
「カラフル」は、原恵一監督による異色のホームドラマだ。
死んだはずの“ぼく”に与えられた、人生再チャレンジの日々を通して、“ぼく”にとってモノトーンだったこの世界が沢山の“カラフル”に染まってゆく。
一見すると実写と見紛うばかりにリアルな美術と、細やかに内面を作りこまれたキャラクターによって繰り広げられる、ほんの僅かに日常からずれた映画的世界は、日本の手描きアニメが到達した、新たなる地平だ。
ここには、まるで小津安二郎や木下恵介の作品の様な人間の息吹がある。
「悪人」は、ある殺人事件の犯人と、彼と行動を共にする女性の逃避行を通して、人間とは何か、“悪”とは何かを描き出そうとした意欲作だ。
登場するのは、永遠に変わらない日常に閉じ込められ、絶望的に孤独で、他人との微かな繋がりを探し求める悲しき人間達。
李相日監督は「フラガール」に続いて、見応えのある作品を作り上げた。
「告白」とは別の意味で、人間の心のダークサイドに迫った力作である。
「彼女が消えた浜辺」は、カスピ海の古びた別荘で展開する心理劇。
よかれと思ってついた善意の小さな嘘が、一人の女性の失踪事件によって次第に大きな意味を持ってしまい、嘘が次なる嘘を呼び、人々が疑心暗鬼を募らせて行く。
人が人を知るとはどういう事なのか、我々はすぐ隣にいる誰かの事を、本当に知っているだろうか。
観客は、映画の中の登場人物と共に、失踪した女性を探すうちに、実は人間そのものを探しているのである。
「十三人の刺客」は、時代劇ファンが待ち望んだ、大チャンバラスペクタクル。
これほど迷いの無い本格的なアクション時代劇は、平成に入ってからは観た記憶が無い。
三池崇史監督は、工藤栄一の伝説的なタイトルに正面から挑み、勝るとも劣らない快作をものにした。
巨大なオープンセットを縦横無尽に駆け巡り、敵味方入り乱れるクライマックスは、正に血沸き肉踊る熱き武士たちの世界だ!
「キック・アス」は、2010年のアメコミ映画の決定版。
ひ弱なオタク少年を語り部に、ニコラス・ケイジ演じる“ビッグ・ダディ”とクロエ・グレース・モレッツ演じる“ヒット・ガール”の狂気のコスプレヒーロー父娘が弾けまくる。
ヒット・ガールのキュートで危ない魅力に、見事ノックアウトされた。
だが、マシュー・ヴォーン監督は、チープでオバカな装いのこの物語に、底知れぬ深いテーマを潜ませた。
実は観る者に行間を読む事が要求される知的な作品だ。
「最後の忠臣蔵」は、師走の締めに相応しい重厚な時代劇。
杉田成道監督と脚本の田中陽造は、これぞ日本映画という渋い秀作を作り上げた。
日本人の大好きな「忠臣蔵」と「曽根崎心中」という二本の古典をモチーフに、武士道における公と個の鬩ぎ合いを描くロジックは見事。
主人公のラストの選択は、滅私して生きる事の厳しさと、秘められた愛の深さを感じさせ、涙なしでは観られない。
これもまた行間を読む事で、グッと深くなる作品である。
全体に、ハッピーなエンタメ作品よりも、シリアスな問題作に印象的な作品が多かった様に思う。
そんな中で、ハリウッドの二大アニメーションスタジオであるピクサーとドリームワークスが、共に素晴らしく気持ちの良い作品を見せてくれたのは、とても貴重だった。
アニメーションは豊作で、ハリウッドからは他にも「ガフールの伝説」や「怪盗グルーの月泥棒」など3DCGのそれぞれの表現を追及した特徴ある作品が生み出され、日本からは「借りぐらしのアリエッティ」や「REDLINE」と言った究極の手描き技を味わえる作品が印象に残った。
日本映画にヘヴィーな力作が揃った理由は、おそらく今の時代とも関係しているのだろう。
「悪人」では、日本の地方が抱える閉塞感が、物語のバックグラウンドになっているが、「春との旅」や「書道ガールズ!! 私たちの甲子園」も地方の厳しい現実と向き合って、懸命に生きる人間達を描いて深い余韻を残す。
さて、来年はどんな映画と出会えるのだろう。
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