fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係な物や当方が不適切と判断したTB・コメントも削除いたします。
■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
まほろ駅前多田便利軒・・・・・評価額1650円
2011年05月13日 (金) | 編集 |
何処か懐かしい、70年代テイスト満載のバディムービー
東京と神奈川の境目に位置するらしい架空の街・まほろで「まほろ駅前多田便利軒」を営む主人公・多田啓介と、ひょんな事から居候となる幼馴染の行天春彦。
彼らの下に舞い込んで来る、少々ワケアリで奇妙な依頼を通して、様々な人間模様が見えてくる。
監督は「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の大森立嗣だ。

多田啓介(瑛太)は、まほろ市の駅から徒歩三分の雑居ビルで、便利屋を開業中。
ある日、仕事を終えた帰り道に、中学時代の同級生の行天春彦(松田龍平)と再会する。
一晩だけの約束で春彦を泊めた啓介だったが、なぜか春彦は何時までたっても事務所のソファに寝そべったまま。
いつの間にか、多田便利軒の居候スタッフの様な扱いになってしまう。
そんな彼らの下には、ユニークな依頼が次々と舞い込んで来るのだが・・・


まほろ市=まぼろし、という訳か。
どこにでもありそうで、それでいて不思議な空気感を持つ虚構の街。
この街は現在にありながら、どこかレトロで懐かしい。
多田便利軒の事務所には、二十一世紀を感じさせるアイテムが一切存在しない。
パソコンはもちろん、普通に考えれば商売の必需品であるファックスさえ無く、無造作に置かれたTVはウサギ耳型のアンテナを生やしたアナログだし、強面のヤクザ者をノックアウトする懐中電灯も、嘗ては各家庭の常備品だった単一電池を使う赤白のビッグサイズだ。
そんなボロ事務所に暮らすのは、良く言えば自由な、悪く言えばいい加減な、二人の無頼漢

そう、要するにこれは「傷だらけの天使」「探偵物語」の現代版。
若き日のショーケンや水谷豊、或いは本作の主人公の一人である松田龍平の父、松田優作の出世作のテイストを、ある種のファンタジー空間であるまほろ市を舞台に、現代に再現した物だ。
70年代の匂いは、単に美術だけでなく、音楽の使い方や細かなエピソードにまで及んでおり、その時代を知るものには感涙物。
「フランダースの犬」の粋な使い方、松田優作関連のギャグを、実の息子に振るある意味大胆なセンス。
昔のドラマの主人公は、なぜか物思いにふけるときには米軍基地に飛行機を見に行ったものだが、こうした描写を自らの映画的記憶としてイメージできる世代には、たまらないものがある。
ただ当然ながら、元ネタを知っている人と知らない人の間で、映画から受け取れるインフォメーションに差が出るのも間違いなく、(登場人物の少年がネロの最期を知らない様に)ある程度観客の世代を限定してしまう可能性もあるだろうけど。

タイトルロールでもある多田啓介と、図らずも相方となる行天春彦は、一見すると対照的な人物だ。
まあ妙な便利屋を開いている時点で、二人とも少し社会の本流からは外れた所にいるのだが、それでも一応経営者として大人としての行動をとろうとする啓介に対して、飄々とした春彦は、もっと後先を考えずに本能的に生きている様に見える。
だが、実際のところ、多くのバディムービーがそうである様に、啓介と春彦も相互補完の関係にあり、いわば一人の男の別の側面をカリカチュアした様なキャラクターと言えるだろう。
お人よしだが、バカになり切れない常識人の啓介に対して、春彦は勝手気ままな様に見えて、実は筋の通った行動で先走り、結果的に啓介を正しい方向に導いている。
逆に春彦は、啓介がいる事でギリギリ現世に足を付けていられるのである。

