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「大鹿村騒動記」 さらば、アウトロー
2011年07月28日 (木) | 編集 |
2011年7月19日。
映画史に大きな足跡を残して、名優・原田芳雄が逝った。

原田芳雄という名前を知ったのは、何時だっただろう。
物心ついた頃には既に人気スターだったが、その存在感を強烈に意識したのは、多分鈴木清順と組んだ「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」を観た時だと思う(確か文芸座だった)。
それから主に名画座を中心に70年代の邦画の旧作を観ると、必ずと言って良いほどインパクトのあるキャラクターで出演しているのが原田芳雄だった。

傑作ハードボイルド、「反逆のメロディー」の若きヤクザや、「野良猫ロック」シリーズの最終作「暴走集団’71」のピラニア(凄い役名!)。
若き日の松田優作と共演した「竜馬暗殺」の竜馬役と、脇に回った「祭りの準備」の隣人役は初期の代表作と言って良いだろう。
「祭りの準備」のラストで、「バンザイ!バンザイ!」と江藤潤演じる主人公を送り出すシーンのカタルシスは、四半世紀近く前に観たのに、いまだ脳裏に焼き付いている。
「竜馬暗殺」の黒木和男監督とは、所謂戦争レクイエム三部作の「TOMORROW 明日」「美しい夏キリシマ」「父と暮せば」も印象深いが、3.11を経た時代から眺めれば、原発利権を巡る事件をサスペンスフルに描いた「原子力戦争」も忘れ難い。
この映画には奇しくも福島原発が登場しているのだ!

原田芳雄と言えばアウトローのイメージが強いが、彼はシリアスな作品から「PARTY7」のキャプテンバナナなんていう超ふざけた役まで、どんな映画でも自分の強烈なキャラクターを殺す事なく、実に自然に映画の世界に入り込んでしまう稀有な俳優で、若手からベテランまで多くの名匠に愛されてきたが、特に新人監督の作品に縁が深い印象がある。
自身初主演の「復讐の歌が聞こえる」は貞永方久と山根成之両監督のデビュー作(共同監督)だし、原田眞人の「さらば映画の友よ インディアンサマー」、大森一樹の「オレンジロード急行」、本作の阪本順治監督の鮮烈な第一作、「どついたるねん」でも物語の要となる名トレーナーを演じていた。

そして銀幕へ登場してから43年、遺作となった「大鹿村騒動記」は原田芳雄自身が企画し、監督の阪本順治、脚本の荒井晴彦を初め、共演者らへも殆ど自ら声をかけたのだという。
本人は癌の再発を知っていたそうだから、これは言わば映画ファン、そして今まで共に戦ってきた仲間へ向けた、遺言の様な作品なのかもしれない。

舞台は、300年に渡って伝統芸能“村歌舞伎”を受け継いでいる長野県の大鹿村。
原田芳雄演じる食堂“ディア・イーター”(笑)主人の風祭善は、村歌舞伎の役者でもある。
公演を控えたある日、村にひょっこりと風祭貴子と能村治が現れる。
貴子は善の妻で、治は幼馴染だが、16年前に食堂を開こうとした時、貴子と治が駆け落ちして村から消えたのだ。
しかし貴子が難病の記憶障害を発症し、手におえなくなった治が彼女を“返す”という。
勝手な言い草に激怒した善だが、貴子への愛が自分の中から無くなっていない事に気付き、彼女を受け入れる。
やがて、善は貴子が歌舞伎の台詞を完璧に覚えている事に気付き、彼女と共に舞台に上がろうとする・・・という物語。

伝統芸能をモチーフにした作品ではあるが、堅苦しさは一切無い。
原田芳雄追悼云々よりも、第一義的にとても楽しい娯楽映画である。
いい年したおっさんたちが、16年前の駆け落ち事件を巡ってどつきあい、貴子の記憶障害が静かな村に小さな嵐を巻き起こす展開は、暖かな笑いに満ちている。
風祭善という男は、サングラスにテンガロンハットの無頼漢だが、心根は優しく、情には弱く、仁義に篤い。
まるで俳優・原田芳雄の集大成の様な役柄である。
共演の大楠道代、石橋蓮司、岸部一徳、佐藤浩一、三國連太郎といった面々からは、過去の沢山の映画のシーンが蘇りどうしても泣けてくる。
ベテラン、中堅、そして松たか子や瑛太、冨浦智嗣といった日本映画の歴史を受け継ぐ、若き後輩達が織り成すアンサンブル。
シンプルに構成された脚本は、一時間半というコンパクトな上映時間にぴたりと嵌り、物語のクライマックスには大鹿村のみに伝わるという演目「六千両後日文章 重忠館の段」が劇中劇として上演されるのだが、この内容がまた現実の物語と上手くリンクし、見事な相乗効果をもたらしている。

ここまででも十分感動的なのに、駄目押しはエンドクレジットのカーテンコール!
もう原田芳雄という名優の最後の勇姿に対して、映画の神が用意したというか、追悼作として観るとあまりにも出来すぎなくらいである。
一人の俳優の映画人生の幕引きとして、これほどまでに象徴的でパーフェクトな作品は、ジョン・ウェインが癌に侵された老ガンマンを演じた、ドン・シーゲル監督の「ラスト・シューティスト」くらいしか思い浮かばない。
追悼番組で、コメンテーターが原田芳雄を“浪漫の残党”と評していたが、なるほどここにあるのは切ないくらいに理想を求め映画を愛した一人の男の、長い長い冒険のラストページだ。
幕府や政府の度重なる禁止にも屈せず、300年の歴史を誇る大鹿歌舞伎とその舞台を心底楽しむ観客達の姿は、そのまま作り手の“映画”への想いに被るのである。

7月22日に行われた、葬儀に用意された送り酒は、大鹿村からも程近い、長野の上伊那郡の地酒「夜明け前」だった。
この銘柄は島崎藤村の同名小説からとられているのだが、タイトルを使うにあたって、蔵元は藤村の長男・島崎楠雄とある約束を交わしたという。
「この名を使う以上は、命に代えても本物を追求する精神を忘れない」
酒をこよなく愛したという原田芳雄は、当然この逸話を知っていたと思う。
「夜明け前」は、これからの日本映画に対する、希代の名優からの最後のメッセージ、そんな気がしてならない。

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