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ファンタスティックMr.FOX・・・・・評価額1600円
2011年03月24日 (木) | 編集 |
ザッツ人形劇!
「ファンタスティックMr.FOX」は、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」で知られるウェス・アンダーソン監督が、英国の作家ロアルド・ダールの児童小説「すばらしき父さん狐」を映画化した長編人形アニメーション映画。
ダールは「チャーリーとチョコレート工場」の原作者でもあり、また日本を舞台にした映画「007は二度死ぬ」や「チキ・チキ・バン・バン」の脚本も手がけた才人だ。
これが念願の企画だったと言うアンダーソンは、主人公のMr.FOXらユニークな動物たちと強欲な人間たちの戦いをコミカルに描きながら、独特の後味を持つシニカルな寓話に仕上げている。

凄腕の泥棒だったMr.FOX(ジョージ・クルーニー)も、息子のアッシュ(ジェイソン・シュワルツマン)の誕生を切っ掛けに足を洗い、今は新聞のコラムニストとして平凡な日々を送っている。
穴倉の家に暮らしているが、もっと良い所に住みたいと、丘の上に生える大木の家を購入したのだが、そこはボギス、バンス、ビーンズという人間の養鶏場と工場が目と鼻の先。
心に秘めていた野生の欲望が復活してしまったMr.FOXは、オポッサムのカイリー(ウォーリー・ウォロダースキー)を相棒に、毎夜養鶏場から獲物を盗みに出かけるようになってしまう。
怒った人間たちは、遂にMr.FOXを捕らえるために、重機を持ち出して丘を掘り返し始めるのだが・・・・


英国の田園風景を箱庭に収めた様な世界観は、絵本の挿絵の雰囲気をそのままに、優しいカラーでセンス良くまとめられて、なかなかオシャレ。
ここに暮らす動物たちは、一見すると擬人化されて人間の様な生活をしている。
彼らの社会も文明的で、弁護士がいたり、大工がいたり、子供たちは学校で野球とクリケットを合体させて、ややこしくした様な奇妙なスポーツを楽しんでいる。
主人公のMr.FOXは、狐色のスーツをダンディに着こなす新聞コラムニストで、狐のイメージ通りに頭脳明晰で狡猾。
声を担当するジョージ・クルーニーを、雰囲気そのままに動物化した様なキャラクターだ。
彼の盗みの相棒になるのがオポッサムのカイリーなのだけど、こっちはあまり頭がよくなくて、あまり沢山のインフォメーションを聞かされると、脳のキャパシティをオーバーして機能停止してしまう。
実際オポッサムという動物は、天敵に襲われると見事な死んだフリをする事で知られており、モデル動物の特徴を、上手くそれぞれのキャラクター設定に生かしている。
彼らの生活は、人間風ではあるものの、あくまでも本性は野生動物なのがミソ。
食事のマナーが思いっきり喰い散らかしだったり、興奮すると言葉を忘れて引っ掻き合ったり、人間っぽさと野生の部分のギャップがとぼけた味を生んでいる。

どちらかと言えばリアル系の、毛がふさふさした人形の造形は好みが分かれるだろうが、これは適度な現実感とワイルドさを感じさせる狙いだろう。
動物たちは多少の大小はあれど、皆それほどサイズは変わらない。
ウィレム・デフォーが楽しそうに演じる悪役ドブネズミなど、本来は遥かに大きいはずの狐と同じくらいの大きさに描写されるが、このあたりはキャラクター間のサイズの差異が大きいと、カメラの置き所に困ったり、アクションの掛け合いが成立しないなど、演出上の都合が大きそうだ。
まあリアル系の造形とは言っても、それは主に顔立ちであって、表情は人間並みに豊かだし、プロポーションなどはかなりディフォルメされているので、現実の動物とのサイズの差異にそれほど違和感は感じない。
アニメーションは丁寧だが、カクカクしたコマ撮り感を生かしたもので、動物たちの漫画チックでコミカルなアクションには、これぞ人形劇というワクワクする楽しさがある。

動物と人間の関係も、なかなかユニークだ。
人間たちは動物が一定の文明を持つ事を理解しているが、平和共存の関係には無く、お互いに相手をいなければ良いのにと思っている様である。
穿ちすぎかもしれないが、何となく彼らのいがみ合った関係は、植民地時代の列強と先住民の葛藤を連想させる。
動物たちは西欧風な生活スタイルを受け入れてはいるものの、精神文化の部分では相容れず、決して屈服しないという感じだろうか。
ただ、文明を持つ哺乳類の中で、どうも人間に買われている犬は例外で、彼らは“犬”という一つのカテゴリの生き物と、人間・動物双方から認識されているらしい。

