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マネーボール・・・・・評価額1800円
2011年11月12日 (土) | 編集 |
創造的破壊とはどういう事か。

メジャーリーグの弱小球団、オークランド・アスレチックスの奇蹟の再建劇を描いた、マイケル・ルイス作のベストセラー・ノンフィクション、「マネーボール」の映画化。
圧倒的な資金力の差を覆したのは、既成概念にとらわれないフレッシュな発想とパワフルなリーダシップ。
野球物としてはもちろん、今ではビジネス書としても大人気の原作を脚色したのは、「シンドラーのリスト」のスティーブン・ザリアンと「ソーシャル・ネットワーク」のアーロン・ソーキン。
名手二人の仕事を「カポーティ」のベネット・ミラー監督が、燻銀の人間ドラマに仕立て上げた。
主人公の型破りな球団GM(ゼネラルマネージャー)、ビリー・ビーンをブラッド・ピットが味わい深く演じ、おそらく彼自身の演技賞も含めて、オスカーへの大量ノミネートは確実の秀作だ。

ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は、弱小球団オークランド・アスレチックスを率いる若きGM。
引き抜かれた戦力の穴埋めをしようと、厳しい台所事情のなかで悪戦苦闘している。
強豪チーム、インディアンズの事務所にトレード交渉に訪れた時、ビリーは相手GMが太った若者の助言に耳を傾けている事に興味を惹かれる。
ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)と名乗った若者は、野球界は古臭い、試合はデータと論理を駆使する事で、金を使わなくとも勝てるとビリーに語る。
勝敗の鍵を握るのは、守備力でも打率でもなく、出塁率。
ピーターを雇い入れたビリーは、データに基づき、安くて問題を抱えているが、出塁率の高い選手を掻き集める。
だがそれは、従来の野球理論を真っ向から否定する事でもあり、ビリーと現場を預かるアート・ハウ監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)らとの確執は次第に深まってゆく。
チームは、フロントと現場が乖離したまま開幕を迎えるが・・・


今年、松井秀喜が在籍した事で、日本でも名が知られる様になってきたが、オークランド・アスレチックスは私にとっても長年暮したサンフランシスコ・ベイエリアのチームであり、何度も試合を観に行った事があるのでとても馴染み深い。
一般に“A's(エーズ)”の略称で親しまれるアスレチックスは、過去にワールドシリーズを9度制しているア・リーグ屈指の名門球団である。
特に70年代にはワールドシリーズ3連覇を達成するなど黄金時代を迎え、常勝軍団としてメジャーに君臨していた。
オークランドの対岸に本拠地を構えるナ・リーグの名門、サンフランシスコ・ジャイアンツとの決戦を制した1989年のワールドシリーズは、ベイブリッジシリーズとして今も語り草となっている。
だが90年代に入ると、相次ぐ主力選手の流出、オーナーシップの変更に伴う財政悪化でチームは弱体化し成績は低迷、ワールドシリーズどころか、地区優勝にも手が届かなくなってしまう。

この状況を打破したのが、A'sが最後にワールドチャンピオンとなった1989年のベンチメンバーで、引退後にフロントに転身したビリー・ビーンである。
彼は本作の原作によって“マネーボール理論”として知られる様になる、セイバーメトリクスという分析理論を駆使して、A'sに往年の輝きを取り戻させた。
映画は、全く実話の通りという訳ではなく、時系列を含めてかなりコンパクトにまとめられている様だ。
例えば、ピーター・ブランドは実在せず、ビリーは彼との出会いで突然セイバーメトリクスを知った訳ではない。
ビリーが現役時代にA'sのGMだったサンディ・アンダーソンが、既に80年代から球団の戦略にセイバーメトリクスを取り入れ始めており、ビリーは映画のピーターに相当するポール・デポデスタという人物の協力を得ながら、理論を改良し徹底する事でチームを立て直したというのが実際の所の様だ。
映画に描かれた現場とフロントの衝突も、アンダーソンGMと当時のラルーサ監督の間で繰り広げられており、ザリアンとソーキンの脚本は、実質的に20数年間に起こった事を僅か一年の期間に集約しているのである。

もっとも、それは映画としてはマイナスではない。
濃密に構成された物語によって、本作は極めてドラマチックな展開を見せる。
セイバーメトリクスに出会う前、A'sのスカウトたちは、強打者のジアンビ、デイモンらを引き抜かれ、その対策のために喧々諤々の議論を繰り広げている。
だが、彼らの判断材料は基本的に誰それは打てる、走れる、顔が良い(笑)という印象論に過ぎない。
実はビリーは部下である彼らに対して、ある種の不信感をずっと抱いているのである。
それはビリーが高校生だった頃、スカウトたちに選手としての素質を認められ、大学進学を諦めてプロ入りした事がずっと引っかかっているからだ。
高額の契約金を提示され、スーパースターになれると言われてプロになってみたものの、結果は鳴かず飛ばずで、メジャーからマイナーへ、彼方此方の球団を渡り歩いて、芽が出ないままユニフォームを脱いだ。
人の未来を正確に予言することは、占い師にも決して出来ない。

