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太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-・・・・・評価額1700円
2011年02月13日 (日) | 編集 |
日本人の知らない、日本人の戦争。
第二次大戦下のサイパン島で、日本軍の玉砕後も、実に512日間も戦い続けた兵士達がいた。
「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」は、神出鬼没のゲリラ戦で、“狐の様に賢い”と米軍に恐れられた、大場栄大尉を主人公にした戦争秘話。
これは、イーストウッドによる「硫黄島からの手紙」という見事な“邦画”に対する、日本映画界からの返信と言える渾身の力作である。

1944年6月、サイパンに米軍が上陸。
圧倒的な戦力の前に、島の日本軍は玉砕した。
僅かな残存兵力を集めた大場栄大尉(竹之内豊)は、ゲリラ戦を行うべく、島の中央部にあるタッポーチョ山に向っていた。
途中で二百人もの民間人が潜む野営地に遭遇した大場は、彼らを守りながら米軍に抵抗を続ける事を決めるのだが、それは長い長い苛酷な戦いの始まりだった・・・・・


原作は、サイパン島攻略に従軍した元アメリカ海兵隊員、ドン・ジョーンズの著した「タッポーチョ 「敵ながら天晴」 大場隊の勇戦512日」「OBA, THE LAST SAMURAI」の二編。
アメリカ人の書いた本ながら、「タッポーチョ~」は日本で先行出版され、「OBA~」はその英語版なのだが、ハリウッドでの映画化を目指してよりエンターテイメント性が強くなっているという。
本作はこの二つの本をベースに、日米混成の脚本チームがプロットを組み、更に脚色を加えている。
私は「タッポーチョ」の方を昔読んだのだが、これが実に面白い。
映画とは違って、本では著者のジョーンズが、“戦友”である大場を訪ねて「サイパンでのあなたの戦いを、本にしたい」と言う所から始まる。
最初大場は、今更あの戦争を振り返るなんてと否定的だったが、嘗て戦場で敵味方に別れ、生死を賭して戦ったジョーンズと話すうちに、心に過るものがあったのか、最終的に本の執筆を許可する。

主人公は日本の軍人であるにも関わらず、アメリカ人によってその戦いが記録されたという原作の経緯が、本作にユニークな視点をもたらしているのは間違いないだろう。
映画でも、日米双方の視点が交互に描かれ、しかも面白い事に、それぞれの言語によって監督も別れているという。
日本語が支配的なパートは平山秀幸監督が演出し、英語が支配的なパートはリメイク版「サイドウェイズ」のチェリン・グラック監督が担当している。
全く個性の異なる二人の監督の演出が同居しているのだから、下手をするとバラバラに空中分解しそうに思えるが、不思議とそうはなっていない。
それは物語の構造が、日米それぞれのパートを対等の視点に位置づけているからだ。
脚本化作業は、チェリン・グラックとカナダ人脚本家のグレゴリー・マーケットが先行して「OBA~」をベースに進め、それから「タッポーチョ~」の要素を掛け合わせた上で、ベテランの西岡琢也が纏め上げている。
この過程で上手く日米のパートが色分けされ、アメリカ側にも日本通のルイス大尉という主人公を置いたことで、本作は言わば硫黄島二部作を、一本の映画の中でやった様な、独特の視点を持つ作品になっているのである。
結果的に、本作はある種の日本人論の様な側面も持つ。
ルイス大尉が、上官に日本人の考え方を理解させるのに、将棋とチェスのルールの違いを使うあたりは面白い。
もちろん、当時の日本軍人と観客である今の日本人は思考が大きく異なるので、このあたりの構造は、若い日本の観客に対する帝国軍人論としても機能しているのだろう。

主人公の大場大尉は、決してヒロイックな人物ではない。
原作によれば、彼は米軍に向けて突撃を繰り返しているうちに、いつの間にか米軍を通り越して背後に出てしまい、結果的に残存兵力を集めて指揮する様になったに過ぎない。
“フォックス”として米軍に恐れられたのは事実だが、映画ではそれほど戦闘の描写は多くなく、戦果もどちらかと言うと半分偶然に助けられた結果に見える。
大場という人物が物語の主役足りえているのは、彼が軍人として、人間として、様々な葛藤を抱えながらも芯の部分ではぶれず、魅力的なリーダーとして、その時々で最良の決断をしているからだろう。

本作のプロットには、いくつもの対立要素が配置されている。
日米両軍の対立だけでなく、それぞれの内部にも異なる価値観を持つ集団や個人が存在し、それがドラマチックな葛藤に繋がる。
幸運にも玉砕戦を生き残った大場は、戦友たちの仇に米兵を100人殺すと宣言するヤクザ上がりの一等兵、堀内と出会う。
軍籍にありながら、もはや命令では動かない堀内と、あくまでも指揮官として皆を束ねる大場のコントラストが日本側のパートで良いメリハリを生んでいる。
朴訥とした好人物である大場を竹野内豊が好演。
俳優としてはあまり器用な人ではないと思うが、涼しげな風貌と穏やかな語り口がキャラクターにマッチし、自然な存在感は説得力がある。
対照的に、そり上げたスキンヘッドと派手なモンモンを背負った堀内を、唐沢寿明がインパクトたっぷりに演じる。
ちなみに、原作で描かれる堀内の最期は、映画に輪をかけて壮絶な物で、その怒りは大場に決して降伏しないという思いを、改めて抱かせる事になる。

