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ビー・デビル・・・・・評価額1700円
2011年04月01日 (金) | 編集 |
またまた韓国映画界から、鮮烈な才能がデビューした。
絶海の孤島で起こった、凄惨な大量殺人事件。
犯人は島で生まれ育った一人の女性、キム・ボンナム。
一体、犯行の動機は何なのか、ボンナムはなぜ“悪魔”になってしまったのか?
本作のチャン・チョルス監督は、名匠キム・ギドク監督の助監督として修行を積んだ人物だが、チェ・クァンヨンの凝りに凝った脚本を得て、圧巻の演出力を見せ付ける。
「ビー・デビル」は海外タイトルで、原題は「キム・ボンナム殺人事件の顛末(김복남 살인 사건의 전말)」という直球な物。
これは衝撃的な事件の顛末を通して、人間の秘められた感情と現代社会の暗部を暴く問題作。
孤島と言う限定された舞台、製作費6000万円ほどの小品ながら、チープさを逆手にとったリアリズムが緊張感を持続させ、一気呵成の115分だ。
※完全ネタバレ注意

ソウルの銀行に勤めるヘウォン(チ・ソンウォン)は、都会の生活に疲れ、子供の頃を過ごした無島にやってくる。
迎えてくれたのは幼馴染で、20年ぶりに再会するボンナム(ソ・ヨンヒ)だ。
彼女は、生まれてからこの小さな島を一度も出た事がない。
ヘウォンには明るい顔を見せるボンナムだが、島の年寄りからは奴隷の様にこき使われ、夫と義弟からは日常的に虐待を受け続ける絶望の日々を送っていた。
ある日、夫が娘に性的虐待をしている事を知ったボンナムは、遂に耐えかねてヘウォンに「ソウルへ連れて行って欲しい」と言うのだが・・・


作劇の妙が光る映画である。
物語は、大都市ソウルで暮らすヘウォンの日常から始まる。
独身の銀行員である彼女は、猜疑心の塊の様な事なかれ主義者だ。
面倒になりそうな客には断固融資を拒否し、婦女暴行事件の被害者に助けを求められても見て見ぬふりをする。
挙句の果には、目撃者として警察に呼ばれ、犯人が誰か気付きながらも証言を拒否する始末。
しかし、そんな性格では当然ながら嫌われ者キャラで、逆にトラブルを呼んでしまい、強制的に休暇をとらされ、心身をリセットするために舞台となる無島へとやってくる。
ところが、ここから映画はガラリと視点を変える。
てっきりヘウォンが主人公だと思っていると、彼女は島へ着いて以降、ロハスな時間を過ごす以外に殆ど何もしない、というかあまり画面にすら出てこなくなる。

代わって、物語がフォーカスして行くのが、タイトルロールであるボンナムの日常だ。
まるで100年前にタイプスリップしたかの様な、過疎の島の住民はボンナムを含め僅かに9人。
一人娘のヨニ、夫、義弟、島の年寄りの婆さん達四人、ボケてしまっている爺さん、あとは島と本土を繋ぐ唯一の足である渡し舟の船頭が出入りする程度。
若い女性はボンナム一人だけといういびつな人口構成から、既に事件の香りはプンプンするが、最初のうちは単に田舎にありがちな保守的なコミュニティーにしか見えない。
しかし、ボンナムの夫と娘のヨニが夜釣りに言った後、ボンナムが義弟によって犯され、それを夫が知っている事が示唆される辺りから、急速にこの島の奇妙さとボンナムの辿ってきた地獄の様な人生が露になってくる。
要するに、この島は超男尊女卑の掟によって支配され、ただ一人の若い女性であるボンナムは、昼間は老人達にありとあらゆる労働を押し付けられてこき使われ、夜は島の男たちによって性奴隷として共有されているのである。

そんな事を知らないヘウォンは、ボンナムと子供の頃に水浴びした泉に出かけるが、ここでボンナムはいきなりヘウォンの乳房を掴み、彼女の肌の白さ、美しさを褒め称え、ソウルへの憧れを口にする。
実はこの時点でボンナムは、ヘウォンが島へ来た理由について、大きな勘違いをしているのだが、それはまだ明かされず、後半の伏線として機能している。
このシーンもそうだが、本作には何かちょっと引っかかる、何かがおかしいが・・・というシーンがいくつもある。
例えばソウルでの冒頭のシークエンス、婦女暴行事件へのヘウォンの対応、彼女にかかってくる電話、無造作に捨てられる手紙、こういったさり気無いディテールが観客の心に違和感のある記憶として残り、物語の展開と共に改めて意味を持ってくるのである。
伏線を目立ちすぎず、しかし確実に忘れられない様に、きっちりと描写する演出力はとても新人とは思えない繊細さだ。

