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ウッドストックがやってくる!・・・・・評価額1600円
2011年01月22日 (土) | 編集 |
伝説のビハインド・ザ・シーン。
1969年8月15日から3日間に渡って繰り広げられた、愛と平和と音楽の祭典、ウッドストック・フェスティバル
50万人近い観客を集めたこの元祖夏フェスの会場が、名称とは異なり実はウッドストックではないという事実は、案外と知られていない。
これは、実際の開催地であるホワイトレイクにコンサートを誘致した一人の青年の目を通して、時代の大きな節目となった巨大イベントが如何にして生まれ、関わった人間達をどの様に変えていったのかを描くヒューマンドラマだ。

1969年夏。
アーティストのエリオット(ディミトリ・マーティン)は、ニューヨーク州の片田舎のホワイトレイクで、年老いた両親が経営するモーテル“エル・モナコ”を経営破綻から救うために、金策に奔走していた。
だが、訪れる人もいない過疎の町のおんぼろモーテルでは、借金の返済を夏の終わりまで引き延ばすのが精一杯。
そんな時、80キロ離れたウッドストックで予定されていた一万人規模の野外コンサートが、住民の反対でキャンセルされた事がわかる。
名ばかりの商工会議所の会頭でもあるエリオットは、コンサートを誘致して町おこしを図ろうとするのだが、それは予想を遥かに超える歴史的なイベントの始まりだった・・・


アメリカでは、第二次大戦直後の数年間に生まれた世代を表すのに、“ウッドストック・ジェネレーション”という言葉を使う事がある。
所謂ベビーブーマーと同じ世代だが、定義は異なる。
要するに、ウッドストック・ジェネレーションとは、若者のサブカルがウッドストックという一箇所に集まり、その巨大な力を社会に認めさせた世代を意味するのである。
ウッドストックが開催された時、私はまだ物心ついていない赤子だったので、もちろん記憶は無い。
だが、このコンサートは同名のドキュメンタリー映画「ウッドストック」に記録され、会場の混沌とした異様なムードと時代の熱気はスクリーンを通しても感じる事が出来る。
長編ドキュメンタリー部門でオスカーを受賞した、マイケル・ウォドレー監督によるこの映画は、若きマーティン・スコセッシが編集マンとして参加している事でも知られている秀作だ。

本作の原作は、エリオット・タイバーとトム・モンテによる回想録。
たまたまエリオットと監督のアン・リーが同じTV番組に出演した事から、企画がスタートしたと言う。
1954年生まれのアン・リーは、ウッドストック当時は14歳で、まだ母国の台湾で暮らしている頃。
脚本を担当したのは、リーの盟友であり、フォーカス・フィーチャーズのCEOでもあるジェームス・シェイマスで、彼は当時10歳。
おそらくは、共にメディアを通して“祭”を知った世代だろうが、それ故にこの映画には、ウッドストックとその時代に対する客観性と共に、ある種の憧憬がにじみ出ている。

主人公のエリオットは、いわば精神的な引きこもりだ。
母親は、ホロコーストを逃れ、アメリカにやって来たユダヤ系移民でとても気難しく、そんな彼女と40年以上一緒にいる無口な父親は、そもそも何を考えているのかわからない。
どう考えても客商売向きとは思えない両親の経営するおんぼろモーテルは、普通に考えればとっくに破綻しているが、それでも彼は全財産を投じて救おうとする。
エリオットは、自分に依存する両親に対する義務感と、彼自身の人生の間で板ばさみとなり、どこにも行けなくなってしまっているのである。
そんな彼の元に現れるのが、ウッドストックのプロデューサーであるマイケル・ラングだ。
実はエリオットとは幼馴染でもあるマイケルは、ウッドストックのために巨額の資金を動かし、前代未聞の規模のイベントを指揮しているにも関わらず、ネイティブアメリカンの様なファッションに身を包み、馬に乗って準備の進む会場を颯爽と闊歩するヒッピーでもある。
日常の閉塞感に苛まれるエリオットにとって、ラングの姿はまるで草原を流れる風の様に自然に見えたのであろう。

