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アリス・クリードの失踪・・・・・評価額1600円
2011年06月15日 (水) | 編集 |
密室に監禁された一人の女と二人の誘拐犯。
綿密に練られたはずの完全犯罪の計画は、ある驚くべき告白によって脆くも崩れて行く。
果たして彼ら三人の運命や如何に?
監督は、「ディセント2」の脚本家で、これが第一作となるJ・ブレイクソン
超シンプルな構成要素ながら、巧みな展開で観客の目をスクリーンに釘付けにし、全く飽きさせない。
もちろんオリジナル脚本による、見事なデビュー作だ。
※一部ネタバレ注意

刑務所で出会ったヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)は、身代金目的の誘拐を計画。
ヴィックが完全犯罪を算段し、ダニーが新聞に載っていた記事から、金持ちの娘アリス・クリード(ジェマ・アータートン)をターゲットにピックアップする。
周到な準備の後、二人は首尾よくアリスを攫い、監禁部屋に連れ込むことに成功する。
計画は完璧なはずだったが、若いダニーは不安に駆られ動揺を隠せない。
ヴィックはそんなダニーを叱咤しながら、金を受け取る準備を進めるのだが・・・


典型的な物語のアイディア展開のロジックで見せるタイプの、上質なクライム・スリラーだ。
作品の性格上、内容に深く触れると即完全ネタバレなので、極力簡潔にまとめる。
映画が始まると、いきなり二人の男が何かの準備している。
工具を買い集め、空き家を用意し、幾つもの鍵のついた物々しい部屋と、窓に目隠しをされたバンが用意される。
やがて、泣き叫ぶ女性が頭に袋を被せられてバンに押し込まれる事で、これが誘拐の準備であった事がわかるのである。
このシークエンスは台詞が無く、秀逸な編集技術で小気味良いテンポと緊張感を持ったまま、入念に描かれる。

映画を構成する要素で言えば、実はこのオープニングでほぼ全て出尽くしている。
登場人物は、ムショ仲間である誘拐犯ヴィックとデニー、被害者でタイトルロールのアリスの僅かに三人。
物語の大半は監禁部屋という密室で展開し、まるで舞台劇の様な構造となっている。
この映画が優れているのは、このシンプルな要素と、あとは人間の心と言う変数だけで、全く先の読めないサスペンスフルなシチュエーションを作り出している事だ。

最初、登場人物の関係は、単にか弱い被害者と冷徹な加害者、そして加害者にも年長のヴィックとダニーの間にある種の主従関係が見て取れるに過ぎない。
これでどうやって物語を動かしてゆくのだろうと思っていると、ある登場人物の意外な告白を境にして、映画はそれまでとは別の顔を見せ始める。
簡単に言えば、三人の関係の前提が崩れ、彼らの中で物語上の主導権を握る人物が、わずかの間にコロコロと入れ替わり、全く先が読めない話になってゆくのである。
しかも、その人物の驚きの告白は一回ではないのだ。
ここに至って、実は観客に開示されている情報すら、必ずしも登場人物の本心かどうかわからなくなり、まさに疑心暗鬼
秘密だらけの件の人物を軸に、残りの二人がヤジロベーの両腕の様に右に傾き、左に傾き、ダニー、ヴィック、アリスの誰が最終的に生き残るのか、映画は殆ど何のヒントも出さないままに、一気に1時間41分を突っ走る。

ただし、登場人物の内面が読めない作りという事は、イコールそこまで立ち入って描けないという事でもある。
故に、この映画は非常に面白く、よく出来ていると思わせられるが、反面人間ドラマとしての深みはそれほど感じない。
もっとも、それは最初からわかりきっている事で、映画の登場人物は人間の持つ幾つかの側面のメタファーと割り切ってみれば、これはこれでアリだろう。
いよいよ事態が抜き差しならない局面を迎える時、観客はふと気づく。
全員の魂胆がわかったところで、元どおりの計画に戻れば、じつは誰もがハッピーな結末を迎えられると。
だが、それはあくまでも外から眺める観客の視点であり、一度他人の心を疑い出すと、もはや回復は不可能で、行き着くところまで行くしかなくなるのが物語の道理なのである。

「アリス・クリードの失踪」(原題:The Disappearance of ALICE CREED)と言うタイトルが秀逸だ。
なぜ「アリス・クリードの誘拐」でないのかは、映画を観終わる時には納得できるだろう。
J・ブレイクソン監督は、このデビュー作で、自らが非凡な才能の持ち主である事を証明して見せた。
緻密に構成されたプロットは隙が無く、細かな小道具の使い方や伏線の張り方も上手い。
三人の演技派俳優を、それぞれの役割でキッチリと立たせる手腕も老練さすら感じさせる。
人間ドラマとして、決して深い話ではないが、イギリス映画らしいシニカルなペーソス漂う本作は、良質の推理小説を読んだ時の様な、物語の展開の面白さを堪能できる秀作と言えるだろう。

今回は、計画が上手くいったらパブで乾杯したかったはずの酒、「バス ペールエール」をチョイス。
イギリスを代表するエールの勇だが、苦味は仄かに抑えられ、香り豊かでしっかりとしたコクが喉に広がる。
柔らかな甘みも感じられる、複雑な味のハーモニーが楽しめ、映画の緊張感を程よく解きほぐしてくれる。

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