預かったチワワの飼い主が夜逃げした事件では、啓介と春彦は逃げた母娘の住所を探し出す。
転居先が安アパートである事を知り、犬を返しに行けない啓介を尻目に、春彦は犬の本当の飼い主である娘を呼び出し、母親が犬を押し付けて逃げた事、アパートで犬を飼う事はできない事実を告げ、彼女の責任でチワワの運命を選択をさせる。
辛い現実から選び出した彼女の答えを、今度は啓介が忠実に実行するのである。
或いは、塾通いの小学生の少年の迎えを頼まれたケースでは、知らない間にヤクザに薬の運び屋をさせられているという、少年の抱える大きな問題を、彼自身に告白させる事で、解決へと導く。

彼らへの依頼は、子供に絡む物が多く、そして依頼主は常に母子家庭である。
物語の後半、啓介が春彦に対して、「お前は何も持ってないフリをして、実は全部持ってるじゃないか!」と激高するシーンがある。
二人は共に暮らしながら、それまでお互いの領域に踏み込む事はない。
お互いに離婚暦があり、春彦は娘に一度も会った事が無いという事位しか、話として出てくる事は無いのである。
実は啓介は嘗て子供を亡くした過去があり、その事がトラウマとなり心の深い部分に突き刺さったままになっている。
そして、啓介はひょんな事から、春彦の“妻子”と出会い、実の親に愛されずに育った春彦が、同性愛者の女性カップルの精子ドナーとして、親になる道を選んだ事を知ってしまう。
つまり、春彦は決して娘を“失った”訳ではなく、愛そうと思えば愛せる存在がそこいる。
親になれなかった多田はそれが羨ましい。
愛を与えられなかった事がトラウマとなっている男と、愛されなかった事がトラウマとなっている男。
これは、見えない家族を持つ二人の父親が、物語を通して自らの父性に関して葛藤する物語なのである。

この映画もまた俳優が良い。
「八日目の蝉」が女優達の火花散る演技を堪能できる傑作だとしたら、こちらは瑛太松田龍平の良い意味で自然体で力の抜けた、しかし高度な演技を楽しめる一本だ。
自由人の様でいながら、悔恨という心の牢獄にいる男を演じる瑛太は、本作の精神的クライマックスとも言うべき長い長い独白で、役者としての凄みを見せる。
彼の芝居を受ける松田龍平も、不思議ちゃんムードを漂わせるキャラクターを上手く作り込んだ。
長身を生かした所作や独特の喋り方は、もちろん全く異なる個性ではあるのだけど、やはりこういうエキセントリックな役を上手く自分の中で消化するあたり、松田優作の血を強く感じる。
脇を固める俳優達も何気に豪華で、春彦の同性愛者の“元妻”に本上まなみ、眼光鋭い若いヤクザに高良健吾、自称コロンビア人(笑)の娼婦コンビに片岡礼子と鈴木杏、ストーカー男に柄本佑。
そして大森立嗣監督にとって実の父と弟である、麿赤兒と大森南朋の親子もさりげなく顔を見せている。

物語の終わりになっても、二人の葛藤は終わらないし、何かが解決した訳でもない。
ただ、二人でいる事で、少しだけ背負った荷物も軽くなる。
人生色々あるかもしれないけど、とりあえず明日はまた続いて行くし、苦しみながらも生きて行くしかない。
登場人物の“その後”を、ちょっとだけ垣間見られるエンドクレジットがまた良い。
特にストーカー男とお母さんの写真にはホッとさせられた(笑
どうやら原作には続編もあるようで、この二人の緩いコンビには次なる物語を期待したくなる。
啓介も春彦も、自分の中の葛藤の中身が何かを吐露してしまったので、続編では別のテーマが必要になるだろうが、それは物語の構造上それほど難しい事ではないだろう。
映画でも良いが、TVドラマでもいけるんじゃないかと思う。

今回は、まぼろし繋がりで広島県竹原市の中尾醸造の「誠鏡 純米 幻」をチョイス。
まぼろしという名を持つ酒は日本全国に数多いが、この酒の透明感とフルーティーで爽やかな後味は、本作に通じる物がある。
しばし騒がしい世間を離れて、味わい深い上質の映画と酒に舌鼓を打とう。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

こちらもお願い




スポンサーサイト