2011年03月03日 (木) | 編集 |
猟奇殺人犯によって婚約者を惨殺された男の、壮絶な復讐を描くサイコ・サスペンス。
悪魔そのものの様な殺人鬼を演じるのは、「オールド・ボーイ」で知られる名優チェ・ミンシク、彼を執拗に追い続け、いつしか自らも血みどろの地獄へと堕ちてゆく主人公を、イ・ビョンホンが演じる。
二大スターの火花散る対決を盛り上げるのは、「グッド・バッド・ウィアード」のキム・ジウン監督。
「悪魔を見た」(原題同じ)というタイトルが、観客の想像力を刺激しつつ、物語のテーマを暗示していて秀逸だ。
粉雪が舞う冬の日、一人の女性が失踪し、数日後バラバラ死体となって発見された。
彼女の名はジュヨン(オ・サナ)といい、引退した重犯罪科のチャン刑事(チョン・グックァン)の娘だった。
捜査が行き詰まる中、彼女の婚約者で国家情報院捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)は、独自の捜査で塾のバス運転手のギョンチョル(チェ・ミンシク)が犯人だと確信する。
塾生の女生徒を、ビニールハウスに連れ込んだギョンチョルの元にスヒョンが現れ、彼を気絶させる。
目を覚ましたギョンチョルは逃走を図るが、それはスヒョンによる恐るべき復讐計画の始まりだった・・・
またまた韓国発の強烈な猟奇殺人物である。
そのうち日本の時代劇、アメリカの西部劇などと同様に、猟奇殺人物といえば韓国が枕詞になるかもしれない。
相変わらず韓国警察の現場保存は無茶苦茶いい加減で、裏をかかれっぱなしの捜査能力もかなり無能に描写される。
この国の、国家権力に対する不信は根深いものがありそうだ。
登場する猟奇殺人犯も、欲望のままに女性を攫い、犯し、殺すという正に血も涙も無い悪魔の如きキャラクターに造形されている。
しかも今回は一人だけではなく、途中からお仲間まで出てくるので、なんだか映画を観ていると、韓国は警察が役立たずで、猟奇殺人犯が溢れかえっている恐ろしい国に思えてくるよ。
殺人鬼ギョンチョルを演じるチェ・ミンシクは、「オールド・ボーイ」では復讐する方だったが、今回は復讐される側に立場が逆転。
何しろ殺した女の婚約者スヒョンは、非合法捜査ならお手の物の本職のスパイである。
まあこの設定そのものが、かなりご都合主義の気もするが、とにかく狙った相手が悪かった。
復讐鬼と化したスヒョンは、ギョンチョルを襲撃して気絶させ、その間にGPS盗聴器のカプセルを飲み込ませ、わざと逃亡させる。
簡単に殺すつもりはなく、相手の手の内、行動を全て把握した上で追跡し、少しずつなぶり殺すつもりなのだ。
逃げても逃げてもいつの間にスヒョンが自分の前に現れ、最初は腕、次は足と体の機能を奪われてゆく。
正に恐怖のキャッチ&リリースである。
ギョンチョルは、嘗てのお仲間カップルが、オーナー一家を惨殺して乗っ取った森の中のホテルに逃げ込んだものの、ここでもスヒョンに歯が立たず、お仲間カップルともどもボコボコにされてしまう。
もっとも、物語的にはそろそろ蹴りをつけないと流れが変わっちゃうよ~というタイミング。
劇中でも、スヒョンがギョンチョルを追い詰めている事を知っているチャン刑事や国情院の部下が忠告するのだが、スヒョンは耳を貸さない。
案の定、殴られ切られ、それでも闘志を失わないギョンチョルが、「冷たい熱帯魚」のでんでんも真っ青のしつこさで復活。
偶然にも自分の胃の中のGPSカプセルの存在を知ったギョンチョルは、下剤でそれを取り出すと、姿をくらましスヒョンに対して反撃を開始する。
その方法は、なんとジュヨンの父親であるチャン刑事と妹を殺し、その後で自首するというもの。
実質的に死刑の無い韓国では、逮捕されればもうスヒョンは手出しできず、復讐の計画は達成できない。
いつの間にか、スヒョンは自らの復讐計画を逆手に取られて、大切な者を全て失う復讐の無間地獄に堕ちてしまう。
倍返しのはずの復讐が、言わば四倍返しになって彼自身に跳ね返って来たのである。