そして、大場の葛藤の最大の源と言えるのが、行動を共にする二百人もの民間人の存在だ。
軍隊が最大のプライオリティを置くべきは、敵を攻撃し殲滅する事なのか、自国民を守る事なのかという、軍人としての究極の選択を常に迫られるのである。
まあ大体において、歴史上では前者が優先され、特に日本軍は基本的に国民の軍隊ではなくて天皇の軍隊という思想が根強かったので、多くの民間人が犠牲にされたのは周知の通り。
大場も最初は民間人の面倒を見るつもりは無かったのだが、丸腰の彼らが攻撃目標にされた事で、思い直して保護する事にする。
このあたりの対応を見ても、基本的に彼は優しく、過剰に理念に囚われずに、目の前の状況で何をすべきかを判断できる、非常にロジカルな指揮官だったのだろうと思う。
とは言え、民間人を守りつつも米軍と戦えば、当然多くの無理が出てくるわけで、状況はジリジリと悪化し続け、遂に大場は民間人を米軍に投降させる事を決断する。
面白いのは、捕虜収容所が日米双方の交錯する場所として機能している事で、米軍は日本軍を投降させるために、日本軍は戦い続けるために、お互いが収容所の人間を利用し、結果的にそれが交渉の接点にもなるのである。

大場たちが戦い続ける間にも、日本にとって戦況は悪化し続け、とうとう8月15日がやってくる。
タッポーチョにも、日本の敗戦は知らされるが、大場はなおも降伏しない。
サイパンの戦いで将軍たちは自決し、多くの将兵は玉砕し、民間人はバンザイクリフから飛び降りた。
やがて東京は焼け野原となり、広島・長崎は一瞬で蒸発し、遂に天皇は玉音放送を流し、無条件降伏の憂目を見る。
それは大日本帝国という国家の敗北だが、実はそれと個人とは関係ない。
帝国軍人である大場栄という人物が、現在の我々から見ても、あまつさえ敵国であるアメリカから見ても、リーダーとして魅力的であるのは、彼が国家に従属した存在ではなく、個人として説得力を持った振る舞いをしたからに他ならない。
彼は職業軍人であり、敵と戦い、民間人を守り、妥協すべきはして無駄な犠牲を避け、それでも最後まで誇りを捨てなかった。
国家という概念にただ従属してしまうのでなく、能動的にアイデンティティを定め、忠実に生きたのだ。
日本は負けたかもしれないが、彼らは別に誰に対しても負けていない、だから降伏はしない。
しかしながら、軍人であるからには、上官の命令には従う。
このギリギリの落とし所は、奇しくも戦後29年に渡って、フィリピンのルバング島で戦い続けた、小野田寛郎少尉と同じである。

本作の原作がアメリカ人によって書かれたという事実は、重要な示唆に富む。
我々は、歴史をマクロ的に俯瞰する事は多いが、それが多くの個と言うミクロによって構成されている事を忘れがちだ。
特に、第二次世界大戦の記憶は、マクロの視点から恥の歴史と捉えられて来た故に、ミクロを見ることを避ける傾向が強いのではないか。
もちろん歴史観には様々な立場の人がいるだろうが、大概において善か悪か白黒大雑把な傾向は否めない。
原作者のドン・ジョーンズは、あとがきでこの物語は、日本人の“知識の真空状態”を埋める物だと書いている。
本作には、主人公の大場栄大尉以外にも、日米双方に非常に沢山のキャラクターが登場する。
アメリカへの復讐心を抱く看護師、降伏を受け入れず一人密林に消える兵士、和平を取り持ったがために命を落とす通訳、あるいはフォックスに翻弄される米軍指揮官。
一本の映画としてみると、詰め込まれた沢山のエピソードは、消化不良の部分も多い。
だが、この作品が重要なのは、あの時その場所にいた一人一人に語るべき物語があるはずで、それは同時に我々が知るべき物語だと言う事を、改めて気付かせてくれる事にある。
だからこそ本作は、イーストウッドが投げかけた問いへの、真摯な返信と成っているのである。

今回は、四年前に「父親たちの星条旗」に合わせた、埼玉県の神亀の古酒「ひこ孫 時のながれ」をチョイス。
長期熟成された最高品質の日本酒は、まるで極上のブランデーの様な独特のまろやかさとコクを獲得し、正に至高の一本と言える。
日本からも、漸くこの酒に相応しい戦争映画の名品が生まれた。
最高級の日本酒に感じるのと同等の、丁寧な仕事と作り手の想いが伝わってくる作品なのである。
出来れば、この映画と酒だけでなく、原作も多くの人に読んでもらいたいのだけど、残念ながら現在は絶版になっている。
せっかく映画化されるのだから、ノベライズだけでなく、原作も復刊して欲しいものだ。

追記:どうやら映画の公開にあわせて、2月4日に原作が復刊されていた模様。
タイトルが「タッポーチョ 太平洋の奇跡」と変わっているが、この名著が再び日本人の目に触れるのは喜ばしい。
故ドン・ジョーンズも草葉の陰で喜んでいるだろう


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