この道何十年のベテランの言葉だとしても印象論は印象論であり、尚且つ同じ基準に基いて選手を獲得しようとすれば、ヤンキースやレッドソックスといった金満球団に勝てる訳がない。
ビリーは、発想のドラスティックな転換、野球界の常識を変えるアイディアが必要だと考える。
そんな時に偶然出会うのが、野球とは関係の無い経済畑出身のピーター・ブランドだ。
彼はゲームに勝つために必要なのは、一人一人の選手の能力ではなく、データと分析に基いて出塁率の高いチームを作る事だと説く。
数字で表される勝利の方程式に、曖昧さは一切無い。
ベンチに入れる選手は25人いるのだから、個別の能力で劣っていても、彼らの個性を生かし、チームとして機能すれば勝てる。

この従来の考え方とは大きく異なるデータ野球は、当然の様に古参のスカウトたち、そして現場との軋轢を引き起こす。
せっかく獲得した選手は監督に起用を拒否され、チームは連敗を続け、マスコミのバッシングに晒されたビリーは窮地に追い込まれてしまう。
野球は巨大なビジネスであり、そこには一世紀を超える歴史に蓄積された不文律と既得権の壁が立ちはだかる。
現状に安住する者にとって、新しいアイディアは自分たちの居場所を奪いかねない忌むべき物なのだ。
だが、古き常識を破壊しなければ、抜本的な改革など出来る訳も無く、覚悟を決めたビリーが意中の選手を起用させるためにとった手段は、何と監督のお気に入り選手を全て他球団に放出してしまうという荒業だ。
結果的に監督は一人だけ残った選手を起用せざるを得なくなるが、もしもそれでセイバーメトリクスが機能しなければ、今度こそビリーが責任を取らざるを得ない背水の陣。
勿論、本になる位だから、ビリーとピーターは賭けに勝つのだが、彼らが歩む成功へのプロセスは、単なる野球物の枠を超えて、ある世界を変えるために創造的破壊を成し遂げた人間の物語として、非常にエモーショナルかつスリリングだ。

ビリーは単に他人に変化を強いるだけではなく、自分自身も成長し変わってゆく。
それまでGMという立場から、選手達との交流に一線を画してきた彼が、負け犬根性が染み付いてしまった選手達の中に積極的に入り、チームの戦略を語り、プロとしての心構えを植えつけ、またチームの最年長選手には、プライドを尊重しつつ、若い選手の手本となる様に頼み込む。
そして、新しい戦略がシステムとして機能し始めると、チームはいよいよ快進撃を開始するのだ。
だが、フロントの苦労や経営戦略など興味が無い世間は、勝ったら勝ったでそれまでビリーの改革を拒否していた監督を賞賛する。
負けたらバッシングされ、勝っても注目される事がないとは、縁の下の力持ちとは、なかなか辛いものである。

もちろん、見ている人はちゃんと見ている訳で、A'sを躍進させたビリーに対して、古豪ボストン・レッドソックスが巨額の年俸でGM就任をオファーする。
ビリーは過去にプロと大学を天秤にかけ、金でプロ入りした過去を悔い、「もう金で人生は売らない」とオファーを断るのだが、ピーターは「提示された金額の中身に意味がある」と言う。
レッドソックスの提示した1250万ドルという史上最高額のGM年俸は、ビリーたちが古い既得権にしがみ付いた勢力を打破し、野球の世界に新しい風を吹き込んだ証なのだ。
金ではなく自分たちが何かを変える、その事にこそ意味があるという終盤の二人のやり取りを聞いていて、私は先月死去したスティーブ・ジョブズの事が頭に浮かんだ。
ジョブズもその生涯で沢山の常識や既得権と戦い、それらを破壊する事で新たな世界を創造してきた。
伝説的なスタンフォード大学でのスピーチで、ジョブズは「stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ、バカであれ)」という言葉を学生達に贈ったが、ビリー・ビーンの場合は、なるほど「野球バカ」だった訳だ。

しかし、セイバーメトリクスをチーム作りに取り入れた裕福なレッドソックスは、僅か2年で86年ぶりのワールドシリーズ制覇を成し遂げ、当のビリーは未だにリーグ優勝に挑戦中というアイロニー。
世界を変えた者が常に報われるとは限らないというほろ苦いラストに、ギターが趣味のビリーの娘が、離れて暮らす父に贈った愛情に溢れた歌“the show”が物語の余韻を優しく広げる。
人生の悲喜交々が詰まった133分は至福の映画的時間である。

野球ドラマというと、スッキリ爽やかなビールのイメージなのだが、この映画はむしろ試合が終わった後のオークランド・コロシアムに、一人佇むビリーの心情に寄り添いたい。
アメリカを代表するスピリット、バーボンウィスキーの「フォアローゼス プラチナ」をチョイス。
この酒の特徴は先ずその滑らかなクリーミーさ。
そして芳醇な香りと複雑な風味、長く後を引く余韻はストレートかロックで楽しみたい一本だ。
さて、A'sが再びワールドシリーズを征するのは何時の日だろうか。

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