ここまでやってしまって、いったいどうやって話のオチをつけるのかと思っていたら、スヒョンが下した究極の復讐の決断は、なるほどこう来たかという意外性のあるものだ。
「末代まで呪う」とは、正にこの事だろう。
全てが終わったラストカットの、イ・ビョンホンの泣き顔とも笑い顔ともつかない、なんとも複雑な表情が見ものだ。
私は、ちょっと「告白」のラストの松たか子を思い出した。
「悪魔を見た」は、サイコサスペンスとしてはかなり良く出来ていて、面白さはなかなかの物だ。
ただ、例えば「チェイサー」や「殺人の追憶」の様な、心の奥底までじわりとじわりと染み渡ってゆく様な、力強い情感は感じない。
たぶんその原因は、物語もキャラクターも良くも悪くもわかり易すぎる事だろう。
スヒョンはまるで007の様にイケメンで強くて、対照的にギョンチョルは無骨で不気味でレクター博士の様だ。
物語が本格的に始まる前から、彼らの役割は読めてしまい、決して枠をはみ出さない。
有機的に物語が展開してゆくと言うよりも、綿密に考えられてはいるが、あくまでもロジックに沿ってキャラクターが動いているという印象の方が強いのでえある。
ギョンチョルを追い始めてから、スヒョンがずっと表情を出さないポーカーフェイスを貫いている事もあって、彼の心の機微がいまひとつ見えない事も表層的な印象につながっているかもしれない。
もっとも、それがラストのインパクトにつながっているから、一概に悪いとは言えないのだけど。
どちらかというと、復讐に支配された人間の内面をじっくり描いたドラマというよりも、猟奇殺人を巡る良く出来たエンターテイメントと言えるだろう。
今回は、イタリア語で悪魔を意味する「ディアブロ」をチョイス。
ホワイトのポートワイン40ml、ドライベルモット20ml、レモンジュース適量を、シェイクてグラスに注ぐ。
なぜこんな恐ろしげな名前なのかは知らないが、ベルモットの香草の香りと、レモンの軽い酸味もさわやかで、すっきりと飲みやすいカクテルだ。
かなりブラッディな映画から、平和な日常への帰還を感じてホッと出来る。
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悪魔そのものの様な殺人鬼を演じるのは、「オールド・ボーイ」で知られる名優チェ・ミンシク、彼を執拗に追い続け、いつしか自らも血みどろの地獄へと堕ちてゆく主人公を、イ・ビョンホンが演じる。
二大スターの火花散る対決を盛り上げるのは、「グッド・バッド・ウィアード」のキム・ジウン監督。
「悪魔を見た」(原題同じ)というタイトルが、観客の想像力を刺激しつつ、物語のテーマを暗示していて秀逸だ。
粉雪が舞う冬の日、一人の女性が失踪し、数日後バラバラ死体となって発見された。
彼女の名はジュヨン(オ・サナ)といい、引退した重犯罪科のチャン刑事(チョン・グックァン)の娘だった。
捜査が行き詰まる中、彼女の婚約者で国家情報院捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)は、独自の捜査で塾のバス運転手のギョンチョル(チェ・ミンシク)が犯人だと確信する。
塾生の女生徒を、ビニールハウスに連れ込んだギョンチョルの元にスヒョンが現れ、彼を気絶させる。
目を覚ましたギョンチョルは逃走を図るが、それはスヒョンによる恐るべき復讐計画の始まりだった・・・
またまた韓国発の強烈な猟奇殺人物である。
そのうち日本の時代劇、アメリカの西部劇などと同様に、猟奇殺人物といえば韓国が枕詞になるかもしれない。
相変わらず韓国警察の現場保存は無茶苦茶いい加減で、裏をかかれっぱなしの捜査能力もかなり無能に描写される。
この国の、国家権力に対する不信は根深いものがありそうだ。
登場する猟奇殺人犯も、欲望のままに女性を攫い、犯し、殺すという正に血も涙も無い悪魔の如きキャラクターに造形されている。
しかも今回は一人だけではなく、途中からお仲間まで出てくるので、なんだか映画を観ていると、韓国は警察が役立たずで、猟奇殺人犯が溢れかえっている恐ろしい国に思えてくるよ。