地獄の日々に耐えるボンナムにとって、憧れのソウルに住む“ただ一人の友達”であるヘウォンは最後の希望。
実は娘のヨニは夫の実の娘ではなく、彼がヨニに性的虐待を加えている事を知ったボンナムは、ヘウォンにその事を打ち明け、「ソウルに連れて行って欲しい」と懇願するのだ。
ところが、例によって面倒を嫌うヘウォンは、ボンナムの言葉を信じようとせずに拒絶。
思い余ったボンナムはヨニを連れて自分達だけで逃げようとするが、夫に捕まってしまい、暴行の末にヨニは殺されてしまう。
島にやってきた警察官に、夫がヨニを殺したと訴えるボンナムだが、島の住人たちは口裏を合わせて、ボンナムの行動が招いた事故だと言い張る。
そしてここでも最後に証言を求められたのはヘウォン。
縋るような目で見つめるボンナムの前で、彼女は「寝ていたので知らない」と言い放つのである。

この瞬間、ボンナムの中で何かが壊れる。
全ての希望を絶たれ、もはや人間として生きる意味を失った彼女の選択は、“ビー・デビル”悪魔となり、彼女にとっての世界である島を滅ぼす事しかなかったのだ。
鎌を手に、一人また一人と島の住人を殺戮して行くボンナムの顔は、まるで「告白」の松たか子の様に、すべての感情が噴出した末の達観した表情をしている。
自然豊かな島の濃厚な緑の中で展開するスプラッターは、下手なハリウッド映画顔負けの強烈さだが、こちらは韓国独自の“恨”が背景にあるだけに、非常にウエットでドロドロした切ない情感が残る。

そしてボンナムが最後に狙うのは、本来部外者のはずのヘウォン。
ここからの展開は物語のクライマックスであるだけでなく、それまで綿密に張り巡らせた伏線を一気に回収してゆき、この作品の狙いが遂に明らかになる。
実は、ボンナムはヘウォンが自分を救いに来てくれたと思っていたのだ。
なぜなら、彼女は救いを求める手紙を、繰り返しヘウォンに送っており、夫の目を盗んで電話も何度もかけているのである。
封を切らずにゴミ箱に直行する何通もの手紙、途中で切られる電話・・・、ここへ来て冒頭のソウルのシークエンスが再び意味を持ち、この物語におけるヘウォンというキャラクターの意味付けが漸く明らかとなる。
因習に囚われ、儒教の解釈が歪曲されて抑圧に利用されている無島は言わば韓国のネガティブな過去のカリカチュアであり、煌びやかなソウルからやって来るヘウォンは自由な現代韓国の象徴と言えるかもしれない。
それ故にヘウォンの予想外の冷酷な振る舞いは、二重の裏切りとしてボンナムを打ちのめすのと同時に、他人を思いやる事を忘れ、事なかれ主義が蔓延る現代社会に対する痛烈な批判として、心のどこかにヘウォンを抱える我々観客の胸に突き刺さるのである。

猟奇スリラーの大傑作「チェイサー」で殺人鬼の餌食となる悲しき売春婦、ミジンを演じたソ・ヨンヒが、今度は大量殺戮を繰り広げる事になる、タイトルロールのボンナムを好演。
対照となるヘウォンは、「ハーモニー 心をつなぐ歌」が記憶に新しいチ・ソンウォンが演じる。
幼少時代の秘められた記憶が、ヘウォンの脳裏に蘇った時、やっと自分が何をしたかを理解した彼女は、漸くボンナムの心を受け入れるのだが、それはお互いにとってあまりにも遅過ぎる救済となってしまう。
全てが終わったラスト、横たわるヘウォンがあるものにオーバーラップするイメージは、作品のテーマを象徴して秀逸だ。
はたしてボンナムの魂は、悪魔ではなく人間として涅槃に旅立つ事が出来たのだろうか。

今回は、韓国の清酒「清河」をチョイス。
韓国酒というとやはり焼酒(焼酎)のイメージが強いが、米と米麹を原材料にした日本酒に近い醸造酒も少数ながら造られている。
「清河」はそのブランドの一つで、正直日本酒ほどのコクや深みは無いが、端麗ですっきりとした味わいなので、焼肉などコッテリした物を食べた時などにピッタリの一本だ。
まあ本作を見た後に焼肉はちょっと遠慮したいが、かなり濃い味の映画の後にもちょうど良いだろう。

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