物語は、二つの要素が絡み合って進行する。
一つはMr.FOXの野生への渇望が発端となった、人間との戦いだ。
泥棒家業だったMr.FOXは、子供が生まれることを切っ掛けに、Mrs.FOXに真人間(狐?)になる事を約束し、コラムニストとして生計を立てていたが、貧乏暮らしに嫌気が差し、引越しをした事から再び人間達の養鶏場から盗みを働くようになってしまう。
「何でまた盗みをするの?」とご立腹のMrs.FOXに、「だって俺って野生動物だから!」とあっさり答えるMr.FOX。
そこまでストレートに言われると、まあそうだよねと思うしかないが、当然のごとく怒り狂った人間たちは、動物たちに宣戦布告、狐だけでなく他の動物たちまで巻き込んだ大騒動に発展してしまう。
責任を感じたMr.FOXが、動物たちのリーダーとして、どんな解決法に導くのかというのが本作のメインストリーム。

そこに絡むのが、息子狐のアッシュを中心とした家族関係の物語だ。
アッシュは、スポーツ万能のMr.FOXとは違い、チビでひ弱でコンプレックスを感じている。
そんな時、全てにおいて自分よりも優れた親戚のクリストファーが家に預けられ、心を寄せていたガールフレンドをとられた挙句、父親までもが彼を褒めちぎる。
さらにMr.FOXが、泥棒の仲間に自分ではなくクリストファーを入れた事を知り、どんどんいじけて落ち込んでゆくのである。
自分の引き起こした騒動に、如何に決着をつけようかというMr.FOXの葛藤と、自分の事を認めてもらいたいというアッシュの願いという二つの流れは、やがてクリストファーが人間の手に落ちるという緊急事態を迎えて、クライマックスの一点に向って見事に収束して行く。

まあ一言で言えば、これはウェス・アンダーソン版の「平成狸合戦ぽんぽこ」であり、そこに浮かび上がるのは、“本当にあるべき自分とは何か?”というテーマだ。
Mr.FOXは野生の欲望に蓋をして、優等生の人生を歩んでみたものの、結局そこには自分らしく生きられる道は無かった。
父親として狐として、はたして自分はどうあるべきなのか?自らの引き起こした事件を通じて、Mr.FOXは今一度考える事になる。
アッシュは偉大な父親を越える部分を自分に見出せず、恥ずかしく感じていたが、そんな父親もまた葛藤を抱えていることを知り、彼を助ける事で自分も少しだけ成長する。
彼らだけでなく、人間との厳しい戦いを通して、全ての動物たちは今一度野生動物としての原点を取り戻し、それぞれに生きる道を新たにするのである。
だが、秘めたる野生の魂を解放し人間を出し抜いた結果、動物たちがたどり着いた“ハッピーエンド”は、英国の作家らしく、何とも皮肉に満ちたものだ。
商品にあふれ、塵一つ落ちていない巨大スーパーマーケットで祝宴を挙げるMr.FOXたちの姿に、終末を暗示させる哀しさと不気味さを感じたのは私だけだろうか。
文明と野生は、どこまでも相容れないのかもしれない。

今回は、劇中にも出てきたリンゴのお酒から、 ル・セリエ・ド・ボールの 「シードル・ドゥミ・セック」をチョイス。
リンゴを醗酵させた酒は欧州では非常にポピュラーで、英語ではCider(サイダー)、フランス語でCidre(シードル)と言う。
これはブルターニュ産のシードルで、フランス物では比較的珍しい発泡性の一本。
甘口でジュース感覚で楽しめ、コストパフォーマンスも高いため、若者に人気がある。
日本ではサイダーと言うと、ノンアルコールの炭酸飲料を連想するが、基本的に英国でサイダーと言えばリンゴ酒の事である。
ただしこれは国によっても意味が異なり、アメリカでApple ciderは普通のリンゴジュースを指すのでややこしいのだけど。
日本でもリンゴ酒として売られている酒はあるが、どちらかと言うと清酒や焼酎に漬け込んで造られた物が多く、欧州の物とはかなり異なる。

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