殺人鬼ギョンチョルを演じるチェ・ミンシクは、「オールド・ボーイ」では復讐する方だったが、今回は復讐される側に立場が逆転。
何しろ殺した女の婚約者スヒョンは、非合法捜査ならお手の物の本職のスパイである。
まあこの設定そのものが、かなりご都合主義の気もするが、とにかく狙った相手が悪かった。
復讐鬼と化したスヒョンは、ギョンチョルを襲撃して気絶させ、その間にGPS盗聴器のカプセルを飲み込ませ、わざと逃亡させる。
簡単に殺すつもりはなく、相手の手の内、行動を全て把握した上で追跡し、少しずつなぶり殺すつもりなのだ。
逃げても逃げてもいつの間にスヒョンが自分の前に現れ、最初は腕、次は足と体の機能を奪われてゆく。
正に恐怖のキャッチ&リリースである。
ギョンチョルは、嘗てのお仲間カップルが、オーナー一家を惨殺して乗っ取った森の中のホテルに逃げ込んだものの、ここでもスヒョンに歯が立たず、お仲間カップルともどもボコボコにされてしまう。
もっとも、物語的にはそろそろ蹴りをつけないと流れが変わっちゃうよ~というタイミング。
劇中でも、スヒョンがギョンチョルを追い詰めている事を知っているチャン刑事や国情院の部下が忠告するのだが、スヒョンは耳を貸さない。
案の定、殴られ切られ、それでも闘志を失わないギョンチョルが、「冷たい熱帯魚」のでんでんも真っ青のしつこさで復活。
偶然にも自分の胃の中のGPSカプセルの存在を知ったギョンチョルは、下剤でそれを取り出すと、姿をくらましスヒョンに対して反撃を開始する。
その方法は、なんとジュヨンの父親であるチャン刑事と妹を殺し、その後で自首するというもの。
実質的に死刑の無い韓国では、逮捕されればもうスヒョンは手出しできず、復讐の計画は達成できない。
いつの間にか、スヒョンは自らの復讐計画を逆手に取られて、大切な者を全て失う復讐の無間地獄に堕ちてしまう。
倍返しのはずの復讐が、言わば四倍返しになって彼自身に跳ね返って来たのである。
ここまでやってしまって、いったいどうやって話のオチをつけるのかと思っていたら、スヒョンが下した究極の復讐の決断は、なるほどこう来たかという意外性のあるものだ。
「末代まで呪う」とは、正にこの事だろう。
全てが終わったラストカットの、イ・ビョンホンの泣き顔とも笑い顔ともつかない、なんとも複雑な表情が見ものだ。
私は、ちょっと「告白」のラストの松たか子を思い出した。
「悪魔を見た」は、サイコサスペンスとしてはかなり良く出来ていて、面白さはなかなかの物だ。
ただ、例えば「チェイサー」や「殺人の追憶」の様な、心の奥底までじわりとじわりと染み渡ってゆく様な、力強い情感は感じない。
たぶんその原因は、物語もキャラクターも良くも悪くもわかり易すぎる事だろう。
スヒョンはまるで007の様にイケメンで強くて、対照的にギョンチョルは無骨で不気味でレクター博士の様だ。
物語が本格的に始まる前から、彼らの役割は読めてしまい、決して枠をはみ出さない。
有機的に物語が展開してゆくと言うよりも、綿密に考えられてはいるが、あくまでもロジックに沿ってキャラクターが動いているという印象の方が強いのでえある。
ギョンチョルを追い始めてから、スヒョンがずっと表情を出さないポーカーフェイスを貫いている事もあって、彼の心の機微がいまひとつ見えない事も表層的な印象につながっているかもしれない。
もっとも、それがラストのインパクトにつながっているから、一概に悪いとは言えないのだけど。
どちらかというと、復讐に支配された人間の内面をじっくり描いたドラマというよりも、猟奇殺人を巡る良く出来たエンターテイメントと言えるだろう。
今回は、イタリア語で悪魔を意味する「ディアブロ」をチョイス。
ホワイトのポートワイン40ml、ドライベルモット20ml、レモンジュース適量を、シェイクてグラスに注ぐ。
なぜこんな恐ろしげな名前なのかは知らないが、ベルモットの香草の香りと、レモンの軽い酸味もさわやかで、すっきりと飲みやすいカクテルだ。
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