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英国王のスピーチ・・・・・評価額1750円
2011年02月28日 (月) | 編集 |
王室物というのは、英国の映画界では一つのジャンルみたいな存在。
時代劇ならそれこそ無数の作品が作られているし、現代劇では現役の女王を主人公にしてしまった「クィーン」が記憶に新しい。
今回、俎上に載せられるのは、そのエリザベス女王の父君に当たる“善良王”ジョージ六世。
吃音の障害に苦しみ、望まぬ王位につかねばならない王子が、自らの運命と葛藤しながら、困難を克服して本当の王になってゆく物語だ。
本年度米アカデミー賞で作品賞他四冠、英アカデミー賞七冠を達成した話題作である。

英国王ジョージ五世の息子、ヨーク公アルバート王子(コリン・ファース)は、幼い頃から吃音障害があり、人前で上手く話せなかった。
妻のエリザベス妃(ヘレナ・ボナム=カーター)は、夫のためにオーストラリア人の言語療法士ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)を探し出す。
相手が王族でもまったく遠慮しないローグに、最初は反発するアルバートだったが、徐々に症状は良くなっていく。
だが、王に即位していた兄のエドワード八世が、離婚暦のあるアメリカ人女性シンプソン婦人と恋に落ち、突然退位を表明した事で、アルバートは思いがけずに王位を継ぐ事になってしまう。
時は風雲急を告げる第二次世界大戦前夜。
ナチスドイツの脅威の前に、人々は国の象徴たる王のリーダーシップを切望している。
果たして新王ジョージ六世は、吃音を克服して国民に力強く語りかけることができるのだろうか・・・


人物造形の、お手本の様な脚本である。
映画は、後にジョージ六世となるヨーク公アルバート王子が、大英帝国博覧会のスピーチで大失態をやらかすシーンから幕を開ける。
生来生真面目なうえに、吃音のコンプレックスから、引き篭もりがちで内向的な性格になった王子を救うのは、言語療法士のローグだ。
古びた雑居ビルで診療室を営むローグは、オーストラリア人の元兵士で、シェイクスピアに憧れる役者崩れでもあるという、色々な意味で王子とは対照的なユニークな人物に描写されている。
吃音矯正が仕事のローグが、オーストラリア訛を理由に芝居のオーディションに落とされるという、いかにも英国らしいシニカルなシーンもある。
彼は王族であっても患者を特別扱いせず、王子をバーティというあだ名で呼び、自分の薄汚いボロ診療室に呼びつける。
当然王子は反発するが、型破りな治療の効果を目の当たりにして、徐々にその閉ざされた心を開いてゆく。
ローグは「生まれつき吃音の子供はいない」と言う。
王子は、幼い頃から厳格な父王に抑圧され、乳母には虐待を受けて育った。
深層意識の中で傷ついた心が、吃音という障害になって現れているのである。
治療を通じて、王族に生まれた者の癒しようのない孤独と、秘められた心の傷を知ったローグは、やがて王子と友情によって結ばれ、言語療法士と患者の関係を超えて一人の友として彼を支える様になる。

対照的な二人の主人公を演じる、コリン・ファースジェフリー・ラッシュを初め、エリザベス妃には久しぶりにエキセントリックじゃないヘレナ・ボナム=カーター、チャーチルにティモシー・スポール、エドワード八世にガイ・ピアース、ジョージ五世にマイケル・ガンボン、カンタベリー大主教に「ヒア アフター」に本人役で出演していたデレク・ジャコビと、まさに錚錚たる英国オールスター総出演だ。
もっとも、彼らの出演シーンは人によっては僅か数分という贅沢さで、物語の大半を占めるのはアルバート王子とローグの掛け合いによる会話劇。
王子は吃音なので、当然なかなか言葉が出てこない“間”がかなりの部分を閉める。
この映画は、無言の時間の見せ方が絶妙である。
俳優たちも見事だが、抜群のタイミングでカットを紡いでゆく演出と編集の技術も相当なものだ。
38歳の俊英、トム・フーパー監督は自主映画からCMを経て、映画監督になったそうだが、この繊細な繋ぎの技術は、十数秒間に全てをかけるCMディレクターならではのセンスだろう。
ただ、逆に全体の流れにはもう少し緩急をつけても良かったかもしれない。
物語は王子とローグの関係を軸に、父王の死や兄エドワード八世の所謂“世紀のロマンス”による退位、迫り来る戦争の危機などを背景に展開するが、中盤はエピソードの処理が丁寧過ぎて、ややもたつく印象がある。
退位騒動のあたりからは、もう少し畳み掛けるように物語をペースアップしても良かった様に思う。

