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スプライス・・・・・評価額1300円
2011年01月13日 (木) | 編集 |
科学には、決して犯してはなならないリミットがある。
「CUBE」ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の最新作は、人間と動物の遺伝子を結合させた新種のキメラ生物を創造し、神の領域に踏み込んでしまった科学者夫婦の辿る、恐るべき運命を描くバイオSFホラー。
タイトルの「スプライス(Splice)」とは、つなぎ合わせるという意味で、本作の場合は遺伝子を切り貼りする事を指す。

科学者のクライヴ(エイドリアン・ブロディ)とエルザ(サラ・ポーリー)は、製薬会社のために遺伝子操作によって薬効成分を作り出す新種の生物を開発している。
二人は目覚ましい成果を上げるが、会社は研究の凍結と生産段階への移行を命令。
納得出来ないエルザは、会社に隠して人間の遺伝子を組み込む実験を行う。
はじめは胚の着床が確認出来た時点で、実験を中止するはずだったが、成長が予想外に早く、人間とげっ歯類のハイブリッドの様な、奇妙な生物が生まれてしまう。
次第に人間の特徴を現しはじめるそれに、エルザはドレン(デルフィーヌ・シャネアック)という名前をつけて可愛がるのだが・・・


観る前から既視感バリバリの一本だ。
遺伝子操作で生まれた女性型ミュータントという設定は明らかに「スピーシーズ 種の起源」を連想させるし、虫の様な幼体が脱皮して、内部からヒューマノイド型の生物が出現するのは「エイリアン」そのもの。
ドレンが、肉体の異常な成長速度に心が追いつかず、創造主へ倒錯的想いを抱くあたりは、バーバラ・カレラがセクシーな人造美女を演じた「エンブリヨ」あたりが元ネタか。
全体に、ナタリ監督の過去のSFホラー映画への偏愛が色濃く出ている印象だ。

もっとも、話そのものは結構な独自性を発揮している。
本作の主人公はクライヴとエルザの科学者夫婦と、彼らの創造物であるドレンだが、物語のコアは明らかに女性二人である。
クライヴは、どちらかと言えばエルザが勝手に進めた実験の結果に、優柔不断に巻き込まれるだけの存在であり、物語を主導する立場には一度も立つ事は無く、印象の薄いキャラクターだ。
エルザは、少女時代の亡き母親との歪んだ関係がトラウマとなっていて、それ故に子供を欲しがるクライヴの気持ちに答える気になれない。
母と同じ過ちを自分も繰り返してしまうのではないかと、無意識に恐れているのである。
エルザが突然暴走してドレンを創り出すのは、科学者としてのキャリア的野心以上に、創造主として完全にコントロール出来る、子供の代用品を欲する気持ちの現れと言えるだろう。
実験の思わぬ結果に恐れ戦くクライヴとは対照的に、まるで母親の様にドレンを愛するエルザの態度、そして物語の中盤で明かされる、ドレンに使われた人間の遺伝子は、エルザ自身の物だったという秘密は、二人の関係が言わば親子のシミュレーションである事を端的に示している。

だが、次第にドレンが成長し、人間の娘同様に従順な存在でなくなると、エルザは優しい母親から強権的支配者へと変化し、ついに成長したドレンがクライヴを誘惑するに至って、彼女はエルザにとっては、忌むべき自分自身のニセモノになるのである。
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督は、元々特殊なシチュエーシュンに人間を追い込んでの心理劇を得意とする。
ドレンが成長した事で、研究所内では隠せなくなり、嘗てエルザが母と暮らした農場が、物語後半の舞台となるのは象徴的だ。
機械じかけのキューブや精神の迷路の代わりに、登場人物たちが追い込まれるのは、母娘のトラウマの詰まった記憶の館
本作は過去の多くのSFホラーの映画的記憶を無造作に詰め込んではいるものの、本質的にはエルザとドレンという同質性をもった二人の女性によって、母性の狂気とエゴイズムを描いた心理的葛藤劇なのである。

故に、ドレンが一度死んだ後で“ある存在”となって蘇る、いかにもB級ホラー的なクライマックスは物語的には中途半端な蛇足であり、一応途中に伏線は張ってあるものの、それまでの流れからは全く異質に思える。
思うに、このクライマックス部分は、作者が一番最初に構想した段階では無かったのではないだろうか。
これは私の想像だが、恐らくはクライヴの子を宿したドレンが死に、複雑な感情の葛藤を抱えたエルザが生まれた子を受け継ぐといったオチだった気がする。
ドレンの子はある意味でエルザ自身の子に他ならないのだから、図らずも彼女は合わせ鏡の自分によって子を授かる事になる。
擬似的な母娘の精神的葛藤から、やがて遺伝子の中に自分自身を感じ、もう一人の自分と対峙するという物語の構造からは、いきなりまったく別種の存在になってしまうよりも、物語のテーマには直結するはずである。
ただ、それだとホラー映画としてはあまりにも地味で、見せ場らしい見せ場もないまま終わってしまうので、苦肉の策として現状のオチが作られたのではないだろうか。

思うに、「スプライス」は、独特のムードを持ったSFホラーとして一見の価値はある作品だ。
母性と科学の狭間に生まれた悲しきクリーチャー・ドレンと、母でもある科学者・エルザの心理劇としてはなかなかに見応えがある。
だが、かなりアバウトに詰め込まれた映画的記憶は、観客が物語に入る前に既視感を感じさせてしまうし、かなり強引にB級ホラー的な展開に持ってゆくクライマックスは、物語の本質から乖離している。
テーマへのアプローチは面白いし、部分部分を観ると決して悪くは無いのだけど、全体を俯瞰すると今一つ芯が定まらず、薄味な印象になってしまったのはちょっと残念だ。

ドレンを演じたデルフィーヌ・シャネアックはフランス出身の女優。
今回は、フランスを代表するリキュール、クレーム・ド・カシスを使った「パリジャン」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、ドライ・ベルモット15ml、クレーム・ド・カシス15mlをステアしてグラスに注ぐ。
柔らかで、豊かな香りが特徴の、華やかなカクテルだ。
本来は食前酒だが、少し混乱した映画の後味を、爽やかに整えてくれるだろう。

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