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灼熱の魂・・・・・評価額1650円
2011年12月18日 (日) | 編集 |
家族の歴史に隠された、血塗られた闇。

「灼熱の魂」という邦題は観て納得。
原題の「Incendies」は仏語で“火事”の意味だが、これは正に燃え上がる炎の様な熱い魂を持った、力のある映画だ。
中東出身の一人の女性が残した謎めいた遺言から、実に40年間に及ぶ宿命の物語が展開する。
原作はレバノン生まれのカナダ人劇作家、ワジディ・ムアワッドが故国の内戦をモチーフとした戯曲で、監督・脚色をカナダ仏語圏のケベックで活躍する俊英、ドゥニ・ヴィルヌーヴが務めた。
*一部ネタバレ注意。

世捨て人の様に暮らしていた中東系カナダ人女性、ナワル・マルワン(ルブナ・アザバル)が亡くなった。
残された双子のジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)は、長年母を知る公証人のルベル(レミー・ジラール)から遺言と共に二通の手紙を渡される。
それは二人には存在すら知らされていなかった、父と兄に宛てられた物だった。
戸惑いながらも母の故国へと飛んだジャンヌは、35年前の写真を頼りに、微かに残された母の足跡を辿り始める。
やがて姉弟は、歴史の闇に翻弄された、母の数奇な人生と秘められた家族の歴史を知る事となる・・・


何とも苛酷な映画だ。
レディオヘッドの「You and Whose Army」にのせて、幼い少年達が武装したゲリラ兵士によって髪を剃られるシーンで始まる本作は、1970年代に起こったレバノン内戦を背景としている。
ただし劇中で明確な国名が明かされる事は無く、戦争の背景もイスラム教徒とキリスト教徒の衝突という程度にしか語られない。
歴史の中のある一点を正確に描いたというよりも、今も世界のどこかで繰り返されている人間が抱える業の象徴としての戦争なのである。
映画は、遺言に導かれるように現代の中東の土を踏み、母ナワルの人生の軌跡を追う双子姉弟の旅と、1970年代から80年代にかけてのナワルの壮絶な過去の物語を、時系列をシャッフルする形で平行に描いてゆく。
演劇の“幕”の様に、全体が表題を持ついくつかの章に別れているのが特徴的だ。

一体、ナワル・マルワンとは何者なのか。
彼女はなぜ故郷を捨て、世間と殆ど交わる事をせず、人を寄せ付けない人生を送らざるを得なかったのか。
ミステリアスな心の旅は、やがて憎しみと不寛容によって人生を狂わされた一人の女性が辿った、残酷な負の連鎖を明らかにしてゆく。
地方の保守的なキリスト教徒の家に生まれ、許されぬ恋によって妊娠したナワルは、お腹を痛めて生んだ男の子を奪われ、村から追放される。
親戚を頼り都会の大学に進学するものの、今度は内戦が勃発。
孤児院に送られたはずの息子を心配したナワルは、一人戦闘地帯となった故郷に向うのだが、そこで彼女が身をもって体験するのは、あまりにも理不尽な暴力の惨禍だ。
息子を見つけることは出来ず、旅の途中で幼い子供が虐殺されるのを目の当たりにした彼女は、あろう事か自ら暗殺者となって戦いを煽る右派政治家の命を奪ってしまうのである。
憎しみに駆られ、暴力の遂行者となってしまった彼女に、もはや安息は訪れない。
内戦下の刑務所に政治犯として送られたナワルを待っていたのは、想像を絶する地獄の日々だが、ここでは彼女は驚くべき運命の帰趨する先をまだ知らない。

ナワルが、自らの陥った負の連鎖の本当のおぞましさに直面するのは、逃れるように故国を後にし、カナダで二人の子供を育て上げた現代のことである。
終盤に明かされる“1+1=1”となる驚愕の事実には、おそらく全ての観客が言葉を失うだろう。
ここで二つの世代は時空を超えて絡み合い、ナワルが遺言によって子供達におくったメッセージの、真の意味が明らかになるのだ。
物語の構造のベースとなっているのは、ギリシャ神話のエディプスだろう。
ネタバレになるので詳細を書くのは控えるが、“踵”がキーワードになるあたり、明らかに神話から着想を得た作劇だと思われる。
ただし、それまでもかなり力技で展開してきた物語は、ギリシャ神話を引用する至ってもはや悪意ある神の悪戯としか思えないほど偶然性に頼っており、メロドラマもかくやという気もしないではない。
もっとも、この御都合主義とも言える運命の苛酷さが、本作の燃え上がるような情念の燃料となっていることもまた間違いなのである。

ナワルの中で燻ってきた闇黒の炎が、遂に彼女の全てを焼き尽くす場所が、満々と水を湛えたプールなのは、本作が神話的暗喩劇である事を如実に示している。
絶望の中で死を迎えた彼女を真に解放できるのは、呪われた血と運命を受け継いだ第三者、つまりジャンヌとシモンという二人の子供達。
真実を知ったことで、ジャンヌとシモンも忘れえぬ傷を負う。
いや彼らだけではない。
最も深く、残酷な傷を受けるのは、ラストシーンでナワルの墓石の前に佇むある人物であろう。
だが、あえてナワルが“知らないほうが幸せな真実”を追わせた事で、彼らは皆自分たちの血脈の中にある、暴力の歴史の意味を理解し、自らの責任として受け入れることで、憎しみと不寛容がもたらす負の連鎖を閉じる役目を果すのである。
それはナワルが一人の母親として子供達に残した、最後にして最大の愛の証でもあったのではないだろうか。

今回は、タイトル通りに非常に熱気のこもった作品故に、鑑賞後は爽やかに喉を潤したい。
映画では戦火に覆われていたレバノンの白ワイン、イクシール・レバノンの「アルティテュード・ホワイト」をチョイス。
歴史的にキリスト教徒が多く、温暖な地中海に面したレバノンは、中東ではイスラエルと共にワインの生産国として知られている。
このアルティテュード・ホワイトは軽やかなアロマに柑橘系の甘みと酸味が同居するバランスの良い一本。
何でもレバノン出身の両親を持つ、あのカルロス・ゴーン氏が出資してるんだそうな。
今も危うい均衡の上にあるこの地に、平和が定着しますように。

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