ローグの治療によって、だんだんと言葉が出るようになった王子は、ついに兄の退位によって国王ジョージ六世となり、ウェストミンスター寺院での戴冠式の宣誓も何とか無難にこなす。
その戴冠式のニュースフィルムを観ていた王が、続けて上映されたヒットラーの演説に「演説が上手い」と驚嘆するシーンがある。
そう、時はナチスの猛威がヨーロッパを覆い尽くそうとする時代。
国家元首であるジョージ六世のライバルは、“演説の天才”ヒットラーなのである。
この映画の作り手が、あえてクライマックスを戴冠式ではなく、開戦を告げる戦争演説にした理由は、一つには時代性を明確化できる事、もう一つは戦争演説こそが王たる者がその義務と孤独を一番に感じる瞬間だからだろう。
英国の王政が、長い歴史の中で国民の一定の支持を得て生き残ってきたのは、戦争の様な国難において先頭に立つ、ノーブル・オブリゲーション(高貴なる義務)を果たすからである。
戦争が複雑に、大規模になった近代においても、その精神的意義は変わらない。
ジョージ六世は海軍士官でもあり、娘のエリザベス二世も第二次世界大戦末期に女子国防軍に入隊し軍務についている。
開戦を告げるスピーチは、英国民に当てた言葉であるのと同時に、海峡の向こう側にいるヒットラーに向けた不屈の宣言だ。
嘗て戦場を駆けた歴代の王と同じく、彼の言葉は英国の先陣を切って海を渡り、彼は初めて王としての職責を果たしたのである。

「英国王のスピーチ」は、いかにも英国の映画らしいウィットに富み、人間としての国王を暖かい視線で描いた秀作だ。
「ソーシャル・ネットワーク」を抑えて、本作がアカデミー賞を征した事で、保守が革新に勝ったという見方もある様だが、私は別に本作が保守的で「ソーシャル・ネットワーク」が新しいとは思わない。
あの映画は確かにフェイスブックという旬なネタを扱ってはいるが、映画としての作りは極めて正攻法のオーソドックスなハリウッド映画で、作劇的にも演出的にも特に新しくはない。
逆に本作は、王室物という定番のモチーフを題材にはしているが、その視点は過去に例の無い物だ。
この二本の間には、新しいモチーフを古典的な手法で描くか、古いモチーフを新しい視点で切るかという違いしかなく、どちらにも古さと新しさが同居しているからこそ、とても観易いのだ。
それぞれにアメリカ的なるものイギリス的なるものを楽しむ事の出来る、非常に良く出来た娯楽映画である。

今回は、ブレンディッド・スコッチの名品、「シンジケート58/6」をチョイス。
奇妙な名前は、1958年に6人の仲間によって、自分たち専用のスコッチを造るためのシンジケートが結成された事に因む。
シングルモルト18銘柄とシングルグレーン2銘柄をブレンドした味わいは、非常に上品でまろやか。
正に王の酒にふさわしい。
ちなみに1958年は、チャールズ皇太子が立太子した年である。
果たして本当に彼が次の国王になるのか、イギリス映画界が次にネタにするのは王位継承問題あたりかもしれない。

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