ウッドストックを誘致した事によって、時代を作るムーブメントの中に放り込まれたエリオットは、様々な価値観を持つ人々との交流によって、少しずつ殻を破りはじめ、本来の自分を解放してゆく。
そして、それはエリオットだけに起こった事ではない。
時の神に忘れられた様な田舎町に、50万人の若者と共にやって来たウッドストックという“時代”は、否応なしにそこに住む住人をも巻き込んでゆく。
ある者はヒッピー達の文化に感化され、ある者は純粋に楽しみ、またある者は反発する。
頑ななエリオットの両親も、この巨大な時代の流れの中で、それまで見せる事のなかった意外な内面をエリオットにさらけ出し、親子の関係も新しい一歩を踏み出す事ができる。
同じ1969年に起こった、もう一つの大事件であるアポロ11号の月着陸が、全世界の人々の価値観を少しだけ変えたように、当時を知る人たちの多くは、ウッドストックの前と後では何かが変わったと言う。
それが何かは個人によって違うだろうが、色々な意味で変化を一番如実に感じたのが、あの現場にいた人々なのだろう。
エリオットがゲイである事は、物語の中で突然明かされるが、それは彼が自分自身の始めた大革命の中で、あるがままの自己を遂に解き放ち、自らのアイデンティティを確立した事を意味する。
間違いないのは、一度時計の針が進んでしまった以上、それ以前には決して戻れないという事だけである。

ちなみに、本作は「ウッドストックがやってくる!」というタイトルながら、肝心のコンサートのシーンは全く出てこない。
何しろ会場は50万人近い人で埋め尽くされ、更に周辺の道路には入りきらない100万人が大渋滞中なので、ステージに近づく事すらままならない。
会場を訪れたエリオットも、結局一度もステージを見ることは無いまま祭は終わってしまう。
まあこのあたりの描写は、権利関係の問題もありそうだが、結果的にはこれでよかったと思う。
なぜなら、これはウッドストックで繰り広げられたパフォーマンスを描く音楽映画ではなく、時代の大きな変化に関わったごく普通の人々が、いかにして自己変革を経験してゆくかを描くヒューマンドラマだからだ。
故に、本作におけるコンサートのステージは、現実とは逆に物語のビハインド・ザ・シーンに過ぎないのである。
同じ意味で、コンサートとしてのウッドストックが大赤字で終わり、その返済に十年以上費やした事や、マイケル・ラングが設立した運営会社の内紛劇、その後ホワイトレイクのあるベッセル町が大規模コンサート禁止条例を可決した事実なども描かれない。
それらは、ウッドストックの一部ではあるが、エリオットや両親の人生には無関係だからだ。

全てが終わった後で、マイケル・ラングがエリオットに、カリフォルニアでローリング・ストーンズの無料コンサートをやるから来ないか?と誘うシーンがある。
これはウッドストックから四ヵ月後に開催され、コンサートの警備を担当していたヘルスエンジェルスのメンバーに観客の一人が殺害された、“オルタモントの悲劇”として知られる事になるコンサートである。
ウッドストックが時代を象徴する音楽の光なら、こちらは影だ。
このオルタモントのコンサートを記録した傑作ドキュメンタリーが、「ギミー・シェルター」であり、こちらにはカメラマンとして当時25歳のジョージ・ルーカスが参加している。
スコセッシにルーカスら、1940年代生まれの所謂ハリウッド第9世代の作家達の、創作の原点としてこの時代を眺めると、また別の意味で興味深い。
本作を楽しめた人には、是非ドキュメンタリー映画の「ウッドストック」と「ギミー・シェルター」を合わせて観賞する事をお勧めする。
なぜ、1969年が音楽のみならず、文化史上のターニングポイントと言われるのかが、リアルにイメージできると思う。

時代の空気を存分に味わった後は、本当はマリワナ入りビールでも飲みたいところだが、日本でそれをやると大変な事になってしまうので、普通のビール。
ウッドストックのあるニューヨークの地ビール「ブルックリンラガー」をチョイス。
1998年に創業した新しい銘柄だが、元々ニューヨークには禁酒法以前に多くのブルワリーがあったそうで、その当時の伝統的な手法と味をイメージしているという。
色は美しいダークアンバーで、とてもフルーティでありながら、キリリとした苦味が特徴と言えるだろう。
これならマリワナなしでも幸福にトリップできそう。

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